社労士試験の独学|労基法|平均賃金

まえがき

この記事では、労働基準法の総則から次の用語について解説しています。

  • 平均賃金(12条)

社会保険労務士試験の独学、労務管理担当者の勉強などに役立てれば嬉しいです。

当記事は、条文等の趣旨に反するような極端な意訳には注意しておりますが、厳密な表現と異なる部分もございます。

詳しくは免責事項をご確認ください。

平均賃金の概要(12条)

平均賃金の算定

労働基準法における平均賃金とは、ある労働者に対して支払われた3カ月間の賃金額を1日あたりの平均額に換算したものです。

以降、労基法12条の項順を入れ替えて解説しています。

加工前の労基法12条(全文)はタブを切り替えると確認できます。

労働基準法12条

この法律で平均賃金とは、これを算定すべき事由発生した日以前3カ月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう。

労働基準法

第十二条 

この法律で平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前三箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう。ただし、その金額は、次の各号の一によって計算した金額を下ってはならない。

一 賃金が、労働した日若しくは時間によって算定され、又は出来高払制その他の請負制によって定められた場合においては、賃金の総額をその期間中に労働した日数で除した金額の百分の六十

二 賃金の一部が、月、週その他一定の期間によって定められた場合においては、その部分の総額をその期間の総日数で除した金額と前号の金額の合算額

② 前項の期間は、賃金締切日がある場合においては、直前の賃金締切日から起算する。

③ 前二項に規定する期間中に、次の各号のいずれかに該当する期間がある場合においては、その日数及びその期間中の賃金は、前二項の期間及び賃金の総額から控除する。

一 業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業した期間

二 産前産後の女性が第六十五条の規定によって休業した期間

三 使用者の責めに帰すべき事由によって休業した期間

四 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成三年法律第七十六号)第二条第一号に規定する育児休業又は同条第二号に規定する介護休業(同法第六十一条第三項(同条第六項において準用する場合を含む。)に規定する介護をするための休業を含む。第三十九条第十項において同じ。)をした期間

五 試みの使用期間

④ 第一項の賃金の総額には、臨時に支払われた賃金及び三箇月を超える期間ごとに支払われる賃金並びに通貨以外のもので支払われた賃金で一定の範囲に属しないものは算入しない。

⑤ 賃金が通貨以外のもので支払われる場合、第一項の賃金の総額に算入すべきものの範囲及び評価に関し必要な事項は、厚生労働省令で定める。

⑥ 雇入後三箇月に満たない者については、第一項の期間は、雇入後の期間とする。

⑦ 日日雇い入れられる者については、その従事する事業又は職業について、厚生労働大臣の定める金額を平均賃金とする。

⑧ 第一項乃至第六項によって算定し得ない場合の平均賃金は、厚生労働大臣の定めるところによる。


「で、平均賃金を求めて何をするの?」ですが、労基法には平均賃金を用いて金額を計算する手当等があります。

労基法において、平均賃金を算定の基礎とするもの。

算定すべき事由(以下、算定事由)と

算定事由が発生した日(以下、算定事由発生日)

算定事由算定事由発生日
解雇予告手当労働者に解雇の通告をした日
休業手当その休業日(の初日)
年次有給休暇の賃金その年次有給休暇を与えた日(の初日)
災害補償事故発生の日または疾病の発生が確定した日
減給制裁の制限額制裁の意思表示が相手方に到達した日
算定事由とその発生日

上記の手当や補償等は、労働者の生活を保障しようとする趣旨の制度です。

そのため、平均賃金の算定には、労働者が受ける通常の賃金をできるだけ反映させるよう考慮されています。

平均賃金の原則の算定方法(12条1項本文)

西向くサムライ小の月

ご存知かもしれませんが、1カ月の日数が「31日」以外の月は、2月、4月、6月、9月、11月(にしむくサムライ)です。

社労士試験などカレンダーを利用できない環境で活用してみてください。

原則の算定方法

算定事由発生日以前3カ月間について①と②の値が必要です。

$$平均賃金=\frac{①支払われた賃金の総額}{②総日数}$$

①の「支払われた」とは、現実に既に支払われた賃金だけでなく、受けることが確定している賃金(未払賃金)を含みます(昭和23年8月11日基収2934号)。

②の総日数は、3カ月間中に労働した日数ではなく、3カ月間の総暦日数(カレンダーどおり)です。

以前3カ月とは、算定事由発生日の前日から数えて3カ月間と解されています。

ただし、賃金締切日がある場合は、算定事由発生日の直前にある賃金締切日から起算します(労基法12条2項)

平均賃金の端数処理

計算した金額の端数処理は、位未満を切り捨てます(昭和22年11月5日基発232号)

例えば、①の値が843,990円、②の値が92日の場合は次のように計算します。

843,990円 ÷ 92日 = 9173.8043……

9173.8043……銭位未満の端数は切り捨て、「平均賃金は9,173円80銭」となります。

参考|厚生労働省(外部サイトへのリンク)|平均賃金はどうやって計算する?


賃金の総額に含まれる「賃金」

賃金(労基法)

平均賃金を計算する際の「賃金の総額」には、原則として、労基法11条に規定する賃金をすべて含みます。

ただし、例外もあります(後述)。

通勤手当

たとえ、年次有給休暇を取得する日、休業手当を支払う日 (実際に就業していない日)に通勤を必要としなくとも、通勤手当は平均賃金の計算に含まれます(昭和22年12月26日基発573号)

一方で、自家用車を社用に提供した場合の実費弁済としてのガソリン代(交通費)は賃金ではないため、平均賃金の計算に含まれません(昭和63年3月14日基発150号)

年次有給休暇の賃金

年次有給休暇の賃金が平均賃金を基礎として計算されたとしても、平均賃金の計算に含まれます(昭和22年11月5日基発231号)

賃金の改定が遡及する場合

賃金ベースが遡って改定され、新旧ベースの賃金が混在する場合は、次の扱いになります(昭和24年5月6日基発513号)

算定事由が発生した時点で、賃金ベースが遡及して改定されている場合

賃金ベースの改定を決定した後に算定事由が発生した場合

改定前の賃金に、遡及して改定された部分を追加して平均賃金を計算します。

算定事由が発生した後に、賃金ベースが遡及して改定される場合

賃金ベースの改定を決定する前に算定事由が発生した場合

改定前の賃金のみで平均賃金を計算します。

算定事由発生日において、実際に賃金ベースを改定したかではなく、賃金ベースを遡及して改定すると決定しているかで判断します。


賃金締切日がある場合の起算日(12条2項)

〆切日から3カ月遡る

算定事由発生日の直前にある賃金締切日から起算します(労基法12条2項)

実際問題としては、「賃金締切日がある」場合が一般的でしょうから、次の取扱いにより平均賃金を計算することになります。

賃金ごとの賃金締切日が異なる場合

例えば、基本給は毎月20日〆、時間外手当(いわゆる残業代)は月末〆のように、賃金の種類によって賃金締切日が異なる場合です。

上記の例では、次のように、各賃金ごとの賃金締切日から起算します(昭和26年12月27日基収第5926号)

  • 基本給は、算定事由発生日の直前の20日から起算して3カ月
  • 時間外手当は、算定事由発生日の直前の月末から起算して3カ月

賃金締切日に算定事由が発生した場合

例えば、賃金締切日を「月末」としている会社において、6月30日に算定事由が発生した場合です。

上記の例では、6月30日ではなく、直前の賃金締切日である5月31日から遡って3カ月の期間で計算します(昭和24年7月13日基収2044号)

賃金締切日が変更された場合

賃金締切日が3カ月間の途中において変更された場合には、「3カ月の暦日数に最も近い期間」を求めて計算します(昭和25年12月28日基収3802号)

次の事例で、具体的な手順を解説します。毎月15日〆から25日〆に変更したケースです。

10/11算定事由発生日
9/25直前の締切日
8/25締切日を15日から25日に変更
8/15変更前の締切日
7/15変更前の締切日
6/15変更前の締切日
変更前後の締切日
賃金締切日の変更における平均賃金
3か月の暦日数

9/25~6/26(92日)|直前の賃金締切日から3カ月の暦日数

算定方法1

①9/25~8/26(31日)|変更後の締切日に基づく賃金

②8/25~8/16(10日)|締切日を変更した日までの賃金

③8/15~7/16(31日)|変更前の締切日に基づく賃金

⇒ 合計72日

⇒ 92日と72日の差 = 20日

算定方法2

①9/25~8/16(41日)|8月分の賃金

②8/15~7/16(31日)|7月分の賃金

③7/15~6/16(30日)|6月分の賃金

⇒ 合計102日

⇒ 92日と102日の差 = 10日

上記の例では、「3カ月の暦日数」に最も近い期間をとる算定方法2を採用します。

なお、「どのような条件でも算定方法2を採用する」ではありませんので、念のため。


平均賃金の算定において除かれるもの(12条3項、4項)

業産使育試みる

先述のとおり、平均賃金の計算には、原則として、労基法11条に規定する賃金を全て含みます。

原則の算定方法

算定事由発生日以前3カ月間について①と②の値が必要です。

$$平均賃金=\frac{①支払われた賃金の総額}{②総日数}$$

ただし、労働者が受ける通常の賃金と平均賃金との間に大きな開きが出ないよう、一定のものを計算から除外します。

  • 賃金の総額と総日数ともに除外する場合(分母分子ともに除外)
  • 賃金の総額から除外する場合(分子のみ除外)

賃金の総額と総日数ともに除外(分母分子ともに除外)

次のいずれかに該当する期間については、平均賃金を計算するうえでの期間および賃金の総額に算入しません(労基法12条3項)

  • 業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業した期間
  • 産前産後の休業期間
  • 使用者の責めに帰すべき事由による休業期間
  • 育児・介護休業法に規定する育児休業または介護休業をした期間
  • 試みの使用期間

上記期間中の賃金額は、通常時の賃金と比較すると低くなる場合があります。

そのため、分母、分子ともに平均賃金の計算から除かれます。

ちなみに、社労士試験の勉強では、5つの頭文字を取り「ぎょうさんしいくをこころみる」という呪文のような語呂合わせが存在します。

試みの使用期間中に算定事由が発生した場合については後述します。

通勤災害

業務上とあるので、通勤災害により療養のために休業した期間は控除されません(平均賃金の計算に含めます)。

「通勤も仕事と関係あるじゃん!」かもしれませんが、労災保険でも明確に区別されています。

初めて知った方は、この機会に「業務災害」と「通勤災害」は別物と覚えてしまってください。

一部休業

使用者の責めに帰すべき事由により、所定労働時間の一部を休業した場合は、その日の労働に対して支払われた賃金が、平均賃金の6割を超えると否とにかかわらず、平均賃金の計算から除かれます(昭和25年8月28日基収2397号)

労基法26条では、休業の理由が使用者の責任に基づく場合に、平均賃金の60%以上の休業手当を支払うことを定めています。

休業手当は社労士試験における頻出論点です。ちなみに、学習内容も複雑です。

こちらの記事で解説していますが、初学者の方は平均賃金の勉強を終えてから読んでみてください。

育児休業

平均賃金の算定期間中に、「育児・介護休業法2条1号に規定する育児休業」以外の育児休業がある場合についても、その期間及びその期間の賃金を平均賃金の計算から除外します(平成3年12月20日基発712号)

社労士試験の勉強では、規定を問う問題(例えば、労基法12条4項では……と定めている)であれば条文のとおりで解答してください(定めている内容が条文と合致していれば、他に例外規定があっても正解の記述となります)。

具体的な事例をあつかう問題であれば「育児・介護休業法2条1号に規定する育児休業」以外の育児休業を含めて、平均賃金の計算から除外してください。


賃金の総額から除外(分子のみ除外)

次のいずれかに該当するものは、賃金の総額に算入しません(労基法12条4項)

  • 臨時に支払われた賃金
  • 3カ月を超える期間ごとに支払われる賃金
  • 法令または労働協約の定めに基づかないで支払われる、通貨以外の賃金
臨時に支払われた賃金とは

臨時的、突発的事由にもとづいて支払われたもの、及び支給条件は予め確保されているが、支給事由の発生が不確定であり、かつ非常に稀に発生するものをいいます(昭和22年9月13日発基第17号)

例えば、結婚祝金や退職金などが該当します。

3カ月を超える

3か月を超えるか否かは、実際の支払日ではなく、賃金の計算期間が3カ月を超えるかどうかで定まります(昭和25年4月25日基収第392号)

賞与で例えると、年2期の賞与は計算期間が6カ月となるため、賃金の総額から除外します。

一方で、四半期ごとの賞与は計算期間が3カ月となるため、賃金の総額へ算入します。

その他にも、いわゆる労働協約の定めによらない現物給与も除外の対象です(労基法12条4項)

これらは、支払われる時期によって賃金額が著しく高低するということが考えられます。

そのため、分子(賃金の総額)の計算から除かれます。


平均賃金の最低保障(12条1項ただし書き)

平均賃金の最低保障額との比較

繰り返しになりますが、平均賃金の原則の算定方法は次のとおりです。

原則の算定方法

算定事由発生日以前3カ月間について①と②の値が必要です。

$$平均賃金=\frac{①支払われた賃金の総額}{②総日数}$$

「原則の算定方法で求めた金額」と「最低保障額」を比較し、高い方の金額を平均賃金とします。

ちなみに、原則の算定方法で求めた金額が最低保障額を下回るとは限りません。

なお、「算定事由発生日以前3カ月間」の考え方や、「平均賃金の算定において除かれるもの」など、これまで解説してきた基準は最低保障額の計算においても同様です。

「平均賃金の最低保障額」の計算方法は2通りあります。


①日給、時間給、出来高払制等による賃金

賃金が、日給制、時間給制、または出来高払制その他の請負制によって定められる場合には、賃金の総額をその期間中に労働した日数で除した金額の100分の60が最低保障額です。

① 最低保障額

$$\frac{日給、時間給等による賃金}{労働した日数}\times\frac{60}{100}$$

次の②に該当しなければ、算定事由発生日以前3カ月間について、「①の最低保障額」と「原則の算定方法で計算した額」を比較して、高い方を平均賃金とします。

②賃金制度が混在する場合

賃金の一部が、月、週その他一定の期間によって定められた場合には、それらの定めによる賃金の総額をそれらの期間の総日数で除した金額と①の金額を合算したものが最低保障額です。

② 最低保障額

$$\frac{月給、週給などによる賃金}{総日数}+①の金額$$

例えば、月給制の基本給と、時間給制の手当が混在するケースです。

「②の最低保障額」と「原則の算定方法で計算した額」を比較して、高い方を平均賃金とします。

「一定の期間によって定められた」賃金とは?

「月」で例えると、月給を1カ月25万円と設定した場合に、所定労働日数に関係なく1カ月25万円の賃金が支払われる制度を意味します。

欠勤日数に応じて上記の賃金から一定額を差し引く制度には、②の算定方法は適用せず、労基法12条8項によるべきとされています(昭和27年5月10日基収6054号)

「いわゆる月給日給制の場合の平均賃金の算定」については後述します。


平均賃金に関するその他の事例

ここまで解説してきた方法では平均賃金を算定できない場合があります。

計算方法をいくつかの事例から解説します。

日々雇入れられる者の平均賃金(12条7項)

日日雇い入れられる者については、その従事する事業又は職業について、厚生労働大臣の定める金額を平均賃金とします(法12条7項)

具体的な計算方法は、 下のタブに格納しておきます。

日日雇い入れられる者(以下「日雇労働者」という。)の平均賃金は、次の金額とする(昭和38年10月11日労働省告示52号)

日雇労働者の平均賃金①

算定事由発生日以前1カ月間に、当該日雇労働者が当該事業場において使用された期間がある場合の算定方法です。

賃金と労働した日数は、当該事業場において当該日雇労働者が労働したものです。

$$\frac{賃金の総額}{労働した日数}\times\frac{73}{100}$$

日雇労働者の平均賃金②

①により算定し得ない場合の算定方法です。

算定事由発生日以前1カ月間に、当該事業場において同一業務に従事した日雇労働者について次の算式を用います。

$$\frac{賃金の総額}{労働した日数}\times\frac{73}{100}$$

日雇労働者の平均賃金③

①および②の規定により算定し得ない場合などは、都道府県労働局長が定める金額とされています。

日雇労働者の平均賃金④

一定の事業または職業について、都道府県労働局長がそれらに従事する日雇労働者の平均賃金を定めた場合には、①②③の規定にかかわらず、その金額とされています。


雇入れ後3カ月未満の場合(12条6項)

雇入後3カ月未満

例えば、雇入れ後1カ月の場合には、算定事由発生日より3カ月遡ることができません。

原則の算定方法で平均賃金を求めることができないため、次ように取り扱われます。

雇入後の期間とその期間の賃金総額で算定する(労基法12条6項)。

なお、賃金締切日があるときは、直前の賃金締切日から起算します(昭和23年4月22日基収1065号)

ただし、

直前の賃金締切日から起算することによって、一賃金算定期間(1カ月を下らない期間)を確保できない場合には、算定事由発生日を基準として計算します(昭和27年4月21日基収1371号)

「当月の締切日から翌月の締切日まで」という賃金計算の1サイクルを完全に確保できない場合には、雇入後の期間(雇入れの日から算定事由発生日の前日)で平均賃金を計算します。

算定事由発生日より計算する

上記の例では、4月1日から4月30日で平均賃金を計算します。

なお、「雇入れ後3カ月未満」であっても、平均賃金の算定において除かれるもの、平均賃金の最低保障の規定は適用されます。

定年再雇用

定年再雇用の後3カ月に満たない場合には、当該労働者の実態に即し、実質的判断します。

定年退職後も引続き嘱託として同一業務に再雇用される場合には、実質的には1つの継続した労働関係と考えられます。そのため、再雇用後の期間ではなく、算定事由発生日より3カ月間で平均賃金を算定すると解されています(昭和45年1月22日基収4464号)

他には、「平均賃金の算定期間が2週間未満の労働者」への労基法12条8項に基づく取扱い(昭和45年5月14日基発375号)などがあります。

労働者への賃金の支払い形態によって算定方法が異なるため、当記事ではここまでの解説といたします。


雇入れの日に算定事由が発生した場合

雇入当日に算定事由が発生した場合

雇入れ後に2、3日でもなく、雇入れの日そのものに算定事由が発生した場合です。

雇入れの日に算定事由が発生した場合の平均賃金は、次の取扱いになります。

都道府県労働局長の定めによる(労基法施行規則4条)。

具体的には次のとおりです。

雇入れの日に算定事由が発生した場合は、次の①または②により推算し平均賃金を定めます(昭和22年9月13日発基17号)

  • ① 当該労働者に対し一定額の賃金が予め定められている場合には、その額により推算します。
  • ② 上記①の賃金が予め定められていない場合には、雇入れの日に、当該事業場において、同一業務に従事した労働者の一人平均の賃金額により推算します。

控除期間が3カ月以上にわたる場合

平均賃金の計算から除かれる期間が3カ月以上にわたる場合には、原則の算定方法で平均賃金を計算できません。

この場合の平均賃金は、次のように取り扱われます。

都道府県労働局長の定めによる(労基法施行規則4条)。

具体的には次のとおりです(昭和22年9月13日発基17号)

  • ① 控除期間の最初の日を算定事由発生日とみなして平均賃金を算定します。
  • 控除期間中に、当該事業場において賃金水準が変動した場合には、算定事由発生日に当該事業場において同一業務に従事した労働者の一人平均の賃金額により推算します。

試みの使用期間中の平均賃金

原則の算定方法

算定事由発生日以前3カ月間について①と②の値が必要です。

$$平均賃金=\frac{①支払われた賃金の総額}{②総日数}$$

試みの使用期間の賃金は、労基法12条3項の規定により、①賃金の総額、②総日数ともに除かれます(先述のとおり)。

そのため、試みの使用期間中に算定事由が発生した場合には、平均賃金を算定することができません。

試みの使用期間中に算定事由が発生した場合には、次の取扱いになります。

試み使用期間中の日数及びその期間中の賃金で平均賃金を算定する(労基法施行規則3条)。


月給日給制の最低保障額

「月によって定められた賃金」と「時間給制の賃金」が混在する場合については先述のとおりです。

解釈例規によると、「いわゆる月給日給制の場合の平均賃金の算定」として、次のように整理されています。

賃金の一部もしくは全部が、月、週その他一定の期間によって定められ、かつ、その一定の期間中の欠勤日数もしくは欠勤時間数に応じて減額される場合の平均賃金については、次の①②③によって計算した金額の合計額をもって平均賃金の最低保障額とする(同旨 昭和30年5月24日基収第1619号)

①日給、時間給、出来高払制等の部分

$$\frac{日給、時間給等による賃金}{労働した日数}\times\frac{60}{100}$$

②いわゆる月給日給制の部分

賃金の一部もしくは全部が、月、週その他一定の期間によって定められ、かつ、その一定の期間中の欠勤日数もしくは欠勤時間数に応じて減額される場合の計算方法です。

$$\frac{欠勤しない場合の賃金総額}{その期間中の所定労働日数}\times\frac{60}{100}$$

③一定の期間によって定められた部分

一定の期間によって定められた賃金が、欠勤日数や時間数に応じて減額されない場合の計算方法です。

$$\frac{③の期間における賃金の総額}{③の期間の総日数}$$

月給制に関する名称については、厳格な定義が不明なため、「月給日給制」と通達に表現を合わせています。

当記事の「月給日給制」の意味は上記のとおりです。


争議行為

いわゆるストライキ等により休業した場合については、次のように解されています。

争議行為のための休業期間

平均賃金の算定期間中に、労働争議により正当な罷業(ストライキ)、怠業(スローダウン)または、正当な作業所閉鎖(ロックアウト)のため休業した期間がある場合には、その期間及びその期間の賃金を平均賃金の計算から除外します(昭和29年3月31日 28基収4240号)


まとめ

ここまで平均賃金について解説しました。

社労士試験の勉強では、労基法の総則における難所です。

ここまでの内容を簡単に整理したので、復習のために一読してみてください。

この記事で解説した条文

労基法12条(平均賃金)

この法律で平均賃金とは、これを算定すべき事由発生した日以前3カ月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう。

原則の算定方法

算定事由発生日以前3カ月間について①と②の値が必要です。

$$平均賃金=\frac{①支払われた賃金の総額}{②総日数}$$

  • 計算した金額の端数処理は、位未満を切り捨てます(昭和22年11月5日基発232号)。
  • 総日数は、3カ月間中に労働した日数ではなく、3カ月間の総暦日数(カレンダーどおり)です。

算定事由と算定事由発生日|

算定事由算定事由発生日
解雇予告手当労働者に解雇の通告をした日
休業手当その休業日(の初日)
年次有給休暇の賃金その年次有給休暇を与えた日(の初日)
災害補償事故発生の日または疾病の発生が確定した日
減給制裁の制限額制裁の意思表示が相手方に到達した日
算定事由とその発生日

「以前3カ月」とは、算定事由発生日の前日から数えて3カ月間と解されています。

ただし、賃金締切日がある場合は、算定事由発生日の直前にある賃金締切日から起算します(労基法12条2項)。

上記の手当や補償等は、労働者の生活を保障しようとする趣旨の規定です。

そのため、平均賃金の算定には、労働者が受ける通常の賃金をできるだけ反映させるよう考慮されています。

賃金の総額と総日数ともに除外
  • 業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業した期間
  • 産前産後の休業期間
  • 使用者の責めに帰すべき事由による休業期間
  • 育児・介護休業法に規定する育児休業または介護休業をした期間
  • 試みの使用期間
賃金の総額から除外
  • 臨時に支払われた賃金
  • 3カ月を超える期間ごとに支払われる賃金
  • 法令または労働協約の定めに基づかないで支払われる、通貨以外の賃金
最低保障額 ①

$$\frac{日給、時間給等による賃金}{労働した日数}\times\frac{60}{100}$$

最低保障額 ②

$$\frac{月給、週給などによる賃金}{総日数}+①の金額$$

事例はまだまだありますが、社労士試験の勉強の際は、1回で暗記しなくてもOKです。

(私もこの記事を書くにあたり、何度も条文等を読み直し勉強しています)

過去問題集を解きつつ徐々に知識を広げてみてください。

長文にお付き合いいただきありがとうございました。


(参考資料等)

厚生労働省|厚生労働省法令等データベースサービスより|https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/kensaku/index.html

  • 労働基準法12条
  • 労基法施行規則3条、4条
  • 昭和22年9月13日発基17号((労働基準法の施行に関する件))
  • 昭和38年10月11日労働省告示第52号
  • 平成3年12月20日基発第712号(育児休業制度の労働基準法上の取扱いについて)

厚生労働省|神奈川労働局ホームページ|平均賃金について【賃金室】|
https://jsite.mhlw.go.jp/kanagawa-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/saiteichingin_chinginseido/heikinchi.html

厚生労働省|宮城労働局ホームページ|平均賃金の計算方法|
https://jsite.mhlw.go.jp/miyagi-roudoukyoku/content/contents/000668596.pdf

厚生労働省|石川労働局ホームページ|労働基準法の解説|https://jsite.mhlw.go.jp/ishikawa-roudoukyoku/content/contents/000812936.pdf

解釈例規(昭和63年3月14日基発150号)