この記事では、労働基準法の7章(技能者の養成)から、次の規定を解説しています。
- 従弟の弊害排除(69条)
- 職業訓練に関する特例(70条、71条、73条)
- 認定職業訓練を受ける未成年者の年次有給休暇(72条)
参考|労基法74条(技能者養成審議会に関する規定)は削除されています。
社会保険労務士試験の独学、労務管理担当者の勉強などに役立てれば嬉しいです。
当記事は、条文等の趣旨に反するような極端な意訳には注意しております。ただし、厳密な表現と異なる部分もございます。
詳しくは免責事項をご確認ください。
従弟の弊害排除(69条)
簡単にいうと、「〇〇見習い」などを理由として、技能の習得と関係ない作業(例えば、家事など)に従事させることは禁止されています。
① 使用者は、徒弟、見習、養成工その他名称の如何を問わず、技能の習得を目的とする者であることを理由として、労働者を酷使してはならない。
② 使用者は、技能の習得を目的とする労働者を家事その他技能の習得に関係のない作業に従事させてはならない。
趣旨
労基法69条は、徒弟(とてい)制度にまつわる悪習慣を是正し、特に酷使の典型である雑役への使用を禁止する趣旨だとされています(昭和22年12月9日基発53号)
第1項については、「技能の習得を目的とする者であること」を理由としないならば、労働者を酷使してもよいという反対解釈を許す趣旨ではありません(前掲通達)
第2項の「家事その他技能の習得に関係のない作業」には、機械や器具等の出し入れ、整備、事業場の掃除など、技能を習得するために必要と認められる作業は含まれません(前掲通達)
従来、必要と認められる作業の範囲を超えて雑役に使用した弊(よくない習慣)が多かった実情にかんがみ、個々の場合につき具体的に判断されます(前掲通達)
罰則
労基法69条1項および2項については、罰則は定められていません。
ただし、他の法条(労基法5条など)に違反する場合は、各規定の罰則の対象となります。
職業訓練に関する特例(70条、71条、73条)
認定職業訓練(都道府県知事の認定を受けた職業訓練)を受ける労働者については、技能者を養成するため、必要な限度で制限が緩和されています。
条文はタブを切り替えると確認できます。
認定職業訓練を受ける労働者についての特例(70条)|
認定職業訓練(*1)を受ける労働者については、必要の限度で、厚生労働省令で特例が定められています。
(*1)職業能力開発促進法24条1項(同法27条の2第2項において準用する場合を含む)の認定を受けて行う職業訓練
特例が定められている規定は、次のとおりです。
- 契約期間(14条1項)
- 年少者の危険有害業務の就業制限(62条)
- 妊産婦等の危険有害業務の就業制限(64条の3)
- 年少者の坑内労働の禁止(63条)
- 妊産婦等の坑内業務の就業制限(64条の2)
ただし、年少者の坑内労働の禁止(63条)に関する規定については、満16歳に満たない者に関しては、労基法70条の特例は適用されません。
行政官庁の許可(71条)|
労基法70条の規定に基づく特例は、行政官庁(都道府県労働局長)の許可を受けた使用者に使用される労働者以外の労働者については、適用されません。
(70条の特例の適用を受けるためには、職業訓練について都道府県知事の認定を受けるだけでなく、都道府県労働局長の許可も必要です)
行政官庁による許可の取消(73条)|
労基法71条の規定による許可を受けた使用者が、第70条の規定に基いて発する厚生労働省令に違反した場合においては、行政官庁(都道府県労働局長)は、その許可を取り消すことができます。
労働基準法
第七十条
職業能力開発促進法(昭和四十四年法律第六十四号)第二十四条第一項(同法第二十七条の二第二項において準用する場合を含む。)の認定を受けて行う職業訓練を受ける労働者について必要がある場合においては、その必要の限度で、第十四条第一項の契約期間、第六十二条及び第六十四条の三の年少者及び妊産婦等の危険有害業務の就業制限、第六十三条の年少者の坑内労働の禁止並びに第六十四条の二の妊産婦等の坑内業務の就業制限に関する規定について、厚生労働省令で別段の定めをすることができる。ただし、第六十三条の年少者の坑内労働の禁止に関する規定については、満十六歳に満たない者に関しては、この限りでない。
第七十一条
前条の規定に基いて発する厚生労働省令は、当該厚生労働省令によって労働者を使用することについて行政官庁の許可を受けた使用者に使用される労働者以外の労働者については、適用しない。
第七十三条
第七十一条の規定による許可を受けた使用者が第七十条の規定に基いて発する厚生労働省令に違反した場合においては、行政官庁は、その許可を取り消すことができる。
労働基準法施行規則
第三十四条の四
法第七十一条の規定による許可は、様式第十四号の四の職業訓練に関する特例許可申請書により、当該事業場の所在地を管轄する都道府県労働局長から受けなければならない。
第三十四条の五
都道府県労働局長は、前条の申請について許可をしたとき、若しくは許可をしないとき、又は許可を取り消したときは、その旨を都道府県知事に通知しなければならない。
罰則
労基法70条の違反については、次のように罰則の対象となります。
契約期間について|
労基法70条の規定に基づいて発する厚生労働省令(14条の規定に係る部分に限る)に違反した者は、30万円以下の罰金に処せられます(労基法120条)
危険有害業務について|
労基法70条の規定に基づいて発する厚生労働省令(62条または64条の3の規定に係る部分に限る)に違反した者は、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます(労基法119条)
坑内労働について|
労基法70条の規定に基づいて発する厚生労働省令(63条または64条の2の規定に係る部分に限る)に違反した者は、1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられます(労基法118条)
具体的には、労基則34条の2の5で定められています。
労基法71条の許可を受けた使用者が行う職業訓練を受ける労働者(訓練生)に係る労働契約の期間は、次の期間の範囲内で定めることができます。
- 訓練生が受ける職業訓練の訓練課程に応じて、職業能力開発促進法施行規則(*2)の訓練期間
(*2)10条1項4号、12条1項4号または14条1項4号
訓練期間を短縮する場合(例えば、他の訓練により重複する内容を既に終了している など)は、短縮した期間を控除した期間となります。
なお、能開法施行規則で定める訓練期間よりも事業場で定めた訓練期間が短い場合は、事業場において定められた訓練期間を超えることはできません。
労働基準法施行規則
第三十四条の二の五
法第七十一条の規定による許可を受けた使用者が行う職業訓練を受ける労働者(以下「訓練生」という。)に係る労働契約の期間は、当該訓練生が受ける職業訓練の訓練課程に応じ職業能力開発促進法施行規則(昭和四十四年労働省令第二十四号)第十条第一項第四号、第十二条第一項第四号又は第十四条第一項第四号の訓練期間(同規則第二十一条又は職業訓練法施行規則の一部を改正する省令(昭和五十三年労働省令第三十七号。以下「昭和五十三年改正訓練規則」という。)附則第二条第二項の規定により訓練期間を短縮する場合においてはその短縮した期間を控除した期間とする。)の範囲内で定めることができる。この場合、当該事業場において定められた訓練期間を超えてはならない。
職業訓練の途中で労働契約を解除しなければならないとなると、労使ともに不都合が生じます。
そのため、労働契約の期間の上限は、「期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、3年」ではなく、職業訓練の訓練期間となります。
具体的には、労基則34条の3で定められています。
① 使用者は、訓練生に技能を習得させるために必要がある場合においては、満18才に満たない訓練生を法第62条の危険有害業務に就かせ、又は満16才以上の男性である訓練生を坑内労働に就かせることができる。
② 使用者は、前項の規定により訓練生を危険有害業務又は坑内労働に就かせる場合においては、危害を防止するために必要な措置を講じなければならない。
③ 第一項の危険有害業務及び坑内労働の範囲並びに前項の規定により使用者が講ずべき措置の基準は、別表第一に定めるところによる。
労基則別表第一については、省略します(必要なときにe-Govなどで調べてみてください)
参考|安衛法における職業訓練の特例
安衛法における就業制限の業務(安衛令20条)についても、認定職業訓練を受ける労働者に対する特例が定められています(安衛法61条4項)
特例の内容については、安衛則42条に規定されています。
認定職業訓練を受ける未成年者の年次有給休暇(72条)
趣旨
通達によると、概ね次のように説明されています(昭和22年12月9日基発53号)
労基法70条の適用を受ける労働者は、ある種の労働条件について一般労働者より不利な取り扱いを受けます。
そのため、特に未成年者に対しては、年次有給休暇について一般労働者よりも有利な基準を設けています。
労基法70条に基づく厚生労働省令の適用を受ける未成年者については(*3)、年次有給休暇(労基法39条)の基準に特例が設けられています。
(*3)認定職業訓練を受ける未成年者のうち、労基法71条の許可を受けた使用者に使用される者に限られる という意味です。
継続勤務期間ごとの付与日数は下表のとおりです。参考として、労基法39条による付与日数ものせておきます。
継続勤務期間 | 付与日数 (72条) | 付与日数 (39条) |
6カ月 | 12労働日 | 10労働日 |
1年6カ月 | 13労働日 | 11労働日 |
2年6カ月 | 14労働日 | 12労働日 |
3年6カ月 | 16労働日 | 14労働日 |
4年6カ月 | 18労働日 | 16労働日 |
5年6カ月 | 20労働日 | 18労働日 |
6年6カ月以上 | 20労働日 | 20労働日 |
労働基準法
第七十二条
第七十条の規定に基づく厚生労働省令の適用を受ける未成年者についての第三十九条の規定の適用については、同条第一項中「十労働日」とあるのは「十二労働日」と、同条第二項の表六年以上の項中「十労働日」とあるのは「八労働日」とする。
一般の付与日数(労基法39条)に、「2労働日」をプラスします。
ただし、特例が適用されても、付与日数の上限は「20日」で変わりません。
なお、労基法72条の特例により付与された休暇を翌年度に繰り越す場合は、たとえ労基法70条の適用を受ける未成年者でなくなったとしても、2年の消滅時効にかかるまでは存続します(昭和34年5月4日基収2275号)
罰則
労基法73条に違反した者は、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます(労基法119条)
ここまで、次の規定を解説しました。
- 従弟の弊害排除(69条)
- 職業訓練に関する特例(70条、71条、73条)
- 認定職業訓練を受ける未成年者の年次有給休暇(72条)
社労士試験用の教材は、第7章そのものを除いているものもみられます。
そのため、「繰り返し読んで暗記する」よりも、制度の概要を把握する程度で十分でしょう。
ちなみに、いざ出題された際に、「あ~、そんな規定もあったな…覚えてないや次いこ!」と「記述を読んだ後に、この規定はそもそも存在するのか?」では、問題の取捨選択に要す時間は異なります。
最後に、この記事を簡単にまとめて終わりにします。
従弟の弊害排除|
① 使用者は、徒弟、見習、養成工その他名称の如何を問わず、技能の習得を目的とする者であることを理由として、労働者を酷使してはならない
② 使用者は、技能の習得を目的とする労働者を家事その他技能の習得に関係のない作業に従事させてはならない
労基法69条違反そのものには、罰則は定められていない。
職業訓練に関する特例|
認定職業訓練(都道府県知事の認定を受けた職業訓練)を受ける労働者については、厚生労働省令で特例が定められている。
ただし、特例を適用するためには、使用者は、都道府県労働局長の許可(労基法71条)を受けなければならない。
特例が定められている規定は、次のとおり。
- 契約期間(14条1項)
- 年少者の危険有害業務の就業制限(62条)
- 妊産婦等の危険有害業務の就業制限(64条の3)
- 年少者の坑内労働の禁止(63条)
- 妊産婦等の坑内業務の就業制限(64条の2)
ただし、年少者の坑内労働の禁止(63条)に関する規定についての特例は、16歳未満の者には適用されない。
認定職業訓練を受ける未成年者の年次有給休暇|
年次有給休暇の特例(労基法72条)の対象者は、次のとおり。
- 認定職業訓練を受ける未成年者のうち、労基法71条の許可を受けた使用者に使用される者
6カ月経過日とその後1年ごとの付与日数は、「12日、13日、14日、16日、18日、20日、20日」。つまり、上限を「20日」として労基法39条の日数に「2日」加算する。
(参考資料等)
厚生労働省|厚生労働省法令等データベースサービスより|https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/kensaku/index.html
- 労働基準法69条、70条、71条、72条、73条、118条、119条、120条
- 労働基準法施行規則34条の2の5、34条の3、34条の4、34条の5
解釈例規(昭和63年3月14日基発150号)