社労士試験の独学|労基法|代替休暇

まえがき

この記事では、時間外、休日及び深夜の割増賃金(37条)から代替休暇について解説しています。

割増賃金の計算については、こちらの記事を参照ください。

当記事は、条文等の趣旨に反するような極端な意訳には注意しておりますが、厳密な表現と異なる部分もございます。

詳しくは免責事項をご確認ください。

代替休暇の概要(37条)

代替休暇の概要図

制度の概要

時間外労働をさせた時間が1カ月について60時間を超えると、「60時間を超えた時間」についての割増賃金率が「2割5分以上」から「5割以上」に引き上げられます。

ただし、「5割以上」の率で計算した割増賃金を支払うべき労働者に対しては、労使協定の締結により、通常の労働時間の賃金が支払われる休暇を付与することも可能です。

上記の「通常の労働時間の賃金が支払われる休暇」を「代替休暇」といいます。

労働者が付与された代替休暇取得したならば、使用者は、時間外労働に係る割増賃金率を「5割以上」ではなく「2割5分以上」で計算しても労基法違反とはなりません。

なお、「通常の労働時間の賃金が支払われる休暇」からは、労基法39条の規定による有給休暇(以下、有給休暇)は除かれます。

そのため、代替休暇の制度を導入しても、有給休暇を消化させて割増賃金の支払いに代えることはできません。

労働基準法37条3項

要件|

代替休暇を制度として導入するには、労使協定(書面による協定)の締結が必要です(行政官庁への届出は不要です)

労使協定|

協定を締結する労働者側の当事者は、労働者の過半数で組織する労働組合の有無で分れています。

ある場合 ⇒ その労働組合
ない場合 ⇒ 労働者の過半数を代表する者

効果|

労働者が代替休暇(有給休暇を除く)を取得すると、取得した時間に対応するものとして「厚生労働省令で定める時間」については、割増賃金を5割以上の率で計算する必要がなくなります。

厚生労働省令で定める時間」は、次のとおりです(労基則19条の2 第3項)

$$ \frac{取得した代替休暇の時間数}{換算率}$$

「60時間を超えた時間」についての割増賃金率|

代替休暇の取得の有無で、割増賃金の計算に用いる割増賃金率は次のように分れます(平成21年5月29日基発0529001号)

  • 代替休暇を取得しなかった場合
    ⇒ 5割以上
  • 代替休暇を取得した場合
    ⇒ 2割5分以上

取得の有無ごとの割増賃金率は、労基法89条2号の「賃金の決定、計算及び支払の方法」として、就業規則に記載が必要です(前掲通達)

労働基準法

第三十七条

使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

③ 使用者が、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、第一項ただし書の規定により割増賃金を支払うべき労働者に対して、当該割増賃金の支払に代えて、通常の労働時間の賃金が支払われる休暇(第三十九条の規定による有給休暇を除く。)を厚生労働省令で定めるところにより与えることを定めた場合において、当該労働者が当該休暇を取得したときは、当該労働者の同項ただし書に規定する時間を超えた時間の労働のうち当該取得した休暇に対応するものとして厚生労働省令で定める時間の労働については、同項ただし書の規定による割増賃金を支払うことを要しない。

労働基準法施行規則

第十九条の二

③ 法第三十七条第三項の厚生労働省令で定める時間は、取得した代替休暇の時間数を換算率で除して得た時間数の時間とする。


協定事項、換算率については後述します。

割増賃金の支払いに代えるためには、代替休暇を労働者に与えただけでは足りず、実際に代替休暇を取得した場合に限られるのがポイントです。

ちなみに、「代替休暇」を略すと「代休」になりそうですが両者の意味は異なります

代替休暇の取得について

通達では、次のように説明しています(平成21年10月5日基発1005第1号)

  • 代替休暇は使用者が与えるものであるが、実際に取得するか否かは労働者の判断によるものである
  • 使用者による一方的な変更等は認められず、取得日の決定等は当然労働者の意向を踏まえたものとなる
  • 代替休暇の取得等の具体的な方法については、労使の話合いにより労使協定で定めるものとされている

罰則

労基法37条に違反して割増賃金を支払わない者は、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます(労基法119条)


代替休暇における協定事項

代替休暇についての労使協定では、次の①〜③を定めます(労基則19条の2 第1項)

  • 代替休暇として与えることができる時間の時間数の算定方法
  • 代替休暇の単位
  • 代替休暇を与えることができる期間
労働基準法施行規則19条の2

① 代替休暇として与えることができる時間の時間数の算定方法

算定方法は、次のとおりです(労基則19条の2 第2項)

  • 代替休暇として与えることができる時間
    = 時間外労働のうち1カ月について60時間を超えた時間数 × 換算率

つまり、(時間外労働の時間数 ー 60時間)× 換算率 と表すこともできます。

換算率とは、次の(a)から(b)を差し引いたものです。

  • (a)労働者が代替休暇を取得しなかった場合に当該時間の労働について労基法37条1項ただし書の規定により支払うこととされている割増賃金の率
  • (b)労働者が代替休暇を取得した場合に当該時間の労働について同項本文の規定により支払うこととされている割増賃金の率

つまり、(a)5割以上の率から(b)2割5分以上の率を引いたものなので、換算率は「0.25」(以上)となります。

情報を整理すると、法定の割増賃金率を採用している事業場においては、次のようになります。

  • 代替休暇として与えることができる時間
    =(時間外労働の時間数 ー 60時間)× 0.25

② 代替休暇の単位

代替休暇の単位は、1日または半日とされています(1日でも、半日でも、1日または半日でも構いません)

代替休暇以外の通常の労働時間の賃金が支払われる休暇(例えば、時間単位の有給休暇など)と合わせて与えることができる旨を(労使協定で)定めた場合においては、当該休暇と合わせた1日または半日でも構いません。

ただし、上記のように代替休暇と他の休暇を合わせて与えた場合でも、割増賃金の支払いに代えることができるのは、代替休暇に係る時間のみです(平成21年5月29日基発0529001号)

③ 代替休暇を与えることができる期間

代替休暇を与えることができる期間は、時間外労働をさせた時間が1カ月について60時間を超えた当該1カ月の末日の翌日から2カ月以内で定めます。

例えば、繫忙期を避けるために、「60時間を超える時間外労働をした月」から半年以内を目途に代替休暇を与えるなどの措置は認められていません。

労働基準法施行規則

第十九条の二 

使用者は、法第三十七条第三項の協定(労使委員会の決議、労働時間等設定改善委員会の決議及び労働時間等設定改善法第七条の二に規定する労働時間等設定改善企業委員会の決議を含む。)をする場合には、次に掲げる事項について、協定しなければならない。

一 法第三十七条第三項の休暇(以下「代替休暇」という。)として与えることができる時間の時間数の算定方法

二 代替休暇の単位(一日又は半日(代替休暇以外の通常の労働時間の賃金が支払われる休暇と合わせて与えることができる旨を定めた場合においては、当該休暇と合わせた一日又は半日を含む。)とする。)

三 代替休暇を与えることができる期間(法第三十三条又は法第三十六条第一項の規定によって延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた当該一箇月の末日の翌日から二箇月以内とする。)

② 前項第一号の算定方法は、法第三十三条又は法第三十六条第一項の規定によって一箇月について六十時間を超えて延長して労働させた時間の時間数に、労働者が代替休暇を取得しなかった場合に当該時間の労働について法第三十七条第一項ただし書の規定により支払うこととされている割増賃金の率と、労働者が代替休暇を取得した場合に当該時間の労働について同項本文の規定により支払うこととされている割増賃金の率との差に相当する率(次項において「換算率」という。)を乗じるものとする。


代替休暇の単位における「1日」とは労働者の1日の所定労働時間をいい、「半日」とはその2分の1をいいます(平成21年5月29日基発0529001号)

「半日」については、必ずしも厳密に1日の所定労働時間の2分の1とする必要はありませんが、その場合には労使協定で当該事業場における「半日」の定義を定めることが必要です(前掲通達)

代替休暇の合算

代替休暇を与えることができる期間として、労使協定で1カ月を超える期間が定められている場合には、前々月の時間外労働に対応する代替休暇と前月の時間外労働に対応する代替休暇とを合わせて1日または半日の代替休暇として取得することも可能とされています(平成21年5月29日基発0529001号)

割増賃金率が異なる場合の換算率

日曜日および土曜日を休日(法定休日は日曜日)とする完全週休2日制を採用し、次のように異なる割増賃金率を定めている事業場についての事例です。

  • 所定労働日の時間外労働に対する割増賃金率は「25%」
  • 法定休日以外の休日(土曜日)の労働に対する割増賃金率は「35%」

通達では、「上記の場合に、土曜日の労働時間数を含んで時間外労働の時間数が1カ月60時間を超えたとき、代替休暇の時間数はどのように算出するのか」 という問に対し次のように示しています(平成21年10月5日基発1005第1号)

  • 設問の場合、所定労働日の換算率と法定休日以外の休日である土曜日の換算率をそれぞれ算出し、それぞれの1カ月60時間を超える時間外労働時間の部分について換算率を乗じた時間数を足し合わせたものが代替休暇の時間数となる
  • なお、双方の換算率が同一となるように労使協定で定めることも可能である

(参考)代替休暇の計算例

代替休暇の算定方法

代替休暇として与えることができる時間数
= 時間外労働のうち、1カ月について60時間を超えた時間数 × 換算率

換算率

= 5割以上の率 ー 2割5分以上の率

厚生労働省令で定める時間
= 取得した代替休暇の時間数 ÷ 換算率

 例えば、割増賃金率を「2割5分」「5割」と定めている事業場で、ある労働者が1カ月に「68時間」の時間外労働を行ったとします。

また、代替休暇についての労使協定を締結しており、代替休暇と時間単位の有給休暇を合わせて取得することができる旨を定めているとしましょう(いわゆる時間単位年休の労使協定の締結もあり)

代替休暇として与えることができる時間数

 1カ月に60時間を超えた時間数
= 8時間

換算率
= 0.5 ー 0.25
= 0.25

代替休暇として与えることができる時間数
= 8時間 × 0.25
= 2時間

「2時間」の代替休暇と「6時間」の時間単位の有給休暇を合わて「1日」の代替休暇を付与したとします。

労働者が代替休暇を取得した場合

厚生労働省令で定める時間
= 2時間 ÷ 0.25
= 8時間

厚生労働省令で定める時間の労働については「5割」で計算する必要がないため、上記の「8時間」については、「2割5分」の割増賃金率で計算することで足ります。

割増賃金について計算例をあげると次のようになります。

通常の労働時間の賃金の計算額
= 通常の労働時間の賃金 × 8時間

割増賃金額
= 通常の労働時間の賃金 × 8時間 × 1.25

労働者が代替休暇を取得しなかった場合

代替休暇を与えたものの、労働者が代替休暇を取得しなかった場合は次のようになります。

割増賃金額
= 通常の労働時間の賃金 × 8時間 × 1.5 

「時間数」で考えると、60時間を超えて時間外労働をした実際の「1時間」と代替休暇として付与した「1時間」は等しくない(換算している)ため複雑な表現になっています。

割増賃金は実際に労働した時間数で計算するため、「代替休暇の2時間」を換算前の「実際に労働した8時間」に戻すイメージです。


まとめ

ここまで代替休暇について解説しました。

労基法37条は、割増賃金の計算方法だけでもボリュームがあるため、繰り返し学習してみてください。

最後に、この記事をまとめて終わりにします。

この記事のまとめ

要件|

労使協定の締結が必要(届出は不要)

代替休暇の取得|

代替休暇は使用者が与えるものであるが、実際に取得するか否かは労働者の判断による。

代替休暇における協定事項|

  • 代替休暇として与えることができる時間の時間数の算定方法
  • 代替休暇の単位(1日または半日)
  • 代替休暇を与えることができる期間(時間外労働が1カ月60時間を超えた月の末日の翌日から2カ月以内)

代替休暇の単位は、代替休暇以外の通常の労働時間の賃金が支払われる休暇と合わせて与えることができる旨を定めた場合は、当該休暇と合わせた1日または半日とすることができる。

代替休暇の算定方法|

代替休暇として与えることができる時間数
= 時間外労働のうち1カ月について60時間を超えた時間数 × 換算率
= (時間外労働の時間数 ー 60時間)× 換算率

換算率
= 代替休暇を取得しなかった場合の割増賃金率 ー 代替休暇を取得した場合の割増賃金率
= 5割以上の率 ー 2割5分以上の率

効果|

労働者が代替休暇(有給休暇を除く)を取得すると、「厚生労働省令で定める時間」については、割増賃金を5割以上の率ではなく2割5分以上の率で計算することができる。

厚生労働省令で定める時間
= 取得した代替休暇の時間数 ÷ 換算率


(参考資料等)

厚生労働省|厚生労働省法令等データベースサービスより|https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/kensaku/index.html

  • 労働基準法37条、119条
  • 労働基準法施行規則19条の2
  • 平成21年10月5日基発1005第1号(労働基準法関係解釈例規について)

労働基準法の一部を改正する法律の施行について(平成21年5月29日基発0529001号)