この記事では、労働基準法12章(雑則)から次の規定を解説しています。
- 記録の保存(109条)
- 付加金の支払(114条)
- 時効(115条)
社会保険労務士試験の独学、労務管理担当者の勉強などに役立てれば嬉しいです。
当記事は、条文等の趣旨に反するような極端な意訳には注意しております。ただし、厳密な表現と異なる部分もございます。
詳しくは免責事項をご確認ください。
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記録の保存(109条)
労基法109条では、一定の記録について保存期間を定めています。
結論としては、本来は「5年間」、実際の取扱いでは「3年間」です。
また、一定の要件(*1)はあるものの、紙ではなくPCなどでの管理(電磁的記録による保存)も可能となっています。
(*1)厚生労働省の所管する法令の規定に基づく民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する省令
参考|厚生労働省ホームページ(外部サイトへのリンク)|省令概要
条文はタブを切り替えると確認できます。
使用者は、次の①~⑦を5年間(*2)保存しなければなりません。
(*2)附則143条1項により、当分の間は「3年間」となっています。
- 労働者名簿
- 賃金台帳
- 雇入れに関する書類
- 解雇に関する書類
- 災害補償に関する書類
- 賃金に関する書類
- その他労働関係に関する重要な書類
労働基準法
第百九条
使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を五年間保存しなければならない。
附則 第百四十三条
第百九条の規定の適用については、当分の間、同条中「五年間」とあるのは、「三年間」とする。
①労働者名簿および②賃金台帳については、こちらの記事内で解説しています。
③~⑦の書類については、次のように例示されています(改正労働基準法等に関するQ&A 令和2年4月1日)
③ 雇入れに関する書類(例)
- 雇入決定関係書類
- 契約書
- 労働条件通知書
- 履歴書
- 身元引受書など
④ 解雇に関する書類(例)
- 解雇決定関係書類
- 解雇予告除外認定関係書類
- 予告手当または退職手当の領収書など
⑤ 災害補償に関する書類(例)
- 診断書
- 補償の支払
- 領収関係書類など
⑥ 賃金に関する書類(例)
- 賃金決定関係書類
- 昇給・減給関係書類など
⑦ その他労働関係に関する重要な書類(例)
- 出勤簿
- タイムカード等の記録
- 労使協定の協定書
- 各種許認可書
- 始業・終業時刻など労働時間の記録に関する書類(使用者自ら始業・終業時間を記録したもの、残業命令書及びその報告書並びに労働者が自ら労働時間を記録した報告書)
- 退職関係書類
- 休職・出向関係書類
- 事業内貯蓄金関係書類など
ちなみに、年次有給休暇管理簿については、「労基法109条に規定する重要な書類」には該当しません(平成30年9月7日基発0907第1号)
ただし、労基則24条の7にて、作成および保存(当分の間は3年間)が義務付けられています。
罰則
労基法109条の違反には、30万円以下の罰金が定められています(労基法120条)
労基法109条の定めではないものの、次の記録についても、5年間(*3)の保存が義務付けられています。
(*3)労基則 附則71条により、当分の間は「3年間」となっています。
- 36協定における健康福祉確保措置の実施状況に関する記録(労基則17条)
- 専門業務型裁量労働制に係る労働時間の状況等に関する記録(労基則24条の2の2の2)
- 企画業務型裁量労働制に係る労働時間の状況等に関する記録(労基則24条の2の3の2)
- 企画業務型裁量労働制に係る労使委員会の議事録(労基則24条の2の4)
- 年次有給休暇管理簿(労基則24条の7)
- 高度プロフェッショナル制度に係る同意等に関する記録(労基則34条の2)
- 高度プロフェッショナル制度に係る労使委員会の議事録(労基則34条の2の3)
また、次の議事録についても5年間(*4)の保存が義務付けられています。
(*4)労働時間等設定改善法施行規則 附則4条により、当分の間は「3年間」となっています。
- 労働時間等設定改善委員会の議事録(労働時間等設定改善法施行規則2条)
- 労働時間等設定改善企業委員会の議事録(労働時間等設定改善法施行規則4条)
記録を当分の間は「3年間」保存するにしても、いつの時点から3年なのかが問題です。
労基法109条における保存期間の起算日については、労基則で定められています
労基法109条の規定による記録の保存についての起算日
- 労働者名簿について
⇒労働者の死亡、退職または解雇の日 - 賃金台帳について
⇒最後の記入をした日 - 雇入れまたは退職に関する書類について
⇒労働者の退職または死亡の日 - 災害補償に関する書類について
⇒災害補償を終わった日 - 賃金その他労働関係に関する重要な書類について
⇒その完結の日
書類の完結よりも賃金の支払期日のほうが遅いケース
賃金台帳または賃金その他労働関係に関する重要な書類について、当該記録に係る賃金の支払期日が当該記録の完結の日等(②または⑤に掲げる日)より遅い場合には、賃金の支払期日が起算日となります。
例えば、賃金の計算期間を1日~当月末、支払日を翌月15日と定めているとしましょう。
出勤簿やタイムカードなどは、(当月末からではなく)翌月15日から起算して3年間保存が必要です。
また、次の記録についても、賃金の支払期日のほうが遅い場合は、賃金の支払期日が起算日となります。
- 専門業務型裁量労働制に係る労働時間の状況等に関する記録(労基則24条の2の2の2)
- 企画業務型裁量労働制に係る労働時間の状況等に関する記録(労基則24条の2の3の2)
- 企画業務型裁量労働制に係る労使委員会の議事録(労基則24条の2の4)
- 年次有給休暇管理簿(労基則24条の7)
- 高度プロフェッショナル制度に係る同意等に関する記録(労基則34条の2)
- 高度プロフェッショナル制度に係る労使委員会の議事録(労基則34条の2の3)
賃金請求権の消滅時効が満了するまでは、賃金に関係する記録が保存されるよう考慮されています。
労働基準法施行規則
第五十六条
法第百九条の規定による記録を保存すべき期間の計算についての起算日は次のとおりとする。
一 労働者名簿については、労働者の死亡、退職又は解雇の日
二 賃金台帳については、最後の記入をした日
三 雇入れ又は退職に関する書類については、労働者の退職又は死亡の日
四 災害補償に関する書類については、災害補償を終わった日
五 賃金その他労働関係に関する重要な書類については、その完結の日
② 前項の規定にかかわらず、賃金台帳又は賃金その他労働関係に関する重要な書類を保存すべき期間の計算については、当該記録に係る賃金の支払期日が同項第二号又は第五号に掲げる日より遅い場合には、当該支払期日を起算日とする。
③ 前項の規定は、第二十四条の二の二第三項第四号イ、第二十四条の二の二の二、第二十四条の二の三第三項第四号イ及び第二十四条の二の三の二に規定する労働者の労働時間の状況に関する労働者ごとの記録、第二十四条の二の四第二項(第三十四条の二の三において準用する場合を含む。)に規定する議事録、年次有給休暇管理簿並びに第三十四条の二第十五項第四号イからヘまでに掲げる事項に関する対象労働者ごとの記録について準用する。
付加金の支払(114条)
制度の趣旨|
付加金は、割増賃金等の支払義務違反に対する一種の制裁として未払金の支払を確保することや私人による訴訟のもつ抑止力を強化する観点から設けられた制度です(令和2年4月1日基発0401第27号)
付加金は、①所定の違反をした使用者に対して、②労働者の請求により、③裁判所が支払を命ずることができます。
① 次のいずれかを支払わない使用者
- 解雇予告手当(労基法20条)
- 休業手当(労基法26条)
- 割増賃金(労基法37条)
- 年次有給休暇の賃金(労基法39条9項)
付加金を請求し得るのは、上記4つの未払に限られています。
そのため、通常の賃金の未払(労基法24条違反)については、付加金の対象外です。
② 労働者の請求
付加金の請求は、違反のあった時から5年(*5)以内にしなければなりません。
(*5)附則143条2項により、当分の間は「3年間」となっています。また、時効期間ではなく、除斥期間です。
③ 支払額
裁判所は、各規定(上記①を参照)により使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができるとされています。
労働基準法
第百十四条
裁判所は、第二十条、第二十六条若しくは第三十七条の規定に違反した使用者又は第三十九条第九項の規定による賃金を支払わなかった使用者に対して、労働者の請求により、これらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる。ただし、この請求は、違反のあった時から五年以内にしなければならない。
附則 第百四十三条
② 第百十四条の規定の適用については、当分の間、同条ただし書中「五年」とあるのは、「三年」とする。
付加金請求の申立の可否
使用者が付加金の対象となる支払義務に違反しても、その後、未払金を(自発的に)支払うケースです。
最高裁によると、付加金の請求の可否について、次のように示されています。
労働基準法114条の付加金支払義務は、使用者が予告手当等を支払わない場合に、当然に発生するものではなく、労働者の請求により裁判所がその支払を命ずることによって、初めて発生するものと解すべきである。
使用者に労働基準法20条の違反があっても、既に予告手当に相当する金額の支払を完了し使用者の義務違反の状況が消滅した後においては、労働者は同条による付加金請求の申立をすることができないものと解すべきである。
時効(115条)
労基法115条では、労基法の規定による請求権について、消滅時効を定めています。
消滅時効の期間は、下表のとおりです。
消滅時効の期間 | |
賃金(退職手当を除く) | 5年間(当分の間は3年間) |
退職手当 | 5年間 |
災害補償 | 2年間 |
その他の請求権(賃金の請求権を除く) | 2年間 |
賃金(退職手当を除く)の請求権については、附則143条3項により、当分の間は「3年間」となっています。
退職手当については「当分の間は3年間」とはならず、現在でも5年間です。
消滅時効の起算点は、いずれも「これを行使することができる時」です(客観的起算点)
労働基準法
第百十五条
この法律の規定による賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間、この法律の規定による災害補償その他の請求権(賃金の請求権を除く。)はこれを行使することができる時から二年間行わない場合においては、時効によって消滅する。
附則 第百四十三条
③ 第百十五条の規定の適用については、当分の間、同条中「賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間」とあるのは、「退職手当の請求権はこれを行使することができる時から五年間、この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)の請求権はこれを行使することができる時から三年間」とする。
労基法115条の対象となる請求権は、具体的には次のとおりです(改正労働基準法等に関するQ&A 令和2年4月1日)
賃金(退職手当を除く)の請求権(3年)
- 金品の返還(23条。賃金の請求に限る)
- 賃金の支払(24条)
- 非常時払(25条)
- 休業手当(26条)
- 出来高払制の保障給(27条)
- 時間外・休日労働等に対する割増賃金(37条)
- 年次有給休暇中の賃金(39条9項)
- 未成年者の賃金請求権(59条)
退職手当の請求権(5年)
- 賃金の支払(24条)
「退職手当」は、労働協約または就業規則によって予め支給条件が明確にされているものを指します。
災害補償の請求権(2年)
- 療養補償(75条)
- 休業補償(76条)
- 障害補償(77条)
- 遺族補償(79条)
- 葬祭料(80条)
- 分割補償(82条)
災害補償の請求権は2年で消滅します。
災害補償に関する書類の保存期間は3年です。
その他の請求権(2年)
- 帰郷旅費(15条3項、64条)
- 退職時の証明(22条)
- 金品の返還(23条。賃金を除く)
- 年次有給休暇請求権(39条)
年次有給休暇の請求権は2年で消滅します(昭和22年12月15日基発501号)
年次有給休暇管理簿の保存期間は3年です。
2年と3年が混同する場合は、「記録の保存期間は、賃金請求権の時効と同じ3年間」と覚えてみてください。
通達によると、次のように解されています。
解雇予告手当は、解雇の意思表示に際して支払わなければ解雇の効力を生じないと解されるので、一般には解雇予告手当については時効の問題は生じない(昭和27年5月17日基収1906号)
なお、解雇予告手当は、労働の対償ではないため「賃金」ではありません(昭和23年8月18日基収2520号)
ここまで次の規定を解説しました。
- 記録の保存(109条)
- 付加金の支払(114条)
- 時効(115条)
労基法111条(無料証明)はこちらの記事で、労基法116条(適用除外)はこちらの記事で解説しています。
第12章では他にも、110条(削除)、112条(国及び公共団体についての適用)、113条(命令の制定)、115条の2(経過措置)が定められています。
余裕のある方は、e-Govなどで条文を一読してみてください。
最後にこの記事を簡単に整理して終わります。
記録の保存
使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を5年間(当分の間は3年間)保存しなければならない。
年次有給休暇管理簿は、「労基法109条に規定する重要な書類」には該当しない。ただし、作成および保存(当分の間は3年間)が義務づけられている。
起算日 | |
労働者名簿 | 労働者の死亡、退職または解雇の日 |
賃金台帳 | 最後の記入をした日(賃金支払い期日) |
雇入れまたは退職に関する書類 | 労働者の退職または死亡の日 |
災害補償に関する書類 | 災害補償を終わった日 |
賃金その他労働関係に関する重要な書類 | その完結の日(賃金支払い期日) |
付加金
①解雇予告手当、②休業手当、③割増賃金、④年次有給休暇の賃金を支払わない使用者が対象となる。
付加金の支払義務は、使用者が解雇予告手当等を支払わない場合に、当然に発生するものではない。労働者の請求により裁判所がその支払を命ずることによって、初めて発生する。
時効
- 賃金(退職手当を除く)⇒ 5年間(当分の間は3年間)
- 退職手当⇒ 5年間
- 災害補償⇒ 2年間
- その他の請求権(賃金の請求権を除く)⇒ 2年間
消滅時効の起算点は、いずれもこれ(権利)を行使することができる時(客観的起算点)
(参考資料等)
厚生労働省|厚生労働省法令等データベースサービスより|https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/kensaku/index.html
- 労働基準法109条、114条、115条、120条、143条
- 労働基準法施行規則56条、71条
厚生労働省ホームページ|労働基準法の一部を改正する法律についてより|
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000148322_00037.html
- 改正労働基準法等に関するQ&A(令和2年4月1日)
- 基発0401第27号(労働基準法の一部を改正する法律及び労働基準法施行規則等の一部を改正する省令の公布及び施行について)
厚生労働省ホームページ|「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」について|通達より|
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000148322_00001.html
- 基発0907第1号(労働基準法の施行について)
解釈例規(昭和63年3月14日基発150号)