この記事では、労働基準法の4章から次の事項を解説しています。
- 専門業務型裁量労働制(38条の3)
- 企画業務型裁量労働制(38条の4)
- 健康・福祉確保措置、苦情処理措置(指針)
- 労使委員会
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当記事は、条文等の趣旨に反するような極端な意訳には注意しておりますが、厳密な表現と異なる部分もございます。
詳しくは免責事項をご確認ください。
専門業務型裁量労働制(38条の3)
労基法における「みなし労働時間制」は、事業場外(38条の2)、専門業務型(38条の3)、企画業務型(38条の4)の3つです。
令和6年就労条件総合調査によると、みなし労働時間制を採用している企業割合は15.3%となっており、そのうち、専門業務型裁量労働制を採用している割合は2.2%となっています。
労基法38条の3では、例えば、衣服の新たなデザインの考案の業務など、「業務の遂行の手段および時間配分の決定等に関し、使用者が具体的な指示をすることが困難な業務」についての「労働時間の算定方法」を定めています。
条文はタブを切り替えると確認できます。
要件|
専門業務型裁量労働制を適用するためには、労使協定(書面による協定)により、一定の事項(後述)を定めることが必要です。
労使協定|
労使協定を締結する労働者側の当事者は、労働者の過半数で組織する労働組合の有無で分れています。
ある場合 ⇒ その労働組合(以下、過半数労働組合)
ない場合 ⇒ 労働者の過半数を代表する者(以下、過半数代表者)
届出|
使用者は、労使協定を様式第13号により、所轄労働基準監督署長に届け出なければなりません(労基則24条の2の2 第4項)
効果|
労働者を対象業務(後述)に就かせたときは、「労使協定で定める時間」を労働したものとみなします。
労使委員会の決議|
労基法38条の4第5項の規定により、労使委員会は、専門業務型裁量労働制についての労使協定に代えて、委員の5分の4以上の多数による議決による決議を行うことができます(協定代替決議)
協定代替決議により、専門業務型裁量労働制を採用した場合には、所轄労働基準監督署長への届出は必要ありません(平成12年1月1日基発1号)
労働基準法
第三十八条の三
使用者が、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、次に掲げる事項を定めた場合において、労働者を第一号に掲げる業務に就かせたときは、当該労働者は、厚生労働省令で定めるところにより、第二号に掲げる時間労働したものとみなす。
一 業務の性質上その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する労働者の裁量にゆだねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をすることが困難なものとして厚生労働省令で定める業務のうち、労働者に就かせることとする業務(以下この条において「対象業務」という。)
二 対象業務に従事する労働者の労働時間として算定される時間
三 対象業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し、当該対象業務に従事する労働者に対し使用者が具体的な指示をしないこと。
四 対象業務に従事する労働者の労働時間の状況に応じた当該労働者の健康及び福祉を確保するための措置を当該協定で定めるところにより使用者が講ずること。
五 対象業務に従事する労働者からの苦情の処理に関する措置を当該協定で定めるところにより使用者が講ずること。
六 前各号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項
② 前条第三項の規定は、前項の協定について準用する。
労働基準法施行規則
第二十四条の二の二
法第三十八条の三第一項の規定は、法第四章の労働時間に関する規定の適用に係る労働時間の算定について適用する。
② 法第三十八条の三第一項第一号の厚生労働省令で定める業務は、次のとおりとする。
一 新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務
二 情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であってプログラムの設計の基本となるものをいう。)の分析又は設計の業務
三 新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又は放送法(昭和二十五年法律第百三十二号)第二条第二十八号に規定する放送番組(以下「放送番組」という。)の制作のための取材若しくは編集の業務
四 衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
五 放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務
六 前各号のほか、厚生労働大臣の指定する業務
③ 法第三十八条の三第一項第六号の厚生労働省令で定める事項は、次に掲げるものとする。
一 使用者は、法第三十八条の三第一項の規定により労働者を同項第一号に掲げる業務に就かせたときは同項第二号に掲げる時間労働したものとみなすことについて当該労働者の同意を得なければならないこと及び当該同意をしなかつた当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないこと。
二 前号の同意の撤回に関する手続
三 法第三十八条の三第一項に規定する協定(労働協約による場合を除き、労使委員会の決議及び労働時間等設定改善委員会の決議を含む。)の有効期間の定め
四 使用者は、次に掲げる事項に関する労働者ごとの記録を前号の有効期間中及び当該有効期間の満了後五年間保存すること。
イ 法第三十八条の三第一項第四号に規定する労働者の労働時間の状況並びに当該労働者の健康及び福祉を確保するための措置の実施状況
ロ 法第三十八条の三第一項第五号に規定する労働者からの苦情の処理に関する措置の実施状況
ハ 第一号の同意及びその撤回
④ 法第三十八条の三第二項において準用する法第三十八条の二第三項の規定による届出は、様式第十三号により、所轄労働基準監督署長にしなければならない。
第二十四条の二の二の二
使用者は、前条第三項第四号イからハまでに掲げる事項に関する労働者ごとの記録を作成し、同項第三号の有効期間中及び当該有効期間の満了後五年間保存しなければならない。
第七十一条
第十七条第二項、第二十四条の二の二第三項第四号、第二十四条の二の二の二、第二十四条の二の三第三項第四号、第二十四条の二の三の二、第二十四条の二の四第二項(第三十四条の二の三において準用する場合を含む。)、第二十四条の七及び第三十四条の二第十五項第四号の規定の適用については、当分の間、これらの規定中「五年間」とあるのは、「三年間」とする。
労使委員会、協定代替決議については後述します。
罰則
労使協定の届出義務に違反した者は、30万円以下の罰金に処せられます(労基法120条)
労基法38条の3の適用範囲
専門業務型裁量労働制の規定は、「労基法4章の労働時間に関する規定」の適用に係る労働時間の算定について適用されます(労基則24条の2の2)
したがって、第6章(年少者)、第6章の2(妊産婦等)に関する規定における労働時間の算定には適用されません(平成12年1月1日基発1号)
また、労基法38条の3に関する規定が適用される場合であっても、休憩、休日、深夜業に関する規定について「みなす」ことはできず、各規定のとおり適用されます(同旨 前掲通達)
先述のとおり、労働者を対象業務に就かせたときは、「労使協定で定める時間」を労働したものとみなします。
専門業務型裁量労働制における「対象業務」とは、「厚生労働省令で定める業務」のうち、労働者が就労する業務をいいます(労基法38条の3 第1項1号)
そのため、事業場において、独自に「専門業務型裁量労働制の対象業務」を新設することはできません。
厚生労働省令で定める業務
業務の性質上その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する労働者の裁量にゆだねる必要があるため、当該業務の遂行の手段および時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をすることが困難な業務とされています。
具体的には、令和6年4月1日現在で20種の業務が定められています。
参考までに、下のタブに格納しておきます
専門業務型裁量労働制の対象となるのは、次の業務です(労基則24条の2の2 第2項)
① 新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務
② 情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であってプログラムの設計の基本となるものをいう。)の分析又は設計の業務
③ 新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又は放送法に規定する放送番組の制作のための取材若しくは編集の業務
④ 衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
⑤ 放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務
前①~⑤のほか、厚生労働大臣の指定する業務
厚生労働大臣の指定する業務は次のとおりです(平成9年2月14日労働省告示7号)
⑥ 広告、宣伝等における商品等の内容、特長等に係る文章の案の考案の業務
⑦ 事業運営において情報処理システム(②に規定する情報処理システムをいう。)を活用するための問題点の把握又はそれを活用するための方法に関する考案若しくは助言の業務
⑧ 建築物内における照明器具、家具等の配置に関する考案、表現又は助言の業務
⑨ ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
⑩ 有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務
⑪ 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
⑫ 学校教育法に規定する大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る。)
⑬ 銀行又は証券会社における顧客の合併及び買収に関する調査又は分析及びこれに基づく合併及び買収に関する考案及び助言の業務
⑭ 公認会計士の業務
⑮ 弁護士の業務
⑯ 建築士の業務
⑰ 不動産鑑定士の業務
⑱ 弁理士の業務
⑲ 税理士の業務
⑳ 中小企業診断士の業務
⑬は、令和6年4月1日より追加された業務です(令和5年厚生労働省告示115号)
なお、厚生労働省で提供している「専門業務型裁量労働制の解説」(当記事の末尾にある参考資料等を参照ください)では、①〜⑳の業務について具体的に記載されています。
また、各業務の具体的な解釈については、次の通達で示されています。
①~⑤
⇒「平成6年1月4日基発1号」
⑥、⑭⑮⑰⑱
⇒「平成9年2月14日基発93号」
⑦~⑪、⑯⑲⑳
⇒「平成14年2月13日基発0213002号」
⑫
⇒「平成15年10月22日基発1022004号」
⑬
⇒「令和5年8月2日基発0802第7号」
先述のとおり、専門業務型裁量労働制を適用するためには、労使協定が必要です
労使協定で定める事項は次のとおりです(労基法38条の3 第1項1号〜6号)
- 対象業務
- 対象業務に従事する労働者の労働時間として算定される時間(みなし労働時間)
- 対象業務の遂行の手段および時間配分の決定等に関し、対象業務に従事する労働者に対し使用者が具体的な指示をしないこと
- 対象業務に従事する労働者の労働時間の状況に応じた健康および福祉を確保するための措置を協定で定め、使用者が措置を講じること
- 対象業務に従事する労働者からの苦情の処理に関する措置を協定で定め、使用者が措置を講じること
- 上記①~⑤に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項
「厚生労働省令で定める事項」は、労基則で定められています(労基則24条の2の2 第3項)
なお、労基則は改正されたため、令和6年4月1日以降は次の取り扱いになります(令和5年厚生労働省令39号)
- 使用者は、労働者を対象業務に就かせたときは、労使協定で定める時間を労働したものとみなすことについて、労働者の同意を得ること。および、同意をしなかった労働者に対して、解雇その他不利益な取扱いをしないこと
- 同意の撤回に関する手続
- 労使協定(労働協約を除く)の有効期間の定め
- 使用者は、次に掲げる事項に関する労働者ごとの記録を、労使協定の有効期間中および有効期間の満了後5年間(労基則71条により当分の間は3年間)保存すること
- イ. 労働者の労働時間の状況、労働者の健康および福祉を確保するための措置の実施状況
- ロ. 労働者からの苦情の処理に関する措置の実施状況
- ハ. 同意および同意の撤回
使用者は、上記イからハまでに掲げる事項に関する労働者ごとの記録を作成し、労使協定の有効期間中および有効期間の満了後5年間(労基則71条により当分の間は3年間)保存しなければなりません(労基則24条の2の2の2)
労働者の同意
令和6年4月1日以降は、専門業務型裁量労働制においても労働者本人の同意が必須です。
(後述する企画業務型裁量労働制も労働者本人の同意が必須です)
「労働者の同意」は、労働者ごとに、かつ、労使協定の有効期間ごとに得る必要があります(令和5年8月2日基発0802第7号)
「同意の撤回」に関する手続きについては、撤回の申出先となる部署および担当者、撤回の申出の方法等その具体的内容を明らかにすることが必要です(前掲通達)
労使協定で定める「みなし時間」
専門業務型裁量労働制により「労働したとみなす時間」は、1日あたりの労働時間を協定します(平成12年1月1日基発1号)
労使協定の有効期間
通達では、労使協定の有効期間については、不適切に制度が運用されることを防ぐため、3年以内とすることが望ましい と示しています(平成15年10月22日基発1022001号)
健康および福祉を確保するための措置、苦情の処理に関する措置
通達では、健康・福祉確保措置、苦情処理措置の具体的な内容については、企画業務型裁量労働制における同措置の内容と同等のものとすることが望ましい と示しています(平成15年10月22日基発1022001号)
健康・福祉確保措置、苦情処理措置については、後述の解説を参照ください。
企画業務型裁量労働制の概要(38条の4)
趣旨
企画業務型裁量労働制は、企画、立案、調査及び分析を行う労働者であって、業務の遂行手段や時間配分を自らの裁量で決定し、使用者から具体的な指示を受けない者を対象とした制度です(平成11年1月29日基発45号)
ただし、いかなる事業場においても採用できる制度ではなく、対象業務が存在する事業場においてのみ、企画業務型裁量労働制の実施が可能です(平成15年10月22日基発1022001号)
ちなみに、令和6年就労条件総合調査によると、みなし労働時間制を採用している企業割合は15.3%となっており、そのうち、企画業務型裁量労働制を採用している割合は1.0%となっています。
要件|
企画業務型裁量労働制を適用するためには、次のいずれもが必要です。
- 事業場に労使委員会が設置されている
- 委員の5分の4以上の多数による議決により、一定の事項(後述)に関する決議をする
- 使用者が、決議を行政官庁に届け出る
専門業務型裁量労働制と異なり、労使協定では制度を採用できません。
届出|
使用者は、労使委員会の決議(決議届)を様式第13号の2により、所轄労働基準監督署長に届け出なければなりません(労基則24条の2の3)
「届出」は企画業務型裁量労働制の効力を発生させるための要件です(労基法38条の4 第1項)
そのため、労使委員会の決議を届け出ない場合は、企画業務型裁量労働制により労働時間をみなすことはできません(平成12年1月1日基発1号)
ちなみに、届出義務の違反については罰則の適用はありません。
効果|
企画業務型裁量労働制の対象となる労働者を、対象業務(後述)に就かせたときは、「労使委員会の決議で定められた時間」を労働したものとみなします。
労働基準法
第三十八条の四
賃金、労働時間その他の当該事業場における労働条件に関する事項を調査審議し、事業主に対し当該事項について意見を述べることを目的とする委員会(使用者及び当該事業場の労働者を代表する者を構成員とするものに限る。)が設置された事業場において、当該委員会がその委員の五分の四以上の多数による議決により次に掲げる事項に関する決議をし、かつ、使用者が、厚生労働省令で定めるところにより当該決議を行政官庁に届け出た場合において、第二号に掲げる労働者の範囲に属する労働者を当該事業場における第一号に掲げる業務に就かせたときは、当該労働者は、厚生労働省令で定めるところにより、第三号に掲げる時間労働したものとみなす。
一 事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務であって、当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務(以下この条において「対象業務」という。)
二 対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者であって、当該対象業務に就かせたときは当該決議で定める時間労働したものとみなされることとなるものの範囲
三 対象業務に従事する前号に掲げる労働者の範囲に属する労働者の労働時間として算定される時間
四 対象業務に従事する第二号に掲げる労働者の範囲に属する労働者の労働時間の状況に応じた当該労働者の健康及び福祉を確保するための措置を当該決議で定めるところにより使用者が講ずること。
五 対象業務に従事する第二号に掲げる労働者の範囲に属する労働者からの苦情の処理に関する措置を当該決議で定めるところにより使用者が講ずること。
六 使用者は、この項の規定により第二号に掲げる労働者の範囲に属する労働者を対象業務に就かせたときは第三号に掲げる時間労働したものとみなすことについて当該労働者の同意を得なければならないこと及び当該同意をしなかつた当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないこと。
七 前各号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項
② 前項の委員会は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 当該委員会の委員の半数については、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者に厚生労働省令で定めるところにより任期を定めて指名されていること。
二 当該委員会の議事について、厚生労働省令で定めるところにより、議事録が作成され、かつ、保存されるとともに、当該事業場の労働者に対する周知が図られていること。
三 前二号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める要件
③ 厚生労働大臣は、対象業務に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るために、労働政策審議会の意見を聴いて、第一項各号に掲げる事項その他同項の委員会が決議する事項について指針を定め、これを公表するものとする。
④ 第一項の規定による届出をした使用者は、厚生労働省令で定めるところにより、定期的に、同項第四号に規定する措置の実施状況を行政官庁に報告しなければならない。
⑤ 第一項の委員会においてその委員の五分の四以上の多数による議決により第三十二条の二第一項、第三十二条の三第一項、第三十二条の四第一項及び第二項、第三十二条の五第一項、第三十四条第二項ただし書、第三十六条第一項、第二項及び第五項、第三十七条第三項、第三十八条の二第二項、前条第一項並びに次条第四項、第六項及び第九項ただし書に規定する事項について決議が行われた場合における第三十二条の二第一項、第三十二条の三第一項、第三十二条の四第一項から第三項まで、第三十二条の五第一項、第三十四条第二項ただし書、第三十六条、第三十七条第三項、第三十八条の二第二項、前条第一項並びに次条第四項、第六項及び第九項ただし書の規定の適用については、第三十二条の二第一項中「協定」とあるのは「協定若しくは第三十八条の四第一項に規定する委員会の決議(第百六条第一項を除き、以下「決議」という。)」と、第三十二条の三第一項、第三十二条の四第一項から第三項まで、第三十二条の五第一項、第三十四条第二項ただし書、第三十六条第二項及び第五項から第七項まで、第三十七条第三項、第三十八条の二第二項、前条第一項並びに次条第四項、第六項及び第九項ただし書中「協定」とあるのは「協定又は決議」と、第三十二条の四第二項中「同意を得て」とあるのは「同意を得て、又は決議に基づき」と、第三十六条第一項中「届け出た場合」とあるのは「届け出た場合又は決議を行政官庁に届け出た場合」と、「その協定」とあるのは「その協定又は決議」と、同条第八項中「又は労働者の過半数を代表する者」とあるのは「若しくは労働者の過半数を代表する者又は同項の決議をする委員」と、「当該協定」とあるのは「当該協定又は当該決議」と、同条第九項中「又は労働者の過半数を代表する者」とあるのは「若しくは労働者の過半数を代表する者又は同項の決議をする委員」とする。
労働基準法施行規則
第二十四条の二の三
法第三十八条の四第一項の規定による届出は、様式第十三号の二により、所轄労働基準監督署長にしなければならない。
② 法第三十八条の四第一項の規定は、法第四章の労働時間に関する規定の適用に係る労働時間の算定について適用する。
③ 法第三十八条の四第一項第七号の厚生労働省令で定める事項は、次に掲げるものとする。
一 法第三十八条の四第一項第一号に掲げる業務に従事する同項第二号に掲げる労働者の範囲に属する労働者(次号及び第二十四条の二の四第四項において「対象労働者」という。)の法第三十八条の四第一項第六号の同意の撤回に関する手続
二 使用者は、対象労働者に適用される評価制度及びこれに対応する賃金制度を変更する場合にあっては、労使委員会に対し、当該変更の内容について説明を行うこと。
三 法第三十八条の四第一項に規定する決議の有効期間の定め
四 使用者は、次に掲げる事項に関する労働者ごとの記録を前号の有効期間中及び当該有効期間の満了後五年間保存すること。
イ 法第三十八条の四第一項第四号に規定する労働者の労働時間の状況並びに当該労働者の健康及び福祉を確保するための措置の実施状況
ロ 法第三十八条の四第一項第五号に規定する労働者からの苦情の処理に関する措置の実施状況
ハ 法第三十八条の四第一項第六号の同意及びその撤回
第二十四条の二の三の二
使用者は、前条第三項第四号イからハまでに掲げる事項に関する労働者ごとの記録を作成し、同項第三号の有効期間中及び当該有効期間の満了後五年間保存しなければならない
第二十四条の二の四
法第三十八条の四第二項第一号の規定による指名は、法第四十一条第二号に規定する監督又は管理の地位にある者以外の者について行わなければならず、また、使用者の意向に基づくものであってはならない。
② 法第三十八条の四第二項第二号の規定による議事録の作成及び保存については、使用者は、労使委員会の開催の都度その議事録を作成して、これをその開催の日(法第三十八条の四第一項に規定する決議及び労使委員会の決議並びに第二十五条の二に規定する労使委員会における委員の五分の四以上の多数による議決による決議(第七項において「労使委員会の決議等」という。)が行われた会議の議事録にあっては、当該決議に係る書面の完結の日(第五十六条第一項第五号の完結の日をいう。))から起算して五年間保存しなければならない。
③ 法第三十八条の四第二項第二号の規定による議事録の周知については、使用者は、労使委員会の議事録を、次に掲げるいずれかの方法によって、当該事業場の労働者に周知させなければならない。
一 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること。
二 書面を労働者に交付すること。
三 使用者の使用に係る電子計算機に備えられたファイル又は電磁的記録媒体(電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体をいう。)をもって調製するファイルに記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること。
④ 法第三十八条の四第二項第三号の厚生労働省令で定める要件は、労使委員会の運営に関する事項として次に掲げるものに関する規程が定められていることとする。
イ 労使委員会の招集、定足数及び議事に関する事項
ロ 対象労働者に適用される評価制度及びこれに対応する賃金制度の内容の使用者からの説明に関する事項
ハ 制度の趣旨に沿つた適正な運用の確保に関する事項
ニ 開催頻度を六箇月以内ごとに一回とすること。
ホ イからニまでに掲げるもののほか、労使委員会の運営について必要な事項
⑤ 使用者は、前項の規程の作成又は変更については、労使委員会の同意を得なければならない。
⑥ 使用者は、労働者が労使委員会の委員であること若しくは労使委員会の委員になろうとしたこと又は労使委員会の委員として正当な行為をしたことを理由として不利益な取扱いをしないようにしなければならない。
⑦ 使用者は、法第三十八条の四第二項第一号の規定により指名された委員が労使委員会の決議等に関する事務を円滑に遂行することができるよう必要な配慮を行わなければならない。
第二十四条の二の五
法第三十八条の四第四項の規定による報告は、同条第一項に規定する決議の有効期間の始期から起算して六箇月以内に一回、及びその後一年以内ごとに一回、様式第十三号の四により、所轄労働基準監督署長にしなければならない。
② 法第三十八条の四第四項の規定による報告は、同条第一項第四号に規定する労働者の労働時間の状況並びに当該労働者の健康及び福祉を確保するための措置の実施状況並びに同項第六号の同意及びその撤回の実施状況について行うものとする。
第七十一条
第十七条第二項、第二十四条の二の二第三項第四号、第二十四条の二の二の二、第二十四条の二の三第三項第四号、第二十四条の二の三の二、第二十四条の二の四第二項(第三十四条の二の三において準用する場合を含む。)、第二十四条の七及び第三十四条の二第十五項第四号の規定の適用については、当分の間、これらの規定中「五年間」とあるのは、「三年間」とする。
労使委員会については後述します。
労基法38条の4の適用範囲
企画業務型裁量労働制の規定は、「労基法4章の労働時間に関する規定」の適用に係る労働時間の算定について適用されます(労基則24条の2の3 第2項)
専門業務型裁量労働制と同様に、第6章、第6章の2、休憩、休日、深夜業については適用されません。
制度の対象となる労働者の範囲
企画業務型裁量労働制を適用し、労働時間を「みなす」ことができるのは、次のいずれにも該当する労働者(対象労働者)です(労基法38条の4 第1項2号、労基則24条の2の3 第3項1号)
- 制度の対象となる業務(対象業務)に従事する
- 対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する
企画業務型裁量労働制については、対象業務に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るために、指針が定められています(労基法38条の4 第3項)
指針によると、「客観的にみて対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有しない労働者を含めて決議した場合、使用者が当該知識、経験等を有しない労働者を対象業務に就かせても企画業務型裁量労働制の法第4章の労働時間に関する規定の適用に当たっての労働時間のみなしの効果は生じないものであることに留意することが必要である」と示されています。
先述のとおり、企画業務型裁量労働制により労働時間をみなすには、制度の対象となる労働者が対象業務に従事することが必要です。
企画業務型裁量労働制における「対象業務」は次の①〜④のいずれにも該当する業務です(労基法38条の4 第1項1号)
- 事業の運営に関する事項についての業務
- 企画、立案、調査および分析の業務
- 業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要がある業務
- 業務の遂行の手段および時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務
具体的には、「労働基準法第38条の4第1項の規定により同項第1号の業務に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るための指針」(平成11年12月27日労働省告示149号)にて、留意事項が示されています。
参考までに、対象業務の基準を下のタブに格納しておきます。
平成11年12月27日労働省告示第149号、 令和5年3月30日厚生労働省告示115号より
第3. 1. (1)|対象業務の要件
対象業務は、次の①から④までに掲げる要件のいずれにも該当するものである。
① 事業の運営に関する事項についての業務であること
法第38条の4第1項第1号の「事業の運営に関する事項」とは、対象事業場の属する企業等に係る事業の運営に影響を及ぼす事項又は当該事業場に係る事業の運営に影響を及ぼす独自の事業計画や営業計画をいい、対象事業場における事業の実施に関する事項が直ちにこれに該当するものではない。
例えば、次のように考えられること。
- 本社・本店である事業場においてその属する企業全体に係る管理・運営とあわせて対顧客営業を行っている場合、当該本社・本店である事業場の管理・運営を担当する部署において策定される当該事業場の属する企業全体の営業方針については「事業の運営に関する事項」に該当する。
なお、当該本社・本店である事業場の対顧客営業を担当する部署に所属する個々の営業担当者が担当する営業については「事業の運営に関する事項」に該当しない。
- 事業本部である事業場における当該事業場の属する企業等が取り扱う主要な製品・サービス等についての事業計画については「事業の運営に関する事項」に該当する。
- 地域本社や地域を統轄する支社・支店等である事業場における、当該事業場の属する企業等が事業活動の対象としている主要な地域における生産、販売等についての事業計画や営業計画については「事業の運営に関する事項」に該当する。
- 工場等である事業場において、本社・本店である事業場の具体的な指示を受けることなく独自に策定する、当該事業場の属する企業等が取り扱う主要な製品・サービス等についての事業計画については「事業の運営に関する事項」に該当する。
なお、個別の製造等の作業や当該作業に係る工程管理は「事業の運営に関する事項」に該当しない。 - 支社・支店等である事業場において、本社・本店である事業場の具体的な指示を受けることなく独自に策定する、当該事業場を含む複数の支社・支店等である事業場に係る事業活動の対象となる地域における生産、販売等についての事業計画や営業計画については「事業の運営に関する事項」に該当する。
- 支社・支店等である事業場において、本社・本店である事業場の具体的な指示を受けることなく独自に策定する、当該事業場のみに係る事業活動の対象となる地域における生産、販売等についての事業計画や営業計画については「事業の運営に関する事項」に該当する。
なお、本社・本店又は支社・支店等である事業場の具体的な指示を受けて行う個別の営業活動は「事業の運営に関する事項」に該当しない。
② 企画、立案、調査及び分析の業務であること
法第38条の4第1項第1号の「企画、立案、調査及び分析の業務」とは、「企画」、「立案」、「調査」及び「分析」という相互に関連し合う作業を組み合わせて行うことを内容とする業務をいう。
ここでいう「業務」とは、部署が所掌する業務ではなく、個々の労働者が使用者に遂行を命じられた業務をいう。
したがって、対象事業場に設けられた企画部、調査課等の「企画」、「立案」、「調査」又は「分析」に対応する語句をその名称に含む部署において行われる業務の全てが直ちに「企画、立案、調査及び分析の業務」に該当するものではない。
③ 当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務であること
法第38条の4第1項第1号の「当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある」業務とは、使用者が主観的にその必要があると判断しその遂行の方法を大幅に労働者にゆだねている業務をいうものではなく、当該業務の性質に照らし客観的にその必要性が存するものであることが必要である。
④ 当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務であること
法第38条の4第1項第1号の「当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務」とは、当該業務の遂行に当たり、その内容である「企画」、「立案」、「調査」及び「分析」という相互に関連し合う作業をいつ、どのように行うか等についての広範な裁量が、労働者に認められている業務をいう。
したがって、日常的に使用者の具体的な指示の下に行われる業務や、あらかじめ使用者が示す業務の遂行方法等についての詳細な手順に即して遂行することを指示されている業務は、これ(④)に該当しない。
また、「時間配分の決定」には始業及び終業の時刻の決定も含まれるため、使用者から始業又は終業の時刻を指示されている業務も、これ(④)に該当しない(令和5年3月30日 厚生労働省告示115号)。
第3. 1. (2)|上記④に関する留意事項
対象業務について「使用者が具体的な指示をしない」とされることに関し、企画業務型裁量労働制が適用されている場合であっても、業務の遂行の手段及び時間配分の決定等以外については、使用者は、労働者に対し必要な指示をすることについて制限を受けないものである。
したがって、委員は、対象業務について決議するに当たり、使用者が労働者に対し業務の開始時に当該業務の目的、目標、期限等の基本的事項を指示することや、中途において経過の報告を受けつつこれらの基本的事項について所要の変更の指示をすることは可能であることに留意することが必要である。
また、企画業務型裁量労働制の実施に当たっては、これらの指示が的確になされることが重要である。
このため、使用者は、業務量が過大である場合や期限の設定が不適切である場合には、労働者から時間配分の決定に関する裁量が事実上失われることがあることに留意するとともに、労働者の上司に対し、これらの基本的事項を適正に設定し、指示を的確に行うよう必要な管理者教育を行うことが適当であることに留意することが必要である。
なお、使用者及び委員は、労働者から時間配分の決定等に関する裁量が失われたと認められる場合には、企画業務型裁量労働制の法第4章の労働時間に関する規定の適用に当たっての労働時間のみなしの効果は生じないものであることに留意することが必要である(令和5年3月30日 厚生労働省告示115号)。
第3. 1. (2)|対象業務となり得るか否かについての例
対象業務となり得る業務の例
- 経営企画を担当する部署における業務のうち、経営状態・経営環境等について調査及び分析を行い、経営に関する計画を策定する業務
- 経営企画を担当する部署における業務のうち、現行の社内組織の問題点やその在り方等について調査及び分析を行い、新たな社内組織を編成する業務
- 人事・労務を担当する部署における業務のうち、現行の人事制度の問題点やその在り方等について調査及び分析を行い、新たな人事制度を策定する業務
- 人事・労務を担当する部署における業務のうち、業務の内容やその遂行のために必要とされる能力等について調査及び分析を行い、社員の教育・研修計画を策定する業務
- 財務・経理を担当する部署における業務のうち、財務状態等について調査及び分析を行い、財務に関する計画を策定する業務
- 広報を担当する部署における業務のうち、効果的な広報手法等について調査及び分析を行い、広報を企画・立案する業務
- 営業に関する企画を担当する部署における業務のうち、営業成績や営業活動上の問題点等について調査及び分析を行い、企業全体の営業方針や取り扱う商品ごとの全社的な営業に関する計画を策定する業務
- 生産に関する企画を担当する部署における業務のうち、生産効率や原材料等に係る市場の動向等について調査及び分析を行い、原材料等の調達計画も含め全社的な生産計画を策定する業務
対象業務となり得ない業務の例
- 経営に関する会議の庶務等の業務
- 人事記録の作成及び保管、給与の計算及び支払、各種保険の加入及び脱退、採用・研修の実施等の業務
- 金銭の出納、財務諸表・会計帳簿の作成及び保管、租税の申告及び納付、予算・決算に係る計算等の業務
- 広報誌の原稿の校正等の業務
- 個別の営業活動の業務
- 個別の製造等の作業、物品の買い付け等の業務
なお、対象業務となり得る業務の例は、これに該当するもの以外は労使委員会において対象業務として決議し得ないもの として掲げるものではない。
また、対象業務となり得ない業務の例は、これに該当するもの以外は労使委員会において対象業務として決議し得るもの として掲げるものではない。
先述のとおり、企画業務型裁量労働制は、労使協定の締結ではなく、労使委員会の決議が必要です。
労使委員会では、次の事項に関して決議します(労基法38条の4 第1項1号〜6号)
- 対象業務
- 企画業務型裁量労働制の対象となる労働者の範囲
- 対象業務に従事する②の範囲に属する労働者(対象労働者)の労働時間として算定される時間(みなし労働時間)
- 対象労働者の労働時間の状況に応じた健康および福祉を確保するための措置を決議で定め、使用者が措置を講じること。
- 対象労働者からの苦情の処理に関する措置を決議で定め、使用者が措置を講じること。
- 使用者は、制度の対象となる労働者を対象業務に就かせたときは、決議で定めた時間を労働したものとみなすことについて、労働者の同意を得ること。および、同意をしなかった労働者に対して、解雇その他不利益な取扱いをしないこと
- 上記①~⑥に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項
「厚生労働省令で定める事項」は、労基則で定められています(労基則24条の2の3 第3項)
なお、労基則は改正されたため、令和6年4月1日以降は次の取り扱いになります(令和5年厚生労働省令39号)。
- 対象労働者の同意の撤回に関する手続
- 使用者は、対象労働者に適用される評価制度および対応する賃金制度を変更する場合に、労使委員会に変更の内容について説明を行うこと
- 決議の有効期間の定め
- 使用者は、次に掲げる事項に関する労働者ごとの記録を、決議の有効期間中および当該有効期間の満了後5年間(労基則71条により当分の間は3年間)保存すること
- イ. 労働者の労働時間の状況、労働者の健康および福祉を確保するための措置の実施状況
- ロ. 労働者からの苦情の処理に関する措置の実施状況
- ハ. 同意および同意の撤回
使用者は、上記イからハまでに掲げる事項に関する労働者ごとの記録を作成し、決議の有効期間中および当該有効期間の満了後5年間(労基則71条により当分の間は3年間)保存しなければならなりません(労基則24条の2の3の2)。
報告
決議の届出をした使用者は、定期的に、一定の事項を、様式第13号の4により、所轄労働基準監督署長に報告しなければなりません(労基法38条の4 第4項、労基則24条の2の5 第1項)
報告が必要な事項は、次のとおりです(労基則24条の2の5第2項)
- 労働者の労働時間の状況
- 労働者の健康および福祉を確保するための措置の実施状況
- 同意および同意の撤回の実施状況
報告の頻度は、決議の有効期間の始期から起算して6カ月以内に1回、その後は1年以内ごとに1回とされています(労基則24条の2の5 第1項)
(労基則66条の2は、令和5年厚生労働省令39号にて削除されたため、令和6年4月1日以降は上記の取り扱いとなります)
健康・福祉確保措置、苦情処理措置(指針)
- 対象労働者の「労働時間の状況に応じた当該労働者の健康及び福祉を確保するための措置」」(健康・福祉確保措置)
- 対象労働者からの「苦情の処理に関する措置」(苦情処理措置)
企画業務型裁量労働制を採用するためには、健康・福祉確保措置および苦情処理措置を労使委員会の決議で定め、使用者は措置を講じることが必要です(労基法38条の4 第1項4号、5号)
また、専門業務型裁量労働制(先述)においても、健康・福祉確保措置および苦情処理措置を労使協定で定め、使用者は措置を講じることが必要です(労基法38条の3 第1項4号、5号)
措置の内容
企画業務型における両措置の内容については、「労働基準法第38条の4第1項の規定により同項第1号の業務に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るための指針」(平成11年12月27日労働省告示149号)にて、留意事項が示されています。
なお、専門業務型における両措置の具体的な内容については、企画業務型裁量労働制における同措置の内容(上記の指針)と同等のものとすることが望ましい とされています(平成15年10月22日基発1022001号)
参考までに、「健康・福祉確保措置」、「苦情処理措置」の基準を下のタブに格納しておきます。
なお、指針の全文については、厚生労働省で提供している「企画業務型裁量労働制の解説」に記載されています(当記事の末尾にある参考資料等を参照ください)。
平成11年12月27日労働省告示第149号、 令和5年3月30日厚生労働省告示115号より
第4.|法第38条の4第1項第4号に規定する事項関係
(1)健康・福祉確保措置に関し具体的に明らかにする事項
① 対象労働者の「健康・福祉確保措置」を決議で定めることにより使用者が講ずることについては、次の(イ)(ロ)いずれにも該当する内容のものであることが必要である。
(イ) 使用者による対象労働者の労働時間の状況の把握は、いかなる時間帯にどの程度の時間、労務を提供し得る状態にあったかを把握するものであること。
その方法としては、タイムカードによる記録、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録等の客観的な方法その他の適切なものであることが必要であり、当該対象事業場の実態に応じて適当な当該方法を具体的に明らかにしていることが必要であること。
(ロ) 上記(イ)により把握した勤務状況(労働時間の状況を含む。以下同じ)に基づいて、対象労働者の勤務状況に応じ、使用者がいかなる健康・福祉確保措置をどのように講ずるかを明確にするものであること。
② 労使委員会において決議し、使用者が講ずる健康・福祉確保措置としては次のもの(イ〜ヌの10項目)が適切である。
(イ) 終業から始業までに一定時間以上の継続した休息時間を確保すること。
(ロ)法第37条第4項に規定する時刻(深夜業)の間において労働させる回数を1カ月について一定回数以内とすること。
(ハ)把握した労働時間が一定時間を超えない範囲内とすること及び当該時間を超えたときは法第38条の4第1項の規定を適用しないこととすること。
(ニ)働き過ぎの防止の観点から、年次有給休暇についてまとまった日数連続して取得することを含めてその取得を促進すること。
(ホ)把握した労働時間が一定時間を超える対象労働者に対し、医師による面接指導(問診その他の方法により心身の状況を把握し、これに応じて面接により必要な指導を行うことをいい、労働安全衛生法第66条の8第1項の規定による面接指導を除く。)を行うこと。
(ヘ)把握した対象労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、代償休日又は特別な休暇を付与すること。
(ト)把握した対象労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、健康診断を実施すること。
(チ)心とからだの健康問題についての相談窓口を設置すること。
(リ)把握した対象労働者の勤務状況及びその健康状態に配慮し、必要な場合には適切な部署に配置転換をすること。
(ヌ)働き過ぎによる健康障害防止の観点から、必要に応じて、産業医等による助言・指導を受け、又は対象労働者に産業医等による保健指導を受けさせること。
(2)留意事項
① 対象労働者については、業務の遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだね、使用者が具体的な指示をしないこととなるが、使用者は、このために当該対象労働者について、労働者の生命、身体及び健康を危険から保護すべき義務(いわゆる安全配慮義務)を免れるものではないことに留意することが必要である。
② 使用者は、対象労働者の勤務状況を把握する際、対象労働者からの健康状態についての申告、健康状態についての上司による定期的なヒアリング等に基づき、対象労働者の健康状態を把握することが望ましい。
このため、委員は、健康・福祉確保措置を講ずる前提として、使用者が対象労働者の勤務状況と併せてその健康状態を把握することを決議に含めることが望ましいことに留意することが必要である。
③ 労使委員会において、健康・福祉確保措置を決議するに当たっては、委員は、
- 長時間労働の抑制や休日確保を図るための当該事業場の「対象労働者全員」を対象とする措置として(1)の②の(イ)から(ニ)までに掲げる措置の中から一つ以上を実施することとし、
- かつ、勤務状況や健康状態の改善を図るための「個々の対象労働者」の状況に応じて講ずる措置として(1)の②の(ホ)から(ヌ)までに掲げる措置の中から一つ以上を実施すること
とすることが望ましいことに留意することが必要である。
④ 使用者及び委員は、把握した対象労働者の勤務状況及びその健康状態を踏まえ、(1)の②の(ハ)の措置を決議することが望ましいことに留意することが必要である。
⑤ 使用者が健康・福祉確保措置を実施した結果を踏まえ、特定の対象労働者には法第38条の4第1項の規定を適用しないこととする場合における、当該規定を適用しないこととした後の配置及び処遇又はその決定方法について、委員は、あらかじめ決議で定めておくことが望ましいことに留意することが必要である。
⑥ 使用者は、(1)の②に例示した措置(イ〜ヌの10項目)のほかに、対象労働者が創造的な能力を継続的に発揮し得る環境を整備する観点から、例えば、自己啓発のための特別な休暇の付与等対象労働者の能力開発を促進する措置を講ずることが望ましいものである。
このため、委員は、使用者が対象労働者の能力開発を促進する措置を講ずることを決議に含めることが望ましいことに留意することが必要である。
平成11年12月27日労働省告示第149号、 令和5年3月30日厚生労働省告示115号より
第5.|法第38条の4第1項第5号に規定する事項関係
(1)苦情処理措置に関し具体的に明らかにする事項
対象労働者からの「苦情処理措置」については、苦情の申出の窓口及び担当者、取り扱う苦情の範囲、処理の手順・方法等その具体的内容を明らかにするものであることが必要である。
(2) 留意事項
① 労使委員会において、苦情処理措置について決議するに当たり、委員は、使用者や人事担当者以外の者を申出の窓口とすること等の工夫により、対象労働者が苦情を申し出やすい仕組みとすることが適当であることに留意することが必要である。
また、取り扱う苦情の範囲については、委員は、企画業務型裁量労働制の実施に関する苦情のみならず、対象労働者に適用される評価制度及びこれに対応する賃金制度等企画業務型裁量労働制に付随する事項に関する苦情も含むものとすることが適当であることに留意することが必要である。
② 苦情処理措置として、労使委員会が対象事業場において実施されている苦情処理制度を利用することを決議した場合には、使用者は、対象労働者にその旨を周知するとともに、当該実施されている苦情処理制度が企画業務型裁量労働制の運用の実態に応じて機能するよう配慮することが適当であることに留意することが必要である。
③ 使用者及び委員は、労使委員会が苦情の申出の窓口としての役割を担うこと等により、委員が苦情の内容を確実に把握できるようにすることや、苦情には至らない運用上の問題点についても幅広く相談できる体制を整備することが望ましいことに留意することが必要である。
労使委員会の概要
労使委員会とは、賃金、労働時間、事業場におけるその他の労働条件に関する事項を調査審議し、事業主に対し意見を述べることを目的とする委員会です(労基法38条の4 第1項)
労使委員会は、使用者および事業場の労働者を代表する者で構成されるものに限られています。
条文については、企画業務型裁量労働制の概要を参照ください。
要件
労使委員会は、次の①~③に適合することが必要です(労基法38条の4 第2項)
- 委員会の委員の半数については、事業場に、過半数労働組合がある場合はその労働組合、ない場合は過半数代表者に、任期を定めて指名されていること
- 委員会の議事について、議事録が作成され、かつ、保存されるとともに、事業場の労働者に対する周知が図られていること
- 厚生労働省令で定める要件
上記③については、次の事項に関する規程(運営規程)を定めることが要件とされています(労基則24条の2の4 第4項)
- 労使委員会の招集、定足数および議事に関する事項
- 対象労働者に適用される評価制度および対応する賃金制度の内容の使用者からの説明に関する事項
- 制度の趣旨に沿った適正な運用の確保に関する事項
- 開催頻度を6カ月以内ごとに1回とすること
- 上記のほか、労使委員会の運営について必要な事項
なお、使用者は、③の運営規程の作成または変更については、労使委員会の同意を得なければなりません(労基則24条の2の4 第5項)
具体的な取り扱いは、労基則24条の2の4で定められています。
労働者側委員の指名
指名の対象とできるのは、管理監督者(労基法41条1項2号)以外の者です(労基則24条の2の4 第1項)
また、使用者の意向に基づかないことが必要です。
なお、委員数については、対象事業場の実態に応じて労使が任意に定めれば足りると解されています(平成12年1月1日基発1号)
ただし、労使各1名の委員による、合計2名で構成されるものは、労使委員会とは認められません(前掲通達)
議事録の作成および保存
使用者は、議事録を労使委員会の開催の都度、作成しなければなりません(労基則24条の2の4 第2項)
また、議事録は、委員会の開催の日から起算して5年間(労基則71条により当分の間は3年間)保存しなければなりません。
なお、「労使委員会の決議等」が行われた会議の議事録は、決議に係る書面の完結の日から起算して5年間(労基則71条により当分の間は3年間)保存しなければなりません。
議事録の周知
労使委員会の議事録は、次のいずれかの方法で、労働者に周知しなければなりません(労基則24条の2の4 第2項)
- 常時各作業場の見やすい場所へ掲示する、または備え付けること
- 書面を労働者に交付すること
- 電子データを社内LANなどで共有し、かつ、労働者がその内容を常時確認できるPCなどを設置すること
不利益な取扱い
使用者は、次の事項を理由として、「不利益な取扱いをしないようにしなければならない」と定められています(労基則24条の2の4 第6項)
- 労働者が労使委員会の委員であること
- 労使委員会の委員になろうとしたこと
- 労使委員会の委員として正当な行為をしたこと
必要な配慮
使用者は、労働者側に指名された委員が、労使委員会の決議等に関する事務を円滑に遂行できるよう、必要な配慮を行わなければなりません(労基則24条の2の4 第7項)
労使委員会の決議は、一定の事項についての労使協定に代替することが可能です(労基法38条の4 第5項)
協定代替決議が可能な制度は、下表に整理しておきます。
労使協定の届出が、そもそも不要な制度は「なし」、協定代替決議により不要となる場合は「不要」、協定代替決議によっても必要な場合は「必要」と表示しています。
制度 | 条項 | 協定代替決議による 届出の要否 |
1カ月単位の変形労働時間制 | 32条の2第1項 | 不要 |
フレックスタイム制 | 32条の3 | 不要 |
1年単位の変形労働時間制 | 32条の4第1項、第2項 | 不要 |
1週間単位の非定型的変形労働時間制 | 32条の5第1項 | 不要 |
休憩の一斉付与の適用除外 | 34条2項ただし書 | なし |
時間外・休日労働協定(36協定) | 36条1項 | 必要 |
代替休暇 | 37条3項 | なし |
事業場外労働のみなし労働時間 | 38条の2第2項 | 不要 |
専門業務型裁量労働制 | 38条の3第1項 | 不要 |
年次有給休暇の時間単位付与 | 39条4項 | なし |
年次有給休暇の計画的付与 | 39条6項 | なし |
年次有給休暇の賃金の定め | 39条9項ただし書 | なし |
なお、次の制度については、協定代替決議を行うことはできません(労使協定の締結が必要です)
- 貯蓄金の管理(任意貯金)18条2項
- 賃金からの一部控除 24条1項ただし書き
ここまで、専門業務型、企画業務型による裁量労働制について解説しました。
社労士試験では、両制度についての出題頻度は高くありません(手元の過去問題集を参照ください)
そのため、制度の概要を把握した後は、何度も繰り返し学習するよりも、たまに復習する程度が効率的でしょう。
(労基則の2の2の……読むだけでも時間がかかりますから…)
労使委員会については、余裕があれば、「5分の4以上の多数による決議」の他にも、協定代替決議の可否、決議の届出の要否も把握してください。
指針については、暗記するには厳しい情報量なので、必要なときに調べる程度でよろしいかと。参考まで。
最後に、この記事を簡単に整理して終わりにします。
専門業務型裁量労働制
要件|
労使協定を締結する。
効果|
労働者を対象業務に就かせたときは、労使協定で定める時間を労働したものとみなす。
対象業務|
業務の性質上その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する労働者の裁量にゆだねる必要があるため、当該業務の遂行の手段および時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をすることが困難なものとして厚生労働省令で定める業務のうち、労働者に就かせることとする業務。
協定事項|
- 対象業務
- 対象業務に従事する労働者の労働時間として算定される時間(みなし労働時間)
- 対象業務の遂行の手段および時間配分の決定等に関し、対象業務に従事する労働者に対し使用者が具体的な指示をしないこと
- 対象業務に従事する労働者の労働時間の状況に応じた健康・福祉確保措置を協定で定め、使用者が措置を講じること
- 対象業務に従事する労働者からの苦情処理措置を協定で定め、使用者が措置を講じること
- 労働者本人の同意を得ること。および、同意をしなかった労働者に対して、解雇その他不利益な取扱いをしないこと
- 同意の撤回に関する手続
- 労使協定(労働協約を除く)の有効期間の定め
- 使用者は、労働者の労働時間の状況、健康・福祉確保措置の実施状況、苦情処理措置の実施状況、同意および同意の撤回に関する労働者ごとの記録を、労使協定の有効期間中および有効期間の満了後5年間(当分の間は3年間)保存すること
企画業務型裁量労働制
要件|
労使委員会が設置された事業場において、委員の5分の4以上の多数による議決により決議し、使用者が所轄労働基準監督署長に決議(届)を届け出る。
効果|
対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者を、対象業務に就かせたときは、労使委員会で決議した時間を労働したものとみなす。
対象業務|
事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査および分析の業務であって、当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるため、当該業務の遂行の手段および時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務。
決議事項|
- 対象業務
- 企画業務型裁量労働制の対象となる労働者の範囲
- 対象業務に従事する②の範囲に属する労働者(対象労働者)の労働時間として算定される時間(みなし労働時間)
- 対象労働者の労働時間の状況に応じた健康・福祉確保措置を決議で定め、使用者が措置を講じること。
- 対象労働者からの苦情処理措置を決議で定め、使用者が措置を講じること。
- 労働者本人の同意を得ること。および、同意をしなかった労働者に対して、解雇その他不利益な取扱いをしないこと
- 同意の撤回に関する手続
- 使用者は、対象労働者に適用される評価制度および対応する賃金制度を変更する場合に、労使委員会に変更の内容について説明を行うこと
- 決議の有効期間の定め
- 使用者は、労働者の労働時間の状況、健康・福祉確保措置の実施状況、苦情処理措置の実施状況、同意および同意の撤回に関する労働者ごとの記録を、労使協定の有効期間中および有効期間の満了後5年間(当分の間は3年間)保存すること
(参考資料等)
厚生労働省|厚生労働省法令等データベースサービスより|https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/kensaku/index.html
- 労働基準法38条3、38条の4、120条
- 労働基準法施行規則24条の2の2、24条の2の2の2、24条の2の3、24条の2の3の2、24条の2の4、24条の2の5、71条
- 平成9年2月14日労働省告示7号(労働基準法施行規則第24条の2の2第2項第6号の規定に基づき厚生労働大臣の指定する業務)
- 平成11年1月29日基発45号(労働基準法の一部を改正する法律の施行について)
- 平成15年10月22日基発1022001号(労働基準法の一部を改正する法律の施行について)
厚生労働省|ホームページより|
https://www.mhlw.go.jp/general/seido/roudou/senmon/b1s.html
- 平成11年12月27日労働省告示149号(労働基準法第38条の4第1項の規定により同項第1号の業務に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るための指針)
厚生労働省|ホームページ|裁量労働制の概要より|
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/roudouzikan/sairyo.html
- 専門業務型裁量労働制の解説
- 企画業務型裁量労働制の解説
- 令和5年厚生労働省令39号
- 令和5年厚生労働省告示115号
- 令和5年8月2日基発0802第7号(裁量労働制等の施行について)