この記事では、労働基準法11章(監督機関)に関する次の規定を解説しています。
- 労働基準監督官の権限(101条、102条)
- 監督機関に対する申告(104条)
- 報告等(104条の2)
社会保険労務士試験の独学、労務管理担当者の勉強などに役立てれば嬉しいです。
以降、労基法11章の条文を中心に解説します。
当記事は、条文等の趣旨に反するような極端な意訳には注意しております。ただし、厳密な表現と異なる部分もございます。
詳しくは免責事項をご確認ください。
労働基準監督官の権限(101条、102条)
労基法101条では、労働基準監督官の権限として、事業場等の臨検、帳簿書類の提出要求、労使に対する尋問が定められています。
なお、労働基準監督官には、罰則をもって守秘義務が課されています。退官後も同様です(労基法105条、国家公務員法109条ほか)
第101条|
① 労働基準監督官は、事業場、寄宿舎その他の附属建設物に臨検し、帳簿及び書類の提出を求め、又は使用者若しくは労働者に対して尋問を行うことができる。
② 前項の場合において、労働基準監督官は、その身分を証明する証票を携帯しなければならない。
第102条|
労働基準監督官は、この法律違反の罪について、刑事訴訟法に規定する司法警察官(*1)の職務を行う。
(*1)司法警察職員等指定応急措置法2条によって、「司法警察員」と読み替えられます。
また、労働基準監督官は、事業の附属寄宿舎が安全衛生に関して定められた基準に反し、かつ、労働者に急迫した危険がある場合には、労基法96条の3の権限(附属寄宿舎の使用停止命令など)を即時に行うことができます(労基法103条)
罰則
労基法101条による臨検を拒み、妨げ、若しくは忌避し、その尋問に対して陳述をせず、若しくは虚偽の陳述をし、帳簿書類の提出をせず、又は虚偽の記載をした帳簿書類の提出をした者は、30万円以下の罰金の対象です(労基法120条4号)
監督機関に対する申告(104条)
労基法違反の事実については、労働者から監督機関に対して申告することができます。
繰り返しになりますが、労働基準監督官には、罰則をもって守秘義務が課されています。
① 事業場に、この法律又はこの法律に基いて発する命令に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができる。
② 使用者は、前項の申告をしたことを理由として、労働者に対して解雇その他不利益な取扱をしてはならない。
ちなみに、令和4年労働基準監督年報によると、要処理申告事業場数(前年度からの繰越件数を含む)が22,780となっており、そのうち監督実施事業場数は16,639です。
主要な理由としては、賃金不払が一番多くなっています。
実際の申告の流れについては、下記のリンクを参照してください。
参考|山梨労働局ホームページ(外部サイトへのリンク)|会社に給料を払ってもらえなかったので、労働基準監督署に申告したい
罰則
第2項に違反した使用者に対しては、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が定められています(労基法119条)
報告等(104条の2)
労基法104条の2では、行政官庁および労働基準監督官が使用者等に必要な報告をさせ、又は出頭を命ずることのできる根拠を定めています。
① 行政官庁は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、使用者又は労働者に対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができる。
② 労働基準監督官は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、使用者又は労働者に対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができる。
労基法及びこれに基く命令に定める許可、認可、認定又は指定の申請書は、各々2通提出しなければなりません(労基則59条)
罰則
労基法104条の2の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は出頭しなかった者は、30万円以下の罰金の対象となります(労基法120条5号)
次のいずれかに該当する場合には、所轄労働基準監督署長に遅滞なく報告しなければなりません(労基則57条1項)。
- 事業を開始した場合
⇒適用事業報告(労基則様式23号の2) - 事業の附属寄宿舎において火災若しくは爆発又は倒壊の事故が発生した場合
⇒事故報告書(安衛則様式22号) - 労働者が事業の附属寄宿舎内で負傷し、窒息し、又は急性中毒にかかり、死亡し又は休業した場合(*2)(*3)
⇒労働者死傷病報告(安衛則様式23号)
(*2)安衛則97条にて、労働災害その他就業中、事業場内におけるものについても事業者に報告書の提出が義務付けられています。
(*3)休業の日数が4日に満たないときは、四半期(1〜3月、4〜6月、7〜9月、10〜12月)ごとに各期間の最後の月の翌月末日までに報告(安衛則様式24号)すれば足ります(労基則57条2項)
また、労基法18条2項(任意貯金)の規定により届け出た協定に基づき労働者の預金の受入れをする使用者は、毎年、3月31日以前1年間における預金の管理の状況(労基則様式24号)を、4月30日までに、所轄労働基準監督署長に報告しなければなりません(労基則57条3項)
ちなみに、事業廃止については、労基法における報告は不要です(昭和63年3月14日基発150号)。
社労士試験で過去に問われているため、ケアレスミスに気をつけてください。
(雇用保険については雇用保険適用事業所廃止届、労災保険については確定保険料申告書、健保厚年については適用事業所全喪届が必要です)
行政官庁は、労基法104条の2第1項の規定により、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずるときは、次の事項を通知しなければなりません。
- 報告をさせ、又は出頭を命ずる理由
- 出頭を命ずる場合には、聴取しようとする事項
ただし、労基則57条によって使用者に報告義務の課されている事項(適用事業報告など)についてまで、通知を要すものではありません(平成6年1月4日基発1号)
ここまで次の規定を解説しました。
- 労働基準監督官の権限(101条、102条)
- 監督機関に対する申告(104条)
- 報告等(104条の2)
第11章では他にも、97条(監督機関の職員等)、98条(削除)、99条(労働基準主管局長等の権限)、100条(女性主管局長の権限)が定められています。
厚生労働省の組織に関する規定であり、社労士試験の勉強としては優先度は低いため、当記事では取り上げていません。
興味のある方は、条文を一読してみてください。
この記事では、解説内容のまとめは省略します。
(参考資料等)
厚生労働省|厚生労働省法令等データベースサービスより|https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/kensaku/index.html
- 労働基準法101条、102条、103条、104条、104条の2、119条、120条
- 労働基準法施行規則57条
- 平成6年1月4日基発1号(労働基準法の一部改正の施行について)
厚生労働省ホームページより|労働基準監督年報 令和4年
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/kantoku01
福岡労働局ホームページより|労働者死傷病報告
https://jsite.mhlw.go.jp/fukuoka-roudoukyoku/kurume.shishoubyou.houkoku.00820.html
解釈例規(昭和63年3月14日基発150号)