この記事では、労働基準法13章(罰則)から次の規定を解説しています。
- 罰則(117条~120条)
- 両罰規定(121条)
社会保険労務士試験の独学、労務管理担当者の勉強などに役立てれば嬉しいです。
当記事は、条文等の趣旨に反するような極端な意訳には注意しております。ただし、厳密な表現と異なる部分もございます。
詳しくは免責事項をご確認ください。
目次 表示
罰則(117条~120条)
労基法で定める罰則は、次のとおりです。
条文そのものは、必要なときにe-Govなどで調べてみてください。
117条|1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金
- 強制労働の禁止(5条)
118条|1年以下の懲役または50万円以下の罰金
- 中間搾取の排除(6条)
- 最低年齢(56条)
- 坑内労働の禁止(63条)
- 坑内業務の就業制限(64条の2)
- 職業訓練に関する厚生労働省令のうち63条または64条の2に係る部分(70条)
119条|6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金
均等待遇、男女同一賃金の原則、公民権行使の保障、法定労働時間、休憩、休日、割増賃金、年次有給休暇(年5日の年次有給休暇の確実な取得を除く)などの違反が該当します。
119条の対象となる規定は多いため、下のタブに格納しておきます。
- 均等待遇(3条)
- 男女同一賃金の原則(4条)
- 公民権行使の保障(7条)
- 賠償予定の禁止(16条)
- 前借金相殺の禁止(17条)
- 強制貯金の禁止(18条1項)
- 解雇制限(19条)
- 解雇の予告(20条)
- ブラックリストの禁止(22条4項)
- 法定労働時間(32条)
- 休憩(34条)
- 休日(35条)
- 時間外および休日労働についての実労働時間の制限(36条6項)
- 時間外、休日、深夜の割増賃金(37条)
- 年次有給休暇(年5日の年次有給休暇の確実な取得を除く)(39条(7項を除く))
- 年少者の深夜業(61条)
- 年少者の危険有害業務の就業制限(62条)
- 妊産婦等の危険有害業務の就業制限(64条の3)
- 産前産後(65条)
- 妊産婦の労働時間の規制(66条)
- 育児時間(67条)
- 認定職業訓練を受ける未成年者の年次有給休暇(72条)
- 療養補償(75条)
- 休業補償(76条)
- 障害補償(77条)
- 遺族補償(79条)
- 葬祭料(80条)
- 寄宿舎生活の自治に必要な役員の選任(94条2項)
- 寄宿舎の設備および安全衛生(96条)
- 監督機関に申告したことを理由とする不利益な取扱(104条2項)
- 代休付与命令(33条2項)
- 寄宿舎についての監督上の行政措置(差し止め等の命令)(96条の2第2項)
- 寄宿舎についての使用停止等の命令(使用者に対しての命令)(96条の3第1項)
- 労働時間および休憩の特例(40条)
- 職業訓練に関する厚生労働省令のうち62条または64条の3に係る部分(70条)
120条|30万円以下の罰金
労働条件の明示、賃金支払の5原則、休業手当、変形労働時間制についての労使協定の届出、年5日の年次有給休暇の確実な取得、法令等の周知義務などの違反が該当します。
120条の対象となる規定は多いため、下のタブに格納しておきます。
変形労働時間制をそれぞれ、1カ月変形、1年変形、1週変形と表記しています。
- 契約期間(14条)
- 労働条件の明示(15条1項)
- 労働契約の即時解除に伴う帰郷旅費(15条3項)
- 貯蓄金の返還(18条7項)
- 退職時等の証明(22条1項から3項まで)
- 金品の返還(23条)
- 賃金支払の5原則(24条)
- 非常時払(25条)
- 休業手当(26条)
- 出来高払制の保障給(27条)
- 1カ月変形に係る労使協定の届出(32条の2第2項)
- フレックスタイム制に係る労使協定の届出(32条の3第4項)
- 1年変形に係る労使協定の届出(32条の4第4項)
- 1週変形に係る労使協定の届出(32条の5第3項)
- 1週変形における労働時間の事前通知(32条の5第2項)
- 災害等による時間外労働等についての事後の届出(33条1項ただし書き)
- 事業場外労働のみなし労働時間制に係る労使協定(38条の2第3項)
- 専門業務型裁量労働制に係る労使協定(38条の3第2項)
- 年5日の年次有給休暇の確実な取得(39条7項)
- 年少者の証明書(57条)
- 未成年者の労働契約(58条)
- 未成年者の賃金(59条)
- 帰郷旅費(64条)
- 生理日の就業が著しく困難な女性に対する措置(68条)
- 就業規則の作成および届出(89条)
- 就業規則についての労働者側の意見聴取(90条1項)
- 制裁規定の制限(91条)
- 寄宿舎規則の作成および届出(95条1項、2項)
- 寄宿舎についての監督上の行政措置(計画の届出)(96条の2第1項)
- 労働基準監督官等の守秘義務(105条、100条3項)
- 法令等の周知義務(106条)
- 労働者名簿(107条)
- 賃金台帳(108条)
- 記録の保存(109条)
- 職業訓練に関する厚生労働省令のうち14条に係る部分(70条)
- 法令または労働協約に牴触する就業規則の変更命令(92条2項)
- 寄宿舎についての使用停止等の命令(労働者に対しての命令)(96条の3第2項)
- 労働基準監督官等の臨検を拒む、妨げるなど(101条、100条3項)
- 報告または出頭の命令に対して、報告しない、出頭しないなど(104条の2)
以上のとおり罰則を整理しました。
すべてを暗記するには厳しい情報量です。
ちなみに、社労士試験においては、罰則からの出題は多くはありません。
- 1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金
- 1年以下の懲役または50万円以下の罰金
- 6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金
- 30万円以下の罰金
①強制労働の禁止、②中間搾取の排除、最低年齢、年少者および妊産婦等についての坑内労働の規制は覚えられるかと。
③④のおおまかな基準としては、③法定労働時間、休憩、休日、割増賃金、④は届出関係です。
ただし、賃金支払の5原則や休業手当は④で、年次有給休暇の賃金の支払(39条9項)は③なので判断に迷うかもしれません。参考まで。
両罰規定(121条)
簡単にいうと、労基法の規定に違反した者がいると、事業主も罰金の対象となります。
また、法人の代表者が違反の計画を知りながら防止措置を講じなかったり、違反行為を知りなら是正措置を講じなかったり、違反行為をそそのかした場合は、現実の行為者と同様に罰せられます。
条文はタブを切り替えると確認できます。
事業主に対する両罰規定|
① この法律の違反行為をした者が、当該事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為した代理人、使用人その他の従業者である場合においては、事業主に対しても各本条の罰金刑を科する。
ただし、事業主(*)が違反の防止に必要な措置をした場合においては、この限りでない。
法人の代表者等に対する両罰規定|
② 事業主(*)が違反の計画を知りその防止に必要な措置を講じなかった場合、違反行為を知り、その是正に必要な措置を講じなかった場合又は違反を教唆した場合においては、事業主(*)も行為者として罰する。
(*) ①ただし書および②における「事業主」|
事業主が法人である場合においてはその代表者、事業主が営業に関し成年者と同一の行為能力を有しない未成年者又は成年被後見人である場合においてはその法定代理人(法定代理人が法人であるときは、その代表者)を事業主とする。②において同じ。
労働基準法
第百二十一条
この法律の違反行為をした者が、当該事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為した代理人、使用人その他の従業者である場合においては、事業主に対しても各本条の罰金刑を科する。ただし、事業主(事業主が法人である場合においてはその代表者、事業主が営業に関し成年者と同一の行為能力を有しない未成年者又は成年被後見人である場合においてはその法定代理人(法定代理人が法人であるときは、その代表者)を事業主とする。次項において同じ。)が違反の防止に必要な措置をした場合においては、この限りでない。
② 事業主が違反の計画を知りその防止に必要な措置を講じなかった場合、違反行為を知り、その是正に必要な措置を講じなかった場合又は違反を教唆した場合においては、事業主も行為者として罰する。
①ただし書きにある「違反の防止に必要な措置をした場合」とは、単に一般的に労働基準法第何条の違反なきよう防止せよと注意したのみでは足りないと示した裁判例があります(大阪高裁判決 昭25.11.25 奥谷木工所事件)
事業主
①本文の「事業主」は、経営の主体を指します。法人組織であれば「法人」そのもの、個人事業であれば「個人事業主」です。
一方で、①ただし書および②の「事業主」は自然人を指します。
例えば、ある法人において、労基法10条の使用者に該当する労務管理部長が、労基法の違反行為をしたとしましょう。
違反行為をした労務管理部長の他に、法人(①本文でいう事業主)も両罰規定により責任(罰金)を負うことになります。
ただし、法人の代表者(①ただし書でいう事業主)が違反防止に必要な措置を講じていれば、両罰規定は適用されません。
また、法人の代表者(②でいう事業主)が、違反の計画を知りながら違反防止の措置を講じなかった場合などは、労務管理部長と同様に、法人の代表者も行為者として責任(懲役または罰金)を負うことになります。
労基法121条における「従業者」については、概ね次のように解されています(昭和22年9月13日発基17号、昭和23年11月9日基収2968号)
- 労基法121条における違反行為者たる資格には、「従業者」たる身分が必要であり、「従業者」以外の者の違反行為については、事業主に責任はない
- 「従業者」の範囲は、労基法10条の使用者の範囲よりも狭い
- 「従業者」は、労基法10条の使用者の資格を有する者に限る
「従業者」の範囲については他にも、「課長、部長等が謀議の上違反行為をなした場合、関係者全部が違反となるのか」「裁決は上席者がした場合も同じか」という疑義に対して、「見解の通り」と示した通達があります(昭和23年3月17日基発461号)
「従業者」という用語は、労基法の学習において見慣れないかもしれません。
「使用者ならば従業者」とはいえないものの、「従業者ならば使用者」です。
その他の従業者
通達によると、代理人にも使用人にも該当しない「従業者」として、「代表権なき取締役」が例示されています(昭和23年3月17日基発461号)
ちなみに、代理人の例としては、支配人が示されています(前掲通達)
「従業者」以外の者の違反行為
労基法に違反した者(多くの規定において罰則の対象は使用者)がいるものの、従業者に該当しないケースです。
「どんな例があるか」という問いに対して、次のようなケースが示されています(前掲通達)
当該事業の従業者でない者で労働者に関する特定事項(例えば、労働契約の締結)について委託された者が、事業主の関与しない法違反の行為(例えば、法14条違反の労働契約の締結)をする場合。
社会保険労務士との関係
通達によると、次のように解されています(昭和62年3月26日基発169号)
- 事務代理の委任を受けた社会保険労務士は、労基法10条の「使用者」および両罰規定にいう「代理人、使用人その他の従業者」に該当する
- したがって、事務代理の委任を受けた社会保険労務士がその懈怠により申請等を行わなかった場合には、当該委任をした事業主について両罰規定が適用される
- ただし、事業主が当該社会保険労務士に必要な情報を与えるなど申請等をし得る条件を整備していれば、通常は、必要な注意義務を尽くしたとして免責される
ここまで次の規定を解説しました。
- 罰則(117条~120条)
- 両罰規定(121条)
両罰規定については、「事業主」と「従業者」の定義が難しいところです。
混乱する場合は、それぞれ使用者と比較してみてください。
使用者(労基法10条)については、こちらの記事で解説しています。
よければ復習してみてください。
当ブログにおける労基法の解説は、当記事で一段落です。
長文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
(参考資料等)
厚生労働省|厚生労働省法令等データベースサービスより|https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/kensaku/index.html
- 労働基準法117条~121条
解釈例規(昭和63年3月14日基発150号)