この記事では、女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(以下、女性活躍推進法)を解説しています。
解説文には、解説の根拠をカッコ書きで記載している箇所があります。
カッコ内の「法」「政令」「省令」「通達」は、それぞれ次の意味で使用しています。
- 法
⇒ 女性活躍推進法 - 政令
⇒ 女性活躍推進法施行令(平成27年政令318号) - 省令
⇒ 女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画等に関する省令(平成27年厚労令162号) - 通達
⇒ 平成27年10月28日 職発1028第2号(最終改定 令和4年7月8日 雇均発0708第1号)
当記事は、条文等の趣旨に反するような極端な意訳には注意しております。ただし、厳密な表現と異なる部分もございます。
詳しくは免責事項をご確認ください。
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概要
女性活躍推進法は、令和8年3月31日限りで効力を失います(法附則2条)
改正されなければ上記の期限で失効しますが、労働政策審議会の建議(令和6年12月26日)では期限を10年間延長することが適当だとしています。
厚生労働省は、上記の建議の内容を踏まえて法律案要綱を作成し、労働政策審議会に諮問する予定と示しています。
参考|厚生労働省ホームページ(外部サイトへのリンク)|労働政策審議会建議「女性活躍の更なる推進及び職場におけるハラスメント防止対策の強化について」を公表します
はじめに、女性活躍推進法の目的です。
社労士試験の勉強用に条文を載せておきます。
この法律は、近年、自らの意思によって職業生活を営み、又は営もうとする女性がその個性と能力を十分に発揮して職業生活において活躍すること(以下「女性の職業生活における活躍」という。)が一層重要となっていることに鑑み、男女共同参画社会基本法の基本理念にのっとり、女性の職業生活における活躍の推進について、その基本原則を定め、並びに国、地方公共団体及び事業主の責務を明らかにするとともに、基本方針及び事業主の行動計画の策定、女性の職業生活における活躍を推進するための支援措置等について定めることにより、女性の職業生活における活躍を迅速かつ重点的に推進し、もって男女の人権が尊重され、かつ、急速な少子高齢化の進展、国民の需要の多様化その他の社会経済情勢の変化に対応できる豊かで活力ある社会を実現することを目的とする。
面と向かって説明されたら、「ごめんなさい…何の話でしたっけ?」となりそうです。
冗談はさておき、女性活躍推進法では、「女性の職業生活における活躍」の推進について、次の事項が定められています。
- 基本原則(法2条)
- 国、地方公共団体、事業主の責務(法3条、4条)
- 基本方針(法5条)
- 事業主の行動計画の策定に必要な事項(法第3章)
- 支援措置(法第4章)
「…で、何をするの?」に対する考え方は、基本原則で定められています(法2条)
- 女性の職業生活における活躍の推進は、職業生活における活躍に係る男女間の格差の実情を踏まえ、自らの意思によって職業生活を営み、又は営もうとする女性に対する採用、教育訓練、昇進、職種及び雇用形態の変更その他の職業生活に関する機会の積極的な提供及びその活用を通じ、かつ、性別による固定的な役割分担等を反映した職場における慣行が女性の職業生活における活躍に対して及ぼす影響に配慮して、その個性と能力が十分に発揮できるようにすることを旨として、行われなければならない。
- 女性の職業生活における活躍の推進は、職業生活を営む女性が結婚、妊娠、出産、育児、介護その他の家庭生活に関する事由によりやむを得ず退職することが多いことその他の家庭生活に関する事由が職業生活に与える影響を踏まえ、家族を構成する男女が、男女の別を問わず、相互の協力と社会の支援の下に、育児、介護その他の家庭生活における活動について家族の一員としての役割を円滑に果たしつつ職業生活における活動を行うために必要な環境の整備等により、男女の職業生活と家庭生活との円滑かつ継続的な両立が可能となることを旨として、行われなければならない。
- 女性の職業生活における活躍の推進に当たっては、女性の職業生活と家庭生活との両立に関し、本人の意思が尊重されるべきものであることに留意されなければならない。
う~ん……解説を試みます。
①については、例えば、男女間の賃金格差(おおむね男性100 :女性75)が挙げられます。
法律上の差別はなくとも、実質的に機会の不平等が生じているとも考えられるため、積極的な行動を促しています。
②については、例えば、女性労働者についての「L字カーブ(正規雇用の比率が20代後半までは右肩上がりなものの、30代以降は右肩下がりになる現象)」が挙げられます。
男性を含めた働き方の見直しなどにより、家庭生活と職業生活との両立を一時的ではなく継続的に可能にする環境が求められています。
なお、家族を構成する男女とありますが、一人親世帯や独身者を施策や取組の対象外とする趣旨ではありません(通達)
③については、例えば、家庭生活に専念したいという考え方もあります。
女性の職業生活における活躍の推進とはいえ、国や社会の意向ではなく本人の意思が尊重されます。
「…で、具体的に何をするの?」については、政府は、基本原則にのっとり、基本方針で定めます(法5条)
事業主は、採用した労働者に占める女性労働者の割合、管理職に占める女性労働者の割合などを把握して、改善すべき事情を分析した上で、行動計画で定めます(後述します)
女性活躍推進法では、国、地方公共団体、事業主に対して責務を規定しています。
(国民の責務は規定されていません)
国および地方公共団体の責務(法3条)
- 国及び地方公共団体は、基本原則(法2条)にのっとり、女性の職業生活における活躍の推進に関して必要な施策を策定し、及びこれを実施しなければならない。
事業主の責務(法4条)
- 事業主は、基本原則にのっとり、その雇用し、又は雇用しようとする女性労働者に対する職業生活に関する機会の積極的な提供、雇用する労働者の職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備その他の女性の職業生活における活躍の推進に関する取組を自ら実施するよう努めるとともに、国又は地方公共団体が実施する女性の職業生活における活躍の推進に関する施策に協力しなければならない。
行動計画
女性活躍推進法では、次の①②の行動計画が定められています。
- 一般事業主行動計画
- 特定事業主行動計画
①の一般事業主とは、国および地方公共団体以外の事業主をいいます。
常時雇用する労働者が100人を超える一般事業主については、行動計画の策定と届出が義務付けられています(法8条)
②の特定事業主とは、国および地方公共団体の機関、それらの長又はそれらの職員で政令で定めるものをいいます(法19条)
例えば、各省の大臣や地方公共団体の教育委員会などが定められています(政令1条)
内閣総理大臣、厚生労働大臣、総務大臣は、行動計画の策定についての方向性(事業主行動計画策定指針)を定めます(法7条)
事業主行動計画策定指針が定められ、または変更されたときは、遅滞なく、公表されます。
以降、一般事業主行動計画について解説します。
策定・届出
常時雇用する労働者が100人を超える一般事業主は、事業主行動計画策定指針に即して、一般事業主行動計画を策定し、厚生労働大臣に届け出なければなりません(法8条1項)
変更したときも同様です(法8条1項)
常時雇用する労働者が100人以下の一般事業主については、努力義務となっています(法8条7項)
実際の届出(様式は任意)は、一定の必要事項を記載して、都道府県労働局長に提出します(省令1条)
公表・周知
策定(または変更)した一般事業主行動計画について、次のように公表および労働者への周知が義務付けられています。
- (一般事業主行動計画を)インターネットの利用などにより、(一般に)公表しなければならない(法8条5項、省令4条)
- 事業所の見やすい場所への掲示、労働者への電子メールの送信などにより、労働者に周知させるための措置を講じなければならない(法8条4項、省令3条)
常時雇用する労働者が100人以下の一般事業主にあっては、一般事業主行動計画を策定(または変更)した場合には、一般への公表および労働者への周知が義務付けられます(法8条8項、省令6条、通達)
状況の把握と計画の策定
一般事業主行動計画では、次の①②③を定めます(法8条2項)
行動計画に定める事項
- 計画期間
- 女性の職業生活における活躍の推進に関する取組の実施により達成しようとする目標
- 実施しようとする女性の職業生活における活躍の推進に関する取組の内容および実施時期
一般事業主行動計画は、次のいずれもを把握して、改善すべき事情について分析した上で、その結果を勘案して定めなければなりません(法8条3項、省令2条1項1号から4号まで)
基礎項目
- 採用した労働者に占める女性労働者の割合
- 男女の平均継続勤務年数の差異
- 労働者一人当たりの各月ごとの時間外労働および休日労働の合計時間数等の労働時間
- 管理的地位にある労働者に占める女性労働者の割合
常時雇用する労働者が100人を超える一般事業主は、上記4項目(基礎項目)の把握は必須です。
(100人以下の一般事業主が定める行動計画についても準用されています)
なお、基礎項目の他にも、男女別の採用における競争倍率、男女の賃金の差異など、20項目(選択項目)が定められています(省令2条1項5号から24号まで)
選択項目については、常時雇用する労働者数が300人を越える(301人以上)か否かで、次のように取り扱いが異なります。
選択項目
- 300人を越える一般事業主
⇒ 男女の賃金の差異(24号)は必ず把握しなければならない(その他は義務ではない) - 101人以上300以下の一般事業主
⇒必要に応じて把握する(選択項目の把握は、男女の賃金の差異を含めて義務ではない)
基礎項目と選択項目(合計24項目)は下のタブに格納しておきます。
①~④が基礎項目です。
「101人以上300人未満」「300人超」ともに把握は必須です。
⑤~㉔が選択項目です。
「101人以上300人未満」は任意です。
「300人超」は㉔の把握は必須で、⑤~㉓は任意となります。
- 採用した労働者に占める女性労働者の割合
- その雇用する労働者(期間の定めのない労働契約を締結している労働者及び同一の使用者との間で締結された二以上の期間の定めのある労働契約(契約期間の始期の到来前のものを除く。)の契約期間を通算した期間が五年を超える労働者に限る。)の男女の平均継続勤務年数の差異
- その雇用する労働者一人当たりの各月ごとの時間外労働及び休日労働の合計時間数等の労働時間(労働基準法第四十一条の二第一項の規定により労働する労働者にあっては、同項第三号に規定する健康管理時間。⑭において同じ。)の状況
- 管理的地位にある労働者(以下「管理職」という。)に占める女性労働者の割合
- 女性の応募者(募集に応じて労働者になろうとする者をいう。以下同じ。)の数を採用した女性労働者の数で除して得た数及び男性の応募者の数を採用した男性労働者の数で除して得た数(第十九条第一項第一号ロにおいて「男女別の採用における競争倍率」という。)
- その雇用する労働者及びその指揮命令の下に労働させる派遣労働者(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律第二条第二号に規定する派遣労働者をいう。以下同じ。)に占める女性労働者の割合
- その雇用する労働者の男女別の配置の状況
- その雇用する労働者の男女別の将来の人材育成を目的とした教育訓練の受講の状況
- 管理職、男性労働者(管理職を除く。)及び女性労働者(管理職を除く。)の配置、育成、評価、昇進及び性別による固定的な役割分担その他の職場風土等に関する意識(派遣労働者にあっては、性別による固定的な役割分担その他の職場風土等に関するものに限る。)
- 十事業年度前及びその前後の事業年度に採用した女性労働者(新たに学校若しくは専修学校を卒業した者若しくは新たに職業能力開発促進法第十五条の七第一項各号(第四号を除く。)に掲げる施設若しくは職業能力開発総合大学校の行う職業訓練を修了した者又はこれに準ずる者(以下「新規学卒者等」という。)として雇い入れたものに限る。)の数に対する当該女性労働者であって引き続き雇用されているものの数の割合並びに十事業年度前及びその前後の事業年度に採用した男性労働者(新規学卒者等として雇い入れたものに限る。)の数に対する当該男性労働者であって引き続き雇用されているものの数の割合(第十九条第一項第二号ロにおいて「男女別の継続雇用割合」という。)
- その雇用する女性労働者であって出産したものの数に対するその雇用する女性労働者であって育児休業(育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律第二条第一号に規定する育児休業をいう。以下同じ。)をしたものの数の割合及びその雇用する男性労働者であって配偶者が出産したものの数に対するその雇用する男性労働者であって育児休業をしたものの数の割合(第十九条第一項第二号ハにおいて「男女別の育児休業取得率」という。)並びにその雇用する労働者の男女別の育児休業の取得期間の平均期間
- その雇用する労働者の男女別の職業生活と家庭生活との両立を支援するための制度(育児休業を除く。)の利用実績
- その雇用する労働者の男女別の労働基準法第三十二条の三第一項の規定による労働時間の制度、在宅勤務、情報通信技術を活用した勤務等の柔軟な働き方に資する制度の利用実績
- その雇用する労働者及びその指揮命令の下に労働させる派遣労働者一人当たりの各月ごとの時間外労働及び休日労働の合計時間数等の労働時間の状況
- その雇用する労働者に対して与えられた労働基準法第三十九条の規定による有給休暇(以下「有給休暇」という。)の日数に対するその雇用する労働者が取得した有給休暇の日数の割合(第十九条第一項第二号ヘ及びトにおいて「有給休暇取得率」という。)
- 各職階の労働者に占める女性労働者の割合及び役員に占める女性の割合
- 事業年度の開始の日における各職階の女性労働者の数に対する当該事業年度の開始の日に属していた各職階から一つ上位の職階に昇進した女性労働者の数のそれぞれの割合及び事業年度の開始の日における各職階の男性労働者の数に対する当該事業年度の開始の日に属していた各職階から一つ上位の職階に昇進した男性労働者の数のそれぞれの割合
- その雇用する労働者の男女の人事評価の結果における差異
- その雇用する労働者及びその指揮命令の下に労働させる派遣労働者のセクシュアルハラスメント等に関する相談窓口への相談状況
- その雇用する労働者の男女別の職種の転換又はその雇用する労働者の男女別の雇用形態の転換及びその指揮命令の下に労働させる派遣労働者の男女別の雇入れの実績
- 男女別の再雇用(定年後の雇入れを除く。以下同じ。)又は新規学卒者等及び定年後の者以外の者の雇入れ(以下「中途採用」という。)の実績
- その雇用する労働者の男女別の職種若しくは雇用形態の転換をした者、再雇用をした者又は中途採用をした者を管理職へ登用した実績
- その雇用する労働者(通常の労働者を除く。)の男女別のキャリアアップに向けた研修の受講の状況
- その雇用する労働者の男女の賃金の差異
基礎項目と選択項目は、次の「数値目標の設定」において同じです。
数値目標の設定
一般事業主行動計画で達成しようとする目標は、採用する労働者に占める女性労働者の割合、男女の継続勤務年数の差異の縮小の割合、労働時間、管理的地位にある労働者に占める女性労働者の割合その他の数値を用いて定量的に定めなければなりません(法8条3項)
常時雇用する労働者数が300人を越える一般事業主については、次の①から一つ、②から一つの合計二つを選択して、それぞれに関連する数値目標にしなければなりません。(省令2条の2)
目標に用いる数値
- 女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供
⇒基礎項目と選択項目のうち、省令2条1項1号、4号~9号、16号~24号に掲げる事項 - 労働者の職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備
⇒基礎項目と選択項目のうち、省令2条1項2号、3号、10号~15号に掲げる事項
(ただし、①または②どちらか一方の取組が進んでいる場合は、進んでいない方から二つ選択してバランス良く進めることも認められています)
101人以上300人以下の一般事業主は、数値を用いて定量的に目標を定める必要はあるものの、①または②からの選択は義務付けられていません。
えるぼし認定
一般事業主行動計画の届出をした一般事業主が認定の対象です。
常時雇用する労働者が100人以下の一般事業主も、一般事業主行動計画を策定して届け出たならば認定の対象です。
厚生労働省令で定める基準に適合した一般事業主は、申請することにより、厚生労働大臣の認定を受けることができます(法9条)
その認定が「えるぼし」認定です。
えるぼし認定を受けた一般事業主(認定一般事業主といいます)は、商品や広告など(以下、商品等)に「えるぼしマーク」を表示できます(法10条、省令9条)
なお、認定を受けていないにもかかわらず商品等にえるぼしマーク(プラチナえるぼしも同様です)を表示したり、紛らわしい表示をした者には、30万円以下の罰金が定められています(法37条)
えるぼし認定は三つの類型ごとに行われ、いずれの類型においても一定の事項を厚生労働省のウェブサイトに公表することが求められています(省令8条)
(認定基準の低いほうから、えるぼし1段目、えるぼし2段目、えるぼし3段目です)
認定の更新はありませんが、認定一般事業主が次のいずれかに該当すると取り消しの対象です(法11条)
- 認定基準に適合しなくなったととき
- 女性活躍推進法または女性活躍推進法に基づく命令に違反したとき
- 不正の手段により認定を受けたとき
プラチナえるぼし
認定一般事業主が認定の対象です。
厚生労働省令で定める基準に適合した認定一般事業主は、申請することにより、厚生労働大臣の認定を受けることができます(法12条)
その認定が「プラチナえるぼし」認定です。
プラチナえるぼしの認定基準は一つで、えるぼし認定のように類型はありません(省令9条の3)
プラチナえるぼし認定を受けた認定一般事業主(特例認定一般事業主といいます)は、商品等に「プラチナえるぼしマーク」を表示できます(法14条)
特例認定一般事業主については、一般事業主行動計画の策定・届出(法8条1項および7項)は適用されません(法13条1項)
(プラチナえるぼしを取得すると行動計画の策定が免除されるという趣旨です)
ただし、毎年少なくとも1回、厚生労働省のウェブサイト(⼥性の活躍推進企業データベース)に一定の状況を公表しなければなりません(法13条2項、省令9条の4)
プラチナえるぼしについても認定の更新はありませんが、特例認定一般事業主が次のいずれかに該当すると取り消しの対象です(法15条)
- えるぼし認定を取り消されるとき
- 認定基準に適合しなくなったとき
- 一般事業主行動計画の策定に代る公表(法13条2項)をせず、または虚偽の公表をしたとき
- 女性活躍推進法または女性活躍推進法に基づく命令に違反したとき
- 不正の手段により認定を受けたとき
女性の職業選択に資する情報の公表
ここからは、行動計画から話題が変わります。
(行動計画の周知や公表、えるぼし認定を受けるための公表とは別の規定です)
簡単にいうと、女性求職者の選択に役立つように、「労働者の男女の賃金の差異」などを一般に公表させる規定です。
女性の職業選択に資する情報の公表義務があるのは、常時雇用する労働者が100人を超える一般事業主です(法20条1項、2項)
ただし、常時雇用する労働者の数が300人を超えるか否かによって、公表しなければならない情報の範囲は異なります(法20条1項、2項)
常時雇用する労働者が100人以下の一般事業主には、努力義務が定められています(法20条3項)
公表義務のある一般事業主は、おおむね1年に一回以上、インターネットの利用(厚生労働省のウェブサイトに限定されません)などにより、女性の求職者等が容易に閲覧できるように公表しなければなりません。(省令19条4項)
(特定事業主については、内閣府令で定めるところにより、公表しなければなりません)
一般事業主について解説します。
女性の職業選択に資する情報として公表の対象となるのは、次の①②です。
- 女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供に関する実績
- 労働者の職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備に関する実績
①としては、まず「労働者の男女の賃金の差異」があり、その他に「採用した労働者に占める女性労働者の割合」など8項目つまり合計で9項目が定められています(省令19条1項1号)
②としては、「男女別の継続雇用割合」など7項目が定められています(省令19条1項2号)
①②の具体的な内容は、下のタブに格納しておきます。
各条にカッコ書きで一般事業主の範囲を、各条の第一項に「1」を、各号に「号」を追記しています。
第十九条(常時雇用する労働者が300人を超える一般事業主)
1 法第二十条第一項の規定による情報の公表は、次の各号に掲げる情報の区分ごとに第一号イからチまで及び第二号に定める事項のうち一般事業主が適切と認めるものをそれぞれ一以上公表するとともに、第一号リに定める事項を公表しなければならない。
一号 その雇用し、又は雇用しようとする女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供に関する実績
イ 採用した労働者に占める女性労働者の割合
ロ 男女別の採用における競争倍率
ハ その雇用する労働者及びその指揮命令の下に労働させる派遣労働者に占める女性労働者の割合
ニ 係長級にある者に占める女性労働者の割合
ホ 管理職に占める女性労働者の割合
ヘ 役員に占める女性の割合
ト その雇用する労働者の男女別の職種の転換又はその雇用する労働者の男女別の雇用形態の転換及びその指揮命令の下に労働させる派遣労働者の男女別の雇入れの実績
チ 男女別の再雇用(通常の労働者として雇い入れる場合に限る。)又は中途採用(おおむね三十歳以上の者を通常の労働者として雇い入れる場合に限る。)の実績
リ その雇用する労働者の男女の賃金の差異
二号 その雇用する労働者の職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備に関する実績
イ その雇用する労働者(期間の定めのない労働契約を締結している労働者に限る。)の男女の平均継続勤務年数の差異
ロ 男女別の継続雇用割合
ハ 男女別の育児休業取得率
ニ その雇用する労働者(労働基準法第三十八条の二第一項の規定により労働する労働者、同法第三十八条の三第一項の規定により労働する労働者、同法第三十八条の四第一項の規定により労働する労働者、同法第四十一条各号に該当する労働者及び同法第四十一条の二第一項の規定により労働する労働者並びに短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律第二条第一項に規定する短時間労働者を除く。ホにおいて同じ。)一人当たりの時間外労働及び休日労働の一月当たりの合計時間数
ホ 雇用管理区分ごとのその雇用する労働者及びその指揮命令の下に労働させる派遣労働者一人当たりの時間外労働及び休日労働の一月当たりの合計時間数
ヘ 有給休暇取得率
ト 雇用管理区分ごとの有給休暇取得率
2 一般事業主が前項の規定により公表する場合においては、前項第一号イからハまで及びト並びに同項第二号ハ、ホ及びトに掲げる事項は、雇用管理区分ごとの実績を、同項第一号リに掲げる事項は、その雇用する全ての労働者に係る実績及び雇用管理区分ごとの実績を、それぞれ公表しなければならない。この場合において、同一の雇用管理区分に属する労働者の数がその雇用する労働者の数のおおむね十分の一に満たない雇用管理区分がある場合は、職務の内容等に照らし、類似の雇用管理区分と合わせて一の区分として公表することができるものとする。
3 一般事業主は、第一項各号に定める事項のほか、次に掲げる事項を公表することができる。
一号 その雇用し、又は雇用しようとする女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供に資する社内制度の概要
二号 その雇用する労働者の職業生活と家庭生活との両立に資する社内制度の概要
4 一般事業主は、第一項又は第三項の規定により公表するに当たっては、おおむね一年に一回以上、公表した日を明らかにして、インターネットの利用その他の方法により、女性の求職者等が容易に閲覧できるよう公表しなければならない。
第二十条(常時雇用する労働者が101人以上300人以下の一般事業主)
1 法第二十条第二項の規定による情報の公表は、前条第一項各号に定める事項のうち一般事業主が適切と認めるものを公表しなければならない。
2 前条第二項から第四項までの規定は、法第二十条第二項の規定による情報の公表について準用する。
第二十条の二(常時雇用する労働者が100人以下の一般事業主)
1 第十九条第二項から第四項まで及び前条第一項の規定は、法第二十条第三項の規定による情報の公表について準用する。この場合において、第十九条第二項及び第四項並びに前条第一項中「公表しなければ」とあるのは、「公表するよう努めなければ」と読み替えるものとする。
公表を求められている情報の範囲は、常時雇用する労働者の数に応じて分類されています。
(公表義務のある一般事業主についても、①の9項目、②の7項目のすべてを公表することまでは義務付けられていません)
常時雇用する労働者が300人を超える一般事業主
- ①のうち、「労働者の男女の賃金の差異」の選択は必須
- ①のうち、「労働者の男女の賃金の差異」を除いた8項目から一つ以上を選択する
- ②から一つ以上を選択する
上記いずれも義務なため、最低でも三つは公表しなければなりません。
その他にも、社内制度の概要を任意で公表することもできます(省令19条3項)
(例えば、○○のため■■となっている旨の説明など)
常時雇用する労働者が101人以上300人以下の一般事業主
- ①と②を合わせた全項目から一つ以上を選択する(義務)
①と②を合わせた16項目から、最低でも一つは公表しなければなりません。
(社内制度の概要を公表することもできます)
常時雇用する労働者が100人以下の一般事業主
- ①と②を合わせた全項目から一つ以上を選択する(努力義務)
女性の職業選択に資する情報の公表そのものが努力義務です。
(社内制度の概要を公表することもできます)
その他
最後に、女性活躍推進法におけるその他の制度を簡単に解説しておきます。
国は、国および公庫等の調達に関しては、優良な一般事業主(えるぼし認定を受けた企業など)の受注機会を増やすなど、必要な施策を実施することになっています(法24条)
公庫等の範囲は、政令にて、沖縄振興開発金融公庫、日本年金機構などが定められています(政令2条)
えるぼし認定を受けた企業などは、総合評価落札方式または企画競争による調達において、加点評価を受けることができます。
評価対象の企業や評価方法の考え方は、女性の活躍推進に向けた公共調達及び補助金の活用に関する実施要領(内閣府)にて定められています。
承認中小事業主団体の構成員であって常時雇用する労働者が300人以下の一般事業主(以下、構成員たる中小事業主)に対する特例です。
- 「女性の職業生活における活躍の推進」に関する取組の実施に関して必要な労働者を募集する
- 構成員たる中小事業主が、上記の募集を承認中小事業主団体に委託する
- 委託を受けた承認中小事業主団体が当該募集に従事しようとする
上記いずれも満たすと、構成員たる中小事業主については、職業安定法36条1項および3項の規定(委託募集のうち、報酬の額についての認可を除く部分)は適用されません(法16条1項)
委託募集の特例が適用されると、構成員たる中小事業主については許可を受けたり、届け出る義務が免除され、承認中小事業主団体が一定の事項を厚生労働大臣に届け出ることになります(法16条4項)
(届出をしないで労働者の募集に従事した者は、罰則の対象です)
承認中小事業主団体には、厚生労働大臣の承認を受けた事業協同組合、商工組合などが該当します(令10条、11条)
報告の徴収、行政指導
厚生労働大臣は、女性活躍推進法の施行に関し必要があると認めるときは、次の事業主に対して、報告を求めたり、助言、指導、勧告をすることができます(法30条)
- 法8条1項に規定する一般事業主
- 認定一般事業主または特例認定一般事業主である法8条7項に規定する一般事業主
①は、常時雇用する労働者が100人を超える一般事業主です。
②は、常時雇用する労働者は100人以下ですが、えるぼし認定またはプラチナえるぼし認定を受けた一般事業主です。
厚生労働大臣に求められた報告に対して、報告をせず、または虚偽の報告をした者には、20円以下の過料が定められています(法39条)
(行政指導に従わなかったことに対する罰則はありません)
勧告と公表
厚生労働大臣が、次の①または②事業主に対して、行政指導のうちの勧告(法30条)をした場合の規定です。
- 法20条1項、2項の規定による公表をせず、または虚偽の公表をした法8条1項に規定する一般事業主
- 法20条3項に規定する情報に関し虚偽の公表をした、認定一般事業主または特例認定一般事業主である法8条7項に規定する一般事業主
先ほど解説したとおり、常時雇用する労働者が100人を超える一般事業主には、女性の職業選択に資する情報の公表が義務付けられています(法20条1項、2項)
また、100人以下の一般事業主には努力義務が定められています(法20条3項)
①は、公表義務のある一般事業主が、女性の職業選択に資する情報を公表をしない、または虚偽の公表をしたケースです。
②は、公表は努力義務なものの、えるぼし認定またはプラチナえるぼし認定を受けた一般事業主が虚偽の公表したケースです。
勧告を受けた者がこれに従わなかったとき、厚生労働大臣はその旨を公表することができます(法31条)
ここまで、女性活躍推進法を解説しました。
一般事業主つまり民間企業にとっては、一般事業主行動計画の策定とえるぼし認定、求職者への情報の公表が主な取り組みになるでしょう。
一般事業主行動計画については、男女雇用機会均等法に違反しない範囲で定めなければなりません(通達)
女性の職業生活における活躍を推進する取組として、女性労働者を優先的に取り扱う措置を講じる場合は、上記の点に留意が必要です(通達)
社労士試験の勉強においては、「行動計画の策定」と「女性の職業選択に資する情報の公表」を義務付けられている一般事業主の範囲(100人超)、認定マークの名称(えるぼし)は知識問題なため、出題されたら正解できるようにしてください。
また、余裕があれば、「男女の賃金の差異」の把握と公表を義務付けられている一般事業主の範囲(300人超)も覚えてください。
(参考資料等)
厚生労働省|厚生労働省法令等データベースサービスより|https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/kensaku/index.html
- 女性の職業生活における活躍の推進に関する法律
- 女性の職業生活における活躍の推進に関する法律に基づく一般事業主行動計画等に関する省令
厚生労働省ホームページ|女性活躍推進法特集ページ(えるぼし認定・プラチナえるぼし認定)より|https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000091025.html
- 女性の職業生活における活躍の推進に関する法律の施行について(*)
- えるぼし認定、プラチナえるぼし認定の概要
- Q&A「状況把握、情報公表、認定基準等における解釈事項について」
(*)通達 平成27年10月28日 職発1028第2号(最終改定 令和4年7月8日 雇均発0708第1号)