この記事では、労働基準法の総則より、次の規定を解説しています。
- 強制労働の禁止(5条)
- 中間搾取の排除(6条)
- 公民権の行使の保障(7条)
当ブログでの「社労士試験」は社会保険労務士試験、「労基法」は労働基準法の略です。
当記事は、条文等の趣旨に反するような極端な意訳には注意しておりますが、厳密な表現と異なる部分もございます。
詳しくは免責事項をご確認ください。
強制労働の禁止(5条)
労働者の自由な意思によることなく、不当な手段によって労働を強制することを禁止しています。
使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。
ふむふむ。パッと読んだだけで、「良くないことをしてはならない」が伝わる規定です。
以降、社労士試験で出題された内容を中心に解説します。
罰則
労働基準法5条の違反者は、1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金に処せられます(労基法117条)
これは労働基準法で最も重い罰則です。
社労士試験で出題実績があるため簡単に解説します。
労基法5条の「暴行」「脅迫」「監禁」の定義は、それぞれ次のように解されています(昭和63年3月14日基発150号)
刑法208条に規定する概念をいいます。
例えば、殴る、蹴る、水をかけるなどがあり、必ずしも傷害を伴う必要はありません。
また、身体に痛みを与えることも必要としません。
刑法222条に規定する概念をいいます。
必ずしも積極的な言動によって害を示す必要はなく、暗示する程度でも足ります。
刑法220条に規定する概念をいいます。
必ずしも物質的な障害を設けて脱出できない状態にするだけではありません。
例えば、ある場所から出ないように脅し、後難を恐れて逃げられないようにする行為も該当します。
労基法5条の違反の成立と同時に刑法の暴行罪等に該当する場合は、労基法5条違反のみが成立します。
そして、暴行罪等の罪は、労基法5条違反の罪に吸収されると解されています(社労士試験で出題実績あり)
吸収されるといえる理屈が気になる方は、専門書などで勉強してみてください。
「不当」とは必ずしも「不法」なものに限られません。
たとえ「合法」なものであっても、具体的な事情によっては「不当」となり得ます。
通達では、「暴行」「脅迫」「監禁」以外で「不当に拘束する手段」について、次の例示がされています(昭和63年3月14日基発150号)
- 長期労働契約(法14条で禁止)
- 労働契約不履行に対する賠償額の予定(法16条で禁止)
- 前借金と賃金の相殺(法17条で禁止)
- 強制貯金(法18条で禁止)
なお、就業規則に社会通念上認められる懲戒規定を設けることは「不当」に該当しません(昭和22年9月13日発基17号)
不当な手段を用いることによって、使用者が、労働者の意識ある意思を抑圧し、労働者の自由意志に基づかないで労働すべく強要することをいいます(昭和23年3月2日基発381号)
したがって、労働を強制したというには、必ずしも労働者が現実に「労働」することを必要としません(前掲通達)
なお、使用者が、例えば「殴る」などの不当な手段を取っても、理由は「サボったから」のような労働を強制する目的がない場合は、労基法5条の違反とはならず、刑法の問題となります。
「労働の強制」を目的として「不当な手段」をとり、その結果、「労働の強制」に至らしめた場合に労基法5条の違反となります。
ちなみに、「意識ある意思」の概念は難しいです。
労基法5条を読むうえでは、労働者が自分や周りの環境を認識しており、その認識に基づいて自分の行動を自由に選択する能力 といったところでしょうか。
中間搾取の排除(6条)
いわゆるピンハネを禁止する規定です。
何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない。
法5条に続き、「良くないことをしてはならない」が伝わる規定です。
罰則
労働基準法6条の違反には、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が定められています(労基法118条1項)
労基法6条の違反には、2番目に重い罰則が適用されます。
規定における用語の解釈について解説します。
何人も
労基法5条のように「使用者」に限定されていません。
違反行為の主体は「他人の就業に介入して利益を得る」第三者です。
個人、団体または公人、私人を問わないため、公務員も規制の対象となります(昭和23年3月2日基発381号)
法律に基づいて許される場合とは
「法律に基づいて許される場合」には、労基法6条に違反しません。
例えば、職業安定法の規定により有料職業紹介事業を行う者が、同法の規定により手数料を受けるケースが該当します。
ただし、上記の場合でも、法定外の利益を受けると労基法6条に違反します。
業として
営利を目的として、同種の行為を反復継続することをいいます(昭和23年3月2日基発381号)
- 1回の行為であっても、反復継続して利益を得る意思があれば、労基法6条に違反します
- 主業であるか副業であるかは問いません
「利益」を得るとは
手数料、金銭以外の財物など、名称を問わず、また、有形無形も問いません(昭和23年3月2日基発381号)
使用者より利益を得る場合のみならず、労働者や第三者から受ける場合も含みます(前掲通達)
他人の就業に介入するとは
使用者と労働者の中間に第三者が存在し、その労働関係の開始、存続について、何らかの因果関係を持った関与をすることを意味します(昭和23年3月2日基発381号)
先ほどお見せした図の「第三者」にあたります。
結論としては、労働者派遣は中間搾取に該当しないと解されています。
理由としては、労働者派遣は、派遣元と労働者との間の労働契約関係および派遣先と労働者との間の指揮命令関係を合わせたものが全体として当該労働者の労働関係となります(昭和63年3月14日基発150号)
したがって、「労働関係」の外にある第三者が他人の労働関係に介入するものではないと解されています。
ちなみに、上図の「派遣先」が「労働者」を労働関係の範囲外である「第三者(例えば、派遣先と請負関係にある会社)」に派遣すると、二重派遣となり違法となります。
公民権の行使の保障(7条)
選挙権の行使など、労働者の公的な活動を保障するための規定です。
使用者は、労働者が労働時間中に、選挙権その他公民としての権利を行使し、又は公の職務を執行するために必要な時間を請求した場合においては、拒んではならない。
ただし、権利の行使又は公の職務の執行に妨げがない限り、請求された時刻を変更することができる。
労働時間中の行為は、業務上の都合とも調整する必要があります。そのため、労基法7条ただし書にある限り時間を変更することは認められています。
罰則
労働基準法7条の違反には、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が定められています(法119条1号)
賃金について
労基法7条により労働者が請求した時間については、有給にすることまでは強制されていません。
有給にするか無給にするかは当事者の取り決めによります(昭22年11月27日基発399号)。
就業時間外に公民権を行使すべきと定めた場合
例えば、使用者が就業規則等に「公民権の行使は就業時間外に行うべき」と定めた場合です。
上記のように定めたことにより、労働者が就業時間中に公民権の行使を請求することを拒否すれば、労基法7条の違反となります(昭23年10月30日基発1575号)
「公民」とは、国家または公共団体の公務に参加する資格がある国民と解されています(昭和63年3月14日基発150号)
「公民としての権利」として認められるもの(例)
- 選挙権(労基法7条)
- 被選挙権
- 最高裁判所裁判官の国民審査
- 特別法の住民投票
- 地方自治法による住民の直接請求
- 行政事件訴訟法による民衆訴訟
「公民としての権利」として認められないもの(例)
- 個人としての訴権の行使
- 他の立候補者のための選挙運動
法令に根拠を有するものに限られますが、法令に基づく公の職務すべてをいうものではありません(昭和63年3月14日基発150号)
「公の職務」として認められるもの(例)
- 衆議院議員その他の議員の職務
- 労働委員会の委員の職務
- 裁判員の職務
最後に、社労士試験で出題実績のある判例から、労基法7条と関係のある論点を2つ紹介します。
「使用者の承認を得ないで公職に就任した場合に懲戒解雇する」という就業規則の規定
(最二小判 昭38.6.21 十和田観光電鉄事件)
労働基準法七条が、特に、労働者に対し労働時間中における公民としての権利の行使および公の職務の執行を保障していることにかんがみるときは、公職の就任を使用者の承認にかからしめ、その承認を得ずして公職に就任した者を懲戒解雇に附する旨の前記条項は、右労働基準法の規定の趣旨に反し、無効のものと解すべきである。
出典:公益社団法人 全国労働基準関係団体連合会|労働基準関係判例検索より一部抜粋して掲載https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/00066.html
公民権を行使する自由を制限する規定であり、無効と解されています。
公職に就任することで、会社の業務の遂行を著しく妨げる恐れがあることを理由とした解雇
(最二小判 昭38.6.21 十和田観光電鉄事件)
所論のごとく公職に就任することが会社業務の遂行を著しく阻害する虞れのある場合においても、普通解雇に附するは格別、同条項を適用して従業員を懲戒解雇に附することは、許されないものといわなければならない。
出典:公益社団法人 全国労働基準関係団体連合会|労働基準関係判例検索より一部抜粋して掲載https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/00066.html
公の職務のために必要な時間が著しく長期にわたるなど、会社の業務に影響する場合もあります。
判例では、普通解雇は別にしても、懲戒解雇とすることは許されないとしています。
ここまで労働基準法の総則から、次の規定を解説しました。
- 強制労働の禁止(5条)
- 中間搾取の排除(6条)
- 公民権の行使の保障(7条)
社労士試験の過去問を解くための情報は概ね載せています。
一度で覚えるには情報量が多いので、インプットとアウトプットを繰り返して徐々に知識を定着させて下さい。
独学する際は陰ながら応援しています。
最後に条文をもう一度確認して終わりにします。
労基法5条(強制労働の禁止)
使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。
労基法6条(中間搾取の排除)
何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない。
労基法7条(公民権の行使の保障)
使用者は、労働者が労働時間中に、選挙権その他公民としての権利を行使し、又は公の職務を執行するために必要な時間を請求した場合においては、拒んではならない。
ただし、権利の行使又は公の職務の執行に妨げがない限り、請求された時刻を変更することができる。
(参考資料等)
厚生労働省|厚生労働省法令等データベースサービスより|https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/kensaku/index.html
- 労働基準法5条、6条、7条、117条、118条1項、119条1号
労働基準法解釈例規について(昭和63年3月14日基発150号)