社労士試験の独学|労一|男女雇用機会均等法②|不利益取扱の禁止等

まえがき

この記事では、男女雇用機会均等法から次の規定(2章1節)を解説しています。

  • 性別を理由とする差別の禁止(5条から8条まで)
  • 婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止(9条)

簡単にいうと、事業主に対して「やってはいけないこと」を定めています。

社会保険労務士試験の独学、労務管理担当者の勉強などに役立てれば嬉しいです。

当記事は、条文等の趣旨に反するような極端な意訳には注意しております。ただし、厳密な表現と異なる部分もございます。

詳しくは免責事項をご確認ください。

性別を理由とする差別の禁止

ポジティブ・アクション

雇用の分野における一定の事項については、「女性だから」「男性だから」や「一般的に女性は〇〇だから」「平均的に男性は〇〇だから」のように、性別を理由とする差別は禁止されています。

また、合理的な理由がなく身長、体重、体力を採用の要件とするなど、実質的に性別を理由としている差別も禁止されています。

ただし、事業主が、雇用の分野における男女間格差を改善することを目的として女性労働者に関して行う措置(*1)については、違法とはなりません(均等法8条)

(*1)いわゆるポジティブ・アクションまたはアファーマティブ・アクションといわれている措置です。

以降、均等法8条における措置をポジティブ・アクションと略しています。

直接差別の禁止(5条、6条)

事業主は、労働者の募集および採用について、その性別にかかわりなく均等な機会を与えなければなりません(均等法5条)

また、事業主は、次に掲げる事項について、労働者の性別を理由として、差別的取扱いをしてはなりません(均等法6条)

  1. 労働者の配置(業務の配分および権限の付与を含む)、昇進、降格、教育訓練
  2. 住宅資金の貸付けその他これに準ずる福利厚生の措置であって厚生労働省令で定めるもの
  3. 労働者の職種、雇用形態の変更
  4. 退職の勧奨、定年、解雇、労働契約の更新

②の厚生労働省令で定める福利厚生の措置は、次のとおりです(均等則1条)

  • 生活資金、教育資金その他労働者の福祉の増進のために行われる資金の貸付け
  • 労働者の福祉の増進のために定期的に行われる金銭の給付(生命保険料の一部補助など)
  • 労働者の資産形成のために行われる金銭の給付
  • 住宅の貸与

なお、労働者の募集および採用を含め、ポジティブ・アクションは違法とはなりません(均等法8条)

例えば、女性労働者が男性労働者と比較して相当程度少ない役職についての採用に当たって、採用基準を満たす者の中から男性より女性を優先して採用することは、違法ではありません。

用語の解説|昇進と昇格

「昇進」とは、例えば「一般職から管理職になる」です。

均等法6条における「昇進」には、定期昇給やベース・アップは含まれません(平成18年10月11日雇児発第1011002号)

「昇格」とは、例えば「賃金等級が一般職1級から一般職2級になる」です。

「昇格」については均等法に規定していませんが、「賃金」について「女性であること理由」に差別することは労基法4条で禁止しています。

ちなみに、均等法8条における「降格」については、同格の役職間の異動であれば異動先の役職の権限等が異動前の役職の権限等よりも少ないものであったとしても、「降格」には含まれないと解されています(前掲通達)


間接差別の禁止(7条)

雇用の分野における間接差別とは、(a)性別以外の事由を要件とする措置であって、(b)他の性の構成員と比較して、一方の性の構成員に相当程度の不利益を与えるものを、(c)合理的な理由がないときに講ずることをいいます。

(a)および(b)に該当する措置として、「実質的に性別を理由とする差別となるおそれがある措置」が厚生労働省令で定められています。

「実質的に性別を理由とする差別となるおそれがある措置」を(c)合理的な理由がないときに講ずると間接差別となり、違法となります。

実質的に性別を理由とする差別となるおそれがある措置

間接差別となるおそれがある措置として、次の3つが定められています(均等則2条)

  • 労働者の募集、採用について、労働者の身長、体重、体力を要件とすること
  • 労働者の募集、採用、昇進、職種の変更について、転居を伴う配置転換に応じることができることを要件とするもの
  • 労働者の昇進について、転勤経験があることを要件とするもの

事業主は、合理的な理由がなければ、上記の措置を講じてはなりません(均等法7条)

ただし、ポジティブ・アクションは違法とはなりません(均等法8条)

参考|間接差別の範囲

間接差別については、通達に次のように留意点が示されています(平成18年10月11日雇児発第1011002号)

我が国においては、現時点では、どのようなものを間接差別として違法とすべきかについて十分な社会的合意が形成されているとはいえない状況にあることをかんがみると、本法に間接差別を規定し、これを違法とし、指導等の対象にするに当たっては、対象となる範囲を明確にする必要がある。このため、本条では、対象となる性以外の事由を要件とする措置を厚生労働省令で定めることとしたものであること。

したがって、均等則2条に定める措置は、あくまでも本法の間接差別の対象とすべきものを定めたものであって、これら以外の措置が一般法理としての間接差別法理の対象にならないとしたものではなく、司法判断において、民法等の適用に当たり間接差別法理に照らして違法と判断されることはあり得るものであること。

合理的な理由

均等法7条では、「合理的な理由がある」として、次の2つが例示されています。

・措置の対象となる業務の性質に照らして、措置の実施が業務の遂行上特に必要である場合

・事業の運営の状況に照らして、措置の実施が雇用管理上特に必要である場合

通達によると、「特に必要である場合」とは、当該措置を講じなければ業務遂行上、又は企業の雇用管理上不都合が生じる場合であり、単にあった方が望ましいという程度のものではなく、客観的にみて真に必要である場合をいうと示されています(平成18年10月11日雇児発第1011002号)


婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止

均等法と育介法の適用範囲

事業主は、女性労働者に対して、婚姻、妊娠、出産等を理由に不利益な取り扱いをすることは禁止されています(均等法9条)

ちなみに、育児については、育児介護休業法(9章)に同旨の定めがあります。

婚姻、妊娠、出産を理由とする不利益取扱い(9条1項から3項まで)

事業主が「してはならない」事項は次のとおりです(均等法9条1項から3項まで)

  1. 女性労働者が婚姻し、妊娠し、または出産したことを退職理由として定めること
  2. 女性労働者が婚姻したことを理由に、解雇すること
  3. 雇用する女性労働者の「妊娠または出産に関する事由」を理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをすること

第3項

③の「雇用する女性労働者」に求職者は含まれません(平成18年10月11日雇児発第1011002号)

なお、③については、労働者派遣法に特例が設けられているため、派遣元事業主のみならず、派遣先事業主にも不利益な取扱いの禁止が義務付けられています(労働者派遣法47条の2)

「妊娠または出産に関する事由」は、次のように定められています(均等則2条の2)

  • 妊娠したこと
  • 出産したこと
  • 妊娠および出産後の健康管理に関する措置(均等法12条または13条1項)を求め、または措置を受けたこと
  • 坑内業務の就業制限(労基法64条の2)または危険有害業務の就業制限(労基法64条の3)の規定により、業務に就くことができないこと、申出をしたこと、業務に従事しなかったこと
  • 産前休業(労基法65条1項)を請求し、または産前休業をしたこと
  • 産後休業(労基法65条2項)により就業できず、または産後休業をしたこと
  • 軽易な業務への転換(労基法65条3項)を請求をし、または軽易な業務に転換したこと
  • 妊産婦の労働時間の規制(労基法66条)による請求をし、または同規定により時間外労働等をしなかったこと
  • 育児時間(労基法67条)を請求をし、または取得したこと
  • 妊娠または出産に起因する症状により労務の提供ができないこと、またはできなかったこと
  • 妊娠または出産に起因する症状により労働能率が低下したこと

上記いずれかを理由に解雇や不利益な取扱いをすると、均等法9条3項違反となります。


参考|軽易な業務への転換を機に行われた降格

社労士試験で出題実績のある判例(最一小判 平26.10.23 広島中央保健生活協同組合事件)です。

副主任の職位にあった女性従業員が、軽易な業務への転換(労基法65条3項)を契機に、副主任を解任(降格)されました。

原則

女性労働者につき妊娠中の軽易業務への転換を契機として降格させる事業主の措置は、原則として均等法9条3項の禁止する取扱いに当たる と解されています(前掲 広島中央保健生活協同組合事件)

なお、均等法9条3項は、強行規定と解されています(前掲 広島中央保健生活協同組合事件)

例外

  • 労働者が自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき
  • 降格の措置を執ることなく軽易業務への転換をさせることに円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性から支障があり、均等法9条3項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するとき

上記いずれかの場合には、均等法9条3項の禁止する取扱いに当たらない と解されています(前掲 広島中央保健生活協同組合事件)


妊産婦に対する解雇(9条4項)

解雇無効|妊産婦

妊娠中の女性労働者および出産後1年を経過しない女性労働者(妊産婦)に対してなされた解雇は、無効となります(均等法9条4項)

ただし、事業主が「妊娠または出産に関する事由(均等法9条3項)」を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りではありません。

妊産婦に対する解雇は、「妊娠または出産を理由に解雇してはならない(均等法9条3項)」だけでなく、事業主が「妊娠や出産を理由とした解雇ではない」と証明しない限り無効となります。


指針

  • 性別を理由とする差別(5条から7条まで)
  • 婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益な取り扱い(9条1項から3項まで)

上記については、均等法10条1項に基づいて、「労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針」が定められています。

当記事では、上記指針から、募集および採用に関する事項を一部紹介します。

均等法5条に違反するケース

募集または採用に当たって、男女のいずれかを表す職種の名称(*2)を用いることは、均等法5条に違反します。

(*2)例えば、「カメラマン」「ウェイトレス」が該当し、均等法5条に違反します(平成18年10月11日雇児発第1011002号)

ただし、対象を男女のいずれかのみとしないことが明らかな場合(*3)やポジティブ・アクション(均等法8条)を講ずる場合は、違反になりません。

(*3)例えば、「カメラマン(男女)」「ウェイター・ウェイトレス」が該当し、均等法5条に違反しません(前掲通達)

なお、「男性歓迎」「女性向きの職種」などの表示についても、男女のいずれかを排除しているとして、均等法5条に違反します。

均等法5条に違反しないケース

一方で、労働者の募集および採用、配置、昇進の場面において、均等法5条および6条の違反に当たらないケースが次のように示されています。

職務

次に掲げる職務に従事する労働者に係る場合には、募集および採用(5条)、労働者の配置および昇進(6条1号)に関して区別しても、性別にかかわりなく均等な機会を与えていない、又は性別を理由とする差別的取扱いをしているとはなりません

  • 芸術・芸能の分野における表現の真実性等の要請から男女のいずれかのみに従事させることが必要である職務(俳優、歌手、モデルなど)
  • 守衛、警備員等のうち防犯上の要請から男性に従事させることが必要である職務(高額の現金を現金輸送車で輸送する業務など)
  • ①及び②に掲げるもののほか、宗教上、風紀上、スポーツにおける競技の性質上その他の業務の性質上男女のいずれかのみに従事させることについてこれらと同程度の必要性があると認められる職務(神父、巫女、女子更衣室の係員など)

なお、通達によると、「①、②及び③はいずれも拡大解釈されるべきではなく、単に社会通念上男性又は女性のいずれか一方の性が就くべきであると考えられている職務は含まれない」と示されています(平成18年10月11日雇児発第1011002号)

均等な取扱いが困難な場合

次の場合も、募集および採用(5条)、労働者の配置および昇進(6条1号)に関して性別で区別しても、均等法の違反にはなりません

  • 次の規定により女性を就業させることができないため、通常の業務を遂行するためには、労働者の性別にかかわりなく均等な機会を与え又は均等な取扱いをすることが困難である場合
    ⇒ 労基法61条1項(未成年者の深夜業における交代制)、64条の2(坑内業務の就業制限)、64条の3第2項(危険有害業務の就業制限)
  • 保健師助産師看護師法3条(助産師)の規定により男性を就業させることができないため、通常の業務を遂行するためには、労働者の性別にかかわりなく均等な機会を与え又は均等な取扱いをすることが困難である場合
  • 風俗、風習等の相違により男女のいずれかが能力を発揮し難い海外での勤務が必要な場合その他特別の事情があるため、労働者の性別にかかわりなく均等な機会を与え又は均等な取扱いをすることが困難である場合

③の「特別の事情」とは、例えば、勤務地が通勤不可能な山間僻地にあり、事業主が提供する宿泊施設以外に宿泊することができず、かつ、その施設を男女共に利用することができない場合など、極めて特別な事情をいいます。海外勤務と同様な事情にあることを理由とした国内での勤務は含まれません(平成18年10月11日雇児発第1011002号)


まとめ

ここまで、男女雇用機会均等法から次の規定を解説しました。

  • 性別を理由とする差別の禁止(5条から9条まで)
  • 婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止(9条)

事業主に対して、上記の差別や不利益な取扱いの禁止を義務付けた規定です。

具体的な判断基準や典型的な例は指針で示されています。また、均等法および指針についての解釈は通達で示されています。

厚生労働省のホームページに「男女雇用機会均等法関係資料」として整理されているので、具体的な対応が必要となったときに参考にしてみてください。

当記事の参考資料等にリンクを載せておきます。


(参考資料等)

厚生労働省|厚生労働省法令等データベースサービスより|https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/kensaku/index.html

  • 男女雇用機会均等法5条、6条、7条、8条、9条
  • 平成18年10月11日雇児発1011002号(改正雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律の施行について)
  • 平成28年8月2日雇児発0802第1号(「改正雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律の施行について」の一部改正について)
  • 令和2年2月10日雇均発0210第2号(「改正雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律の施行について」の一部改正について)

厚生労働省ホームページ|雇用における男女の均等な機会と待遇の確保のために|男女雇用機会均等法より|https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/danjokintou/index.html

  • 男女雇用機会均等法のあらまし
  • 男女雇用機会均等法Q&A

厚生労働省ホームページ|雇用における男女の均等な機会と待遇の確保のために|男女雇用機会均等法関係資料より|
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000133471.html

  • 関連指針(労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針)
  • 関連指針(コース等で区分した雇用管理を行うに当たって事業主が留意すべき事項に関する指針)
  • 関連通達(改正雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律の施行について)