この記事では、労働契約法の1章(総則)、5章(雑則)から、次の規定を解説しています。
- 目的(1条)
- 定義(2条)
- 労働契約の原則(3条)
- 労働契約の内容の理解の促進(4条)
- 労働者の安全への配慮(5条)
- 船員に関する特例(20条)
- 適用除外(21条)
社会保険労務士試験の独学、労務管理担当者の勉強などに役立てれば嬉しいです。
当記事は、条文等の趣旨に反するような極端な意訳には注意しております。ただし、厳密な表現と異なる部分もございます。
詳しくは免責事項をご確認ください。
総則
総則では、用語の定義や原則論が定められています。
ちなみに、社労士試験の過去問を確認すると、知っていれば解ける問題(いわゆる知識問題)が多くみられます。
初見の方は、はじめから詳細を暗記するよりも、まずは知識を増やすことを意識して学習してみてください。
はじめに、労働契約法の目的です。
社労士試験の試験対策として条文を載せておきます。
この法律は、労働者及び使用者の自主的な交渉の下で、労働契約が合意により成立し、又は変更されるという合意の原則その他労働契約に関する基本的事項を定めることにより、合理的な労働条件の決定又は変更が円滑に行われるようにすることを通じて、労働者の保護を図りつつ、個別の労働関係の安定に資することを目的とする。
趣旨
法制定の趣旨は、おおむね次のように説明されています(平成24年8月10日基発0810第2号)
- 労働契約法の制定により、労働契約における権利義務関係を確定させる法的根拠が示され、労働契約に関する民事的なルールが明らかになります。
- ①により、労働者及び使用者にとって予測可能性が高まるとともに、労働者及び使用者が法によって示された民事的なルールに沿った合理的な行動をとることが促されます。
- ②を通じて、個別労働関係紛争が防止され、労働者の保護を図りつつ、個別の労働関係の安定に資することが期待されます。
罰則について
労基法については、罰則をもって労働条件の最低基準を定めています。
一方、労契法については、労働基準監督官による監督指導は行われず、罰則はありません。
労基法における定義との違いに着目してみてください。
1 この法律において「労働者」とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者をいう。
2 この法律において「使用者」とは、その使用する労働者に対して賃金を支払う者をいう。
ちなみに「賃金」は、労基法11条の賃金と同義です(平成24年8月10日基発0810第2号)
比較のために、労基法における定義も載せておきます。
参考|労基法における「労働者(9条)」「使用者(10条)」「賃金(11条)」
- この法律(労働基準法)で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
- この法律(労働基準法)で「使用者」とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう。
- この法律(労働基準法)で「賃金」とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。
労働契約法における「労働者」の範囲
「労契法の労働者」の判断基準は「労基法9条の労働者」と同様です(平成24年8月10日基発0810第2号)
労契法2条1項の「労働者」に該当するか否かは、使用従属関係が認められるか否か(*1)により判断されます。
(*1)労務提供の形態(指揮監督下の労働)、報酬の労務対償性、判断を補強する諸要素を勘案して総合的に判断されます。
なお、それぞれの法律の適用除外となる範囲は異なります(適用除外については後述します)
労働契約法における「使用者」の範囲
結論としては、「労契法の使用者」は「労基法10条の事業主」に相当します(前掲通達)
そのため、「労契法の使用者」の範囲は、「労基法の使用者」よりも狭く(より限定的に)なります。
個人企業の場合はその企業主個人を、会社その他の法人組織の場合はその法人そのものをいいます。
労契法3条では、労働契約について5つの原則が定められています。
- 労使対等の原則
- 均衡考慮の原則
- 仕事と生活の調和への配慮の原則
- 信義誠実の原則
- 権利濫用の禁止の原則
1 労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。
2 労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。
3 労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。
4 労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。
5 労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない。
1項|労使対等の原則
労基法2条1項と趣旨は同じです(平成24年8月10日基発0810第2号)
労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである。
2項|均衡考慮の原則
考慮すべき均衡には、異なる雇用形態間の均衡も含まれます(前掲通達)
正社員と多様な正社員(例えば、勤務地を限定する正社員など)の間の処遇の均衡にも、かかる原則は及びます(平成26年7月30日基発0730第1号)
3項|仕事と生活の調和への配慮の原則
正社員と多様な正社員との間の転換にも、かかる原則は及びます(前掲通達)
4項|信義誠実の原則
労基法2条2項と趣旨は同じです(平成24年8月10日基発0810第2号)
労働者及び使用者は、労働協約、就業規則及び労働契約を遵守し、誠実に各々その義務を履行しなければならない。
5項|権利濫用の禁止の原則
「権利濫用の禁止の原則」は、労契法3章(*2)で規定していない場面においても適用されます(前掲通達)
(*2)3章では、出向、懲戒、解雇に関する権利濫用を禁止しています。
労働契約の内容があいまいなまま労働契約関係が継続することのないよう、契約内容を書面で確認するよう促しています。
1 使用者は、労働者に提示する労働条件及び労働契約の内容について、労働者の理解を深めるようにするものとする。
2 労働者及び使用者は、労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む。)について、できる限り書面により確認するものとする。
労契法4条の場面は、労働条件の明示(労基法15条1項)が義務付けられている「労働契約の締結時」より広いと解されています(平成24年8月10日基発0810第2号)
なお、「労働契約の成立」そのものは、労使の合意が要件です(労契法6条)
(書面での締結が一般的でしょうが、口頭でも労働契約は成立します)
労契法5条は、使用者のいわゆる安全配慮義務を定めています。
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
使用者は、労働契約に特段の根拠規定がなくとも、労働契約上の付随的義務として当然に安全配慮義務を負います(平成24年8月10日基発0810第2号)
安全配慮義務は、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきものである。
ちなみに、労働契約法は、労働契約の基本的な理念及び労働契約に共通する原則や、判例法理に沿った労働契約の内容の決定及び変更に関する民事的なルール等を一つの体系としてまとめるべく、制定(平成20年3月に施行)されました(前掲通達)
心身の健康
労契法5条の「生命、身体等の安全」には、心身の健康も含まれます(平成24年8月10日基発0810第2号)
なお、労働者にとって過重な業務が続く中でその体調の悪化が看取される場合には、メンタルヘルスに関する情報は労働者からの積極的な申告が期待し難いことを前提とした上で、必要に応じて業務を軽減するなど労働者の心身の健康への配慮に努める必要があると示した判例もあります(最二小判 平26.3.24 東芝事件)
必要な配慮の程度
「必要な配慮」とは、一律に定まるものではなく、使用者に特定の措置を求めるものではありません(前掲通達)
(それゆえ、実際の担当者にとっては配慮の程度が難しいといえるかもしれません)
労働者は、使用者の指定した場所に配置され、使用者の供給する設備、器具等を用いて労務の提供を行うものであるから、使用者は、右の報酬支払義務にとどまらず、労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務(以下「安全配慮義務」という。)を負っているものと解するのが相当である。
もとより、使用者の右の安全配慮義務の具体的内容は、労働者の職種、労務内容、労務提供場所等安全配慮義務が問題となる当該具体的状況等によって異なるべきものである。
雑則
ここからは雑則の解説に移ります。
雑則(5章)では、船員に関する特例と適用除外について定められています。
1 第12条及び前章の規定は、船員法の適用を受ける船員(次項において「船員」という。)に関しては、適用しない。
2 船員に関しては、第7条中「第12条」とあるのは「船員法第100条」と、第10条中「第12条」とあるのは「船員法第100条」と、第11条中「労働基準法第89条及び第90条」とあるのは「船員法第97条及び第98条」と、第13条中「前条」とあるのは「船員法第100条」とする。
ちなみに、労基法は総則とその罰則を除いて船員には適用されません(労基法116条1項)
第1項
労契法12条は、船員法100条に同趣旨の規定が定められているため、船員に関しては適用されません(平成24年8月10日基発0810第2号)
また、労契法の4章(期間の定めのある労働契約)についても、船員に関しては適用されません。
船員法における雇入契約は、有期労働契約(期間の定めのある労働契約)を原則としていますが、雇入契約の解除事由については、船員法40条および41条に具体的な規定が定められています(前掲通達)
第2項
第2項は、船員に労働契約法を適用するための読替え規定です。
1 この法律は、国家公務員及び地方公務員については、適用しない。
2 この法律は、使用者が同居の親族のみを使用する場合の労働契約については、適用しない。
第1項
国家公務員および地方公務員は、任命権者との間に労働契約がないことから、労働契約法が適用されません(平成24年8月10日基発0810第2号)
第2項
第2項は、使用者(事業主)が「同居の親族のみを使用する」場合の規定です。
同居の親族についてはその結びつき(特に経済的関係)が強く、一般の労働者及び使用者と同様の取扱いをすることは適当でないため、労働契約法は適用されません(前掲通達)
ちなみに、「家事使用人」については、労働基準法は適用除外ですが、労働契約法は適用されます。
この法律(労働基準法)は、同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については、適用しない。
ここまで労働契約法の1章(総則)、5章(雑則)について解説しました。
社労士試験の一般常識科目(労一)では、労働契約法から毎年のように出題されています。
ちなみに、既出の論点については、文言を変えて出題されています。
過去問題を解く際は、記述の正誤を暗記するのではなく、正誤の理由まで学習してみてください。
また、通達(平成24年8月10日基発0810第2号)からの出題もみられます。
判例も掲載されているため、一通り学習を終えた後に一読してみてください。
(当記事の参考資料等にリンクを載せておきます)
(参考資料等)
厚生労働省|厚生労働省法令等データベースサービスより|https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/kensaku/index.html
- 労働契約法1条、2条、3条、4条、5条、20条、21条
- 労働基準法9条、10条、11条、116条
- 多様な正社員に係る「雇用管理上の留意事項」等について(平成26年7月30日基発0730第1号)
厚生労働省ホームページ|労働契約法についてより|
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_21911.html
- 関連通達(労働契約法の施行について 平成24年8月10日基発0810第2号)
- 参考となる裁判例
- 労働契約法のあらまし