この記事では、最低賃金法を解説しています。
社会保険労務士試験の独学、労務管理担当者の勉強などに役立てれば嬉しいです。
当記事は、条文等の趣旨に反するような極端な意訳には注意しております。ただし、厳密な表現と異なる部分もございます。
詳しくは免責事項をご確認ください。
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最低賃金の概要
労基法28条には「賃金の最低基準に関しては、最低賃金法の定めるところによる」と規定されています。
最低賃金法が成立する前には、労基法に最低賃金についての規定がありました。
その後、最低賃金法の成立によって労基法の規定(29条から31条)は削除されています。
社労士試験の勉強用に目的条文を載せておきます。
この法律は、賃金の低廉な労働者について、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もって、労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び事業の公正な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。
最低賃金法(最賃法)における「労働者」「使用者」「賃金」は、それぞれ労基法9条、労基法10条、労基法11条に規定するものをいいます(最賃法2条)
最賃法では、次の2つの「最低賃金」を規定しています。
- 全国各地(都道府県ごと)について決定される地域別最低賃金(最賃法9条1項)
- 特定の事業、職業について設定される特定最低賃金(最賃法15条1項)
地域別最低賃金の決定の流れ
「地域別最低賃金」は、厚生労働大臣または都道府県労働局長が、最低賃金審議会の調査審議を求め、その意見を聴いて、決定します(最賃法10条)
「地域別最低賃金」は必ず設定される最低賃金です。
「最低賃金審議会」は、労働者を代表する委員、使用者を代表する委員、公益を代表する委員各同数をもって組織されます(最賃法22条)
最低賃金の決定(改定)は、次の①②の順で進められます。
- 中央最低賃金審議会で最低賃金額の改定について調査審議し、(改定の目安の)答申を得て、地方最低賃金審議会に目安が提示されます。
- その後、地方最低賃金審議会で調査審議し、(改定額の)答申を得た後に、異議の申出に関する手続きを経て、都道府県労働局長により決定されます。
地域別最低賃金は、地域における労働者の生計費(生活保護に係る施策との整合性に配慮する)および賃金、通常の事業の賃金支払能力を考慮して定められます(最賃法9条2項、3項)
船員
船員法の適用を受ける船員については、特例として地域別最低賃金は適用されません(最賃法35条1項)
船員の最低賃金に関する具体的な取り扱いは、船員の最低賃金に関する省令(国土交通省令)により定められています。
特定最低賃金の決定の流れ
「特定最低賃金」は、労使の申出があった場合に、厚生労働大臣または都道府県労働局長が、最低賃金審議会の調査審議を求め、その意見を聴いて、決定することができます(最賃法15条2項)
「特定最低賃金」は、労使の申出により、最低賃金審議会が必要と認めた場合に設定される最低賃金です。
特定最低賃金は、地域別最低賃金(特定最低賃金が決定された事業場の地域についてのもの)を上回る必要があります(最賃法16条)
ちなみに、厚生労働省の資料によると、令和6年3月末現在、各都道府県労働局および全国において設定されている特定最低賃金は次のようになっています。
- 設定件数 224件
- 適用使用者数 約8.5万人
- 適用労働者数 約283万人
参考|厚生労働省(外部サイトへのリンク)|特定最低賃金について
船員
船員法の適用を受ける船員については、国土交通大臣または地方運輸局長が、交通政策審議会の調査審議を求め、その意見を聴いて、決定することができます(最賃法35条3項)
最低賃金法のうち、船員に関しては、権限に関する事項が国土交通省の管轄となるよう読み替えがあります(最賃法35条2項)
最低賃金の効力
使用者は最低賃金額以上の賃金を支払う必要があります(最賃法4条1項)
最低賃金未満の賃金の支払いで合意しても無効となり、最低賃金と同額に引き上げられます。
1項
使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない。
2項
最低賃金の適用を受ける労働者と使用者との間の労働契約で最低賃金額に達しない賃金を定めるものは、その部分については無効とする。この場合において、無効となった部分は、最低賃金と同様の定めをしたものとみなす。
2つ以上の最低賃金が競合する場合には、最も高い最低賃金が適用されます(最賃法6条1項)
派遣労働者については、地域別最低賃金、特定最低賃金ともに、派遣先の事業場についての地域または事業、職業によって決定された最低賃金額が適用されます(最賃法13条、18条)
罰則
最賃法4条1項の違反(地域別最低賃金および船員に適用される特定最低賃金に係るものに限る)には、50万円以下の罰金が定められています(最賃法40条)
特定最低賃金(船員に適用されるものを除く)については、最賃法4条1項の違反についての罰則は適用されません。
ただし、特定最低賃金が適用される労働者に、地域別最低賃金を下回る賃金を支払うと罰則(最賃法40条)が適用されます(最賃法6条2項)
最低賃金の適用を受ける使用者は、最低賃金の概要を常時作業場の見やすい場所に掲示するなどの方法で、労働者に周知させるための措置をとらなければなりません(最賃法8条)
周知が義務づけられる事項は次の3つです(最賃則6条)
- 適用を受ける労働者の範囲及びこれらの労働者に係る最低賃金額
- 最賃法4条3項3号の賃金(当該最低賃金において算入しないことを定める賃金)
- 効力発生年月日
周知義務とは別ですが、「最低賃金額に関する事項」は、就業規則の相対的必要記載事項であり(労基法89条)、労働条件の相対的明示事項(労基法15条、労基則5条)となっています。
罰則
最低賃金の周知義務(地域別最低賃金および船員に適用される特定最低賃金に係るものに限る)の違反には、30万円以下の罰金が定められています(最賃法41条1項)
使用者が都道府県労働局長の許可を受けたときには、一定の労働者について、減額した額により最低賃金を適用することができます(最賃法7条)
次の労働者が、減額の特例の対象となります(最賃法7条、最賃則3条)
- 精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い者
- 試の使用期間中の者
- 基礎的な技能および知識を習得させるための職業訓練を受ける者
- 軽易な業務に従事する者
- 断続的労働に従事する者
あくまで、許可を受けての減額の特例です。適用除外ではありません。減額された額に最賃法4条が適用されます。念のため。
実際の賃金と最低賃金との比較方法
最低賃金額は、「時間」によって定められます(最賃法3条)
そのため、賃金が「時間以外の期間」または「出来高払制その他の請負制」によって定められている労働者については、賃金を時間あたりに換算して最低賃金額と比較します(最賃則2条1項)
(特定最低賃金も時間によって定められますが、一部の特定最低賃金は時間と日額の両方が定められています。社労士試験の勉強としても参考まで)
参考|厚生労働省ホームページ(外部サイトへのリンク)|特定最低賃金の一覧
最低賃金額以上か否かを確認するために比較の対象となる賃金は、実際に支払う(支払われる)賃金の総額のうち、通常の労働時間に対して支払う(支払われる)賃金です。
具体的には、次に掲げる賃金を「賃金の総額」から控除したうえで最低賃金と比較します(最賃法4条3項、最賃則1条)
- 臨時に支払われる賃金(結婚祝金など)
- 1月をこえる期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
- 所定労働時間をこえる時間の労働に対して支払われる賃金(時間外の割増賃金など)
- 所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金(休日の割増賃金など)
- 午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち通常の労働時間の賃金の計算額をこえる部分(深夜の割増賃金など)
- 当該最低賃金において算入しないことを定める賃金
「最低賃金において算入しないもの」は、精皆勤手当、通勤手当、家族手当のいずれも算入しないことが各地方最低賃金審議会で一般化しています。
(具体的には、管轄の都道府県労働局のホームページなどで確認してください)
そのため、賃金の総額からも、精皆勤手当、通勤手当、家族手当のいずれも差し引いてから、最低賃金額と比較(時給に換算)します。
参考|厚生労働省ホームページ(外部サイトへのリンク)|最低賃金の対象となる賃金
実際に支払う(支払われる)賃金額が、最低賃金額以上か否かは次のように判断します。
① 賃金が時間給のケース
時間給 ≧ 最低賃金額
一番シンプルな比較です。実際の時給が最低賃金以上ならば問題ありません。
② 賃金が日給制のケース
日給 ÷ 1日の所定労働時間 ≧ 最低賃金額
日によって所定労働時間が異なる場合には、1週間における1日平均の所定労働時間を用いて計算します(最賃則2条1項1号)
(時間と日額の両方が定められている特定最低賃金が実際に適用される場合には、日額の最低賃金額と日給を比較します)
③ 賃金が週給制のケース
週給 ÷ 週における所定労働時間 ≧ 最低賃金額
週によって所定労働時間が異なる場合には、4週間における1週平均の所定労働時間を用いて計算します(最賃則2条1項2号)
④ 賃金が月給制のケース
月給 ÷ 月における所定労働時間 ≧ 最低賃金額
月によって所定労働時間が異なる場合には、1年間における1月平均の所定労働時間を用いて計算します(最賃則2条1項3号)
繰り返しになりますが、賃金の総額から割増賃金、精皆勤手当、通勤手当、家族手当などを差し引いてから換算します。
⑤ 賃金が出来高払制その他の請負制のケース
⑤の賃金制よって計算された賃金の総額 ÷ 賃金算定期間において⑤の賃金制によって労働した総労働時間≧ 最低賃金額
賃金算定期間は、賃金の締切日がある場合(ある場合が一般的でしょう)には、⑤の賃金についての賃金締切期間となります(最賃則2条1項5号)
労働者は、事業場に最賃法に違反する事実があるときは監督機関(労働基準監督官など)に申告し是正措置をとるよう求めることができます(最賃法34条1項)
使用者は、最賃法34条1項の申告をしたことを理由として、労働者に対し、解雇その他不利益な取扱いをしてはなりません(最賃法34条2項)
罰則
最賃法34条2項の違反には、6月以下の懲役または30万円以下の罰金が定められています(最賃法39条)
ここまで、社労士試験における既出の論点を中心に解説しました。
条文をすべて解説したものではありませんが、制度の概要は把握できたでしょう。
試験日という制限もあるため、過去問を中心に勉強してみてください。
(参考資料等)
厚生労働省|厚生労働省法令等データベースサービスより|https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/kensaku/index.html
- 最低賃金法1条、2条、3条、4条、7条、8条、9条、10条、13条、15条、16条、18条、22条、34条、35条、39条、40条、41条
- 最低賃金法施行規則1条、2条、3条、6条
厚生労働省ホームページ|最低賃金制度の概要
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/chingin/newpage_43875.html