社労士試験の独学|年金制度|マクロ経済スライド

まえがき

「マクロ経済スライド」は、社会保険労務士試験(以下、社労士試験)の試験範囲のなかでも難解な論点のひとつです。

筆者は公的年金の実務を10年以上経験し、社労士試験にも合格しています。

しかしながら、「マクロ経済スライド」の具体的な説明は簡単ではありません。

公的年金の業務運営を担う日本年金機構によると、マクロ経済スライドは「賃金・物価による改定率を調整して、緩やかに年金の給付水準を調整する仕組み」とあります。

参考|日本年金機構(外部サイトへのリンク)|年金Q&Aマクロ経済スライドとはどういうものですか。

一般的には上記の説明で十分でしょう。

当記事では、より踏み込んだ知識が必要な方に向け、調整する理由や調整方法を解説します。

なお、当記事の解説は次の2ステップでおこないます。

ステップ1|年金額を改定するために、改定率を改定する

ステップ2|ステップ1にマクロ経済スライドを適用して給付水準を調整する

ステップ1に相当する「改定率の改定」は、こちらの記事で解説しています。

※この記事では説明を簡略化するため、次の3つの条件を前提として解説しています。

  • 国民年金のケース
  • 新規裁定者のケース(名目手取り賃金変動率で解説)
  • 保険料納付月数は「480月」として計算

当記事は、条文等の趣旨に反するような極端な意訳には注意しておりますが、厳密な表現と異なる部分もございます。

詳しくは免責事項をご確認ください。

マクロ経済スライドの概要

保険料収入と年金額の収支のバランスを天秤で表した図。

はじめに、マクロ経済スライドの全体像を解説します。

マクロ経済スライドは毎年の年金を改定する際に、年金額の上昇を抑制する効果があります。

年金額を「調整」と説明されることもあります。ただし、マクロ経済スライドの調整が年金額に対してプラス方向に作用することはありません。

では、なぜ年金額を抑制するのかというと、次の2つの視点から説明されます。

  • 現役世代の減少
  • 高齢者の年金受給期間の増加

少子高齢化の進展により、将来の現役世代の負担(保険料等の支出)が重くなり過ぎないよう考慮します。

具体的には、保険料等の収入と年金給付等の支出のバランスをとるために次の事項を考慮して、財政の枠組みが考えられました。

  • 最終的な負担(保険料)の水準を固定
  • 国庫負担割合の引き上げ
  • 積立金の活用
  • マクロ経済スライドの導入
収入面と支出面のバランスをとるための財政の枠組みを説明するための図。

支出から考えるのではなく、収入を先に固定します。そして、その固定した収入(財源)の範囲で支出(年金給付)をやりくりしましょうという考え方です。

その後、保険料率の引き上げなどが完了し、収入面の枠組みは目途がたちました(実際問題としては、年金制度についての検証は今後も継続されます)。

残る、支出面の調整(上昇を抑制)がマクロ経済スライドです。

もちろん、支出面の上昇を抑制し収支のバランスを取ったものの、年金給付が際限なく下がっては困りものです。

現在の高齢者だけでなく、現役世代も将来は年金給付を受ける立場に回りますよね。

(年金は「改定率を改定する」というシステムを採用しているため、現在の改定率を抑制し続けると、将来の年金額も抑制され続けた改定率で計算されます)

そこで、年金給付の水準に下限(現役世代の平均的な所得の50%)を設定し、一定の給付水準を確保しています。


マクロ経済スライドの適用と用語の解説

マクロ経済スライドによる改定率の改定を段階的に説明した図

意外かもしれませんが「マクロ経済スライド」は国民年金法、厚生年金保険法に明記される用語ではありません。

国民年金法には次のように定められています。

国民年金法27条の4 第1項

調整期間における改定率の改定については、前2条の規定にかかわらず、名目手取り賃金変動率に、調整率(第1号に掲げる率に第2号に掲げる率を乗じて得た率(当該率が1を上回るときは、1)をいう。以下同じ。)に当該年度の前年度の特別調整率を乗じて得た率を乗じて得た率(当該率が1を下回るときは、1。第3項第2号において「算出率」という。)を基準とする。

1号 当該年度の初日の属する年の5年前の年の4月1日の属する年度における公的年金の被保険者(この法律又は厚生年金保険法の被保険者をいう。)の総数として政令で定めるところにより算定した数(以下「公的年金被保険者総数」という。)に対する当該年度の前々年度における公的年金被保険者総数の比率の三乗根となる率

2号 0.997

調整期間における「改定率の改定」については、名目手取り賃金変動率に、次の計算式で得た率を乗じます。

名目手取り賃金変動率に乗じる率
調整率(1を上回るときは、1) × 前年度の特別調整率

以降、詳しく解説していきますが、結論としては、「改定率の改定」に上記の計算式を追加すると、マクロ経済スライドを適用して年金額を改定したことになります。

なお、調整率の限値は”1”なため、調整率を乗じてもプラス方向には作用しません。

また、「名目手取り賃金変動率 × 調整率 × 前年度の特別調整率」の限値は”1″なため、名目手取り賃金変動率はプラスでもマクロ経済スライドを適用するとをマイナスに転じる場合には、「賃金が上昇したのに年金額を減額する」という改定はせず、年金額を据え置きます。

(後述する、「賃金・物価の上昇率が小さい場合」のパターンです)

ちなみに、マクロ経済スライドを適用しない場合の年金額(改定率の改定)は、次の式で計算できます。

  • 当年度の年金額(マクロなし)
    =780,900円 × 前年度の改定率 × 名目手取り賃金変動率(または物価変動率)

つまり、マクロ経済スライドを適用した場合の年金額(改定率の改定)は、次の式で計算できます。

  • 当年度の年金額(マクロ適用)
    =780,900円 × 前年度の改定率 × 名目手取り賃金変動率(または物価変動率) × 調整率 × 前年度の特別調整率

調整率

調整率(マクロ経済スライド)

調整率とは、一般的に「スライド調整率」といわれるものです。

当記事でも、以降は「スライド調整率」と表記しています。

スライド調整率は、次の式で計算されます。

  • スライド調整率
    = 公的年金被保険者総数の変動率(3年平均) × 平均余命の伸びを勘案した一定率

公的年金被保険者総数の変動率(3年平均)は、「5年前の年度に対する前々年度の比率」の3乗根です(国年法27条の4 第1項1号)

平均余命の伸びを勘案した一定率は、0.997です(国年法27条の4 第1項2号)

繰り返しになりますが、スライド調整率の上限値は”1”なため、公的年金の被保険者数が増加した場合でも、マクロ経済スライドがプラス方向に作用することはありません。

参考|なぜマクロ経済スライドにより所得代替率が低下するのか

所得代替率=\(\frac{標準的な年金額}{現役世代の平均的な所得}\)です。

  • (新規裁定者の)年金額は、賃金上昇率 ▲ スライド調整率 により変動
  • 現役世代の平均的な所得は、賃金上昇率により変動

つまり、分子の伸び率は分母の伸び率よりもスライド調整率だけ小さくなるため所得代替率は低下します。


特別調整率

特別調整率(マクロ経済スライド)

つづいて特別調整率です。

特別調整率とは、マクロ経済スライドの未調整分です。

簡単にいうと、名目手取り賃金変動率が”1”を下回る(賃金の伸びがマイナス)場合は、マクロ経済スライドが適用されないため、スライド調整率が浮いた状態になります(国年法27条の4第2項)

この浮いた状態のスライド調整率は、特別調整率と名前を変えます。そして、翌年度以降に「前年度の特別調整率」として年金額を抑制します。

翌年度以降に未調整分を繰り越す仕組みが、「マクロ経済スライドのキャリーオーバー制度」と呼ばれる制度です。

なお、スライド調整率は1より大きくならないため、特別調整率として繰り越したとしても、年金額に対してプラス方向に作用することはありません。

特別調整率の改定は複雑なため、キャリーオーバー制度と合わせて後述します。


マクロ経済スライドを適用するケース

ここまで、スライド調整率と特別調整率を乗じて、年金額を抑制する仕組みを解説しました。

ここからは、マクロ経済スライドを適用するか否かの場合分けを解説します。

ポイントは、名目手取り賃金変動率(または物価変動率)が1を下回る場合には、「調整率 × 前年度の特別調整率」を乗じないことです。

つまり、賃金や物価が下がり年金額がマイナス改定される場合に、マクロ経済スライドを適用して更にマイナス方向に改定することは行われません。

賃金・物価の上昇率が大きい場合

賃金・物価の上昇率が大きい場合にマクロ経済スライドが発動することを表した図
出典|日本年金機構|マクロ経済スライド|https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/kyotsu/kaitei/20150401-02.html

賃金・物価の上昇率からスライド調整率を控除して、実際の改定率とします。

つまり、マクロ経済スライドを適用し年金額を調整(上昇を抑制)します。


賃金・物価の上昇率が小さい場合

賃金・物価の上昇率が小さい場合に、マクロ経済スライドが発動しないことを説明した図
出典|日本年金機構|マクロ経済スライド|https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/kyotsu/kaitei/20150401-02.html

賃金・物価はプラスでもスライド調整率を乗じるとマイナスに転じるため、年金額の改定は行われません。

賃金・物価のプラス部分をマクロ経済スライドを適用して抑制します。


賃金・物価が下落した場合

賃金・物価が下落した場合に、マクロ経済スライドが発動しないことを説明した図
出典|日本年金機構|マクロ経済スライド|https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/kyotsu/kaitei/20150401-02.html

賃金・物価の変動率が1を下回るため、マクロ経済スライドによる調整はおこないません。

賃金・物価のマイナス分だけ年金額をマイナス改定します。


調整期間

ここまで、マクロ経済スライドをどのような場合に適用するのか、適用された場合にどのような計算式を用いるのかを解説しました。

用語解説の最後に「調整期間」とその周辺知識を解説します。

調整期間とは、簡単にいうとマクロ経済スライドという制度の対象となる期間です。

財政検証

財政検証(公的年金)

政府は、少なくとも5年ごとに、年金事業の財政に係る収支について「財政の現況及び見通し」を作成しなければなりません(国年法4条の3、厚年法2条の4)

「財政の現況及び見通し」が作成される年以降おおむね100年間を「財政均衡期間」といいます(国年法4条の3)

政府は、「財政の現況及び見通し」を作成するに当たり、次の場合には、年金たる給付の額(付加年金を除く)を調整するものとし、給付額を調整する期間開始年度を定めることになっています(国年法16条の2、厚年法34条)

  • 年金事業の財政が、財政均衡期間の終了時に給付の支給に支障が生じないようにするために必要な積立金を保有しつつ財政均衡期間にわたって均衡を保つことができないと見込まれる

この、給付額を調整する期間が「調整期間」です。

ちなみに、国民年金と厚生年金で「調整期間」は異なります(国民年金の方が財政力が弱いため長期化します)

また、調整期間において財政の現況及び見通しを作成するときは、調整期間の終了年度の見通しについても作成し、公表しなければなりません(国年法16条の2、厚年法34条)

調整を行う必要がなくなったと認められるときは、政令で、調整期間の終了年度が定められます(国年法16条の2、厚年法34条)

「もっと詳しく!」については、下記のリンクを参考にしてください。

厚生労働省(外部サイトへのリンク)|年金制度の仕組みと考え方 第7 マクロ経済スライドによる給付水準調整期間

厚生労働省(外部サイトへのリンク)|将来の公的年金の財政見通し(財政検証)


マクロ経済スライドの計算手順

ここからは、報道資料を参考に、マクロ経済スライドを適用して年金額を実際に改定します。

繰り返しになりますが、マクロ経済スライドを適用する場合は、「改定率の改定」に次の計算式を乗じます。

調整率 × 前年度の特別調整率

マクロ経済スライドを適用して、前年度の年金額を改定するための計算式は、次のとおりです。

  • 当年度の年金額(マクロ適用)
    =780,900円 × 前年度の改定率 × 名目手取り賃金変動率(または物価変動率) × 調整率 × 前年度の特別調整率

具体的な計算手順

改定された年金額を求める際は、次の2通りの解説がみられます。

  • 報道資料のように、変動幅を%で表して足し算で表す方法
  • 条文のとおり変動率を掛け算で表す方法

当記事では、令和5年度の年金額の改定をもとに、2種類とも解説します。

令和5年度の年金額の改定は、マクロ経済スライドを適用し、前年度までの特別調整率を解消したパターンです。

(最新の年金額についてはこちらの記事で解説しています)

令和5年度の年金額の改定に用いるデータ|報道関係資料より
  • 物価変動率 :2.5%
  • 名目手取り賃金変動率  :2.8%
  • マクロ経済スライドによるスライド調整率  :▲0.3%
  • 前年度までのマクロ経済スライドの未調整分  :▲0.3%
  • 令和4年度の改定率(令和5年度の前年度の改定率):0.996

(参考|厚生労働省(外部サイトへのリンク)|令和5年度の年金額改定について

変動幅(%)を用いた計算

令和5年度の改定率
= 0.996 × (2.8%+▲0.3%+▲0.3% = +2.2%)
= 1.018(少数第4位四捨五入)

令和5年度の年金額
= 780,900円 × 1.018
= 794,956.2円

50円未満の端数は切り捨て、50円以上100円未満の端数は100円に切り上げより

(年額)795,000円|(月額)66,250円

変動率を用いた計算

  • 前年度の改定率=0.996
  • 名目手取り賃金変動率=1.028
  • スライド調整率=0.997
  • 前年度までの特別調整率=0.997

令和5年度の改定率
= 0.996 × 1.028 × 0.997 × 0.997
= 1.018

令和5年度の年金額
= 780,900円 × 1.018
= 794,956.2円

50円未満の端数は切り捨て、50円以上100円未満の端数は100円に切り上げより

(年額)795,000円|(月額)66,250円


スライド調整率を乗じるだけでなく、前年度の特別調整率(キャリーオーバー)を解消しているため、勉強した内容に沿った改定です。

そのため、令和5年度の改定を用いて解説しました。


キャリーオーバー制度と特別調整率の改定

ここからは、キャリーオーバー制度と特別調整率の改定を解説します。

勉強を進めるうえで、次の2つがポイントです。

  • 名目手取り賃金変動率(または物価変動率)が1を下回る場合には、マクロ経済スライドは適用されない
  • マクロ経済スライドが適用されないと、調整率は特別調整率として翌年度以降に繰り越す(キャリーオーバー制度)

特別調整率は次の規定のとおり、設定され改定されます(ここまでの復習を兼ねて条文を載せておきます)

国民年金法27条の4

1 調整期間における改定率の改定については、前二条の規定にかかわらず、名目手取り賃金変動率に、調整率(第一号に掲げる率に第二号に掲げる率を乗じて得た率(当該率が一を上回るときは、一)をいう。以下同じ。)に当該年度の前年度の特別調整率を乗じて得た率を乗じて得た率(当該率が一を下回るときは、一。第三項第二号において「算出率」という。)を基準とする。

1号 当該年度の初日の属する年の五年前の年の四月一日の属する年度における公的年金の被保険者(この法律又は厚生年金保険法の被保険者をいう。)の総数として政令で定めるところにより算定した数(以下「公的年金被保険者総数」という。)に対する当該年度の前々年度における公的年金被保険者総数の比率の三乗根となる率

2号 0.997

2 名目手取り賃金変動率が一を下回る場合の調整期間における改定率の改定については、前項の規定にかかわらず、名目手取り賃金変動率を基準とする。

3 第一項の特別調整率とは、第一号の規定により設定し、第二号の規定により改定した率をいう。

1号 平成二十九年度における特別調整率は、一とする。

2号 特別調整率については、毎年度、名目手取り賃金変動率に調整率を乗じて得た率を算出率で除して得た率(名目手取り賃金変動率が一を下回るときは、調整率)を基準として改定する

…どうでしょう、パッと見て改定の理屈が分かりますか?

私は理解できず、何度か読み直しました。

第3項を読むと、平成29年度における特別調整率として”1”を設定し、毎年度、改定することは分かります。

以降は細かい解説となるため、結論だけ先に述べておきます。

結論

キャリーオーバーがなければ特別調整率は”1”のままです。


特別調整率の改定

繰り返しになりますが、マクロ経済スライドを適用した場合の「改定率の改定」の計算式は、次のとおりです。

  • 当年度の年金額(マクロ適用)
    =780,900円 × 前年度の改定率 × 名目手取り賃金変動率(または物価変動率) × 調整率 × 前年度の特別調整率

キャリーオーバーが発生する年度

特別調整率の改定を四則演算で表現すると次のようになります(説明のため、当年度と前年度に特別調整率を分けて表現しています)。

当年度の特別調整率= 前年度の特別調整率 × (名目手取り賃金変動率 × 調整率) ÷  算出率

算出率は次のとおりです(国民年金法第27条の4)

算出率 = (名目手取り賃金変動率 × 調整率) ×  前年度の特別調整率

①②より、当年度の特別調整率は”1”となります。

当年度の特別調整率 = \(\frac{前年度の特別調整率 ×(名目手取り賃金変動率 × 調整率)}{(名目手取り賃金変動率 × 調整率) ×  前年度の特別調整率}\) = 1

特別調整率が”1”ということは、前年度の改定率を「名目手取り賃金変動率 × スライド調整率 × 1」で改定します。

スライド調整率は”1”より大きくならないため、賃金(または物価)による改定率をスライド調整率で調整(上昇を抑制)する仕組みが働きます。

なお、名目手取り賃金変動率が1を下回る場合には、マクロ経済スライドは適用されません(国年法27条の4第2項)

名目手取り賃金変動率が1を下回る場合には、「当年度の特別調整率=スライド調整率」となります(国年法27条の4第3項第2号かっこ書き)

キャリーオーバーした年度の特別調整率 = スライド調整率

仮に、2年連続で名目手取り賃金変動率が1を下回る場合は、前年度の特別調整率(③の値)を「翌年度のスライド調整率」で改定します。

翌年度の特別調整率= ③キャリーオーバーした年度の特別調整率 × 翌年度のスライド調整率

キャリーオーバーを解消する(名目手取り賃金変動率が1以上になる)年度までは、③④のように「前年度の特別調整率」と「スライド調整率」の掛け算を繰り返して、特別調整率を改定します。

キャリーオーバーを解消する年度

その後、キャリーオーバーを解消する年度(解消年度)の特別調整率は、次の⑤の式で計算できます。

⑤解消年度の特別調整率 = \(\frac{前年度の特別調整率 ×(名目手取り賃金変動率 × 調整率)}{(名目手取り賃金変動率 × 調整率) ×  前年度の特別調整率}\) = 1

特別調整率を複数回キャリーオーバーしても、解消年度の特別調整率は”1″となります。

そして、キャリーオーバーにより繰り越してきた前年度までのスライド調整率は、「前年度の特別調整率」として解消されます。

ちなみに、キャリーオーバーを解消した年度の翌年度をみると、「前年度の特別調整率 = 解消年度の特別調整率 = 1」となるため、改定率の改定に影響を与えません。

アルゴリズムの問題を解いているようですね……試験勉強としては、参考まで。


既裁定者のマクロ経済スライド

既裁定者についての「調整期間における(基準年度以後)改定率の改定」(マクロ経済スライドによる調整)は次のようになります。

  • 物価変動率を用いる
  • 物価変動率が名目手取り賃金変動率を上回るときは、名目手取り賃金変動率を用いる

また、「基準年度以後特別調整率」という用語が、翌年度以降にキャリーオーバーされるスライド調整率です。

重複する内容も多いため当記事では説明を省略します。

詳しくは国民年金法27条の5に定められています。


まとめ

ここまで、マクロ経済スライドについて解説しました。

情報を簡単に整理して終わりにします。

保険料等の収入と年金給付等の支出のバランスをとるために、次の事項を考慮した財政の枠組みが考えられました。

  • 最終的な負担(保険料)の水準を固定
  • 国庫負担割合の引き上げ
  • 積立金の活用
  • マクロ経済スライドの導入

そのうち、支出面の上昇を抑制(調整)するための制度が「マクロ経済スライド」です。

具体的には、年金額を改定する際にスライド調整率を設定し、賃金・物価スライドから控除します。

  • 当年度の年金額(マクロ適用)
    =780,900円 × 前年度の改定率 × 名目手取り賃金変動率(または物価変動率) × 調整率 × 前年度の特別調整率

ただし、マクロ経済スライドの適用によって、前年度よりも年金の名目額が下がる場合は、調整を翌年度以降に繰り越します。

できるだけ平易な表現を心がけましたが、一度で理解するには難しい制度です。

そのため、参考書などで情報を補完しながら学習を進めていただければ幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました


(参考資料等)

厚生労働省|厚生労働省法令等データベースサービスより|https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/kensaku/index.html

  • 国民年金法第27条の4

厚生労働省|年金制度の仕組みと考え方 第6 平成 16 年改正年金財政フレームと財政検証|https://www.mhlw.go.jp/stf/nenkin_shikumi_006.html

厚生労働省|令和5年度の年金額改定について|https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000191631_00017.html

日本年金機構|年金Q&A (マクロ経済スライド)|
https://www.nenkin.go.jp/faq/jukyu/kyotsu/macro/index.html

日本年金機構|マクロ経済スライド|
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/kyotsu/kaitei/20150401-02.html