社労士試験の独学|労基法|高度プロフェッショナル制度

まえがき

この記事では、労働基準法の4章から、高度プロフェッショナル制度(41条の2)について解説しています。

社会保険労務士試験の独学、労務管理担当者の勉強などに役立てれば嬉しいです。

当記事は、条文等の趣旨に反するような極端な意訳には注意しておりますが、厳密な表現と異なる部分もございます。

詳しくは免責事項をご確認ください。

高度プロフェッショナル制度の概要(41条の2)

制度の現状

労基法41条の2では、一定の条件の下、労基法の第4章で定める労働時間、休憩、休日および深夜の割増賃金に関する規定を適用除外とする制度を定めています。

一般的には、高度プロフェッショナル制度、または略して高プロと説明される制度です。

柔軟な働き方の一つとして、働き方改革関連法(労基法の改正)により設けられました(平成31年4月1日から施行)

制度の現状としては、厚生労働省の資料(高度プロフェッショナル制度に関する報告の状況)によると、令和6年3月末時点で高度プロフェッショナル制度を採用している事業場は30事業場(29社)、対象労働者数は1,340人となっています。

参考|厚生労働省ホームページ(外部サイトへのリンク)|高度プロフェッショナル制度に関する報告の状況


制度の概要

条文はタブを切り替えると確認できます。

労働基準法41条の2

要件|

高度プロフェッショナル制度を採用するためには、制度を採用する事業場において、次のいずれもが必要となります。

  • 事業場に労使委員会が設置されている
  • 委員の5分の4以上の多数による議決により、一定の事項(後述)に関する決議をする
  • 使用者が、決議を行政官庁に届け出る

また、高度プロフェッショナル制度を実際に労働者に適用するためには、制度の対象となる労働者(対象労働者本人からの同意が必要です。

なお、労使協定では制度を採用できません。

届出|

使用者は、労使委員会の決議(決議届)を様式第14号の2により、所轄労働基準監督署長に届け出なければなりません(労基則34条の2 第1項)

「届出」は高度プロフェッショナル制度の効力を発生させるための要件です(労基法41条の2 第1項)

効果|

対象労働者を対象業務後述)に就かせたときは、第4章(労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇)で定める労働時間休憩休日および深夜の割増賃金に関する規定は、対象労働者については適用されません。

ただし、次のいずれかを使用者が講じていない場合は、高度プロフェッショナル制度の法律上の効果は生じません(労基法41条の2 第1項ただし書き、平成31年3月25日基発0325第1号)

  • 健康管理時間を把握すること
  • 1年間を通じ104日以上、かつ、4週間を通じ4日以上の休日を与えること(休日の確保
  • 選択的措置を実施すること

労働基準法

第四十一条の二 

賃金、労働時間その他の当該事業場における労働条件に関する事項を調査審議し、事業主に対し当該事項について意見を述べることを目的とする委員会(使用者及び当該事業場の労働者を代表する者を構成員とするものに限る。)が設置された事業場において、当該委員会がその委員の五分の四以上の多数による議決により次に掲げる事項に関する決議をし、かつ、使用者が、厚生労働省令で定めるところにより当該決議を行政官庁に届け出た場合において、第二号に掲げる労働者の範囲に属する労働者(以下この項において「対象労働者」という。)であって書面その他の厚生労働省令で定める方法によりその同意を得たものを当該事業場における第一号に掲げる業務に就かせたときは、この章で定める労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定は、対象労働者については適用しない。ただし、第三号から第五号までに規定する措置のいずれかを使用者が講じていない場合は、この限りでない。

一 高度の専門的知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるものとして厚生労働省令で定める業務のうち、労働者に就かせることとする業務(以下この項において「対象業務」という。)

二 この項の規定により労働する期間において次のいずれにも該当する労働者であって、対象業務に就かせようとするものの範囲

イ 使用者との間の書面その他の厚生労働省令で定める方法による合意に基づき職務が明確に定められていること。

ロ 労働契約により使用者から支払われると見込まれる賃金の額を一年間当たりの賃金の額に換算した額が基準年間平均給与額(厚生労働省において作成する毎月勤労統計における毎月きまって支給する給与の額を基礎として厚生労働省令で定めるところにより算定した労働者一人当たりの給与の平均額をいう。)の三倍の額を相当程度上回る水準として厚生労働省令で定める額以上であること。

三 対象業務に従事する対象労働者の健康管理を行うために当該対象労働者が事業場内にいた時間(この項の委員会が厚生労働省令で定める労働時間以外の時間を除くことを決議したときは、当該決議に係る時間を除いた時間)と事業場外において労働した時間との合計の時間(第五号ロ及びニ並びに第六号において「健康管理時間」という。)を把握する措置(厚生労働省令で定める方法に限る。)を当該決議で定めるところにより使用者が講ずること。

四 対象業務に従事する対象労働者に対し、一年間を通じ百四日以上、かつ、四週間を通じ四日以上の休日を当該決議及び就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより使用者が与えること。

五 対象業務に従事する対象労働者に対し、次のいずれかに該当する措置を当該決議及び就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより使用者が講ずること。

イ 労働者ごとに始業から二十四時間を経過するまでに厚生労働省令で定める時間以上の継続した休息時間を確保し、かつ、第三十七条第四項に規定する時刻の間において労働させる回数を一箇月について厚生労働省令で定める回数以内とすること。

ロ 健康管理時間を一箇月又は三箇月についてそれぞれ厚生労働省令で定める時間を超えない範囲内とすること。

ハ 一年に一回以上の継続した二週間(労働者が請求した場合においては、一年に二回以上の継続した一週間)(使用者が当該期間において、第三十九条の規定による有給休暇を与えたときは、当該有給休暇を与えた日を除く。)について、休日を与えること。

ニ 健康管理時間の状況その他の事項が労働者の健康の保持を考慮して厚生労働省令で定める要件に該当する労働者に健康診断(厚生労働省令で定める項目を含むものに限る。)を実施すること。

六 対象業務に従事する対象労働者の健康管理時間の状況に応じた当該対象労働者の健康及び福祉を確保するための措置であって、当該対象労働者に対する有給休暇(第三十九条の規定による有給休暇を除く。)の付与、健康診断の実施その他の厚生労働省令で定める措置のうち当該決議で定めるものを使用者が講ずること。

七 対象労働者のこの項の規定による同意の撤回に関する手続

八 対象業務に従事する対象労働者からの苦情の処理に関する措置を当該決議で定めるところにより使用者が講ずること。

九 使用者は、この項の規定による同意をしなかった対象労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないこと。

十 前各号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項

② 前項の規定による届出をした使用者は、厚生労働省令で定めるところにより、同項第四号から第六号までに規定する措置の実施状況を行政官庁に報告しなければならない。

③ 第三十八条の四第二項、第三項及び第五項の規定は、第一項の委員会について準用する。

④ 第一項の決議をする委員は、当該決議の内容が前項において準用する第三十八条の四第三項の指針に適合したものとなるようにしなければならない。

⑤ 行政官庁は、第三項において準用する第三十八条の四第三項の指針に関し、第一項の決議をする委員に対し、必要な助言及び指導を行うことができる。

労働基準法施行規則

第三十四条の二

法第四十一条の二第一項の規定による届出は、様式第十四号の二により、所轄労働基準監督署長にしなければならない。

② 法第四十一条の二第一項各号列記以外の部分に規定する厚生労働省令で定める方法は、次に掲げる事項を明らかにした書面に対象労働者(同項に規定する「対象労働者」をいう。以下同じ。)の署名を受け、当該書面の交付を受ける方法(当該対象労働者が希望した場合にあっては、当該書面に記載すべき事項を記録した電磁的記録の提供を受ける方法)とする。

一 対象労働者が法第四十一条の二第一項の同意をした場合には、同項の規定により、法第四章で定める労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定が適用されないこととなる旨

二 法第四十一条の二第一項の同意の対象となる期間

三 前号の期間中に支払われると見込まれる賃金の額

(③以降は省略)


健康管理時間、選択的措置については後述します。

適用除外となる範囲

労基法41条の2により適用除外となる範囲

労基法41条と異なり、労働時間休憩休日のみならず、深夜の割増賃金に関する規定も適用除外です。

労基法における母性保護関係の規定については、労基法66条1項(変形労働時間制の適用制限)、66条2項(時間外労働および休日労働の制限)、67条(育児時間)は適用除外となりますが、それ以外の規定は適用されます(令和元年7月12日基発0712第2号)

高度プロフェッショナル制度を適用できない労働者

第6章の年少者(満18歳に満たない者)については、高度プロフェッショナル制度を適用できません(労基法60条)

また、派遣労働者についても、労働者派遣法44条5項(労基法の適用に関する特例)に高度プロフェッショナル制度を適用できる旨の規定が設けられていないことから、制度を適用できません(令和元年7月12日基発0712第2号)

罰則との関係

高度プロフェッショナル制度の要件を満たさず、制度の法律上の効果(労基法41条の2)が生じなくなったときは、一般の労働時間制度が適用されます。

例えば、効果が生じなくなった結果、労基法32条(法定労働時間)、37条(割増賃金)の規定に違反するならば、各規定に係る罰則の対象となります(令和元年7月12日基発0712第2号)

使用者による時季指定(労基法39条7項)の取扱い

使用者の時季指定の対象となる日数

高度プロフェッショナル制度の対象労働者についても、労基法39条7項は適用されます(令和元年7月12日基発0712第2号)

そのため、使用者には、高度プロフェッショナル制度を適用する労働者に対しても、年5日の年次有給休暇を確実に取得させる義務が生じます。

ちなみに、通達では、「対象労働者があらかじめ年間の休日の取得予定を決定するときに、併せて年次有給休暇の取得時季があらかじめ予定されていることが望ましい」と示しています(前掲通達)

年次有給休暇の「使用者による時季指定」については、こちらの記事で解説しています。


対象労働者の同意(本人同意)

対象労働者の同意(本人同意)

高度プロフェッショナル制度対象労働者に適用するにあたっての同意は、「本人同意」といわれています。

「本人同意」の方法は、次に掲げる事項を明らかにした書面に対象労働者の署名を受け、当該書面の交付を受ける方法とされています(労基則34条の2 第2項)

  • 対象労働者が同意をした場合には、労基法第4章で定める労働時間、休憩、休日および深夜の割増賃金に関する規定が適用されないこと
  • 同意の対象となる期間
  • 同意の対象となる期間中に支払われると見込まれる賃金の額

対象労働者が希望した場合は、書面に記載すべき事項を記録した電磁的記録の提供を受ける方法(*)も可能です。

(*)書面に対象労働者本人が署名その他必要事項を記載したものをPDFファイルに読み込み、電子メール等に添付し送信させる方法(令和元年7月12日基発0712第2号)


高度プロフェッショナル制度についての指針

高度プロフェッショナル制度には、労基法41条の2第3項で準用する労基法38条の4第3項に基づいて、「労働基準法第41条の2第1項の規定により同項第1号の業務に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るための指針」(以下、指針)が定められています(平成31年3月25日厚生労働省告示88号)

また、指針については、労基法41条の2で次のように定められています。

  • 労使委員会の委員は、決議の内容が指針に適合したものとなるようにしなければならない(労基法41条の2 第4項)
  • 行政官庁は、指針に関し、高度プロフェッショナル制度の決議をする委員に対し、必要な助言および指導を行うことができる(労基法41条の2 第3項)

指針の詳細については、下記リンクを参照ください。

参考|厚生労働省法令等データベースサービス(外部サイトへのリンク)|平成31年3月25日厚生労働省告示第88号


対象業務(高プロ)

対象業務|高プロ

先述のとおり、高度プロフェッショナル制度の法律上の効果を生じさせるためには、制度の対象となる労働者を対象業務に就かせることが必要です。

高度プロフェッショナル制度の対象となる業務(対象業務)は、次のとおりです(労基法41条の2 第1号)

  • 高度の専門的知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められる業務

また、業務に従事する時間に関して、使用者が具体的な指示をしないことも必要です(労基則34条の2 第3項)


厚生労働省令で定める業務

高度プロフェッショナル制度の対象業務となり得る業務です。

労働基準法施行規則34条の2 第3項

厚生労働省令で定める業務は、次の5つの業務です(労基則34条の2 第3項)

ちなみに限定列挙(次の5つに限定)です(令和元年7月12日基発0712第2号)

  • 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
  • 資産運用(指図を含む)の業務又は有価証券の売買その他の取引の業務のうち、投資判断に基づく資産運用の業務、投資判断に基づく資産運用として行う有価証券の売買その他の取引の業務又は投資判断に基づき自己の計算において行う有価証券の売買その他の取引の業務
  • 有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務
  • 顧客の事業の運営に関する重要な事項についての調査又は分析及びこれに基づく当該事項に関する考案又は助言の業務
  • 新たな技術、商品又は役務の研究開発の業務

上記業務の具体的な解釈や対象業務となり得る業務の例は、指針で定められています(詳細については、指針を参照ください)。

労働基準法施行規則

第三十四条の二

③ 法第四十一条の二第一項第一号の厚生労働省令で定める業務は、次に掲げる業務(当該業務に従事する時間に関し使用者から具体的な指示(業務量に比して著しく短い期限の設定その他の実質的に当該業務に従事する時間に関する指示と認められるものを含む。)を受けて行うものを除く。)とする。

一 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務

二 資産運用(指図を含む。以下この号において同じ。)の業務又は有価証券の売買その他の取引の業務のうち、投資判断に基づく資産運用の業務、投資判断に基づく資産運用として行う有価証券の売買その他の取引の業務又は投資判断に基づき自己の計算において行う有価証券の売買その他の取引の業務

三 有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務

四 顧客の事業の運営に関する重要な事項についての調査又は分析及びこれに基づく当該事項に関する考案又は助言の業務

五 新たな技術、商品又は役務の研究開発の業務


業務に従事する時間に関して具体的な指示をしない

厚生労働省令で定める5つの業務のいずれかに該当しても、「業務に従事する時間に関して、使用者から具体的な指示を受けて行うもの」は、高度プロフェッショナル制度の対象から除かれます(労基則34条の2 第3項)

上記の「具体的な指示」には、業務量と比べて著しく短い期限を設定するなど、実質的に業務に従事する時間に関する指示と認められるものが含まれます。

指針により、「具体的な指示」として、次のようなものが考えられると示されています。

  • 出勤時間の指定等始業・終業時間や深夜・休日労働等労働時間に関する業務命令や指示
  • 対象労働者の働く時間帯の選択や時間配分に関する裁量を失わせるような成果・業務量の要求や納期・期限の設定
  • 特定の日時を指定して会議に出席することを一方的に義務付けること
  • 作業工程、作業手順等の日々のスケジュールに関する指示

出勤日に関する指示

使用者は、対象労働者に対し、一定の日に業務に従事するよう指示はできません(令和元年7月12日基発0712第2号)

ただし、休日を確実に取得させるため、対象労働者の働く時間帯の選択や時間配分についての裁量を阻害しない範囲においては、一定の休日を取得するよう求めることは可能とされています(前掲通達)

一方、使用者が、全社的な所定労働日などを参考として伝えることは妨げられません(前掲通達)

ただし、対象労働者はそれに従う必要はありません(前掲通達)


対象労働者(高プロ)

対象労働者|高プロ

高度プロフェッショナル制度の対象となる労働者(対象労働者)は、次のとおりです(労基法41条の2 第2号)

  • 使用者との書面等による「合意」に基づき職務が明確に定められている
  • 「労働契約により使用者から支払われると見込まれる賃金」の額を1年間当たりの賃金の額に換算した額が、基準年間平均給与額の3倍の額を相当程度上回る水準として厚生労働省令で定める額以上である

結論としては、「職務についての合意」と「年収(結論、1,075万円以上)」が要件となります。

なお、高度プロフェッショナル制度を適用するには、対象労働者が対象業務に常態として従事することが必要です(令和元年7月12日基発0712第2号)

対象業務に加え、対象業務以外の業務に常態として従事している者は、対象労働者に該当しません(前掲通達)


職務についての合意

職務についての「合意」は、対象労働者に高度プロフェッショナル制度を適用する際の「同意(本人同意)」とは異なります(別個の書面が望ましいとされています)

社労士試験で出題された際は、記述を注意深く読んでみてください。

合意の方法については、労基則34条の2で定められています。

労働基準法施行規則34条の2 第4項

職務についての「合意」は、次に掲げる事項を明らかにした書面に対象労働者の署名を受け、書面の交付を受ける方法とされています(労基則34条の2 第4項)

  • 業務の内容
  • 責任の程度
  • 職務において求められる成果その他の職務を遂行するにあたって求められる水準

なお、対象労働者が希望した場合は、書面に記載すべき事項を記録した電磁的記録の提供を受ける方法(*)も可能です。

(*)書面に対象労働者本人が署名その他必要事項を記載したものをPDFファイルに読み込み、電子メール等に添付し送信させる方法(令和元年7月12日基発0712第2号)

合意と同意(本人同意)とで、明らかにする事項は異なりますが、書面に労働者本人の署名を受けたものの交付を受ける(労働者が希望した場合は電磁的記録の提供を受ける)部分は共通です。

労働基準法施行規則

第三十四条の二

④ 法第四十一条の二第一項第二号イの厚生労働省令で定める方法は、使用者が、次に掲げる事項を明らかにした書面に対象労働者の署名を受け、当該書面の交付を受ける方法(当該対象労働者が希望した場合にあっては、当該書面に記載すべき事項を記録した電磁的記録の提供を受ける方法)とする。

一 業務の内容

二 責任の程度

三 職務において求められる成果その他の職務を遂行するに当たって求められる水準


年収要件

年間の賃金のうち確実に支払われると見込まれる金額が、「基準年間平均給与額」の3倍の額を相当程度上回る水準として厚生労働省令で定める額以上か否かを判断します。

詳細は、労基則34条の2で定められています。

労働基準法施行規則34条の2 第5項、6項

基準年間平均給与額|

「基準年間平均給与額」は、毎月勤労統計における毎月きまって支給する給与の額の1月分から12月分までの各月分の合計額です(労基則34条の2 第5項)

厚生労働省令で定める額|

具体的には、年収要件となる賃金額は「1,075万円以上と定められています(労基則34条の2 第6項)

なお、高度プロフェッショナル制度の適用を受ける期間が1年未満の場合には、適用を受ける期間に支払われると見込まれる賃金を1年間あたりの賃金に換算して「1,075万円」以上か否かを判断します(令和元年7月12日基発0712第2号)

労働基準法施行規則

第三十四条の二

⑤ 法第四十一条の二第一項第二号ロの基準年間平均給与額は、厚生労働省において作成する毎月勤労統計(以下「毎月勤労統計」という。)における毎月きまって支給する給与の額の一月分から十二月分までの各月分の合計額とする。

⑥ 法第四十一条の二第一項第二号ロの厚生労働省令で定める額は、千七十五万円とする。


毎月勤労統計調査で使用される「きまって支給する給与」の定義については、下記のリンクを参照ください(時間外、休日、深夜の労働に対する賃金が含まれています)

参考|厚生労働省ホームページ(外部サイトへのリンク)|毎月勤労統計調査で使用されている主な用語の説明

高度プロフェッショナル制度の適用前後の賃金額は、割増賃金も含めて、高度プロフェッショナル制度の対象となる前の賃金の額から減らないようにすることが必要です(令和元年7月12日基発0712第2号)

従前の賃金が割増賃金を含まずに年間1,075万円を上回っている場合も同様です(前掲通達)

年収要件に算入される手当等

「労働契約により使用者から支払われると見込まれる賃金」に「手当」が含まれるか否かは、次のように取り扱われます(令和元年7月12日基発0712第2号)

  • 名称の如何にかかわらず、労働契約において「月〇万円」など、一定の具体的な額を支払うことが定められている手当は含まれる
  • 「1カ月の定期券代相当の額」など、一定の具体的な額や最低保障額が定められておらず、労働契約締結後の事情の変化等により支給額が変動し得る手当は含まれない

また、業績に応じて支払われる賃金については、次のように取り扱われます(前掲通達)

  • 業績給の業績連動部分など、その支給額があらかじめ確定されていない賃金は含まれない
  • 業績にかかわらず支払われる最低保障額が定められている場合には、その最低保障額は含まれる

決議事項(高プロ)

高度プロフェッショナル制度を対象労働者に適用するまでの流れは次のとおりです。

  • SETP.1労使委員会を設置する
  • SETP.2労使委員会で決議する(委員の5分の4以上の多数による議決)
  • SETP.3使用者が、決議(決議届)を所轄労働基準監督署長に届け出る
  • SETP.4対象労働者の同意を書面等で得る
  • SETP.5対象労働者を対象業務に就かせる

ここからは、上記SETP.2で決議する事項を解説します。

法所定の決議事項について、労使委員会で決議することは、高度プロフェッショナル制度の法律上の効果を発生させるための要件です(労基法41条の2 第1項)


労基法41条の2の条文については、制度の概要を参照ください。

労働基準法41条の2
労働基準法施行規則34条の2 第15項

高度プロフェッショナル制度を採用するためには、次の事項に関する労使委員会の決議が必要です(労基法41条の2 第1号〜10号)

  • 対象業務
  • 対象労働者の範囲
  • 健康管理時間を把握する措置を決議で定め、使用者が講ずること
  • 休日の確保
    ⇒ 対象業務に従事する対象労働者に対して、「1年間を通じ104日以上、かつ、4週間を通じ4日以上」の休日を決議および就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより使用者が与えること
  • 選択的措置 
    ⇒ 対象業務に従事する対象労働者に対して、選択的措置を決議および就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより使用者が講ずること
  • 健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置
    ⇒ 対象業務に従事する対象労働者の健康管理時間の状況に応じた健康および福祉を確保するための措置を決議で定め、使用者が措置を講じること
  • 対象労働者の同意の撤回に関する手続
  • 苦情処理措置
    ⇒ 対象業務に従事する対象労働者からの苦情の処理に関する措置を決議で定め、使用者が措置を講じること
  • 使用者は、同意をしなかった対象労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないこと
  • 上記①~⑨に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項

厚生労働省令で定める事項|

上記⑩の具体的な内容は、次のとおりです(労基則34条の2 第15項)

  • 「決議」の有効期間の定め及び「決議」は再度決議をしない限り更新されない(自動更新しない)こと
  • 労使委員会の開催頻度および開催時期
  • 常時50人未満の労働者を使用する事業場の場合には、労働者の健康管理等を行うのに必要な知識を有する医師を選任すること
  • 使用者は、次の「イ」から「チ」までに掲げる事項に関する対象労働者ごとの記録および「リ」に掲げる事項に関する記録を有効期間中および有効期間の満了後5年間(労基則71条により当分の間は3年間)保存すること
    • イ 同意および同意の撤回
    • ロ 合意に基づき定められた職務の内容
    • ハ 支払われると見込まれる賃金の額
    • ニ 健康管理時間の状況
    • ホ ④(休日の確保)の実施状況
    • ヘ ⑤(選択的措置)の実施状況
    • ト ⑥(健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置)の実施状況
    • チ ⑧(苦情処理措置)の実施状況
    • リ 常時50人未満の労働者を使用する事業場における医師の選任

行政官庁への報告|

決議の届出をした使用者は、定期的に、一定の事項を、様式第14号の3により、所轄労働基準監督署長に報告しなければなりません(労基法41条の2 第2項、労基則34条の2の2)

報告が必要な事項は、次のとおりです。

  • ③ 健康管理時間の状況
  • ④ 休日の確保の実施状況
  • ⑤ 選択的措置の実施状況
  • ⑥ 健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置の実施状況

上記の報告は、決議の有効期間の始期から起算して6カ月以内ごとに必要です。

労働基準法施行規則

第三十四条の二

⑮ 法第四十一条の二第一項第十号の厚生労働省令で定める事項は、次に掲げるものとする。

一 法第四十一条の二第一項の決議の有効期間の定め及び当該決議は再度同項の決議をしない限り更新されない旨

二 法第四十一条の二第一項に規定する委員会の開催頻度及び開催時期

三 常時五十人未満の労働者を使用する事業場である場合には、労働者の健康管理等を行うのに必要な知識を有する医師を選任すること。

四 使用者は、イからチまでに掲げる事項に関する対象労働者ごとの記録及びリに掲げる事項に関する記録を第一号の有効期間中及び当該有効期間の満了後五年間保存すること。

イ 法第四十一条の二第一項の規定による同意及びその撤回

ロ 法第四十一条の二第一項第二号イの合意に基づき定められた職務の内容

ハ 法第四十一条の二第一項第二号ロの支払われると見込まれる賃金の額

ニ 健康管理時間の状況

ホ 法第四十一条の二第一項第四号に規定する措置の実施状況

ヘ 法第四十一条の二第一項第五号に規定する措置の実施状況

ト 法第四十一条の二第一項第六号に規定する措置の実施状況

チ 法第四十一条の二第一項第八号に規定する措置の実施状況

リ 前号の規定による医師の選任

三十四条の二の二

法第四十一条の二第二項の規定による報告は、同条第一項の決議の有効期間の始期から起算して六箇月以内ごとに、様式第十四号の三により、所轄労働基準監督署長にしなければならない。

② 法第四十一条の二第二項の規定による報告は、健康管理時間の状況並びに同条第一項第四号に規定する措置、同項第五号に規定する措置及び同項第六号に規定する措置の実施状況について行うものとする。


以降は、決議事項のうち、③健康管理時間、⑤選択的措置、⑥健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置について解説します。


③|健康管理時間

労働基準法施行規則34条の2 第7項

「健康管理時間」とは、対象労働者が「事業場内にいた時間」と「事業場外で労働した時間」を合計した時間です(労基法41条の2 第3号)

労使委員会が「休憩時間その他対象労働者が労働していない時間」を除くことを決議したときは、当該決議に係る時間を「事業場内にいた時間」から除くことができます(労基則34条の2 第7項)

なお、労使委員会で「事業場内にいた時間」から休憩時間を除くことを決議したものの、休憩時間を把握していない場合は、健康管理時間が把握されていないことになるため、高度プロフェッショナル制度の法律上の効果が生じません(令和元年7月12日基発0712第2号)

健康管理時間の把握

健康管理時間は、タイムカードによる記録、勤怠管理システムによる記録など、客観的な方法により把握することが必要です(労基則34条の2 第8項)

ただし、事業場外で労働した場合で、やむを得ない理由があるときは、自己申告によることも可能となっています。

労働基準法施行規則

第三十四条の二

⑦ 法第四十一条の二第一項第三号の厚生労働省令で定める労働時間以外の時間は、休憩時間その他対象労働者が労働していない時間とする。

⑧ 法第四十一条の二第一項第三号の厚生労働省令で定める方法は、タイムカードによる記録、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録等の客観的な方法とする。ただし、事業場外において労働した場合であって、やむを得ない理由があるときは、自己申告によることができる。


高度プロフェッショナル制度の適用を受ける対象労働者についても、安衛法で定める「医師による面接指導」の対象です(安衛法66条8の4)

そのため、「医師による面接指導」が必要か否かを判断する観点(安衛則52条の7の4)からも、健康管理時間の把握は義務となっています。


⑤|選択的措置

労働基準法施行規則34条の2 第9項~13項

選択的措置」として次の4つの措置のうち、いずれかを選択して実施しなければなりません(労基法41条の2 第5号イ~二)

(イ)勤務間インターバル + 深夜業の回数制限

労働者ごとに始業から24時間を経過するまでに11時間以上の継続した休息時間を確保し、かつ、37条4項に規定する時刻(深夜業)の間において労働させる回数を1カ月について4回以内とすること(労基則34条の2 第9項、10項)

いわゆる勤務間インターバルを導入し、かつ、午後10時から午前5時までの労働を1カ月に4回までに制限します。

(ロ)健康管理時間の上限措置

1週間あたりの健康管理時間が40時間を超えた場合に、「40時間を超えた時間」を次の範囲内とすること(労基則34条の2 第11項)

  • 1カ月について 100時間
  • 3カ月について 240時間

(ハ)連続2週間の休日を与える

1年に1回以上、継続(連続)した2週間の休日を与えること(労働者が請求した場合には、1年に2回以上、継続した1週間の休日を与えることも可能です)

なお、上記の2週間に年次有給休暇(労基法39条)を与えた日があれば、上記の「2週間の休日」から除いて(与える2週間の休日にカウントして)構いません(労基法41条の2 第5号ハ、同旨 令和元年7月12日基発0712第2号)

法41条の2第1項5号ハは、「年次有給休暇を取得した日も含めて、連続2週間について休日を確保することを規定したもの」と解されています(前掲通達)

(ニ)臨時の健康診断を実施する

厚生労働省令で定める要件に該当する労働者に、健康診断(厚生労働省令で定める項目を含むものに限る)を実施すること。

上記の健康診断は、「臨時の健康診断」といわれています。

臨時の健康診断の実施が必要な労働者|

臨時の健康診断は、次の要件(厚生労働省令で定める要件)に該当する対象労働者に実施が必要です(労基則34条の2 第12項)

  • 1週間あたりの健康管理時間が40時間を超え、「40時間を超えた時間」が1カ月あたり80時間を超えた場合
  • または、対象労働者からの申出があった場合

臨時の健康診断の項目|

臨時の健康診断に含めることが必要な項目(厚生労働省令で定める項目)は、次のとおりです(労基則34条の2 第13項)

  • 労働安全衛生規則(安衛則)44条1項1号から3号まで、5号および8号から11号までに掲げる項目(同項3号に掲げる項目にあっては、視力および聴力の検査を除く)
  • 安衛則52の4各号に掲げる事項の確認

具体的な内容は、次のとおりです(安衛則44条、52条の4)

定期健康診断の項目であって、脳・⼼臓疾患との関連が認められるもの(安衛則44条)

  • 既往歴および業務歴の調査
  • 自覚症状および他覚症状の有無の検査
  • 身⻑、体重、腹囲の検査
  • 血圧の測定
  • 血中脂質検査
  • 血糖検査
  • 尿検査
  • ⼼電図検査

面接指導における確認事項(安衛則52条4)。

  • 労働者の勤務の状況
  • 疲労の蓄積の状況
  • ⼼身の状況

労働基準法施行規則

第三十四条の二

⑨ 法第四十一条の二第一項第五号イの厚生労働省令で定める時間は、十一時間とする。

⑩ 法第四十一条の二第一項第五号イの厚生労働省令で定める回数は、四回とする。

⑪ 法第四十一条の二第一項第五号ロの厚生労働省令で定める時間は、一週間当たりの健康管理時間(同項第三号に規定する健康管理時間をいう。以下この条及び次条において同じ。)が四十時間を超えた場合におけるその超えた時間について、次の各号に掲げる区分に応じ、当該各号に定める時間とする。

一 一箇月 百時間

二 三箇月 二百四十時間

⑫ 法第四十一条の二第一項第五号ニの厚生労働省令で定める要件は、一週間当たりの健康管理時間が四十時間を超えた場合におけるその超えた時間が一箇月当たり八十時間を超えたこと又は対象労働者からの申出があつたこととする。

⑬ 法第四十一条の二第一項第五号ニの厚生労働省令で定める項目は、次に掲げるものとする。

一 労働安全衛生規則(昭和四十七年労働省令第三十二号)第四十四条第一項第一号から第三号まで、第五号及び第八号から第十一号までに掲げる項目(同項第三号に掲げる項目にあっては、視力及び聴力の検査を除く。)

二 労働安全衛生規則第五十二条の四各号に掲げる事項の確認

労働安全衛生規則

第四十四条(定期健康診断)より 

事業者は、常時使用する労働者(第四十五条第一項に規定する労働者を除く。)に対し、一年以内ごとに一回、定期に、次の項目について医師による健康診断を行わなければならない。

一 既往歴及び業務歴の調査

二 自覚症状及び他覚症状の有無の検査

三 身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査

四 胸部エックス線検査及び喀痰かくたん検査

五 血圧の測定

六 貧血検査

七 肝機能検査

八 血中脂質検査

九 血糖検査

十 尿検査

十一 心電図検査

第五十二条の四(面接指導における確認事項)

医師は、法第六十六条の八の面接指導を行うに当たっては、前条第一項の申出を行つた労働者に対し、次に掲げる事項について確認を行うものとする。

一 当該労働者の勤務の状況

二 当該労働者の疲労の蓄積の状況

三 前号に掲げるもののほか、当該労働者の心身の状況


複数の選択的措置を決議した場合

選択的措置は、対象労働者ごとに別々の措置を講じることも可能とされています(令和元年7月12日基発0712第2号)

また、対象労働者に対し、複数の選択的措置を実施することも可能とされています(前掲通達)

ただし、決議した措置のうち1つでも実施できなければ、措置が実施されなかった対象労働者については、措置が実施されなかった時点から、高度プロフェッショナル制度の法律上の効果が生じません(前掲通達)


⑥|健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置

労働基準法施行規則34条の2 第14項

健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置」として、次のうち、いずれかの措置が必要です(労基則34条の2 第14項)

(1) 選択的措置の対象となる4つの措置のうち、「選択的措置」として講ずることとした措置以外のもの

(2) 健康管理時間が一定時間を超える対象労働者に対し、医師による面接指導を行うこと

(3) 対象労働者の勤務状況および健康状態に応じて、代償休日または特別な休暇を付与すること

(4) 対象労働者の心とからだの健康問題についての相談窓口を設置すること

(5) 対象労働者の勤務状況および健康状態に配慮し、必要な場合には適切な部署に配置転換をすること

(6) 産業医等による助言若しくは指導を受け、又は対象労働者に産業医等による保健指導を受けさせること

(2)医師による面接指導

「医師による面接指導」とは、問診その他の方法により心身の状況を把握し、これに応じて面接により必要な指導を行うことをいいます。

安衛法により、事業者(法人であれば法人そのもの)には、1週間あたりの健康管理時間が40時間を超えた場合に、その超えた時間が「1カ月あたり100時間」を超えた対象労働者に対しては、本人の申し出がなくとも、「医師による面接指導」を行うことが義務付けられています(安衛法66条の8の4第1項、安衛則52条の7の4)

一方で、健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置として行う「医師による面接指導」は、「一定時間を超える」対象労働者に対して行います。

通達では、「一定時間」の時間数について、安衛法66条の8の4に規定する時間数を超えることは法の趣旨から認められない と示しています(令和元年7月12日基発0712第2号)

なお、健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置として行う「医師による面接指導」と、安衛法66条の8の4第1項に基づく「医師による面接指導」は、別に実施しなければなりません(労基則34条の2 第14項2号)

(3)代償休日

健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置として実施する「代償休日」は、長時間にわたって労働したことに対する代償措置として、次の休日とは別に付与することが求められます(令和元年7月12日基発0712第2号)

  • 年次有給休暇
  • 労基法41条の2第1項4号(休日の確保)による「1年間を通じ104日以上、かつ、4週間を通じ4日以上休日」
  • 労基法41条の2第1項5号ハ(選択的措置)による「連続2週間の休日」

また、代償休日を付与したことを理由に、対象労働者の賃金を減額することは認められません(前掲通達)

労働基準法施行規則

第三十四条の二

⑭ 法第四十一条の二第一項第六号の厚生労働省令で定める措置は、次に掲げる措置とする。

一 法第四十一条の二第一項第五号イからニまでに掲げるいずれかの措置であって、同項の決議及び就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより使用者が講ずることとした措置以外のもの

二 健康管理時間が一定時間を超える対象労働者に対し、医師による面接指導(問診その他の方法により心身の状況を把握し、これに応じて面接により必要な指導を行うことをいい、労働安全衛生法(昭和四十七年法律第五十七号)第六十六条の八の四第一項の規定による面接指導を除く。)を行うこと。

三 対象労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、代償休日又は特別な休暇を付与すること。

四 対象労働者の心とからだの健康問題についての相談窓口を設置すること。

五 対象労働者の勤務状況及びその健康状態に配慮し、必要な場合には適切な部署に配置転換をすること。

六 産業医等による助言若しくは指導を受け、又は対象労働者に産業医等による保健指導を受けさせること。

労働安全衛生法

第六十六条の八の四

事業者は、労働基準法第四十一条の二第一項の規定により労働する労働者であって、その健康管理時間(同項第三号に規定する健康管理時間をいう。)が当該労働者の健康の保持を考慮して厚生労働省令で定める時間を超えるものに対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による面接指導を行わなければならない。

労働安全衛生規則

第五十二条の七の四(法第六十六条の八の四第一項の厚生労働省令で定める時間等)

安衛法第六十六条の八の四第一項の厚生労働省令で定める時間は、一週間当たりの健康管理時間(労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第四十一条の二第一項第三号に規定する健康管理時間をいう。)が四十時間を超えた場合におけるその超えた時間について、一月当たり百時間とする。


労使委員会

労使委員会

労使委員会の決議は、労働者に周知しなければなりません(労基法106条)

また、労使委員会の決議は、労基法109条の「その他労働関係に関する重要な書類」に該当するため、3年間(本来は5年間ですが、附則143条により当分の間は3年間)保存しなければなりません(令和元年7月12日基発0712第2号)

「労使委員会の決議を周知していない場合」、「労使委員会の決議を3年間保存していない場合」には、労基法120条1号により罰則の対象となります(前掲通達)

一部、読み替え(労基則34条の2の3)はありますが、労使委員会の要件や協定代替決議については、企画業務型裁量労働制の規定が準用されています(労基法41条の2 第3項)

労使委員会の要件等の解説は、こちらの記事を参照ください。

本社以外の事業場に係る決議

通達では、「労使委員会の決議は、高度プロフェッショナル制度を導入しようとする事業場ごとに行わなければならない」と示しています(令和元年7月12日基発0712第2号)

例えば、支社で高度プロフェッショナル制度を導入するにあたって、「本社の労使委員会」で決議することはできません。


労使委員会の決議を変更する場合

  • 決議内容の変更のため再決議する場合
  • 再決議で決議内容が変更されず同内容だった場合

通達では、上記いずれの場合も「再度、届出が必要」と示しています(令和元年7月12日基発0712第2号)

また、上記いずれの場合も「再決議についての届出」がされないと、再決議に基づく高度プロフェッショナル制度の法律上の効力が発生しません(前掲通達)


再決議における本人同意、合意

労使委員会で再決議された場合の「再決議の内容」が、対象労働者の「本人同意」または「職務についての合意」に係る内容であれば、同意または合意を取り直すことが必要です(令和元年7月12日基発0712第2号)

一方で、「再決議の内容」が、対象労働者が同意または合意した事項に係るもの以外の事項にとどまる場合には、個々の対象労働者について同意または合意を取り直す必要はありません(前掲通達)

ただし、変更した決議の内容について個々の対象労働者に書面で明示するとともに、対象労働者に「同意の撤回」ができる旨を周知することが適当とされています(前掲通達)

なお、決議の内容が変更されたことにより、対象業務や対象労働者の範囲の対象外となった場合には、同意の問題ではなく、高度プロフェッショナル制度の適用から外れることになります(前掲通達)


法律上の効果が無効となった場合(高プロ)

※ 丸数字③④⑤⑥については、労使委員会における決議事項の解説で使用したものと同様です。

高度プロフェッショナル制度の法律上の効果

繰り返しになりますが、次のいずれかを使用者が講じていない場合は、高度プロフェッショナル制度の法律上の効果は生じません(労基法41条の2 第1項ただし書き、平成31年3月25日基発0325第1号)

  • ③ 健康管理時間を把握すること
  • ④ 休日の確保(1年間を通じ104日以上、かつ、4週間を通じ4日以上の休日を与えること)
  • ⑤ 選択的措置を実施すること

なお、⑥健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置の実施の有無は、高度プロフェッショナル制度の法律上の効果に影響しません(令和元年7月12日基発0712第2号)

ただし、法令および決議に基づき、適切に実施される必要があります(前掲通達)


制度が無効と判断された場合の再適用

③ 健康管理時間の把握、⑤選択的措置を実施しないため無効となった場合

使用者が、③健康管理時間を把握する措置または⑤選択的措置を講じておらず、高度プロフェッショナル制度の法律上の効果が生じないと判断された場合に、決議の有効期間中であれば、次のいずれもを満たすことにより、高度プロフェッショナル制度を適用することは可能と解されています(令和元年7月12日基発0712第2号)

  • 使用者による健康管理時間を把握する措置または選択的措置の実施を確保できるよう、「必要な措置」を検討し、当該措置を使用者が講ずる
  • 効果が生じないと判断された労働者に対し、効果が生じないと判断された事実の内容を具体的に十分に説明した上で「本人同意」を取り直す

上記の「必要な措置」を検討した結果、決議の内容を変更するため再決議した場合には、先述した「再決議における本人同意、合意」に基づき、本人同意または合意を取り直すことになります(前掲通達)

なお、無効となった後の適用の効果は将来に向けてのみ有効であり、無効であった期間を遡及して有効にすることはできません(前掲通達)

④ 休日の確保を実施しないため無効となった場合

「4週間を通じ4日以上の休日」を確保できなかった場合は、当該4週間の期間中には、再度、本人同意を得ることはできません(令和元年7月12日基発0712第2号)

一方で、「1年間104日の休日」を取得できないことが確定した場合には、決議の有効期間の残りの期間において、再度高度プロフェッショナル制度を適用することはできません(前掲通達)


まとめ

ここまで高度プロフェッショナル制度について解説しました。

制度の対象となる業務や労働者が限定され、運用面でも留意事項の多い規定です。

また、年収要件の「1,075万円以上」や、「年間を通じて104日以上かつ、4週間を通じ4日以上の休日」など、社労士試験の試験問題として設定し易そうな要件もあります。

しかしながら、労基法41条の2と第4章の他の規定とを比較すると、社労士試験の勉強においては、優先度が高いとはいえません。

制度が創設されてから数年が経過したため油断はできませんが、初めから詳細を暗記するよりも、制度の概要を理解するように学習してみてください。

なお、「医師による面接指導」の要否については、労働時間(または健康管理時間)を客観的に把握しなければならない根拠規定となっています(高プロの適用受ける労働者以外も対象です)

安衛法でも勉強が必要となるため、余裕があれば「安衛法66条の8、8の2、8の3、安衛則52条の7の3」も読んでみてください。

最後に、この記事を簡単にまとめて終わりにします。

この記事のまとめ

要件|

労使委員会が設置された事業場において、委員の5分の4以上の多数による議決により決議し、使用者が所轄労働基準監督署長に決議(届)を届け出る。

効果|

本人同意」を得た対象労働者を対象業務に就かせたときは、第4章で定める労働時間、休憩、休日および深夜の割増賃金に関する規定は、対象労働者については適用しない。

ただし、次のいずれかを使用者が講じていない場合は、高度プロフェッショナル制度の法律上の効果は生じない。

  • ③ 健康管理時間を把握すること
  • ④ 休日の確保(1年間を通じ104日以上、かつ、4週間を通じ4日以上の休日を与えること)
  • ⑤ 選択的措置を実施すること

対象業務(高プロ)|

次のいずれも満たした業務

  • 高度の専門的知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められる業務
  • 業務に従事する時間に関して、使用者が具体的な指示をしないこと

対象労働者(高プロ)|

次のいずれも満たした労働者

  • 合意」に基づき職務が明確に定められている
  • 「労働契約により使用者から支払われると見込まれる賃金」の額を1年間当たりの賃金の額に換算した額が、1,075万円以上である

決議事項(高プロ)|

  • 対象業務
  • 対象労働者の範囲
  • 健康管理時間を把握する措置を決議で定め、使用者が講ずること
  • 休日の確保
    ⇒ 対象業務に従事する対象労働者に対して、「1年間を通じ104日以上、かつ、4週間を通じ4日以上」の休日を決議および就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより使用者が与えること
  • 選択的措置(次のうちのいずれか)
    ⇒ 勤務間インターバル + 深夜業の回数制限、健康管理時間の上限措置、連続2週間の休日を与える、臨時の健康診断を実施する
  • 健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置(次のうちのいずれか)
    ⇒ 選択的措置のうち⑤で選択したもの以外の措置、医師による面接指導を行う、代償休日を付与する、心とからだの健康問題についての相談窓口を設置する、適切な部署に配置転換をする、産業医等による保健指導を受けさせる
  • 対象労働者の同意の撤回に関する手続
  • 苦情処理措置
    ⇒ 対象業務に従事する対象労働者からの苦情の処理に関する措置を決議で定め、使用者が措置を講じること
  • 使用者は、同意をしなかった対象労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないこと
  • その他厚生労働省令で定める事項(決議の有効期間の定め、決議を自動更新しないこと、記録を3年間保存することなど)

行政官庁への報告|

決議の届出をした使用者は、決議の有効期間の始期から起算して6カ月以内ごとに、次の事項を、所轄労働基準監督署長に報告しなければならない。

  • ③ 健康管理時間の状況
  • ④ 休日の確保の実施状況
  • ⑤ 選択的措置の実施状況
  • ⑥ 健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置の実施状況

(参考資料等)

厚生労働省|厚生労働省法令等データベースサービスより|https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/kensaku/index.html

  • 労働基準法41条の2、109条、120条、143条
  • 労働基準法施行規則34条の2、34条の2の2、34条の2の3、71条
  • 労働安全衛生法66条8の4
  • 労働安全衛生規則44条、52条の4、52条の7の4
  • 平成31年3月25日厚生労働省告示第88号(労働基準法第41条の2第1項の規定により同項第1号の業務に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るための指針)

厚生労働省ホームページ|「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」について|通達より|
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000148322_00001.html

  • 令和元年7月12日基発0712第2号(「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律による改正後の労働基準法関係の解釈について」の一部改正について)
  • 平成31年3月25日基発0325第1号(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律による改正後の 労働基準法及び労働安全衛生法の施行について)

厚生労働省ホームページ|労働基準関係リーフレットより|
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000056460.html

  • 高度プロフェッショナル制度わかりやすい解説