2025年対応|社労士試験の独学|労一|育児介護休業法⑥|事業主が講ずべき措置(育児)

まえがき

この記事では、育児介護休業法の9章のうち、育児についての措置を解説しています。

解説では次のように略称を使用しています。

  • 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律
    ⇒ 育児介護休業法、育介法
  • 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律施行規則
    ⇒ 則

また、当記事においては、次の事項に留意してください。

  • 通達「平成28年8月2日 職発0802第1号」は、当記事の投稿時における直近の改正「令和5年4月28日 雇均発0428第3号」で表記しています
  • 解説中にある育児介護休業法の条項は、令和7年10月1日施行で記載しています
  • 解説中にある施行規則は、令和7年10月1日施行で記載しています
  • 解説中の「リーフレット」とは、厚生労働省で提供している「育児・介護休業法改正のポイント」をいいます
  • 解説中の「Q&A」とは、厚生労働省で提供している「令和6年改正育児・介護休業法に関するQ&A(令和6年11月19日時点)」をいいます

リーフレットおよびQ&Aそのものは、厚生労働省のホームページ(外部サイトへのリンク)で確認してください。

当記事は、条文等の趣旨に反するような極端な意訳には注意しております。ただし、厳密な表現と異なる部分もございます。

詳しくは免責事項をご確認ください。

目次 表示

21条|妊娠又は出産等についての申出があった場合等における措置等

育休等の制度の周知と意向の確認

以降の「労働者」からは、日々雇用される者を除きます(育介法2条)

事業主には、労働者から「本人または配偶者が妊娠したり、出産した」という報告を受けたら、育児休業に関する制度を知らせて、育児休業および産後パパ育休についての意向を確認する義務が定められています。

(4項および5項は、介護に係る規定です)

制度の周知と意向の確認|1項

義務

  • 労働者または配偶者が妊娠したこと
  • 労働者または配偶者が出産したこと
  • その他これに準ずる一定の事実(*1)

事業主は、労働者が上記のいずれかを申し出たときは、当該労働者に対して、次の①および②を実施しなければなりません。

  • 育児休業に関する制度などの一定の事項(*2)を、一定の方法(*3)で知らせること
  • 育児休業申出および出生時育児休業申出(育児休業申出等といいます)に係る当該労働者の意向を確認するために、面談などの一定の措置(*4)を講ずること

(*1)厚生労働省令で定める事実として、養子縁組里親として1歳に満たない児童を委託されていること等が規定されています。

(以降、必要に応じてタブを開閉してください)

法第二十一条第一項の厚生労働省令で定める事実は、次のとおりとする。

一 労働者が民法第八百十七条の二第一項の規定により特別養子縁組の成立について家庭裁判所に請求し、一歳に満たない者を現に監護していること又は同項の規定により特別養子縁組の成立について家庭裁判所に請求することを予定しており、当該請求に係る一歳に満たない者を監護する意思を明示したこと。

二 労働者が児童福祉法第二十七条第一項第三号の規定により養子縁組里親として一歳に満たない児童を委託されていること又は当該児童を受託する意思を明示したこと。

三 労働者が第一条第一項に該当する労働者であって、同条第二項に定めるところにより一歳に満たない者を委託されていること又は当該者を受託する意思を明示したこと。


(*2)厚生労働省令で定める事項として、育児休業に関する制度、雇用保険の給付に関すること等が規定されています。

第二十一条第一項の厚生労働省令で定める事項は、次のとおりとする。

一 育児休業に関する制度

二 育児休業申出等(育児休業申出及び出生時育児休業申出をいう。第七十一条において同じ。)の申出先

三 雇用保険法第六十一条の六第二項に規定する育児休業給付及び同条第三項に規定する出生後休業支援給付に関すること。

四 労働者が育児休業期間及び出生時育児休業期間について負担すべき社会保険料の取扱い


(*3)厚生労働省令で定める事項を知らせる方法として、書面の交付などが規定されています。

1 法第二十一条第一項の規定により、労働者に対して、次条に定める事項を知らせる場合は、次のいずれかの方法(第三号及び第四号に掲げる方法にあっては、労働者が希望する場合に限る。)によって行わなければならない。

一 面談による方法

二 書面を交付する方法

三 ファクシミリを利用して送信する方法

四 電子メール等の送信の方法(当該労働者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるものに限る。)

2 次条に定める事項について、労働者に対して、前項第三号の方法により知らせた場合は、当該労働者の使用に係るファクシミリ装置により受信した時に、同項第四号の方法により知らせた場合は、当該労働者の使用に係る通信端末機器により受信した時に、それぞれ当該労働者に到達したものとみなす。


(*4)厚生労働省令で定める措置として、面談、書面の交付などが規定されています。

1 法第二十一条第一項の厚生労働省令で定める措置(第三号及び第四号に掲げる措置にあっては、労働者が希望する場合に限る。)は、次のとおりとする。

一 面談

二 書面の交付

三 ファクシミリを利用しての送信

四 電子メール等の送信(当該労働者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるものに限る。)

2 前項第三号の措置を講じた場合には、労働者の使用に係るファクシミリ装置により受信した時に、同項第四号の措置を講じた場合には、労働者の使用に係る通信端末機器により受信した時に、それぞれ当該労働者に到達したものとみなす。


労働者が希望した場合には、制度の周知と意向の確認にSNS(記録を出力することで書面の作成が可能なものに限る)を利用しても構いません(同旨 令和5年4月28日 雇均発0428第3号)


就業に関する条件の意向聴取と意向への配慮|2項、3項

就業に関する条件についての意向聴取と意向への配慮

リーフレットで「⑪仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮」と説明されている制度です。

令和7年10月1日施行です。

例年通りの取扱いであれば、令和8年度(2026年)の社労士試験から試験範囲に含まれます。

義務

  • 労働者が妊娠または出産等の申出(育介法21条1項)をしたとき
  • 労働者の子が3歳になるまでの一定の時期(育介法23条の3)にあるとき(後述します)

上記それぞれの場合に、事業主には、次の義務が課されます。

  • 事業主は、前項の措置を講ずるに当たっては、就業に関する条件のうち一定のもの(*5)について、当該労働者の意向を確認しなければなりません(2項)
  • ①の確認は、一定の方法(則69条の3と同じです)によって、行わなければなりません(則69条の6)
  • 事業主は、①の意向を確認した労働者に係る就業に関する条件を定めるに当たっては、当該意向に配慮しなければなりません(3項)

(*5)厚生労働省令で定める就業に関する条件として、始業および終業の時刻、育児休業に関する制度の利用期間などが規定されています。

法第二十一条第二項の厚生労働省令で定める就業に関する条件は、次のとおりとする。

一 始業及び終業の時刻

二 就業の場所

三 育児休業に関する制度、子の看護等休暇に関する制度、法第十六条の八の規定による所定外労働の制限に関する制度、法第十七条の規定による時間外労働の制限に関する制度、法第十九条の規定による深夜業の制限に関する制度、法第二十三条第一項の育児のための所定労働時間の短縮措置、法第二十三条第二項の育児休業に関する制度に準ずる措置、同項第一号の在宅勤務等の措置又は同項第二号の始業時刻変更等の措置、法第二十三条の三第一項の規定による措置その他子の養育に関する制度又は措置の利用期間

四 その他職業生活と家庭生活との両立の支障となる事情の改善に資する就業に関する条件


平たくいうと、令和7年10月1日からは、育児休業などの制度を周知して制度についての意向を確認する場面に、「始業及び終業の時刻などの就業に関する条件についても一定の方法で意向を確認して、その意向に配慮する義務」が追加されます。

また、令和7年10月1日施行の育介法23条の3(柔軟な働き方を実現するための措置)においても、「始業及び終業の時刻などの就業に関する条件についても一定の方法で意向を確認して、その意向に配慮する義務」が課せられます。


不利益取扱の禁止|6項

義務

事業主は、次の事項を理由として、労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはなりません。

  • 労働者が1項(妊娠または出産したことなど)の申出をしたこと
  • 2項の規定により確認された、就業に関する条件についての意向の内容(令和7年10月1日施行

21条の2|育児休業に関する定めの周知等

育介法21条の2は、努力義務です。

労働者が育児休業をするか否かを適切に選択できるようにして、紛争の発生を防ぐことが目的です。

育児休業中の待遇等を定め、周知すること|1項

待遇等を事前定めて周知する(努力義務)

努力義務

事業主は、育児休業に関して、あらかじめ、次の事項を定めるとともに、労働者(一般)に周知するよう努めなければなりません。

  • 労働者の育児休業中における待遇に関する事項
  • 育児休業における賃金、配置その他の労働条件に関する事項
  • 子を養育しないこととなった事由が生じたために育児休業または出生時育児休業が終了した労働者についての、労務の提供の開始時期に関すること(則70条1項)

なお、就業規則の作成義務(労基法89条)および周知義務(労基法106条)とは別に設けられた努力義務です(同旨 令和5年4月28日 雇均発0428第3号)

(労基法の義務を超える部分に、努力義務が課されるイメージです)

待遇等を個別に周知する(努力義務)

努力義務

また、事業主は、労働者やその配偶者が妊娠したり出産したということを知ったときには、育介法21条の周知(義務)とは別に、上記①②③を労働者に対して(個別に)周知するよう努めなければなりません。

(ただし、労働者のプライバシーを保護する観点から、労働者が自発的に知らせることを前提としています)

育児休業申出等をした労働者への明示|2項

個人ごとの待遇等を書面で明示する(努力義務)

努力義務

事業主は、労働者が育児休業申出等をしたときは、当該労働者に対し、1項の①②③に関する当該労働者に係る取扱い(*6)を明示するよう努めなければなりません(2項)

(*6)個々の労働者に1項の①②③を適用した場合の待遇や労働条件という意味です(同旨 前掲通達)

上記の明示は、申出があった後速やかに、書面の交付により行うものとされています(則71条)


22条|雇用環境の整備および雇用管理等

育児介護休業法22条

育児休業申出等および育児休業における就業が円滑に行われるよう設けられた規定です。

(2項および4項は、介護に係る規定です)

育児休業申出等が円滑に行われるようにするための措置|1項

義務

事業主は、次のいずれかの措置を講じなければなりません。

  • 雇用する労働者に対する育児休業に係る研修の実施
  • 育児休業に関する相談体制の整備
  • 雇用する労働者の育児休業の取得に関する事例の収集および雇用する労働者に対する当該事例の提供(則71条の2)
  • 雇用する労働者に対する育児休業に関する制度および育児休業の取得の促進に関する方針の周知(則71条の2)

雇用管理、職業能力の開発等に関する措置|3項

努力義務

事業主は、次の事項に関して、必要な措置を講ずるように努めなければなりません。

  • 育児休業をする労働者が雇用される事業所における労働者の配置その他の雇用管理(*7)
  • 育児休業をしている労働者の職業能力の開発および向上等(*8)

(7)(8)の解釈は下のタブに格納しておきます。

  • 「その他の雇用管理」とは、他の労働者に対する業務の再配分、人事ローテーション等による配置転換、派遣労働者の受入れ及び新たな採用等のうちの適切な措置をとることによって、当該育児休業等をする労働者が行っていた業務を円滑に処理する方策等の意であること
  • 「労働者の職業能力の開発及び向上等」の「等」には、育児休業等をする労働者の能力の維持や職場適応性の減退の防止、あるいは当該労働者が育児休業等の休業前に就いていた又は育児休業等の休業後に就くことが予想される業務に関する情報の提供等が含まれるものであること

上記通達における「育児休業等」は、「育児休業(出生時育児休業を含む。)又は介護休業」という意味で使用されています(前掲通達)


22条の2|育児休業の取得の状況の公表

育休の取得状況の公表

義務

一定の規模を超える会社には、育児休業の取得の状況を公表する義務が定められています。

令和7年4月1日以降は、「常時雇用する労働者の数が300人を超える事業主」に公表義務が課されます(施行前は1,000人超)

公表の方法は、インターネットの利用など(則71条の5)により、毎年少なくとも1回とされています。

次のいずれかの割合を公表します(則71条の6)

  • 男性の「育児休業等の取得率」
  • 男性の「育児休業および育児を目的とした休暇の取得率」

上記の「育児休業等」とは、育児休業および育児休業に関する制度に準ずる措置(育介法23条2項、24条1項)によって取得する休業をいいます(則71条の6)

育児休業には、出生時育児休業(産後パパ育休)を含みます(令和5年4月28日 雇均発0428第3号)

具体的な算定方法や公表の仕方については、厚生労働省のホームページをご参照ください。

参考|厚生労働省ホームページ(外部サイトへのリンク)|男性の育児休業取得率等の公表について


23条、23条の2|所定労働時間の短縮措置等

所定労働時間の短縮措置|育児

「育児のための所定労働時間の短縮措置」といわれる制度です(23条1項本文)

Q&Aやリーフレットでは「短時間勤務制度」と表記されています。

義務

上記の短縮措置は、「1日の所定労働時間を原則として6時間とする措置」を含んだ制度としなければなりません(則73条)

「原則として6時間」とは、例えば、所定労働時間が7時間45分の事業所においては、短縮後の所定労働時間を5時間45分から6時間まで許容するという趣旨です(令和5年4月28日 雇均発0428第3号)

また、1日の所定労働時間を6時間とする措置を実質的に選択可能としたうえで、1日の所定労働時間を7時間とする措置や、隔日勤務等の所定労働日数を短縮する措置などを設けることも可能です(同旨 前掲通達)

上記の場合は、当該措置の全体が「育児のための所定労働時間の短縮措置」となります(前掲通達)

(23条3項および4項は、介護に係る規定です)

育児のための所定労働時間の短縮措置|23条1項

育児のための所定労働時間の短縮措置

短縮措置の対象(23条1項本文)

義務

「育児のための所定労働時間の短縮措置」の対象は、3歳に満たない子を養育していて、(現に)育児休業をしていない労働者(*9)です。

(*9)労基法41条の労働者(管理監督者等)、労基法41条の2(高プロ)の適用を受ける労働者は、制度の対象外です(令和5年4月28日 雇均発0428第3号)

なお、1日の所定労働時間が6時間以下の労働者は制度の対象外です(則72条)

変形労働時間制(労基法32条の2、32条の4)が適用される労働者については、変形期間(または対象期間)を平均した場合の1日の所定労働時間という意味ではなく、すべての労働日の所定労働時間が6時間以下ならば制度の対象外になります(前掲通達)

労働者は、事業主へ申し出ることにより、「育児のための所定労働時間の短縮措置」を利用できます。

ただし、上記の要件を満たした労働者であっても例外があります。

短縮措置の対象外(23条1項ただし書き)

事業主は、労使協定の締結を要件に、次の各号の労働者を制度の対象者から除くことができます。

  • 一号 引き続き雇用された期間が1年に満たない労働者
  • 二号 1週間の所定労働日数が2日以下の労働者(則73条の2)
  • 三号 業務の性質または業務の実施体制に照らして、育児のための所定労働時間の短縮措置を講ずることが困難と認められる業務に従事する労働者

以降、解説の便宜上、上記三号の労働者を「短縮措置の実施が困難な労働者」と表記しています。

労使協定を締結する労働者側の当事者は、過半数労働組合または(ない場合は)過半数代表者です(用語の解説はこちら

以降の「労使協定」も同様です。

短縮措置の実施が困難な労働者に対する代替措置|23条2項

短縮措置の実施が困難な労働者(育介法23条1項3号)を、労使協定により、育児のための所定労働時間の短縮措置から除外した場合の取扱いです。

(本来は短縮措置の対象となるところ、業務の性質等によって対象外となったため、代替措置が必要となります)

育児のための所定労働時間の短縮措置に係る代替措置

義務

育児のための所定労働時間の短縮措置から除外された「短縮措置の実施が困難な労働者」のうち、3歳に満たない子を養育する労働者については、次のいずれかを講じなければなりません。

  • 労働者の申出に基づく育児休業に関する制度に準ずる措置(23条2項柱書)
  • 労働者の申出に基づき、在宅勤務等をさせる措置(令和7年4月1日施行 23条2項1号)
  • 希望する労働者に適用される、労基法32条の3第1項の規定による労働時間の制度(フレックスタイム制)を設けること(則74条)
  • 希望する労働者に適用される、1日の所定労働時間を変更することなく始業又は終業の時刻を繰り上げ又は繰り下げる制度(いわゆる時差出勤の制度)を設けること(則74条)
  • 希望する労働者に適用される、労働者の3歳に満たない子に係る保育施設の設置運営その他これに準ずる便宜の供与を行うこと(則74条)

(事業主が上記①~⑤から一つを選択して制度として定め、労働者が申し出た場合に利用できるようにして下さい。これは義務です。という趣旨です)

①の育児休業に関する制度に準ずる措置は、育児休業と全く同じ制度にする必要はないものの、制度の考え方(申出が必要であったり、制度の対象は男女など)は共通すべきとされています(令和5年4月28日 雇均発0428第3号)

②は、いわゆるテレワークの導入です。令和7年4月1日から追加され、在宅勤務等の措置といいます(令和7年4月1日施行 23条2項1号)

③④⑤は合わせて、始業時刻変更等の措置といいます(23条2項2号)

通達によると、⑤における「その他これに準ずる便宜の供与」の例として、労働者から委任を受けてベビーシッターを手配(事業主がベビーシッターを派遣する会社と契約するというニュアンスです)したうえで、ベビーシッターに係る費用を負担(全額に限らず補助も可というニュアンスです)することが示されています(同旨 前掲通達)

不利益取扱の禁止|23条の2

義務

事業主は、次のいずれかを理由として、労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはなりません。

  • 労働者が育児のための所定労働時間の短縮措置(23条)の申出をしたこと
  • 労働者に育児のための所定労働時間の短縮措置が講じられたこと

23条の3|3歳から小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者等に関する措置

柔軟な働き方を実現するための措置

リーフレットで「⑩柔軟な働き方を実現するための措置等」と説明されている制度です。

令和7年10月1日施行です。

例年通りの取扱いであれば、令和8年度(2026年)の社労士試験から試験範囲に含まれます。

以降、育介法23条の3の措置を「柔軟な働き方を実現するための措置」と表記しています。

柔軟な働き方を実現するための措置|1項~4項

二つ以上の措置を講じる(1項)

義務

制度の対象は、「3歳から小学校就学の始期に達するまでの子」を養育する労働者です。

事業主は、労働者の申出に基づく次に掲げる措置のうち二つ以上の措置を講じなければなりません。

(事業主が次の①~⑤から二つ以上を選択して制度として定め、労働者が申し出た場合に利用できるようにして下さい。これは義務です。という趣旨です)

  • 始業時刻変更等の措置であって厚生労働省令で定めるもの
  • 在宅勤務等の措置
  • 育児のための所定労働時間の短縮措置
  • 労働者が就業しつつ当該子を養育することを容易にするための休暇を与えるための措置
  • 労働者の3歳から小学校就学の始期に達するまでの子に係る保育施設の設置運営その他これに準ずる便宜の供与を行うこと(則75条の4)

制度の対象となる労働者は、事業主に申し出ることにより、事業主が講じた措置から選択して利用できます。

①はフレックスタイム制(要件あり)または時差出勤の制度です。

なお、フレックスタイム制と時差出勤の制度を設けても(①から二つ選択しても)、①~⑤から二つ選択したとはいえません(Q&A)

法第二十三条の三第一項第一号の厚生労働省令で定めるものは、次に掲げるいずれかの措置とする。

一  労働基準法第三十二条の三第一項の規定による労働時間の制度(同項第三号の総労働時間を同項第二号の清算期間における所定労働日数で除した時間が一日の所定労働時間と同一であるものに限る。)

二  一日の所定労働時間を変更することなく始業又は終業の時刻を繰り上げ又は繰り下げる制度


②は、いわゆるテレワークの導入です。一定の要件(利用可能な日数など)を満たす必要があります。

1 第二十三条の三第一項第二号の在宅勤務等の措置は、次に掲げる要件を満たすものでなければならない。

一 一日の所定労働時間を変更することなく利用をすることができるものであること。

二 利用をすることができる日数が、一月につき、次に掲げるものであること。

イ 一週間の所定労働日数が五日の労働者については、十労働日以上の日数

ロ 一週間の所定労働日数が五日以外の労働者については、イを基準とし、その一週間の所定労働日数又は一週間当たりの平均所定労働日数に応じた日数以上の日数
三時間(一日の所定労働時間数に満たないものとする。)を単位とするものであって、始業の時刻から連続し、又は終業の時刻まで連続するものとして利用することができるものであること。

2 前項第三号に規定する単位で利用する法第二十三条の三第一項第二号の在宅勤務等の措置一日の時間数は、一日の所定労働時間数(日によって所定労働時間数が異なる場合には、一年間における一日平均所定労働時間数とし、一日の所定労働時間数又は一年間における一日平均所定労働時間数に一時間に満たない端数がある場合は、一時間に切り上げるものとする。)とする。


③は、育介法23条で解説した「育児のための所定労働時間の短縮措置」です。1日の所定労働時間を原則として6時間とする措置を含む必要があります(則75条の3第3項)

④の休暇は、厚生労働省の資料(Q&Aなど)で養育両立支援休暇といわれています。子の看護等休暇、介護休暇、労基法39条の年次有給休暇は除きます。

また、1日の所定労働時間を変更しなくとも利用でき、かつ、1年間に10労働日以上の利用ができることという要件があります(則75条の3第4項)

以降、「労働者が就業しつつ当該子を養育することを容易にするための休暇」を「養育両立支援休暇」と表記しています。

⑤の保育施設の設置運営の他にある、「その他これに準ずる便宜の供与」とは、「ベビーシッターを手配して、その費用を補助すること」などが該当します(Q&A)

養育両立支援休暇の時間単位での取得(2項)

養育両立支援休暇は時間単位でも取得できます。

ただし、始業の時刻から連続し、又は終業の時刻まで連続するものが、法所定の休暇とされています(則75条の5第1項)

いわゆる「中抜け」を認めることまでは、事業主に義務付けられていません。

休暇1日あたりの時間数は、1日の所定労働時間数(日によって所定労働時間数が異なる場合には、1年間における一日平均所定労働時間数)です。1時間に満たない端数は、1時間に切り上げます(則75条の5第2項)

(現在、「1日の所定労働時間が短い労働者として厚生労働省令で定めるもの」は定められていません)

労使協定により一定の労働者を制度の対象から除く場合(3項)

次の各号の労働者については、労使協定の締結を要件に、柔軟な働き方を実現するための措置の対象から除くことができます。

ただし、三号の労働者については、「養育両立支援休暇の時間単位での取得」に限り、対象から除くことができます。

  • 一号 引き続き雇用された期間が1年に満たない労働者
  • 二号 1週間の所定労働日数が2日以下の労働者(則75条の6)
  • 三号 業務の性質または業務の実施体制に照らして、時間単位で養育両立支援休暇を取得することが困難と認められる業務に従事する労働者(1日未満の単位で取得しようとする者に限る)

労働者側からの意見聴取(4項)

義務

事業主は、柔軟な働き方を実現するための措置を講じようとするときは、あらかじめ、過半数労働組合または(ない場合は)過半数代表者の意見を聴かなければなりません。


措置の周知と意向の確認|5項

柔軟な働き方を実現するための措置に係る措置の周知と意向の確認

義務

柔軟な働き方を実現するための措置の対象は、「3歳から小学校就学の始期に達するまでの子」を養育する労働者です。

労働者は、早ければ子が3歳になると、事業主が講じた二つ以上の措置から選択して、制度を利用することになります。

そこで、労働者の選択に資するよう、労働者の養育する子が3歳になる前に、措置の内容などを周知するとともに、労働者の意向を確認することが、事業主に義務づけられています。

周知事項

次のとおりです(則75条の9)

  • 育介法23条の3第1項により事業主が講じた措置(*10) 
  • 対象措置の申出先
  • 所定外労働の制限(育介法16条の8)、時間外労働の制限(育介法17条)、深夜業の制限(育介法19条)それぞれに関する制度

(*10)「対象措置」といいます。事業主が二つ以上の措置を選択して制度化した「柔軟な働き方を実現するための措置」の内容を労働者に周知してください という趣旨です。

周知の時期、意向を確認する時期

3歳になるまでの適切な時期

Q&Aやリーフレットでは、3歳になるまでの適切な時期と表記されています。

次のとおりです(則75条の8)

  • 子が1歳11か月に達する日の翌々日から2歳11か月に達する日の翌日までの1年間の内

始期は、「子が1歳11か月に達する日の翌々日」です。

終期は、「子が2歳11か月に達する日の翌日」です。

例えば、3月15日生まれの子は、1歳の2月16日から2歳の2月15日までの1年間となります(Q&A)

また、3月31日生まれの子は、1歳の3月2日(2月28日または29日の翌々日)から2歳の3月1日(2月28日または29日の翌日)までの1年間となります(Q&A)

周知の方法、意向を確認する方法

次のとおりです。FAXと電子メール等については、労働者が希望した場合に限られます(則75条の7、75条の10)

  • 面談
  • 書面の交付
  • FAX
  • 電子メール等(記録を出力することで書面の作成が可能なものに限る)

就業に関する条件の意向聴取と意向への配慮|6項

周知と意向の確認(21条及び23条の3)|R7.10.1

義務

(令和7年10月1日以降は、上記イラストの赤色の部分も義務です)

子が3歳になる前の意向の確認については、労働者が妊娠または出産等の申出(育介法21条1項)をしたときにおける、次の規定が準用されています(6項)

  • 就業に関する条件に係る労働者の意向を確認すること(育介法21条2項)
  • 就業に関する条件を定めるに当たっては、当該意向に配慮すること(育介法21条3項)

子が1歳11か月に達する日の翌々日から2歳11か月に達する日の翌日までの1年間において、「柔軟な働き方を実現するための措置」の申出について労働者の意向を確認するに当たっては、「就業に関する条件についての意向」も確認して、配慮しなければなりません。

育介法21条については、前述の解説をご参照ください。


不利益取扱の禁止|7項

義務

事業主は、次の事項を理由として、労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはなりません。

  • 労働者が柔軟な働き方を実現するための措置の申出をしたこと
  • 労働者に柔軟な働き方を実現するための措置が講じられたこと
  • 6項において準用する21条2項により確認された、就業に関する条件についての意向の内容

24条|小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者等に関する措置

小学校就学前までの期間についての努力義務

育介法24条は努力義務です。

  • 育児に関する目的のために利用できる休暇(育児目的休暇)
  • 労働者の区分に応じて、「始業時刻変更等の措置または育児休業に関する制度」それぞれに準じた措置
  • 在宅勤務等の措置に準じた措置(テレワークの導入)

令和7年10月1日施行に対応させて解説します。

(3項および4項は、介護に係る規定です)

育児に関する目的のために利用できる休暇|1項

育児に関する休暇の比較

努力義務

制度の対象は、「小学校就学の始期に達するまでの子」を養育する労働者です。

事業主は、上記の労働者が申し出た場合に利用のできる、「育児に関する目的のために利用できる休暇」を設けるよう努めなければなりません。

Q&Aやリーフレットでは「育児目的休暇」と表記されています。

出産前であっても、出産後の養育について準備できる休暇を含みます(育介法24条1項)

なお、子の看護等休暇、介護休暇、養育両立支援休暇(令和7年10月1日施行 育介法23条の3第1項4号)、年次有給休暇(労基法39条)は、除きます(育介法24条1項)

(育児目的休暇には、養育両立支援休暇のように1年間に10労働日以上を付与することなどの要件はありません)

労働者の区分に応じた措置|1項

区分に応じて必要な措置を講じる

努力義務

「育児に関する目的のために利用できる休暇」と合わせて規定されている努力義務です。

制度の対象は、次の①②③の労働者です。

  • 1歳(*12)に満たない子を養育していて、育児休業をしていない労働者(育介法23条2項に規定する労働者を除く)
  • 1歳(*12)から3歳に達するまでの子を養育する労働者(育介法23条2項に規定する労働者を除く)
  • 3歳から小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者

(*12)労働者が1歳6か月までの育児休業(育介法5条3項)の申出ができる場合は1歳6か月、2歳までの育児休業(育介法5条4項)の申出ができる場合は2歳です。

事業主は、次の区分に応じて、それぞれの措置または制度に準じて、必要な措置を講ずるように努めなければなりません。

  • ①の労働者については、始業時刻変更等の措置(育介法23条2項を参照)
  • ②の労働者については、育児休業に関する制度または始業時刻変更等の措置
  • ③の労働者については、育児休業に関する制度(*13)

(*13)令和7年10月1日施行前は、育児のための所定労働時間の短縮措置または始業時刻変更等の措置も規定されています(法改正により、柔軟な働き方を実現するための措置の選択肢に含まれます)。また、令和7年4月1日前は、所定外労働の制限に関する制度も規定されています(法改正により、義務になります)

「準じて、必要な措置を講ずるように努める」とは、育介法で定める制度や措置とまったく同じにする必要はありませんが、①から③の各労働者が希望した場合に利用できる制度を設けるよう、積極的な措置をお願いしますという趣旨です。

ちなみに、「育介法23条2項に規定する労働者」とは、3歳に満たない子を養育していて、育児休業をしていない労働者のうち、業務の性質等に照らして、育児のための所定労働時間の短縮措置を講じないとされた労働者をいいます(23条の解説をご参照ください)

(同旨の選択をして代替措置をとる義務があるため、努力義務からは除かれています。次項において同じです)

育児のためのテレワーク|2項

リーフレットで「④育児のためのテレワーク導入」と説明されている制度です。

努力義務

制度の対象は、3歳に満たない子を養育していて、育児休業をしていない労働者(23条2項に規定する労働者を除く)です。

事業主は、上記の労働者について、在宅勤務等の措置(育介法23条2項)に準じて、必要な措置を講ずるように努めなければなりません(令和7年4月1日施行


まとめ

ここまで、育児介護休業法の9章から、次の規定を解説しました。

  • 妊娠又は出産等についての申出があった場合における措置等(21条)
  • 育児休業に関する定めの周知等の措置(21条の2)
  • 雇用環境の整備及び雇用管理等に関する措置(22条)
  • 育児休業の取得の状況の公表(22条の2)
  • 所定労働時間の短縮措置等(23条、23条の2)
  • 3歳から小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者等に関する措置(23条の3)
  • 小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者等に関する措置(24条)

改正内容は下図に整理しておきます(図中の丸数字は上記に対応しています)

令和7年4月1施行改正前改正後
公表義務の拡大1,000人超300人超
代替措置の候補を追加テレワークを追加
努力義務の対象を追加(3歳未満)テレワークを追加
(3歳~就学)所定外労働の制限努力16条の8により義務
令和7年10月1日施行改正前改正後
就業に関する条件を追加意向聴取と配慮を義務化(⑥も同様)
不利益取扱の禁止事項を追加就業に関する条件の意向を追加
柔軟な働き方を実現するための措置なし新設(義務)
(3歳~就学)育児のための所定労働時間の短縮措置努力⑥の選択肢に統合
(3歳~就学)始業時刻変更等の措置努力⑥の選択肢に統合
育児介護休業法|令和7年4月1日施行、令和7年10月1日施行

育介法は改正を繰り返しているため、制度が複雑です。

私見になりますが、育児・介護ともに労働者が意思決定したうえで制度を利用するため、事業主や労務管理の担当者だけが知っていれば良しとはいえません。

もう少し、制度を利用する労働者であったり、運用する事業主や実務の担当者にとって、シンプルな制度になってくれればなと思うところです。

(遠回しな表現もあり、やるべきことや、利用可能な制度が分かりにくいかと…)

社労士試験においては、過去問を解けるようにして、試験直前にリーフレット(受験年度に応じた改正内容)を確認してください。

実務におかれましては、これから更新されるであろう通達やQ&Aもチェックしてください。

実際に制度を利用される方は、それこそ育児期で忙しいため、動画を利用しても制度理解のための勉強はなかなか大変でしょう。

(当記事をここまで読んで頂いた方ならば、独力で情報収集が可能かもしれませんが…)

当記事で解説したように、制度の周知や意向の確認(21条)、育児休業申出等が円滑に行われるようにするための措置(22条1項)などが、会社に義務付けられています。

難しいなと感じたら、担当者などに相談してみてください。

長文を読んでいただき、ありがとうございました。

(介護についての事業主が講ずべき措置は、こちらの記事で解説しています。)


(参考資料等)

厚生労働省|厚生労働省法令等データベースサービスより|https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/kensaku/index.html

  • 育児介護休業法
  • 令和5年4月28日 雇均発0428第3号(「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律の施行について」の一部改正について)

厚生労働省ホームページ|育児・介護休業法についてより|
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000130583.html

  • リーフレット「育児・介護休業法改正のポイント」
  • 令和6年改正育児・介護休業法に関するQ&A(令和6年11月19日時点)
  • 男性の育児休業取得率等の公表について
  • 育児・介護休業法のあらまし