労働基準法は、労働条件の基準を労使に提示するものです。
この記事では、労働基準法の総則から次の規定を解説しています。
- 労働条件の原則(1条)
- 労働条件の決定(2条)
社会保険労務士試験の独学、労務管理担当者の勉強などに役立てれば嬉しいです。
当ブログでの「社労士試験」は社会保険労務士試験、「労基法」は労働基準法の略です。
当記事は、条文等の趣旨に反するような極端な意訳には注意しておりますが、厳密な表現と異なる部分もございます。
詳しくは免責事項をご確認ください。
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労働条件の原則(1条)
社労士試験では、選択式・択一式ともに出題実績のある規定です。
労働基準法第1条は、労働者に、人格として価値ある生活を営む必要を満たすべき労働条件を保障することを宣言しています。
労基法各条の解釈にあたり基本観念として常に考慮されなければならないとされています(昭和22年9月13日発基17号)
ちなみに、労基法1条の義務違反については、罰則の定めはありません。
労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。
社労士試験で過去に問われた論点を中心に解説します。
労基法1条1項でいう「労働条件」とは、賃金、労働時間、休日・休暇など「労働者の職場における一切の待遇」をいい、広く解釈されてます。
上記の他には、解雇、災害補償、安全衛生、寄宿舎に関する条件も含みます。
ただし、雇入れ(採用)については労働条件に含まれないと解されています。
人たるに値する生活
「人たるに値する生活」には、労働者本人のみならず、その標準家族の生活をも含みます(昭和22年9月13日発基17号)。
標準家族の範囲は、その時その社会の一般通念によって判断されます(同旨 昭和22年11月27日基発401号)。
労働基準法で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。
第2項では、労働基準法で定める労働条件の基準は最低のものとし、その向上を図るよう労使の当事者に努力を促しています。
労働関係の当事者
「労働関係の当事者」とは、使用者のみでなく、労働者のほか、それぞれの団体(使用者の団体や労働組合)を含むとされています。
少なくとも規定では「労働者」と「使用者」に限定していません。
この基準を理由として
「この基準を理由として(中略)低下させてはならない」とは、労働条件を労働基準法の基準だけを理由として低下させるのはダメですよの意味です。
例えば、次のようなやり取りです。
「労働基準法第〇条に定めがあるので(現在の)労働条件を法律の基準まで引き下げます!理由はそれだけです。以上!」
一方で、社会経済情勢が変動したなど、労働条件を低下させる決定的な理由が他にあるならば、本条に抵触しないとされています(昭和22年9月13日発基17号)
労働条件の決定(2条)
労働基準法第2条では、労働条件の決定について労働者と使用者は対等な立場であることを定めています。
そして、対等な立場で労働条件を決定したからには、お互いがルールを守り義務を履行しなければならないと求めています。
ちなみに、労基法1条と同様に、労基法2条の義務違反についても罰則の定めはありません。
労働基準法の第2条は、労働条件の決定及びそれに伴う両当事者の義務に関する一般原則を宣言する規定にとどまります(昭和63年3月14日基発150号)
労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである。
「対等な立場」といえど現実には、労使それぞれの経済的、社会的な力には差があります。
その不平等を解決するため、「労働条件の決定」について、労働者と使用者は、形だけでなく(形式的)でなく内容についても(実質的に)対等の立場であるべきとされています。
ただし、対等な立場を確保するために、労働組合が存在するかどうか、労働条件を団体交渉のうえ決定したかどうかは、本条に定められていません。
労働者及び使用者は、労働協約、就業規則及び労働契約を遵守し、誠実に各々その義務を履行しなければならない。
労働条件の決定について、労働者と使用者は対等な立場で決定します。
対等な立場で決定した以上、遵守、誠実な義務の履行についても労使双方に要求されています。
遵守、履行の対象
労働協約、就業規則、労働契約について簡単に説明します。
労働協約とは、労働組合と企業との間で結んだ決まりごと(書面)です。
就業規則とは、企業が(労働条件に関することや、職場内の規律などを)定めた職場における規則集(ルール)です。
労働契約とは、個々の労働者と使用者の合意によって成立する契約です。
第2条と監督機関
労働協約、就業規則、労働契約の履行に関する争いについては、概ね次のように示されています(同旨 昭和63年3月14日基発150号)
- 監督機関は、労働基準法の各条に違反するものでない限り、監督権行使に類する積極的な措置をすべきではない
- 労働契約等の履行に関する争いについては、当事者間の交渉、又はあっせん、調停、仲裁等の紛争処理機関、民事裁判等において処理されるべき
ここまで労働基準法の総則から、労働条件の原則(1条)労働条件の決定(2条)を解説しました。
目的条文ではありませんが、基本観念として常に考慮される条文です。
社労士試験の学習においては、選択式の穴埋め問題にも対応できるように理解を深めたいところです。
最後に条文をもう一度確認して終わりにします。
労基法1条(労働条件の原則)
① 労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。
② 労働基準法で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。
労基法2条(労働条件の決定)
① 労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである。
② 労働者及び使用者は、労働協約、就業規則及び労働契約を遵守し、誠実に各々その義務を履行しなければならない。
(参考資料等)
厚生労働省|厚生労働省法令等データベースサービスより|https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/kensaku/index.html
- 労働基準法1条、2条
- 労働基準法の施行に関する件(昭和22年9月13日発基17号)
解釈例規(昭和63年3月14日基発150号)