この記事では、男女雇用機会均等法の2章2節から次の規定を解説しています。
- 職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置(11条)
- 職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置(11条の3)
- 妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置(12条、13条)
- 男女雇用機会均等推進者(13条の2)
簡単にいうと、事業主に対して「やるべきこと」を定めています。
社会保険労務士試験の独学、労務管理担当者の勉強などに役立てれば嬉しいです。
当記事は、条文等の趣旨に反するような極端な意訳には注意しております。ただし、厳密な表現と異なる部分もございます。
詳しくは免責事項をご確認ください。
事業主の講ずべきハラスメント対策
- 職場における性的な言動に起因する問題
- 職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題
均等法2章2節では、上記2つのハラスメントについて、相談窓口の設置などを事業主に義務付けています。
簡単にいうと、セクハラとマタハラ(*1)を防止するための対策です。
(*1)育児については、育児介護休業法に定められています。
職場
「職場」には、業務を遂行する場所であれば、出張先、業務で使用する車中、取引先との打ち合わせ場所なども含まれます(平成18年10月11日雇児発1011002号)
なお、勤務時間外の懇親の場、社員寮や通勤中なども、実質上職務の延長と考えられるものは職場に該当します。その判断に当たっては、職務との関連性、参加者、参加や対応が強制的か任意か等を考慮して個別に行われます(前掲通達)
正確には、「職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置」です。
①事業主に相談窓口の設置を義務付けたり、②相談したことを理由とする解雇等を禁止したり、③他の事業主が実施するセクハラ対策への協力を定めています。
通達では、「セクハラ」の範囲について、次のような留意事項が示されています(同旨 平成18年10月11日雇児発1011002号)
- 女性だけでなく男性に対する言動もセクハラの対象です
- 異性に対するものだけでなく同性に対する言動もセクハラの対象です
- 相手の性的指向または性自認にかかわらず、セクハラになり得ます
- 事業主、上司、同僚に限らず、取引先(事業主やその雇用する労働者)、顧客、患者やその家族、学校における生徒などもセクハラの行為者になり得ます
① 相談窓口の設置など(1項)
事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければなりません(均等法11条1項)
派遣労働者については、派遣元のみならず、派遣先も事業主とみなされます。「雇用管理上」とあるのは、「雇用管理上及び指揮命令上」と読み替えられます(労働者派遣法47条の2)
「講じなければならない」とされている、「雇用管理上必要な措置」は、おおむね次のとおりです(後述する指針に定められています)
- 事業主の方針や対処の内容を明確にして、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること
- 相談窓口を設置して、周知すること
- 相談窓口の担当者が適切に対応できるようにすること(研修の実施、相談マニュアルの整備、人事部門との連携など)
- 事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認すること
- 事実が確認できた場合においては、速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行うこと(行為者と被害者を引き離すための配置転換、行為者の謝罪、メンタル不調への相談など)
- 事実が確認できた場合においては、行為者に対する措置を適正に行うこと
- 再発防止に向けた措置を講ずること
- 相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講ずるとともに、その旨を労働者に対して周知すること
- セクハラの相談等を理由として、解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること
② 相談したこと等を理由とする解雇等の禁止(2項)
事業主は、労働者が①の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはなりません(均等法11条2項)
③ 他の事業主への協力(3項)
事業主は、他の事業主から当該事業主の講ずる①の措置の実施に関し必要な協力を求められた場合には、これに応ずるように努めなければなりません(均等法11条3項)
指針
①②③の内容や典型的な例は、「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」に示されています。
上記指針では、セクハラを「対価型」と「環境型」に分類しています。
簡単にいうと、性的な言動に対して拒否を示したことを理由に不利益な取り扱い(解雇や配置転換など)をする(される)のが「対価型」です。
労働者の意に反した性的な言動をとり(受け)、就業上見過ごすことのできない支障が生じているのが「環境型」です。
正確には、「職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置」です。
①事業主に相談窓口の設置を義務付け、②相談したことを理由とする解雇等を禁止しています。
① 相談窓口の設置など(1項)
事業主は、職場において行われるその雇用する女性労働者に対する「妊娠または出産に関する事由」に関する言動により当該女性労働者の就業環境が害されることのないよう、当該女性労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければなりません(均等法11条の3第1項)
セクハラ対策と同様に、派遣労働者については、派遣先も事業主とみなされます。「雇用管理上」とあるのは、「雇用管理上及び指揮命令上」と読み替えられます(労働者派遣法47条の2)
ハラスメントになり得る、「妊娠または出産に関する事由」は、次のとおりです(均等則2条の3)
- 妊娠したこと
- 出産したこと
- 妊娠および出産後の健康管理に関する措置(均等法12条または13条1項)について、措置を求めようとしたこと、措置を求めたこと、措置を受けたこと
- 坑内業務の就業制限(労基法64条の2)または危険有害業務の就業制限(労基法64条の3)の規定により、業務に就くことができないこと、申出をしようとしたこと、申出をしたこと、業務に従事しなかったこと
- 産前休業(労基法65条1項)について、請求しようとしたこと、請求したこと、産前休業をしたこと
- 産後休業(労基法65条2項)により就業できないこと、産後休業をしたこと
- 軽易な業務への転換(労基法65条3項)を請求をしようとしたこと、請求したこと、軽易な業務に転換したこと
- 妊産婦の労働時間の規制(労基法66条)の規定により、請求をしようとしたこと、請求したこと、同規定により時間外労働等をしなかったこと
- 育児時間(労基法67条)を請求しようとしたこと、請求したこと、取得したこと
- 妊娠または出産に起因する症状により労務の提供ができないこと、できなかったこと
- 妊娠または出産に起因する症状により労働能率が低下したこと
上記いずれかに関する言動により、女性労働者の就業環境が害されないよう、雇用管理上必要な措置を講じる必要があります
「講じなければならない」とされている、「雇用管理上必要な措置」は、おおむね次のとおりです(後述する指針に定められています)
- 事業主の方針や対処の内容を明確にして、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること
- 相談窓口を設置して、周知すること
- 相談窓口の担当者が適切に対応できるようにすること(研修の実施、相談マニュアルの整備、人事部門との連携など)
- 事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認すること
- 事実が確認できた場合においては、速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行うこと(行為者と被害者を引き離すための配置転換、行為者の謝罪、メンタル不調への相談など)
- 事実が確認できた場合においては、行為者に対する措置を適正に行うこと
- 再発防止に向けた措置を講ずること
- 相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講ずるとともに、その旨を労働者に対して周知すること
- 妊娠、出産等に関するハラスメントの相談等を理由として、解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること
- 職場における妊娠、出産等に関するハラスメントの原因や背景となる要因を解消するたに、必要な措置を講ずること(周囲の労働者への業務の偏りにも配慮して、業務分担を見直したり、代々要員を確保するなど)
セクハラ防止指針とおおむね一致しますが、「妊娠、出産をした労働者」への措置だけでなく、業務負担の増大などが考えられる「周囲の労働者」への配慮も必要です。
② 相談したこと等を理由とする解雇等の禁止(2項)
事業主は、労働者が①の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはなりません(均等法11条の3第2項)
指針
①②の内容や典型的な例は、「事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」に示されています。
ちなみに、上記指針では「妊娠、出産等に関するハラスメント」を「制度等の利用への嫌がらせ型分」と「状態への嫌がらせ型」に分類しています。
事業主や上司の言動だけでなく、同僚により繰り返し又は継続的に行われる嫌がらせ等(嫌がらせ的な言動、業務に従事させないこと、専ら雑務に従事させること)もハラスメントの対象です。
なお、業務分担や安全配慮等の観点から、客観的にみて、業務上の必要性に基づく言動については、職場における妊娠、出産等に関するハラスメントには該当しません。
妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置
ここからは、ハラスメント対策から離れ、保健指導または健康診査についての措置を解説します。
事業主は、雇用する女性労働者が母子保健法の規定による保健指導または健康診査を受けるために必要な時間を確保することができるように しなければなりません(均等法12条)
均等法12条の対象となる保健指導または健康診査(一対)の頻度は、次のとおりです(均等則2条の4)
女性労働者 | 頻度 |
妊娠中 | 妊娠23週まで ➡ 4週に1回 |
妊娠24週から35週まで ➡ 2週に1回 | |
妊娠36週から出産まで ➡ 1週に1回 | |
産後1年以内 | 医師または助産師の指示による |
ただし、医師または助産師が上表と異なる指示をしたときは、その指示によります。
事業主は、雇用する女性労働者が均等法12条の保健指導または健康診査に基づく指導事項を守ることができるようにするため、勤務時間の変更、勤務の軽減等必要な措置を講じなければなりません(均等法13条)
指針
「必要な措置」の内容は、「妊娠中及び出産後の女性労働者が保健指導又は健康診査に基づく指導事項を守ることができるようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針」に示されています。
- 妊娠中の通勤緩和(時差通勤など)
- 妊娠中の休憩に関する措置(休憩時間の延長、回数の増加など)
- 妊娠中または出産後の症状等に対応する措置(作業の制限、勤務時間の短縮など)
指針では、事業主が講ずべき措置として、上記3つを定めています。
また、母性健康管理指導事項連絡カード(母健連絡カード)の利用、プライバシーの保護についても示されています。
男女雇用機会均等推進者
最後に、男女雇用機会均等推進者を解説します。
事業主は、男女雇用機会均等推進者を選任するように努めなければなりません(均等法13条の2)
男女雇用機会均等推進者の業務
男女雇用機会均等推進者は、次の①および②について具体的な取組を促したり、職場における理解を喚起したり、必要に応じて事業主に進言や助言を行います。
- ポジティブ・アクション(均等法8条)、「職場におけるセクハラ」と「妊娠、出産等に関するハラスメント」の防止のための措置(*2)
- 職場における男女の均等な機会および待遇の確保が図られるようにするために講ずべきその他の措置(*3)
(*2)均等法11条1項、11条の2第2項、11条の3第1項、11条の4第2項、12条、13条1項に定める措置をいいます(均等法13条の2)
(*3)性別を理由とする差別の禁止等(均等法2章1節)、男女同一賃金の原則(労基法4条)、母性保護の規定(労基法64条の2から67条まで)の遵守のために必要な措置等の検討・実施や事業主に対する助言等のほか、女性労働者が能力を発揮しやすい職場環境の整備に関する関心と理解の喚起、その業務に関する都道府県労働局との連絡等の業務をいいいます(平成18年10月11日雇児発1011002号)
令和8年3月31日までの間は、女性活躍推進法に規定する一般事業主行動計画に基づく取組および情報の公表の推進のための措置も担当業務に含まれます(均等法附則2項)
ここまで、男女雇用機会均等法から次の規定を解説しました。
- 職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置(11条)
- 職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置(11条の3)
- 妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置(12条、13条)
- 男女雇用機会均等推進者(13条の2)
事業主に対しての禁止事項ではなく、講ずべき措置(他の事業主への協力、推進者の選任は努力義務)を定めた規定です。
措置の具体的な運用基準は指針で示されています。実務において対応が必要となったときには参考にしてみてください。
(当記事の参考資料等にリンクを載せておきます)
試験勉強としては、他の試験科目との兼ね合いもあるため、詳細を暗記するよりも概要の理解と過去問を進めてみて下さい。
(参考資料等)
厚生労働省|厚生労働省法令等データベースサービスより|https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/kensaku/index.html
- 男女雇用機会均等法11条、11条の3、12条、13条、13条の2
- 平成18年10月11日雇児発1011002号(改正雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律の施行について)
- 平成28年8月2日雇児発0802第1号(「改正雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律の施行について」の一部改正について)
- 令和2年2月10日雇均発0210第2号(「改正雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律の施行について」の一部改正について)
- 平成9年11月4日基発695号(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等のための労働省関係法律の整備に関する法律の一部施行(第二次施行分)について)
厚生労働省ホームページ|雇用における男女の均等な機会と待遇の確保のために|男女雇用機会均等法より|https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/danjokintou/index.html
- 男女雇用機会均等法のあらまし
- 男女雇用機会均等法Q&A
- 男女雇用機会均等推進者選任について
厚生労働省ホームページ|雇用における男女の均等な機会と待遇の確保のために|男女雇用機会均等法関係資料より|
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000133471.html
- 関連指針(事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針)
- 関連指針(事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針)
- 関連指針(妊娠中及び出産後の女性労働者が保健指導又は健康診査に基づく指導事項を守ることができるようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針)
- 関連通達(改正雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律の施行について)
- 関連通達(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律第 47条の2から第47条の4までの規定の運用について)