社労士試験の独学|労基法|1週間単位の非定型的変形労働時間制

まえがき

この記事では、労働基準法の4章から、1週間単位の非定型的変形労働時間制(32条の5)を解説しています。

社会保険労務士試験の独学、労務管理担当者の勉強などに役立てれば嬉しいです。

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当記事は、法定労働時間(特例を含む)について学習を終えているという認識で解説しています。

あいまいな方は、こちらの記事を先にご覧ください。

当記事は、条文等の趣旨に反するような極端な意訳には注意しておりますが、厳密な表現と異なる部分もございます。

詳しくは免責事項をご確認ください。

1週間単位の非定型的変形労働時間制(32条の5)

1週間単位の非定型的変形労働時間制の例

1週間単位の非定型的変形労働時間制の趣旨

通達では、1週間単位の非定型的変形労働時間制の趣旨を次のように説明しています(昭和63年1月1日基発1号)

日ごとの業務に著しい繁閑が生じることが多く、かつ、その繁閑が定型的に定まっていない場合に、1週間を単位として、一定の範囲内で、就業規則その他これに準ずるものによりあらかじめ特定することなく、1日の労働時間を10時間まで延長することを認めることにより、労働時間のより効率的な配分を可能とし、全体としての労働時間を短縮しようとするものであること。

条文はタブを切り替えると確認できます

制度の概要|労基法32条の5

要件

1週間単位の非定型的変形労働時間制を採用するためには、次の①〜④のいずれもが必要です。

① 日ごとの業務に著しい繁閑の差が生ずることが多く、かつ、これを予測した上で就業規則その他これに準ずるものにより各日の労働時間を特定することが困難であると認められる厚生労働省令で定める事業に該当する

具体的には次の事業に限られています(労基則12条の5 第1項)

  • 小売業
  • 旅館
  • 料理店
  • 飲食店

② 常時使用する労働者の数が30人未満である(労基則12条の5 第2項)

③ 労使協定(書面による協定)を締結する

協定を締結する労働者側の当事者は、労働者の過半数で組織する労働組合の有無で分れています。

ある場合 ⇒ その労働組合
ない場合 ⇒ 労働者の過半数を代表する者

労使協定は行政官庁(所轄労働基準監督署長)への届出が必要です。

「届出」は労使協定の効力を発生させるための要件ではありませんが、労使協定の届出義務に違反した者は、30万円以下の罰金に処せられます(労基法120条)

④ 1週間の各日の労働時間を、あらかじめ、労働者に通知する(労基法32条の5 第2項)

「1週間の各日の労働時間の通知」は、少なくとも、その1週間が開始する前に、書面により行わなければなりません(労基則12条の5 第3項)

なお、使用者は、1週間の各日の労働時間を定めるにあたっては、労働者の意思を尊重するよう努めなければなりません(労基則12条の5 第5項)

効果

1週間単位の非定型的変形労働時間制を採用すると、1日について10時間まで労働させることができます(1週間については延長されません)

なお、1週間単位の非定型的変形労働時間制により労働させる場合には、法定労働時間の特例(週44時間)は適用(併用)できません(労基則25条の2第4項)

労働基準法

第三十二条の五 

使用者は、日ごとの業務に著しい繁閑の差が生ずることが多く、かつ、これを予測した上で就業規則その他これに準ずるものにより各日の労働時間を特定することが困難であると認められる厚生労働省令で定める事業であって、常時使用する労働者の数が厚生労働省令で定める数未満のものに従事する労働者については、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定があるときは、第三十二条第二項の規定にかかわらず、一日について十時間まで労働させることができる。

② 使用者は、前項の規定により労働者に労働させる場合においては、厚生労働省令で定めるところにより、当該労働させる一週間の各日の労働時間を、あらかじめ、当該労働者に通知しなければならない。

③ 第三十二条の二第二項の規定は、第一項の協定について準用する。

労働基準法施行規則

第十二条の五 

法第三十二条の五第一項の厚生労働省令で定める事業は、小売業、旅館、料理店及び飲食店の事業とする。

② 法第三十二条の五第一項の厚生労働省令で定める数は、三十人とする。

③ 法第三十二条の五第二項の規定による一週間の各日の労働時間の通知は、少なくとも、当該一週間の開始する前に、書面により行わなければならない。ただし、緊急でやむを得ない事由がある場合には、使用者は、あらかじめ通知した労働時間を変更しようとする日の前日までに書面により当該労働者に通知することにより、当該あらかじめ通知した労働時間を変更することができる。

④ 法第三十二条の五第三項において準用する法第三十二条の二第二項の規定による届出は、様式第五号により、所轄労働基準監督署長にしなければならない。

⑤ 使用者は、法第三十二条の五の規定により労働者に労働させる場合において、一週間の各日の労働時間を定めるに当たっては、労働者の意思を尊重するよう努めなければならない。

第二十五条の二

④ 第一項に規定する事業については、法第三十二条の三第一項(同項第二号の清算期間が一箇月を超えるものである場合に限る。)、第三十二条の四又は第三十二条の五の規定により労働者に労働させる場合には、前三項の規定は適用しない。


業種と規模

1カ月または1年単位の変形労働時間制、フレックスタイム制については業種や規模による制限はありません。

一方で、1週間単位の非定型的変形労働時間制は、小売業、旅館、料理店、飲食店であって、かつ、常時使用する労働者の数が30人未満の事業に限り採用できます。

通知した労働時間の変更

労働日の前日までに書面で通知

事前に通知した労働時間の変更は、①緊急でやむを得ない事由があり、②労働時間を変更しようとする日の前日までに、労働者に書面で通知する ことで認められます(労基則12条の5 第3項ただし書き)

なお、「緊急でやむを得ない事由がある」とは、使用者の主観的な必要性でなく、台風の接近、豪雨等の天候の急変等客観的事実により、当初想定した業務の繁閑に大幅な変更が生じた場合が該当します(昭和63年1月1日基発1号)


規定する事項

労使協定において、1週間の所定労働時間などを定めます。

届出については様式(第5号)が指定されているため、様式にしたがった届出が必要です(労基則12条の5 第4項)

免罰的効力と民事上の義務

労基法上の労使協定は、その協定に定めるところによって労働させても労基法に違反しないという免罰的効力をもちます。

労働者の民事上の義務は、労使協定から直接生じるものではないため、労働協約、就業規則等の根拠が必要となります(昭和63年1月1日基発1号)

  • 労使協定の締結
    ⇒ 使用者は、1週間単位の非定型的変形労働時間制のもとで労働させても、「労基法32条(法定労働時間)の違反とはならない」という根拠になる
  • 就業規則等
    ⇒ 使用者が、労働者を労使協定に定める内容で「労働させることができる」という根拠になる

適用除外等

年少者については、1週間単位の非定型的変形労働時間制の規定は適用されません(労基法60条1項)

ただし、満15歳以上で満18歳に満たない者については、満18歳に達するまでの間(満15歳に達した日以後の最初の3月31日までの間を除く)は、 1週間の労働時間が40時間を超えない範囲内において、1週間のうち1日の労働時間を4時間以内に短縮し、他の日の労働時間を10時間まで延長することは可能です(労基法60条3項1号)

なお、「1週間単位の非定型的変形労働時間制の規定の例により…」ではありません、念のため。

妊産婦育児を行う者等については、1カ月単位の変形労働時間制と同様に、制限または配慮が必要とされています(詳しくはこちらの記事内で解説しています)

また、一般職の地方公務員についても、1週間単位の非定型的変形労働時間制は適用除外となっています(地方公務員法58条3項)


労働者派遣

派遣労働者については、派遣先において1週間単位の非定型的変形労働時間制のもとで労働させることはできません(労働者派遣法44条2項)


1週間単位の非定型的変形労働時間制における時間外労働

(1週間変形)時間外労働となる時間

1週間単位の非定型的変形労働時間制を採用しても、労働できる時間の限度は、1日については10時間まで、1週間については40時間までです。

ただし、労基法33条または労基法36条に基づき、時間外労働(いわゆる法定外残業)として労働させることはできます。

なお、「変形労働時間制を採用する = 時間外労働が可能となる」ではありません。

そのため、労基法36条に基づく時間外労働には、1週間単位の非定型的変形労働時間制についての労使協定とは別に、時間外労働に係る労使協定(36協定)が必要です

以降の「時間外労働」は、「労基法36条に基づく時間外労働」を意味しています。


 1日についての時間外労働

1日については、労使協定により8時間を超える労働時間を定めた日はその時間、それ以外の日は8時間を超えて労働させた時間です。

例えば、事前に通知した労働時間が10時間(上限)の日に、実際の労働が12時間におよんだケースでは、10時間を超えた「2時間」が時間外労働です。

事前に通知した労働時間が9時間の日に、実際の労働が12時間におよんだケースでは、9時間を超えた「3時間」が時間外労働です。

事前に通知した労働時間が8時間未満(例えば、6時間)の日については、8時間(先の例えでは2時間)までは時間外労働とはなりません(ただし、②の時間外労働とはなり得ます)

 1週間についての時間外労働

1週間については、40時間を超えた時間です(ただし①で時間外労働とした時間は除く)

繰り返しになりますが、1週間単位の非定型的変形労働時間制のもとでは、週法定労働時間の特例(44時間)は適用できません。

そのため、週法定労働時間は常に40時間となることに注意が必要です。


参考|労基法40条との比較

社労士試験の勉強用に整理しました。

1週間単位の非定型的労働時間制と労働時間の特例(労基法40条)の比較

※ 下表では1週間単位の非定型的変形労働時間制を「1週変形」と略しています。

1週変形労働時間の特例
業種小売業
旅館
料理店
飲食店
商業
映画・演劇業
(映画の製作の事業を除く)
保健衛生業
接客娯楽業
規模常時30人未満常時10人未満
上限1日について10時間
(1週間について40時間)
1週間について44時間
(1日について8時間)
業種と規模、上限の比較

労基法別表第1

※ 下のタブに格納してあります。

1号(製造業) 

物の製造、改造、加工、修理、洗浄、選別、包装、装飾、仕上げ、販売のためにする仕立て、破壊若しくは解体又は材料の変造の事業(電気、ガス又は各種動力の発生、変更若しくは伝導の事業及び水道の事業を含む。)

2号(鉱業)

鉱業、石切り業その他土石又は鉱物採取の事業

3号(建設業)

土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊、解体又はその準備の事業

4号(運輸交通業)

道路、鉄道、軌道、索道、船舶又は航空機による旅客又は貨物の運送の事業

5号(貨物取扱業)

ドック、船舶、岸壁、波止場、停車場又は倉庫における貨物の取扱いの事業

6号(農業、林業) 

土地の耕作若しくは開墾又は植物の栽植、栽培、採取若しくは伐採の事業その他農林の事業

7号(畜産、養蚕、水産 

動物の飼育又は水産動植物の採捕若しくは養殖の事業その他の畜産、養蚕又は水産の事業

8号(商業)

物品の販売、配給、保管若しくは賃貸又は理容の事業

9号(金融広告業)

金融、保険、媒介、周旋、集金、案内又は広告の事業

10号(映画、演劇業) 

映画の製作又は映写、演劇その他興行の事業

11号(通信業) 

郵便、信書便又は電気通信の事業

12号(教育研究業) 

教育、研究又は調査の事業

13号(保健衛生業) 

病者又は虚弱者の治療、看護その他保健衛生の事業

14号(接客娯楽業) 

旅館、料理店、飲食店、接客業又は娯楽場の事業

15号(焼却、清掃、と畜業) 

焼却、清掃又はと畜場の事業


まとめ

ここまで1週間単位の非定型的変形労働時間制について解説しました。

他の変形労働時間制、フレックスタイム制と異なり、事業の業種と規模が限られている点が大きな特徴です。

社労士試験においては、制度の対象となる業種と規模、1週間の各日の労働時間の通知方法、労働時間の上限から勉強し、他の変形労働時間制との差異を把握しておくとよいでしょう。

最後に、この記事をまとめて終わりにします。

この記事のまとめ

1週間単位の非定型的変形労働時間制を採用するためには、次のいずれもが必要。

  • 小売業、旅館、料理店、飲食店のいずれかに該当する
  • 常時使用する労働者の数が30人未満
  • 労使協定を締結する(届出義務あり)
  • 1週間の各日の労働時間を、その1週間が開始する前に、書面で、労働者に通知する

1週間単位の非定型的変形労働時間制を採用すると、1日について10時間まで労働させることができる(1週間については40時間まで)。

通知した労働時間の変更

事前に通知した労働時間の変更は、①緊急でやむを得ない事由があり、②労働時間を変更しようとする日の前日までに、労働者に書面で通知する ことで認められる。

1週間単位の非定型的変形労働時間制において、時間外労働となるのは次の①②のとおり。

  • 1日については、8時間を超える時間を定めた日はその時間、それ以外の日は8時間を超えて労働した時間
  • 1週間については、40時間を超えて労働した時間。ただし、①で時間外労働とした時間は除く

(参考資料等)

厚生労働省|厚生労働省法令等データベースサービスより|https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/kensaku/index.html

  • 労働基準法32条の5
  • 労働基準法施行規則12条の5、25条の2
  • 昭和63年1月1日基発1号(改正労働基準法の施行について)