この記事では、男女雇用機会均等法(*1)から、次の事項を解説しています。
(*1)正式名は「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」です。
- 総則(1章)
- 国、事業主及び労働者の責務(11条の2、11条の4)
- 紛争の解決(3章)
- 雑則(4章)
- 罰則(5章)
社会保険労務士試験の独学、労務管理担当者の勉強などに役立てれば嬉しいです。
当記事は、条文等の趣旨に反するような極端な意訳には注意しております。ただし、厳密な表現と異なる部分もございます。
詳しくは免責事項をご確認ください。
目次 表示
男女雇用機会均等法の概要
はじめに、男女雇用機会均等法(均等法)の概要を解説します。
均等法では、おおむね次の問題を扱います。
- 雇用の分野における性別を理由とする差別の禁止
- 婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益な取扱いの禁止
- 職場における性的な言動に起因する問題への対応
- 職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題への対応
- 妊娠中および出産後の健康管理に関する措置を講じること
①②は、事業主に義務付けられた禁止事項です。
③④⑤は、事業主に雇用管理上の措置を実施するよう義務付けています。
簡単にいうと、③はセクハラ対策、④はマタハラ対策、⑤は妊婦健診を受けられるようにすることです。
ちなみに、一般的にマタハラに含まれる「育児」については、育児介護休業法にて事業主が講ずべき措置などが定められています。
なお、職場におけるこれらの問題の解決には労働者の理解も必要なため、労働者の責務なども規定されています。
社労士試験の勉強用として条文を載せておきます。
この法律は、法の下の平等を保障する日本国憲法の理念にのっとり雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を図るとともに、女性労働者の就業に関して妊娠中及び出産後の健康の確保を図る等の措置を推進することを目的とする。
1 この法律においては、労働者が性別により差別されることなく、また、女性労働者にあっては母性を尊重されつつ、充実した職業生活を営むことができるようにすることをその基本的理念とする。
2 事業主並びに国及び地方公共団体は、前項に規定する基本的理念に従って、労働者の職業生活の充実が図られるように努めなければならない。
労働者
第2条の「労働者」とは、雇用されて働く者をいい、求職者を含みます(平成18年10月11日雇児発第1011002号)
(均等法5条および7条では、労働者の募集および採用についても、性別を理由とする差別を禁止しています)
事業主
「事業主」とは、事業の経営の主体をいい、個人企業の場合はその企業主個人、会社その他の法人組織の場合はその法人です(前掲通達)
なお、「事業主以外の従業者」が自らの裁量で行った行為についても、事業主から委任された権限の範囲内で行ったものであれば事業主のために行った行為と考えられるので、事業主はその行為につき均等法に基づく責任を有すると解されています(前掲通達)
- 性的言動問題
⇒ 職場における性的な言動に起因する問題 - 妊娠・出産等関係言動問題
⇒ 職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題
均等法では、上記2つの問題について、国、事業主、労働者それぞれの責務(努力義務)を定めています(均等法11条の2、11条の4)
(読みにくい場合は、セクハラ問題、マタハラ問題と読替えて下さい)
国の責務
国については、次の責務が定められています。
- 性的言動問題および妊娠・出産等関係言動問題について、事業主その他国民一般の関心と理解を深めるために、広報活動、啓発活動などの措置を講じるように努めること(*2)
(*2)条文では「努めなければならない」という表現です。以下同じ。
事業主の責務
事業主については、次の責務が定められています。
- 性的言動問題および妊娠・出産等関係言動問題について、雇用する労働者の関心と理解を深めるとともに、労働者が他の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施などの必要な配慮をするように努めること
- 国の講ずる措置に協力するように努めること
- 事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)自らも、性的言動問題および妊娠・出産等関係言動問題に対する関心と理解を深め、労働者に対する言動に必要な注意を払うように努めること
事業主に対しては、上記責務(努力義務)の他に、雇用管理上の措置(相談窓口の設置など)を講じる義務(努力ではなく義務)も定められています。
労働者の責務
- 性的言動問題および妊娠・出産等関係言動問題について理解を深め、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うとともに、事業主の講ずる措置に協力するように努めること
紛争の解決
簡単にいうと、裁判とは別の解決手段です。
紛争が生じたら、、先ずは企業内において、労使で構成される苦情処理機関で自主的解決の努力をするよう促しています。
ただし、紛争の解決のための援助も定められています。
結論としては、「募集および採用」についての紛争は、「紛争の自主解決」と「調停」からは除かれます。一方で、「助言、指導又は勧告」には含まれます。
事業主は、一定の事項(*3)に関し、労働者から苦情の申出を受けたときは、苦情処理機関(*4)に対し当該苦情の処理をゆだねる等その自主的な解決を図るように努めなければなりません(均等法15条)
(*3)均等法6条、7条、9条、12条、13条1項をいい、労働者の募集および採用に係る紛争を除きます。
(*4)事業主を代表する者および当該事業場の労働者を代表する者を構成員とする当該事業場の労働者の苦情を処理するための機関をいいます。
助言、指導又は勧告
都道府県労働局長は、男女雇用機会均等法における紛争(*5)に関し、当該紛争の当事者の双方又は一方からその解決につき援助を求められた場合には、当該紛争の当事者に対し、必要な「助言、指導又は勧告」をすることができます(均等法17条1項)
(*5)「均等法における援助の対象」には、労働者の募集および採用に係る紛争を含みます。
労働者が上記の援助を求めたことを理由とした、当該労働者に対する解雇その他不利益な取扱いは禁止されています(均等法17条2項)
ちなみに、均等法に基づき都道府県労働局長の援助の対象となる紛争については、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律に基づく「助言及び指導」「あっせん」は行われません(均等法16条)
調停
男女雇用機会均等法における紛争(*6)については、「調停(*7)」の対象です。
(*6)「調停」の対象からは、労働者の募集および採用に係る紛争を除きます。
(*7)都道府県労働局長は、関係当事者の双方または一方から調停の申請があった場合において当該紛争の解決のために必要があると認めるときは、紛争調整委員会(都道府県労働局に設置)に「調停」を行わせます。
労働者が調停の申請をしたことを理由とした、当該労働者に対する解雇その他不利益な取扱いは禁止されています(均等法18条2項)
参考|調停とは
通達によると、次のように説明されています(平成18年10月11日雇児発第1011002号)
- 「調停」とは、紛争の当事者の間に第三者が関与し、当事者の互譲によって紛争の現実的な解決を図ることを基本とするものであり、行為が法律に抵触するか否か等を判定するものではなく、むしろ行為の結果生じた損害の回復等について現実的な解決策を提示して、当事者の歩み寄りにより当該紛争を解決しようとするものである。
ちなみに、「あっせん」と比較すると、「調停」では合意を促すために調停案の受諾を勧告することができるため、より解決に踏み込んだ制度ともいえます。
雑則および罰則
雑則では、次の事項を定めています。
- 職業生活に関し必要な調査研究(28条)
- 報告の徴収と事業主に対する行政指導(29条)
- 勧告に従わない事業主の公表(30条)
- 船員に関する特例(国土交通省の管轄となるよう読替え)(31条)
- 適用除外(国家公務員および地方公務員への一部適用除外など)(32条)
当記事では、29条とその罰則、30条を解説します。
厚生労働大臣は、均等法の施行に関し必要があると認めるときは、事業主に対して、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができます(均等法29条)
上記の報告をせず、または虚偽の報告をした者は、20万円以下の過料に処せられます(均等法33条)
ちなみに、行政指導(助言、指導、勧告)に従わないこと自体には、罰則の適用はありません。
(必ずしも法令違反に直結するわけではありませんが、行政指導の対象となった行為そのものは、各規定の違反になり得ます)
厚生労働大臣が、次に掲げる規定に違反している事業主に対して、均等法29条の勧告をした場合の定めです。
上記の勧告を受けた者がこれに従わなかったときは、厚生労働大臣はその旨を公表することができます(均等法30条)
違反すると公表の対象となる規定は次のとおりです(均等法30条)
- 性別を理由とする差別の禁止(5条、6条)
- 性別以外の事由を要件とする措置(間接差別)の禁止(7条)
- 婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止(9条1項から3項まで)
- 職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置(11条1項、2項)
- 職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置(11条の3第1項、2項)
- 妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置(12条、13条1項)
- 紛争解決の援助を求めたことを理由とする不利益な取扱い(17条2項)
- 調停の申請をしたことを理由とする不利益な取扱い(18条2項)
実際の事案(1件)については、厚生労働省のホームページで公表されています。
ここまで、男女雇用機会均等法から、次の規定を解説しました。
- 目的(1条)
- 基本的理念(2条)
- 国、事業主、労働者の責務(11条の2、11条の4)
- 紛争の自主解決(15条)
- 紛争の解決の援助(16条、17条)
- 調停(18条)
- 報告の徴収並びに助言、指導及び勧告(29条)
- 公表(30条)
- 罰則(33条)
均等法の目的は、①雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を図ること、②女性労働者の就業に関して妊娠中及び出産後の健康を図る等の措置を推進することです(均等法1条)
抽象的な表現がみられ、概念の理解を求められる法律です。
ただ、社労士試験の過去問を確認すると、概念が理解できれば感覚で解ける問題も少なくありません。また、出題されたとしても問題数は多くはありません。
そのため、試験勉強の際は、過去問や基本事項を中心に進めてみてください。
実務におかれましては、関連指針も参考にしながら具体的な対応を判断してください。
(参考資料等)
厚生労働省|厚生労働省法令等データベースサービスより|https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/kensaku/index.html
- 男女雇用機会均等法1条、2条、11条の2、11条の4、15条、16条、17条、18条、29条、30条、33条
- 平成18年10月11日雇児発1011002号(改正雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律の施行について)
- 平成28年8月2日雇児発0802第1号(「改正雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律の施行について」の一部改正について)
- 令和2年2月10日雇均発0210第2号(「改正雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律の施行について」の一部改正について)
厚生労働省ホームページ|雇用における男女の均等な機会と待遇の確保のために|男女雇用機会均等法より|https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/danjokintou/index.html
- 男女雇用機会均等法のあらまし
- 男女雇用機会均等法Q&A
- 男女雇用機会均等法関係資料