この記事では、労働基準法の「労働契約」に関する次の事項を解説しています。
- 契約期間(14条1項)
社会保険労務士試験の独学、労務管理担当者の勉強などに役立てれば嬉しいです。
当記事は、条文等の趣旨に反するような極端な意訳には注意しておりますが、厳密な表現と異なる部分もございます。
詳しくは免責事項をご確認ください。
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契約期間(14条1項)
まず、労働契約の期間は、期間の定めが「ない」と「ある」に分かれます。
期間の定めが「ない」ならば、そのとおり上限はありません。
労基法14条では、期間の定めが「ある」労働契約について、契約期間の上限を定めています。
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労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、3年を超える期間について締結してはならない。
ただし、次の①または②に該当する労働契約にあっては、5年を超える期間について締結してはならない。
① 専門的な知識、技術又は経験(以下「専門的知識等」)であって高度のものとして厚生労働大臣が定める基準に該当する専門的知識等を有する労働者との間に締結される労働契約
ただし、当該高度の専門的知識等を必要とする業務に就く者に限る。
② 満60歳以上の労働者との間に締結される労働契約(①に掲げる労働契約を除く)
労働基準法
第十四条
労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、三年(次の各号のいずれかに該当する労働契約にあっては、五年)を超える期間について締結してはならない。
一 専門的な知識、技術又は経験(以下この号及び第四十一条の二第一項第一号において「専門的知識等」という。)であって高度のものとして厚生労働大臣が定める基準に該当する専門的知識等を有する労働者(当該高度の専門的知識等を必要とする業務に就く者に限る。)との間に締結される労働契約
二 満六十歳以上の労働者との間に締結される労働契約(前号に掲げる労働契約を除く。)
例えば、労基法14条1項に違反して6年の労働契約を締結した場合には、労基法13条により、労基法の基準である3年または5年に置き換えられます(平成15年10月22日基発1022001号)
罰則
労基法14条の違反には、30万円以下の罰金が定められています(労基法120条1号)
しかし、労基法14条1項には使用者とも労働者とも規定されていません。
そこで、「労使双方が処罰の対象となるのか」についてですが、本法の立法趣旨に鑑み、本条の罰則は使用者に対してのみ適用がある と解されています(昭和23年4月5日基発535号)。
「期間の定めのない」労働契約とは、いわゆる無期労働契約です。
一般的には、正社員や無期転換したパートなどの働き方が該当します。
なお、「期間の定めのない労働契約」として、定年制を定めることは可能です。
参考|東京労働局ホームページ(外部サイトへのリンク)|
定年年齢を上限として、当該上限年齢未満の労働者を期間の定めのない労働契約の対象として募集・採用する場合。
「期間の定めのある」労働契約とは、例えば、「1年」や「2024年4月1日から2025年3月31日まで」のような、いわゆる有期労働契約です。
一般的には、契約社員やパート・アルバイトなどの働き方が該当します。
原則、期間の定めが「ある」労働契約については、(1つの)契約期間の上限は3年です。
例外として、次の①または②に該当する労働契約は、契約期間の上限が5年となります。
- 労働者が、高度の専門的知識等を有しており、それを必要とする業務に就く場合
- 労働者が、満60歳以上の場合
①については、労働者が高度の専門的知識等を有するだけでは足りず、必要とする業務に実際に就くことが必要です。
②については、労働契約の締結時に、満60歳以上である労働者との契約が対象です(平成15年10月22日基発1022001号)
「一定の事業の完了に必要な期間を定めるもの」については後述します。
参考|厚生労働省(外部サイトへのリンク)|平成15年10月22日厚生労働省告示第356号
「期間の定めのある労働契約」は、原則、やむを得ない事由がなければ、労働者から労働契約の中途での解約(いわゆる退職)はできません(民法628条ほか)
労基法では使用者への解雇制限等を定めていますが、労働契約は労使双方が守るものです。
定めた期間の途中では、使用者に限らず、労働者からも無条件で契約解除できるとは限りません。
労基法附則137条には次のように定められています。
期間の定めのある労働契約(一定の事業の完了に必要な期間を定めるものを除き、その期間が1年を超えるものに限る)を締結した労働者(第14条第1項各号に規定する労働者を除く)は、労働基準法の一部を改正する法律附則第3条に規定する措置が講じられるまでの間、民法第628条の規定にかかわらず、当該労働契約の期間の初日から1年を経過した日以後においては、その使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができる。
契約期間の上限が3年の労働者については、「期間の定めのある労働契約」の初日から1年を経過した日以後は、「やむを得ない事由」がなくとも、使用者への申出により退職できます。
労基法14条は、「短い契約期間の反復継続」を求めるものではなく、労働者の人身拘束や労働強制につながりやすい「長期労働契約」の抑制が目的です。
「期間の定めのない労働契約」は、労働者からいつでも解約の申入れができる(民法627条)ため、長期労働契約には該当しません。なお、定年制についても、「定年」まではいつでも解約の申入れができるため同様です。
一般的には企業は将来にわたって存続する前提です。労基法14条での「事業の完了」とは、労基法での「事業」という1つの場所に終わりがあるという意味です。
例えば、完成まで4年や6年の建設工事です。有期的である(事業に終わりがある)ことが客観的に明らかな「事業」が該当します。
上記の例では、建設工事の終期(完了)までを労働契約の期間として定めるならば、「期間の定めがある」としても3年または5年の上限は適用されません。
「事業」については、労働者の定義で解説しています。
その他にも、認定職業訓練に関する特例が定められています。
職業能力開発促進法の認定を受けて行う職業訓練(認定職業訓練)を受ける労働者との労働契約は、職業訓練を終了するまでの期間内で定めることが可能です(労基法70条ほか)
技能者を養成している途中で労働契約を解除されては、労使双方に都合が良くないため考慮されています。
ここまで労働基準法の「労働契約」に関する次の事項を解説しました。
- 契約期間(14条1項)
社労士試験の勉強では、契約期間の上限を原則3年、例外5年と覚えることから始め、他の条文の概念や民法の知識を、学習の進捗に合わせて繋げてみてください。
最後に条文をもう一度確認して終わりにします。
労基法14条1項(契約期間)
労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、3年を超える期間について締結してはならない。
ただし、次の①または②に該当する労働契約にあっては、5年を超える期間について締結してはならない。
① 専門的な知識、技術又は経験(以下「専門的知識等」)であって高度のものとして厚生労働大臣が定める基準に該当する専門的知識等を有する労働者との間に締結される労働契約
ただし、当該高度の専門的知識等を必要とする業務に就く者に限る。
② 満60歳以上の労働者との間に締結される労働契約(①に掲げる労働契約を除く)
(参考資料等)
厚生労働省|厚生労働省法令等データベースサービスより|https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/kensaku/index.html
- 労働基準法14条1項、附則137条
- 平成15年10月22日基発第1022001号(労働基準法の一部を改正する法律の施行について)
厚生労働省|労働契約(契約の締結、労働条件の変更、解雇等)に関する法令・ルール|
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/keiyaku/index.html