社労士試験の独学|労基法|労働時間の通算(時間計算)

まえがき

この記事では、労働基準法の4章から時間計算(38条)について解説しています。

社会保険労務士試験の独学、労務管理担当者の勉強などに役立てれば嬉しいです。

当記事では、法定労働時間を超えて労働させることを「時間外労働」と表記しています。

当記事は、条文等の趣旨に反するような極端な意訳には注意しておりますが、厳密な表現と異なる部分もございます。

詳しくは免責事項をご確認ください。

時間計算の概要(38条)

異なる事業場における労働時間

労基法38条では、「労働時間の計算」についてのルールを定めています。

  • 第1項 ⇒ 労働者が異なる事業場で労働した場合の規定
  • 第2項 ⇒ 「坑内労働」についての規定
労働基準法38条

① 労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する

② 坑内労働については、労働者が坑口に入った時刻から坑口を出た時刻までの時間を、休憩時間を含め労働時間とみなす。但し、この場合においては、第34条第2項及び第3項の休憩に関する規定は適用しない。

第1項

第1項における「事業場を異にする場合」とは、事業主を異にする場合をも含むとされています(昭和23年5月14日基発769号)

例えば、事務代行サービスを営むA法人で労働した後に、飲食店を営むB法人で労働するなど、一般的にいう企業が異なる場合でも、A法人とB法人での労働時間は通算されます。

ただし、次の①②のいずれかに該当するならば、①②における時間は通算されません。

  • 労基法が適用されない(例えば、フリーランスなど)
  • 労働時間規制が適用されない(労基法41条または41条の2に該当する労働者) 

労基法38条1項の規定そのものはシンプルですが、実際にはいわゆる「副業・兼業」における取り扱いが論点となります。

「副業・兼業」については後述します。

第2項

労基38条2項における「坑内労働」とは、「坑内労働者の労働時間すべて」という意味ではなく、「坑内労働」という労働の形態を意味しています。

そのため、坑外において使用者の指揮監督のもとにあれば、坑外における時間も(坑内労働ではありませんが)坑内労働者の労働時間に含まれます(昭和23年10月30日基発1575号)


坑内労働

坑口を基準に労働時間を計算する

坑内労働」には、「鉱山」におけるものと「ずい道工事」(いわゆるトンネル工事)等の鉱山以外におけるものがあります(同旨 昭和25年8月11日基発732号)

「坑内労働」については、労働者が、坑口に入った時刻から坑口を出た時刻までの時間を休憩時間を含めて労働時間とみなします(坑口計算制)

ただし、「坑内労働」における「休憩」については次の原則は適用されません。

  • 休憩の一斉付与(34条2項)
  • 休憩の自由利用(34条3項)

なお、休憩の途中付与(34条1項)については適用除外とはならないため、「坑内労働」であっても労働時間の途中に休憩を与えることが必要です。

他にも「鉱山における坑の範囲」についての解釈例規(昭和25年8月11日基発732号)や、「一団として入坑および出坑する労働者の労働時間」についての規定(労基則24条)もあります。

坑内労働については、筆者自身も経験したことがなく、また詳しくもないため、ここまでの解説といたします。


労働者派遣

複数の派遣先で就労する派遣労働者についてです。

労基法38条は、派遣中の労働者に関しても適用されるので、一定期間に相前後して複数の事業場に派遣された場合には、それぞれの派遣先の事業場において労働した時間が通算されます(昭和61年6月6日基発333号)

なお、通達では、「派遣元の使用者は、複数の派遣先の事業場において就労する派遣労働者について、派遣先の使用者が労働者派遣契約に従って派遣労働者を労働させたときに労働時間に関する法令に抵触することがないよう、累計労働時間を把握、管理すること」と示しています(平成21年3月31日基発0331010号)

例えば、2つの派遣先の労働時間を通算すると1日8時間以内でも、1週間に40時間を超えていないかの確認も必要です。


副業・兼業ガイドラインの概要

副業・兼業については、副業・兼業の促進に関するガイドラインや、通達(令和2年9月1日基発0901第3号)により一定の基準が示されています。

法令ではありませんが、ガイドラインが定められて数年が経過しています。そのため、社労士試験の勉強においても(暗記するかはともかく)目を通しておいてください。

ちなみに、令和4年就業構造基本調査によると、非農林業従事者(*)のうち副業がある者は、2022年では約305万人です(結果の概要 図5-1)

また、副業者比率(非農林業従事者に占める副業がある者の割合)をみると、4.8%となっています(結果の概要 図5-2)

(*)有業者のうち本業の産業が農業、林業および分類不能の産業以外の者

参考|総務省統計局(外部サイトへのリンク)|令和4年就業構造基本調査

なお、労基法38条1項により、異なる事業場における労働時間は通算されますが、労基法の全ての規定において通算が必要となるわけではありません。


通算される規定

労働時間を通算して適用する規定

異なる事業場において労働時間が通算される規定は次の①②です(令和2年9月1日基発0901第3号)

  •  法定労働時間(32条、40条)
  •  時間外労働(36条)のうち、時間外労働と休日労働の合計で単月100時間未満複数月平均80時間以内の要件(36条6項2号および3号)

上記①②の規定は、労働者個人の実労働時間に着目し、その個人を使用する使用者を規制するものです。

そのため、異なる事業場のそれぞれでお互いの労働時間を通算し、上記①②の規定を順守することになります。

なお、異なる事業場において、時間外労働の上限規制(36条3項〜5項まで、6項2号および3号に係る部分に限る)が適用除外となる業務(36条11項)に就いている場合でも、上記①については労働時間が通算されます(令和2年9月1日基発0901第3号)

関連記事
社労士試験の独学|労基法|時間外及び休日の労働(36協定)

労基法36条についてはこちらの記事で解説しています。


通算されない規定

労働時間を通算しない規定

次の①②の規定については、異なる事業場の間で労働時間は通算されません(令和2年9月1日基発0901第3号)

  • 時間外労働(36条)のうち、36条1項の協定(以下、36 協定)により延長できる時間の限度時間(36条4項)
  • 36協定に特別条項を設ける場合の1年についての延長時間の上限(36条5項)

上記①②の規定は、個々の事業場における36協定の内容を規制するものです。

そのため、36協定の締結にあたっては、それぞれの事業場において、それぞれの事業場についての延長時間を労基法36条4項、5項の範囲内で定めることになります。

また、実際に時間外労働をした時間が36協定で定めた延長時間の範囲内であるか否かについても、それぞれの事業場ごとに判断します。

なお、休憩(34条)、休日(35条)、年次有給休暇(39条)については、労働時間(そのもの)に関する規定ではありません。

そのため、異なる事業場の間で労働時間を通算しないで各規定(34条、35条、39条)を適用することになります(令和2年9月1日基発0901第3号)

例えば、ある労働者が兼業しており、1日においてA事業場で4時間、B事業場で3時間の労働をしたケースでは、労働時間を通算すると7時間となります。

ただし、それぞれの事業場を個別にみると労働時間が6時間を超えていないため、45分の休憩はABどちらの事業場でも与える必要はありません(A + B = 45分とする必要もありません)


(参考)下表は、労働時間の通算が必要(〇)か否(✕)かを整理したものです。

規定通算
法定労働時間
時間外労働と休日労働の合計(単月100時間未満)
時間外労働と休日労働の合計(複数月平均80時間以内)
36協定における限度時間
1年についての延長時間の上限(特別条項)
休憩、休日、年次有給休暇
各規定における労働時間の通算の要否

通算方法(基本事項)

労働時間が通算される規定についての「通算方法」として、次の1.〜4.の基本事項が示されています(令和2年9月1日基発0901第3号)

1.|労働時間を通算管理する使用者

副業・兼業を行う労働者を使用する全ての使用者(労働時間が通算されない場合として掲げられている業務等に係るものを除く)は、法38条1項の規定により、それぞれ、自らの事業場における労働時間と他の使用者の事業場における労働時間とを通算して管理する必要があること。

2.|通算される労働時間

法38条1項の規定による労働時間の通算は、自らの事業場における労働時間と労働者からの申告等により把握した他の使用者の事業場における労働時間とを通算することによって行うこと。

労働者からの申告等がなかった場合には労働時間の通算は要せず、また、労働者からの申告等により把握した他の使用者の事業場における労働時間が事実と異なっていた場合でも労働者からの申告等により把握した労働時間によって通算していれば足りること。

3.|基礎となる労働時間制度

法38条1項の規定による労働時間の通算は、自らの事業場における労働時間制度を基に、労働者からの申告等により把握した他の使用者の事業場における労働時間と通算することによって行うこと。

週の労働時間の起算日または月の労働時間の起算日が、自らの事業場と他の使用者の事業場とで異なる場合についても、自らの事業場の労働時間制度における起算日を基に、そこから起算した各期間における労働時間を通算すること。

4.|通算して時間外労働となる部分

自らの事業場における労働時間と他の使用者の事業場における労働時間とを通算して、自らの事業場の労働時間制度における法定労働時間を超える部分が、時間外労働となること。


副業・兼業における労働時間の通算

通達(令和2年9月1日基発0901第3号)により、労働時間を通算する順序についての「原則的な労働時間管理の方法」が示されています。

ただし、副業・兼業の促進に関するガイドライン Q&A(番号1ー19)によると、労働時間を通算する順序は、使用者Aと労働者、使用者Bと労働者の間で合意され、三者の合意が形成されることにより、変更することは可能 と示されています。

また、副業・兼業の促進に関するガイドラインでは、労基法に定める最低労働条件が遵守されやすくなる簡便な労働時間管理の方法(管理モデル)も示されています。

しかしながら、一定の基準を把握するためにも、当記事では「原則的な労働時間管理の方法」に沿って解説しています。


副業・兼業の開始前

通達はタブを切り替えると確認できます。

令和2年9月1日基発0901第3号

副業・兼業の開始前(所定労働時間の通算)|

それぞれの事業場における所定労働時間を、労働契約の締結順に通算します。

所定労働時間を通算した結果、自らの事業場における法定労働時間を超える場合は、後から労働契約を締結した事業場の時間外労働となります。

副業・兼業の場合における労働時間管理に係る労働基準法第 38 条第1項の解釈等について(令和2年9月1日基発0901第3号)

副業・兼業の開始前(所定労働時間の通算)

自らの事業場における所定労働時間と他の使用者の事業場における所定労働時間とを通算して、自らの事業場の労働時間制度における法定労働時間を超える部分がある場合は、時間的に後から労働契約を締結した使用者における当該超える部分が時間外労働となり、当該使用者における 36 協定で定めるところによって行うこととなること。


副業・兼業の開始前は、労働契約の締結順で所定労働を通算する

例えば、A事業場において「所定労働時間を7時間」として労働契約を締結した後に、B事業場において「所定労働時間を2時間」とする労働契約を締結した としましょう。

上記の場合、所定労働時間を通算すると「9時間」です。

後から労働契約を締結したB事業場では、「2時間のうち1時間」が時間外労働となります。そのため、36協定の締結が必要になります。


副業・兼業の開始後

以降は、所定労働時間を超える労働を「所定外労働」、所定外労働を行った時間を「所定外労働時間」と表記しています。

先述のとおり、労働者個人の実労働時間は通算します。

一方、36協定の内容を規制する時間数は、異なる事業場で通算しないのがポイントです。

(異なる事業場間で労働者は同じ人ですが、36協定は別々に定められているイメージです)

令和2年9月1日基発0901第3号

副業・兼業の開始後(所定外労働時間の通算)|

  1. 所定労働時間の通算に加えて、それぞれの事業場における所定労働時間を、所定外労働が行われた順に通算します
  2. 所定外労働時間を通算した結果、自らの事業場における法定労働時間を超える場合は、超えた時間が時間外労働となります
  3. 各々の使用者は、②で時間外労働となった時間のうち、自ら労働させた時間について、時間外労働の割増賃金(37条1項)を支払う必要があります

36協定の延長時間について|

各々の使用者は、上記①②の手順で通算すると時間外労働となる時間のうち、自らの事業場において労働させる時間については、自らの事業場における36協定の延長時間(*)の範囲内とすることが必要です。

(*)36協定に最大の時間数を定めている場合は、限度時間を意味します。

単月100時間未満、複数月平均80時間以内の遵守|

各々の使用者は、通算して時間外労働となる時間(他の使用者の事業場における労働時間を含む)について、時間外労働と休日労働の合計で単月100時間未満複数月平均80時間以内の要件(36条6項2号および3号)を遵守する必要があります。

そのため、1カ月単位で労働時間を通算して管理することが必要です。

割増賃金率|

時間外労働の割増賃金は、労基法37条1項に基づいて、自らの事業場で定められた率(2割5分以上の率)を用いて計算します。

ただし、所定外労働の発生順で所定外労働時間を通算し、自らの事業場における時間外労働が1カ月について60時間を超えた場合には、「60時間を超えた時間」のうち自ら労働させた時間については、5割以上の率で計算した割増賃金の支払いが必要です(37条1項ただし書き)

副業・兼業の場合における労働時間管理に係る労働基準法第 38 条第1項の解釈等について(令和2年9月1日基発0901第3号)

副業・兼業の開始後(所定外労働時間の通算)

(副業・兼業の開始前の)所定労働時間の通算に加えて、自らの事業場における所定外労働時間と他の使用者の事業場における所定外労働時間とを当該所定外労働が行われる順に通算して、自らの事業場の労働時間制度における法定労働時間を超える部分がある場合は、当該超える部分が時間外労働となること。

各々の使用者は、通算して時間外労働となる時間のうち、自らの事業場において労働させる時間については、自らの事業場における 36 協定の延長時間の範囲内とする必要があること。

各々の使用者は、通算して時間外労働となる時間(他の使用者の事業場における労働時間を含む。)によって、時間外労働と休日労働の合計で単月 100 時間未満、複数月平均 80 時間以内の要件(法第 36 条第6項第2号及び第3号)を遵守するよう、1か月単位で労働時間を通算管理する必要があること。

時間外労働の割増賃金の取扱い

1 割増賃金の支払義務

各々の使用者は、自らの事業場における労働時間制度を基に、他の使用者の事業場における所定労働時間・所定外労働時間についての労働者からの申告等により、

  • まず労働契約の締結の先後の順に所定労働時間を通算し、
  • 次に所定外労働の発生順に所定外労働時間を通算することによって、

それぞれの事業場での所定労働時間・所定外労働時間を通算した労働時間を把握し、その労働時間について、自らの事業場の労働時間制度における法定労働時間を超える部分のうち、自ら労働させた時間について、時間外労働の割増賃金(法第 37 条第1項)を支払う必要があること。

2 割増賃金率

時間外労働の割増賃金の率は、自らの事業場における就業規則等で定められた率(2割5分以上の率。ただし、所定外労働の発生順によって所定外労働時間を通算して、自らの事業場の労働時間制度における法定労働時間を超える部分が1か月について 60 時間を超えた場合には、その超えた時間の労働のうち自ら労働させた時間については、5割以上の率。)となること(法第 37 条第1項)。


副業・兼業の開始後は、所定外労働を行った順で通算する

時間外労働が発生するか否かは、労働契約の締結順ではなく、所定外労働を行った順で通算して判断します。

例えば、労働契約の締結順は、「A事業場が先、B事業場が後」でも、実際に労働する順序によっては、所定外労働が行われた順が「B事業場が先、A事業場が後」となり得ます。


通算例

最後に、副業・兼業における労働時間の通算について「例」を用いて整理しています。

例 1|(兼業を想定しています)

ある労働者が、異なるA事業場、B事業場において、それぞれ次の条件で労働したとしましょう。

条件
  • 法定労働時間|
    ABともに 1日8時間 1週間40時間
  • 36協定の締結|
    ABともに「あり」
AB
労働契約
所定労働時間4時間3時間
実際の労働時間
5時間

4時間
所定外労働時間1時間1時間
例1における条件
労働時間の通算(例1)

A事業場における計算|

  • 所定労働時間の通算(労働契約の締結順)
    ⇒ 4時間(A) + 3時間(B) = 7時間
  • 所定外労働時間の通算(所定外労働が行われた順)
    ⇒ 7時間 + 1時間(A)+1時間(B) = 9時間
  • 法定労働時間を超える時間
    ⇒ 9時間 ー 8時間 = 1時間

法定労働時間を超えた「1時間(9時間のうち最後の1時間)」は、A自らが労働させた時間ではないため、Aについての時間外労働ではありません。

そのため、A事業場では時間外労働についての割増賃金の支払いは必要ありません。

B事業場における計算|

  • 所定労働時間の通算
    ⇒ 4時間(A) + 3時間(B) = 7時間
  • 所定外労働時間の通算
    ⇒ 7時間 + 1時間(A) +1時間(B) = 9時間
  • 法定労働時間を超える時間
    ⇒ 9時間 ー 8時間 = 1時間

法定労働時間を超えた「1時間」は、B自らが労働させた時間なので、Bについての時間外労働です。

そのため、B事業場では「1時間」分の割増賃金の支払いが必要です。


例 2|(副業を想定しています)

ある労働者が、異なるA事業場、B事業場において、それぞれ次の条件で労働したとしましょう。

条件
  • 法定労働時間|
    ABともに 1日8時間 1週間40時間
  • 36協定の締結|
    ABともに「あり」
AB
労働契約
所定労働時間7時間2時間
実際の労働時間
8時間

2時間
所定外労働時間1時間0時間
例2における条件
労働時間の通算(例2)

労働契約の締結順は、例1と同様に「Aが先、Bが後」です。

実際に労働した順は、「Bが先、Aが後」に変えています。

また、例2では、所定労働時間を通算する段階で法定労働時間を超えています。

A事業場における計算|

  • 所定労働時間の通算(労働契約の締結順)
    ⇒ 7時間(A) + 2時間(B) = 9時間

所定労働時間を通算すると法定労働時間を超えますが、労働契約の締結はAが先です。

そのため、副業・兼業の開始前の段階では、Aにおいては「1時間」の時間外労働は発生しません。

  • 所定外労働時間の通算(所定外労働が行われた順)
    ⇒ 9時間 + 0時間(B) + 1時間(A) = 10時間
  • 法定労働時間を超える時間
    ⇒ 10時間 ー 8時間 = 2時間

法定労働時間を超えた「2時間」のうち、1時間はA自らが労働(所定外労働として)させた時間です。

そのため、A事業場では「1時間」分の割増賃金の支払いが必要となります。

B事業場における計算|

  • 所定労働時間の通算(労働契約の締結順)
    ⇒ 7時間(A) + 2時間(B) = 9時間

所定労働時間を通算すると法定労働時間を「1時間」超えています。また、労働契約の締結はBが後です。

そのため、副業・兼業の開始前の段階で、Bにおいては最低でも「1時間」の時間外労働が発生します。

労働者としても、B事業場で副業・兼業をするためには、B事業場で36協定が締結されていることが必要です。

  • 所定外労働時間の通算(所定外労働が行われた順)
    ⇒ 9時間 + 0時間(B) + 1時間(A) = 10時間
  • 法定労働時間を超える時間
    ⇒ 10時間 ー 8時間 = 2時間
副業・兼業における時間外労働

法定労働時間を超えた「2時間」のうち、1時間はB自らが労働(所定内労働ですが)させた時間です。

(残り1時間は、先ほど解説したAの所定外労働に係る時間外労働です)

そのため、B事業場でも「1時間」分の割増賃金の支払いが必要となります。

(B事業場の使用者としてはモヤモヤするかもしれません…)


まとめ

ここまで労働時間の計算について解説しました。

労基法38条は条文そのものはシンプルですが、実際に「通算する」となると複雑です。

また、「副業・兼業の促進」とあるものの、ここまでの解説のとおり労使ともにハードルは低くはありません。

実務上の疑義が生じた場合には、副業・兼業の促進に関するガイドラインの他にも、モデル就業規則も参考にしてみてください。

最後に、この記事をまとめて終わりにします。

この記事のまとめ

労基法38条|

① 労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。

② 坑内労働については、労働者が坑口に入った時刻から坑口を出た時刻までの時間を、休憩時間を含め労働時間とみなす。ただし、休憩の一斉付与(34条2項)および休憩の自由利用(34条3項)の原則は適用しない。

  • ①における「事業場を異にする場合」とは、事業主を異にする場合をも含む
  • 労基法38条は、派遣中の労働者に関しても適用される

副業・兼業ガイドライン|

通算が必要

  • 法定労働時間
  • 単月100時間未満(時間外労働と休日労働の合計)
  • 複数月平均80時間以内(時間外労働と休日労働の合計)

通算は不要

  • 36協定における限度時間
  • 1年についての延長時間の上限(特別条項)
  • 休憩、休日、年次有給休暇

労働時間の通算の順序

  • 副業・兼業の開始前(所定労働時間の通算)
    ⇒ 労働契約の締結順
  • 副業・兼業の開始後(所定労働時間の通算)
    ⇒ 所定外労働を行った順

(参考資料等)

厚生労働省|厚生労働省法令等データベースサービスより|https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/kensaku/index.html

  • 労働基準法38条
  • 平成21年3月31日基発0331010号(派遣労働者に係る労働条件及び安全衛生の確保について)
  • 令和2年9月1日基発0901第3号(副業・兼業の場合における労働時間管理に係る労働基準法第38条第1項の解釈等について)

厚生労働省|ホームページ|副業・兼業より|
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000192188.html

  • 副業・兼業の促進に関するガイドライン(令和4年7月8日改定版)
  • 「副業・兼業の促進に関するガイドライン」 Q&A