この記事では、労働基準法10章(寄宿舎)に関する次の規定を解説しています。
- 寄宿舎生活の自治(94条)
- 寄宿舎生活の秩序(95条)
- 寄宿舎の設備及び安全衛生(96条)
- 監督上の行政措置(96条の2)
- 行政官庁による使用停止命令(96条の3)
- 使用停止等の命令権(103条)
社会保険労務士試験の独学、労務管理担当者の勉強などに役立てれば嬉しいです。
以降、労基法10章の条文を中心に解説します。
当記事は、条文等の趣旨に反するような極端な意訳には注意しております。ただし、厳密な表現と異なる部分もございます。
詳しくは免責事項をご確認ください。
寄宿舎生活の自治(94条)
労基法94条では、寄宿する労働者の私生活が使用者から干渉されないよう、寄宿舎生活の自治を定めています。
① 使用者は、事業の附属寄宿舎に寄宿する労働者の私生活の自由を侵してはならない。
② 使用者は、寮長、室長その他寄宿舎生活の自治に必要な役員の選任に干渉してはならない。
ちなみに、寄宿舎の管理人、寮母等を置いても私生活の自由を侵さない限り本条に抵触しません(昭和22年9月13日発基17号)
罰則
労基法94条1項については罰則の定めはありません。
一方、法94条2項の違反には、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が定められています(労基法119条)
労働者の私生活の自由を侵す行為
事業附属寄宿舎規程4条、建設業附属寄宿舎規程5条にて、次のように例示されています。
- 外出又は外泊について使用者の承認を受けさせること
- 教育、娯楽その他の行事に参加を強制すること
- 共同の利益を害する場所及び時間を除き、面会の自由を制限すること
次の①②両方の条件を満たすものが労基法第10章の適用を受ける「事業の附属寄宿舎」です(昭和23年3月30日基発508号)
- 「寄宿舎」とは、常態として相当人数の労働者が宿泊し、共同生活の実態を備えるものをいう
- 「事業に附属する」とは、事業経営の必要上その一部として設けられているような、事業との関連をもつこと
①「寄宿舎」であるか否か
概ね次の基準によって総合的に判断されます(昭和23年3月30日基発508号)
- 相当人数の労働者が宿泊しているか否か
- その場所が独立又は区画された施設であるか否か
- 共同生活の実態を備えているか否か、すなわち単にトイレ、炊事場、浴室等が共同となっているだけではなく、一定の規律、制限により労働者が通常、起居寝食等の生活態様を共にしているか否か
②「事業に附属する」か否か
概ね次の基準によって総合的に判断されます(昭和23年3月30日基発508号)
- 宿泊している労働者については、労務管理上共同生活が要請されているか否か
- 事業場内又はその付近にあるか否か
該当しない例
次のような施設は「事業の附属寄宿舎」に該当しません(前掲通達、昭和36年9月30日基収5389号)
- 社宅のように労働者がそれぞれ独立の生活を営むもの
- 住込みのように少人数の労働者が事業主と生活をともにするもの
- 福利厚生施設として設置されるアパート式のもの
- 共同生活の実態のない合宿所
寄宿舎生活の秩序(95条)
使用者には、必要記載事項を定めた寄宿舎規則の作成と届出が義務付けられています。
① 事業の附属寄宿舎に労働者を寄宿させる使用者は、左の事項について寄宿舎規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。これを変更した場合においても同様である。
一 起床、就寝、外出及び外泊に関する事項
二 行事に関する事項
三 食事に関する事項
四 安全及び衛生に関する事項
五 建設物及び設備の管理に関する事項
② 使用者は、前項第一号乃至第四号の事項に関する規定の作成又は変更については、寄宿舎に寄宿する労働者の過半数を代表する者の同意を得なければならない。
③ 使用者は、第一項の規定により届出をなすについて、前項の同意を証明する書面を添附しなければならない。
④ 使用者及び寄宿舎に寄宿する労働者は、寄宿舎規則を遵守しなければならない。
就業規則の作成または変更(意見聴取)と異なり、第1項1号から4号については、労働者側の同意が必要です。
寄宿舎規則の届出先は、所轄労働基準監督署長です(寄宿舎規程1条の2)
使用者は、寄宿舎規則の作成または変更について、その案をあらかじめ寄宿舎に寄宿する労働者に周知させなければなりません(寄宿舎規程2条)
また、使用者は、寄宿舎に労働者を寄宿させるに際し、当該労働者に対して寄宿舎規則を示すことが必要です(寄宿舎規程3条)
さらに、寄宿舎規則は法令等の周知義務の対象です。そのため、掲示または備え付け等の方法によって、寄宿舎に寄宿する労働者に周知させなければなりません(労基法106条2項)
罰則
労基法95条1項または2項の違反には、30万円以下の罰金が定められています(労基法120条)
寄宿舎の設備及び安全衛生(96条)
労基法96条では、事業の附属寄宿舎について、使用者が講じなければならない措置を定めています。
① 使用者は、事業の附属寄宿舎について、換気、採光、照明、保温、防湿、清潔、避難、定員の収容、就寝に必要な措置その他労働者の健康、風紀及び生命の保持に必要な措置を講じなければならない。
② 使用者が前項の規定によって講ずべき措置の基準は、厚生労働省令で定める。
講ずべき措置の基準は、事業附属寄宿舎規程、建設業附属寄宿舎規程で定められています。
例えば、寄宿舎の設置を避けるべき場所、お風呂やトイレの基準などがあります。
罰則
労基法96条の違反者は、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金の対象です(労基法119条)
監督上の行政措置(96条の2)
次のいずれかの事業は、附属寄宿舎の設置、移転、変更について、計画の届出が義務付けられています。
- 常時10人以上の労働者を就業させる事業
- 厚生労働省令で定める危険または衛生上有害な事業
① 使用者は、常時10人以上の労働者を就業させる事業、厚生労働省令で定める危険な事業又は衛生上有害な事業の附属寄宿舎を設置し、移転し、又は変更しようとする場合においては、前条の規定に基づいて発する厚生労働省令で定める危害防止等に関する基準に従い定めた計画を、工事着手14日前までに、行政官庁に届け出なければならない。
② 行政官庁は、労働者の安全及び衛生に必要であると認める場合においては、工事の着手を差し止め、又は計画の変更を命ずることができる。
第1項の届出先は、所轄労働基準監督署長です(寄宿舎規程3条の2)
「厚生労働省令で定める危険な事業又は衛生上有害な事業」については、下のタブに格納しておきます。
法96条の2第1項の厚生労働省令で定める危険な事業又は衛生上有害な事業は、次に掲げる事業とする。
一 使用する原動機の定格出力の合計が2.2kw以上である(労基)法別表第一第一号から第三号までに掲げる事業
二 次に掲げる業務に使用する原動機の定格出力の合計が1.5kw以上である事業
- プレス機械又はシヤーによる加工の業務
- 金属の切削又は乾燥研まの業務
- 木材の切削加工の業務
- 製綿、打綿、麻のりゆう解、起毛又は反毛の業務
三 主として次に掲げる業務を行なう事業
- (労基則)別表第四に掲げる業務
- 労働安全衛生法施行令第六条第三号に規定する機械集材装置又は運材索道の取扱いの業務
四 その他厚生労働大臣の指定するもの
罰則
第1項の届出義務違反には、30万円以下の罰金が定められています(労基法120条)
第2項の命令違反には、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が定められています(労基法119条)
行政官庁による使用停止等の命令(96条の3)
事業の附属寄宿舎についての安全衛生基準に違反があった場合には、行政官庁による使用停止等の命令が認められています。
① 労働者を就業させる事業の附属寄宿舎が、安全及び衛生に関し定められた基準に反する場合においては、行政官庁は、使用者に対して、その全部又は一部の使用の停止、変更その他必要な事項を命ずることができる。
② 前項の場合において行政官庁は、使用者に命じた事項について必要な事項を労働者に命ずることができる。
使用者のみならず、労働者も命令の対象です。
罰則
第1項の命令に違反した使用者に対しては、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が定められています(労基法119条)
第2項の命令に違反した労働者に対しては、30万円以下の罰金が定められています(労基法120条)
臨検時に既に危険が差し迫っているなど、労基法96条3の命令を待っていては労働者に現実の危険が及ぶケースも考えられます。
そこで、労基法96条の3による権限を労働基準監督官が自ら行使できる規定が設けられています。
労働者を就業させる事業の附属寄宿舎が、安全及び衛生に関して定められた基準に反し、且つ労働者に急迫した危険がある場合においては、労働基準監督官は、第九十六条の三の規定による行政官庁の権限を即時に行うことができる。
命令に違反した者は、法96条の3と同様に罰則の対象です。
ここまで次の規定を解説しました。
- 寄宿舎生活の自治(94条)
- 寄宿舎生活の秩序(95条)
- 寄宿舎の設備及び安全衛生(96条)
- 監督上の行政措置(96条の2)
- 行政官庁による使用停止命令(96条の3)
- 使用停止等の命令権(103条)
寄宿舎については、人によっては馴染みが薄いかもしれません。
また、社労士試験においても出題頻度は高くありません。
(令和6年度の択一式で一肢出題されましたが、解答に影響しない選択肢でした)
必然的に試験勉強の優先度は下がるため、たまに復習する程度でよろしいかと。
この記事では、解説内容のまとめを省略します。必要なときに条文を確認してみてください。
(参考資料等)
厚生労働省|厚生労働省法令等データベースサービスより|https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/kensaku/index.html
- 労働基準法94条、95条、96条、96条の2、96条の3、106条、119条、120条
- 労働基準法施行規則50条の2
- 事業附属寄宿舎規程1条の2、2条、3条、3条の2、4条
- 建設業附属寄宿舎規程5条
解釈例規(昭和63年3月14日基発150号)