労働契約法の3章(労働契約の継続及び終了)から、次の規定を解説しています。
- 出向(14条)
- 懲戒(15条)
- 解雇(16条)
解雇制限(労基法19条)はこちら、解雇予告(労基法20条、21条)はこちらで解説しています。
社会保険労務士試験の独学、労務管理担当者の勉強などに役立てれば嬉しいです。
当記事は、条文等の趣旨に反するような極端な意訳には注意しております。ただし、厳密な表現と異なる部分もございます。
詳しくは免責事項をご確認ください。
出向
労契法14条の「出向」とは、いわゆる在籍型出向(*1)を意味します(平成24年8月10日基発0810第2号)
(*1)使用者(出向元)と出向を命じられた労働者との間の労働契約関係が終了することなく、出向を命じられた労働者が出向先に使用されて労働に従事すること。
使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする。
出向命令の発令
「使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において」とは、労働契約を締結することにより直ちに使用者が出向を命ずることができるものではなく、どのような場合に使用者が出向を命ずることができるのかについては、個別具体的な事案に応じて判断されます(平成24年8月10日基発0810第2号)
出向命令の内容
使用者が労働者に出向を命ずることができる場合(例えば、出向規程を根拠に発せられる命令)であっても、出向命令(の内容)が権利濫用に該当すると、その出向命令は無効となります。
「権利濫用」であるかは、出向を命ずる必要性、対象労働者の選定に係る事情などが考慮されます。
「出向労働者の個別の同意」がなくとも「出向を命ずることができる」か否かです。
転籍(いわゆる移籍型出向)については、現在の労働契約が終了して、新たな事業主と労働契約を締結するため、一般的には労働者の個別の同意が必要として取り扱われています(民法625条1項)
在籍型出向については、ある事情(*2)のもとでは、個別の同意までは要しないと解されています(最二小判 平15.4.18 新日本製鐵(日鐵運輸第2)事件)
(*2)出向命令の内容が、使用者が一定の業務を協力会社に業務委託することに伴い、委託される業務に従事していた労働者に対して在籍型出向を命ずるものであって、就業規則及び労働協約には業務上の必要によって社外勤務をさせることがある旨の規定があり、労働協約には社外勤務の定義、出向期間、出向中の社員の地位、賃金その他処遇等に関して出向労働者の利益に配慮した詳細な規定があるという事情
上記の事案では、労働者との個別の同意がなくとも、(在籍型)出向命令の発令が認められました。
また、出向元との労働契約関係の存続自体が形がい化しているとはいえない場合に、出向期間の長期化をもって直ちに転籍と同視することはできない と示されています(前掲 新日本製鐵(日鐵運輸第2)事件)
出向命令の内容については、使用者の経営判断、人選基準、労働者の生活関係や労働条件(不利益の程度)、発令に至る手続が考慮され、権利濫用にあたらないと判断されました。
懲戒
懲戒は、使用者が企業秩序を維持し、企業の円滑な運営を図るために行われます(平成24年8月10日基発0810第2号)
労契法15条の「懲戒」は、労基法89条9号の「制裁」と同義です(前掲通達)
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
事業場に懲戒(制裁)の定めがある場合には、懲戒の種類および程度を就業規則に記載しなければなりません(労基法89条)
そして、就業規則が法的規範としての性質を有するものとして、拘束力を生ずるためには、その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていること が必要です(最二小判 平15.10.10 フジ興産事件)
ただし、懲戒について就業規則に記載し、労働者に周知していた場合でも、懲戒が権利濫用に該当するならば無効となります(労契法15条)
「権利濫用」であるかは、懲戒の原因となった労働者の行為の性質や態様などが考慮されます。
参考|最二小判 平18.10.6 ネスレ日本事件(懲戒解雇)
従業員が職場で上司に対して暴行事件を起こしたことなどが就業規則の懲戒解雇事由に該当するとして、事件から7年以上経過した後に諭旨退職処分を行った事案です。
(暴行事件から約6年後に不起訴処分となりました)
上記事案については、事件には目撃者がいたため捜査結果を待たずとも処分決定は十分可能だったこと、諭旨退職処分がされた時点で企業秩序を維持する観点から重い懲戒処分を必要とする状況はなかったことなどから、権利の濫用として当該処分は無効と示されました。
参考|最二小判 昭49.3.15 日本鋼管事件
簡単にいうと、職場外の犯罪行為を理由とする懲戒処分です。
営利を目的とする会社がその名誉、信用その他相当の社会的評価を維持することは、会社の存立ないし事業の運営にとって不可欠であるから、会社の社会的評価に重大な悪影響を与えるような従業員の行為については、それが職務遂行と直接関係のない私生活上で行われたものであっても、これに対して会社の規制を及ぼしうることは当然認められなければならない と示されました。
どの程度の行為であれば懲戒処分が相当であるかは個別に判断されますが、職場外での行為についても懲戒の対象となります。
解雇
「解雇」とは、使用者側からの一方的な意思表示によって労働契約を終了させることです。
労働契約の終了でも、任意退職(労働者からの一方的な意思表示による解約)、合意退職(実質的に労使が合意したうえでの解約)は解雇に含まれません。
なお、退職勧奨については、労働者の自由な意思形成を妨げたり、名誉感情を傷つけるような言動によって行われたものは、違法と判断されるケースがあります(最一小判 昭55.7.10 下関商業高校事件など)
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
労契法16条の考え方は、一般的に「解雇権濫用法理」といわれています。
主張立証責任
通達によると、労契法16条(改正前労基法18条の2)について、次のように示されています(平成24年8月10日基発0810第2号)
最高裁判所で確立した解雇権濫用法理とこれに基づく民事裁判実務の通例に則して作成されたものであることを踏まえ、解雇権濫用の評価の前提となる事実のうち圧倒的に多くのものについて使用者側に主張立証責任を負わせている現在の裁判上の実務を変更するものではない。
整理解雇とは、経営不振などを理由とした人員削減です。一言でいうとリストラです。
判断基準は確立されてはいませんが、次の4つの事項を総合的に考慮して判断されています。
- 人員削減の必要性
- 解雇回避の努力
- 人選の合理性
- 解雇手続の妥当性
一般的には、上記4つを合わせて「整理解雇の4要件(要素)」といいます。
ただ、要件とありますが、4つ全てが満たされないと整理解雇が無効となるとまでは解されていません。
参考となる裁判例の一部を下のタブに格納しておきます。余裕がある方は、一読してみてください。
特定の事業部門の閉鎖に伴い右事業部門に勤務する従業員を解雇するについて、それが「やむを得ない事業の都合」によるものと言い得るためには、第一に、右事業部門を閉鎖することが企業の合理的運営上やむをえない必要に基づくものと認められる場合であること、第二に、右事業部門に勤務する従業員を同一又は遠隔でない他の事業場における他の事業部門の同一又は類似職種に充当する余地がない場合、あるいは右配置転換を行ってもなお全企業的に見て剰員の発生が避けられない場合であって、解雇が特定事業部門の閉鎖を理由に使用者の恣意によってなされるものでないこと、第三に、具体的な解雇対象者の選定が客観的、合理的な基準に基づくものであること、以上の三個の要件を充足することを要し、特段の事情のない限り、それをもって足りるものと解するのが相当である。
以上の要件を超えて、右事業部門の操業を継続するとき、又は右事業部門の閉鎖により企業内に生じた過剰人員を整理せず放置するときは、企業の経営が全体として破綻し、ひいては企業の存続が不可能になることが明らかな場合でなければ従業員を解雇し得ないものとする考え方には、同調することができない。
(中略)
なお、解雇につき労働協約又は就業規則上いわゆる人事同意約款又は協議約款が存在するにもかかわらず労働組合の同意を得ず又はこれと協議を尽くさなかったとき、あるいは解雇がその手続上信義則に反し、解雇権の濫用にわたると認められるとき等においては、いずれも解雇の効力が否定されるべきであるけれども、これらは、解雇の効力の発生を妨げる事由であって、その事由の有無は、就業規則所定の解雇事由の存在が肯定されたうえで検討されるべきものであり、解雇事由の有無の判断に当たり考慮すべき要素とはならないものというべきである。
ここまで、労契法の3章から次の規定を解説しました。
- 出向(14条)
- 懲戒(15条)
- 解雇(16条)
就業規則等を根拠にされた出向、懲戒、解雇でも、権利の濫用と判断されると無効です。
社労士試験の過去問を確認すると、出向の発令は「労働者の同意を得たときのみ有効」という趣旨の記述が繰り返しみられます。
先に解説したとおり、個別の同意までは要しない旨を示した判例があります。
懲戒については、就業規則との関係が問われています。
懲戒は制裁と同義とされており、懲戒の制度を設ける場合には、就業規則に「その種類及び程度」の記載が必要です(相対的必要記載事項)
解雇については、解雇が妥当か否かを具体的に判断させる出題は考えにくいため、労基法の学習(労基法19条〜21条)を中心に進めてみてください。
ちなみに、択一式では、各条文を改変した記述がみられます。
幸い、条文の文字数は比較的少ないため、過去問を解きつつ覚えてみてください。
(参考資料等)
厚生労働省|厚生労働省法令等データベースサービスより|https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/kensaku/index.html
- 労働契約法14条、15条、16条
厚生労働省ホームページ|労働契約法についてより|
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_21911.html
- 関連通達(労働契約法の施行について 平成24年8月10日基発0810第2号)
- 参考となる裁判例
- 労働契約法のあらまし
厚生労働省ホームページ|労働契約の終了に関するルールより|
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudouseisaku/chushoukigyou/keiyakushuryo_rule.html
- 整理解雇
- 退職勧奨について