この記事では、労働基準法の9章(就業規則)に関する次の規定を解説しています。
- 就業規則の作成(89条、90条)
- 就業規則の変更(労働契約法11条)
社会保険労務士試験の独学、労務管理担当者の勉強などに役立てれば嬉しいです。
当記事は、条文等の趣旨に反するような極端な意訳には注意しております。ただし、厳密な表現と異なる部分もございます。
詳しくは免責事項をご確認ください。
就業規則の概要
就業規則とは、労働者が就業上遵守すべき規律及び労働条件に関する具体的細目について定めた規則類の総称をいいます(平成24年8月10日基発0810第2号)
より簡単にいうと、企業経営に労働力を組織的に組み込むために、使用者(企業)が成文化した規則集です。
つまり、就業規則の内容は、究極的には使用者が定めます。
ただし、労基法では、就業規則に記載しなければならない事項を定めたり(労基法89条)、作成及び行政官庁への届出義務を課したり(労基法89条)、労働者からの意見聴取(労基法90条)、就業規則の周知(106条)を必要とするなど、各種の制限を定めています。
また、労働契約法(以下、労契法)においても、法令または労働協約に反する就業規則の効力について制限が設けられています(労契法13条)
一部の労働者に適用される別個の就業規則
結論としては、就業規則の本則の他に、別個の就業規則(例えば、パート労働者にのみ適用する規則)を作成することも可能です。
通達によると、次のように解されています(昭和63年3月14日基発150号)
- 同一事業場において、労基法3条(均等待遇)に反しない限りにおいて、一部の労働者についてのみ適用される別個の就業規則を作成することは差し支えない
- この(上記の)場合は、「就業規則の本則」において、別個の就業規則の適用の対象となる労働者に係る適用除外規定及び委任規定を設けることが必要である
- なお、別個の就業規則を定めた場合には、当該2以上の就業規則を合したものが労基法89条の就業規則となる。それぞれ単独に同条に規定する就業規則となるものではない
就業規則の作成
ここからは、就業規則の作成にあたり、就業規則に記載しなければならない事項を解説します。
労基法の定めにより記載しなければならない事項は、次の2つです。
- 絶対的必要記載事項
⇒ 例外なく必ず記載しなければならない事項 - 相対的必要記載事項
⇒ 制度(例えば、ボーナスの支給、表彰など)について定めをする場合には、必ず記載しなければならない事項
他には、労基法の定めによらず使用者が任意に設ける規定が考えられます。
- 任意記載事項
⇒ 使用者が任意に定める事項(例えば、就業規則の制定趣旨、理念など)
なお、慣習等により、労働条件の決定または変更につき労働組合との協議を必要とする場合において、その旨を就業規則に規定するか否かは、当事者の自由とされています(昭和23年10月30日基発1575号)
任意記載事項の内容は、労基法の定めによらないため、絶対的必要記載事項と相対的必要記載事項について解説します。
(ただし、任意記載事項を含めて「就業規則」です)
条文はタブを切り替えると確認できます。
作成及び届出の義務がある使用者(89条)|
就業規則の作成及び届出を義務付けられているのは、常時10人以上の労働者を使用する使用者です。
それぞれの事業場においてパート、アルバイト等も含めて、常態として10人以上か否かを判定します(正社員以外を0.5人などとして換算するものではなく、1人としてカウントします)。
例えば、通常は8人なものの、繫忙期に限り2人雇入れるケースは、「常時10人以上」に該当しません。一方、通常は10人で運営しており、たまたま欠員が1人生じたケースは、直ちに「常時10人未満」となるものではありません。
派遣元の使用者については、派遣中の労働者とそれ以外の労働者を合わせて常時10人以上か否かを判定します(昭和61年6月6日基発333号)
派遣先の使用者については、派遣労働者(派遣元の労働者)を含めないで判定します。
絶対的必要記載事項|
就業規則の作成にあたっては、次に掲げる事項を記載しなければなりません。
- 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
- 賃金(臨時の賃金等を除く)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
相対的必要記載事項|
事業場において、次の事項に関する定めをするならば、就業規則に記載しなければなりません。
- 退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
- 臨時の賃金等(退職手当を除く)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項
- 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項
- 安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項
- 職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項
- 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項
- 表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項
- 前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項
労働者側の意見聴取(90条1項)|
義務
使用者は、就業規則の作成または変更について、労働者側から意見を聴かなければなりません(本則の他に別個の規則を作成または変更する場合も同様です)
労働者側の当事者は、労働者の過半数で組織する労働組合の有無で分れています。
ある場合 ⇒ その労働組合(過半数労働組合)
ない場合 ⇒ 労働者の過半数を代表する者(過半数代表者)
「意見を聴く」とは、「同意を得る」や「協議のうえ決定する」という意味ではありません。労働者側の意見が「反対する」といったものでも、反対の理由を問わず就業規則の効力には影響しません(同旨 昭和24年3月28日基発373号)
努力義務
短時間労働者、有期雇用労働者、派遣労働者に係る事項について就業規則を作成し、または変更する場合には、労基法90条1項の意見聴取に加え、これらの労働者の過半数を代表するものの意見を聴くように努めなければなりません(パートタイム・有期雇用労働法7条、労働者派遣法30条の6)
就業規則の適用を受ける労働者の意見が反映されることが望ましいため、努力義務が設けられています。
就業規則の届出義務|
「常時10人以上の労働者を使用する使用者」が就業規則を作成した場合は、行政官庁(所轄労働基準監督署長)に遅滞なく届け出なければなりません(労基法89条、労基則49条1項)
届出について法定の様式はありませんが、厚生労働省では「就業規則(変更)届」という様式を提供しています。
労基法89条に掲げる事項(絶対的必要記載事項、相対的必要記載事項)を変更した場合においても、同様です(労基法89条)。
なお、労基法89条の規定によらない就業規則(作成義務のない使用者が定めた就業規則)については、届出は不要です。
労働者側の意見書の添付(90条2項)|
使用者は、労基法89条の規定による届出に、労働者側の意見(労基法90条1項)を記した書面を添付しなければなりません(労基法90条2項)
届出に添付すべき意見を記した書面には、労働者を代表する者の「氏名の記載(*)」が必要です(労基則49条2項)
(*)押印原則の見直しにより、署名または記名押印は不要です。
なお、短時間労働者、有期雇用労働者、派遣労働者に係る事項について聴取した意見を添付することまでは求められていません。
就業規則の周知義務|
使用者は、就業規則を厚生労働省令で定める方法により、労働者に周知させなければなりません(労基法106条)
厚生労働省令で定める方法は次のとおりです。
- 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること
- 書面を労働者に交付すること
- 磁気ディスク等に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できるパソコンなどを設置すること
③については、厳密には、「使用者の使用に係る電子計算機に備えられたファイル又は電磁的記録媒体をもって調製するファイルに記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること」となります。
就業規則に限らず、社内規程を含めて社内LANで共有し、各自のPCからいつでも確認できるようにする方法も該当します(例えば、勤怠管理システムなどと共に、社内ポータルからアクセス可能な状態にしておく方法です)。
なお、就業規則が法的規範としての性質を有するものとして、拘束力を生ずるためには、その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要すると解されています(最二小判 平15.10.10 フジ興産事件)
労働基準法
第八十九条(作成及び届出の義務)
常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
一 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
二 賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
三 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
三の二 退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
四 臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項
五 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項
六 安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項
七 職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項
八 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項
九 表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項
十 前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項
第九十条(作成の手続)
使用者は、就業規則の作成又は変更について、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない。
② 使用者は、前条の規定により届出をなすについて、前項の意見を記した書面を添付しなければならない。
第百六条(法令等の周知義務)
使用者は、この法律及びこれに基づく命令の要旨、就業規則、第十八条第二項、第二十四条第一項ただし書、第三十二条の二第一項、第三十二条の三第一項、第三十二条の四第一項、第三十二条の五第一項、第三十四条第二項ただし書、第三十六条第一項、第三十七条第三項、第三十八条の二第二項、第三十八条の三第一項並びに第三十九条第四項、第六項及び第九項ただし書に規定する協定並びに第三十八条の四第一項及び同条第五項(第四十一条の二第三項において準用する場合を含む。)並びに第四十一条の二第一項に規定する決議を、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によって、労働者に周知させなければならない。
労働基準法施行規則
第四十九条
使用者は、常時十人以上の労働者を使用するに至った場合においては、遅滞なく、法第八十九条の規定による就業規則の届出を所轄労働基準監督署長にしなければならない。
② 法第九十条第二項の規定により前項の届出に添付すべき意見を記した書面は、労働者を代表する者の氏名を記載したものでなければならない。
第五十二条の二
法第百六条第一項の厚生労働省令で定める方法は、次に掲げる方法とする。
一 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること。
二 書面を労働者に交付すること。
三 使用者の使用に係る電子計算機に備えられたファイル又は第二十四条の二の四第三項第三号に規定する電磁的記録媒体をもって調製するファイルに記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること。
就業規則を労働者に周知していた場合における労働条件については、労働契約法の記事(こちら)で解説しています。
罰則
労基法89条、90条1項の違反には、30万円以下の罰金が定められています(労基法120条)
そのため、常時10人以上の労働者を使用する使用者が、就業規則を作成せず、または作成しても届け出ないと罰則の対象となります。
また、労働者側の意見を聴取せずに就業規則を作成しても罰則の対象です。
罰則については就業規則の変更においても同様です。
必要記載事項の一部を欠く就業規則の効力
絶対的必要記載事項の一部または相対的必要記載事項のうち、事業が適用を受けるべき事項を記載しない「就業規則」の効力については、次のように解されています。
上記のような「就業規則」も、他の要件を具備する限り有効である。ただし、上記のような「就業規則」を作成して届け出ても、使用者の労基法89条違反の責任は免れない(昭和25年2月20日基収276号)
労働協約の規定と重複する事項
次の3つの要件を全て満たす場合には、就業規則の作成にあたり、労働協約と重複する事項を省略しても差し支えないと解されています(昭和24年11月24日基発1296号)
- 労働協約の各条にそのまま就業規則の内容となりうるような具体的な労働条件が定められている
- 就業規則の中に引用すべき労働協約の各条番号を列挙している
- 就業規則の別紙として労働協約を添付する
なお、労働協約が失効した場合にも、引用した部分が効力を有することを明確にしておくことが求められています(前掲通達)
本社一括届出
本社と支社(本社以外の事業場)において、同一の就業規則を適用する場合には、本社の使用者が取りまとめて届け出ることが可能です(平成15年2月15日 基発0215001号)
本社一括届出は、本社の使用者が、本社の所轄労働基準監督署長に対して行います。
なお、本社一括届出についても電子申請は可能です。
参考|厚生労働省ホームページ(外部サイトへのリンク)|労働基準法等の規定に基づく届出等の電子申請について
「常時10人未満の労働者を使用する使用者」については、就業規則の作成及び届出の義務はありません。
ただし、就業規則を作成してはならないという趣旨ではなく、作成することは可能です。
規則を成文化する意味でも望まれています(届け出ることも可能です)
なお、「常時10人未満の労働者を使用する使用者」が作成した就業規則も、労契法における次の規定の「就業規則」に含まれると解されています(平成24年8月10日基発0810第2号)
- 7条(労働契約の成立時に、就業規則で定める労働条件を労働契約の内容とする場合)
- 9条、10条(就業規則の変更による労働契約の内容の変更)
- 12条(就業規則違反の労働契約)
- 13条(法令及び労働協約と就業規則との関係)
「作成及び届出の義務」の有無と、就業規則の「効力」や「適用される規定」とを分けて考えることが必要です。
絶対的必要記載事項
通達を中心に絶対的必要記載事項についての論点を解説します。
始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇
通達(昭和63年3月14日基発150号)によると、次のように解されています。
- 同一の事業場において、労働者の職種等によって始業及び終業の時刻が異なる場合には、職種等の別ごとに規定する必要がある
- 始業及び終業を画一的に定めない労働者(パート労働者など)については、基本となる始業及び終業の時刻を定め、具体的には個別の労働契約等で定める旨の委任規定を設けることで差し支えない
- 上記①②については、休憩時間、休日についても同様である
他にも次のような留意事項があります。
派遣中の労働者について画一的な労務管理を行わない事項は、その枠組み、具体的な労働条件の定め方を規定すれば足りると解されています(昭和63年3月14日基発150号)
監視断続的労働に従事する者(労基法41条3号の許可を受けた労働者)についても、労基法89条は適用されるため、始業及び終業の時刻を規定しなければなりません(昭和23年12月25日基収4281号)
フレックスタイム制における「始業及び終業の時刻」については、「始業及び終業の時刻を労働者の決定に委ねる」旨を定めれば足ります(昭和63年1月1日基発1号)
なお、コアタイムやフレキシブルタイムについても、「始業及び終業の時刻」に関する事項となるため、就業規則で定めることが必要です(前掲通達)
就業時転換に関する事項
労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合には、「就業時転換に関する事項」の記載も必要です。
例えば、労働時間を3グループに分けて24時間体制で稼働している工場などが該当します。
交替勤務をとる場合は、勤務形態ごとの始業及び終業時刻、休憩時間を規定するとともに、交替順序の考え方などを記載します。
「労基法で定める休暇」以外の休暇について
労基法に基づく休暇(年次有給休暇、産前産後の休業、生理休暇など)の他にも、育児・介護休業法における育児休業は、絶対的必要記載事項の「休暇」に含まれると解されています(平成3年12月20日基発712号)
育児・介護休業法による出生時育児休業(産後パパ育休)、介護休業、子の看護休暇、介護休暇についても就業規則に記載が必要と解されています(令和5年4月28日雇均発0428第3号)
法律上、上記の制度が事業所内制度として設けられることは、労働者の権利行使に当たって必須のものではありません(就業規則に記載がないことを理由に、労働者が権利を行使できないというものではありません)
しかしながら、労働者がこれらの制度を容易に取得できるよう、就業規則に記載が必要とされています(前掲通達)
また、法定の休暇以外に事業場独自の休暇(リフレッシュ休暇、ボランティア休暇など)を設ける場合にも就業規則に記載が必要です。
賃金(臨時の賃金等を除く)の決定、計算及び支払の方法について
「賃金の決定方法」とは賃金体系や決定の要素など、「賃金の計算方法」とは割増賃金の算定方法など、「賃金の支払方法」とは月給制や出来高払制などを記載します。
36協定の限度時間を超える時間外労働に係る割増賃金率についても、「賃金の決定、計算及び支払の方法」として就業規則への記載が必要です(平成30年9月7日基発0907第1号)
「賃金の締切り及び支払の時期」はよろしいかと思います。支払日が休日にあたる場合の考え方も示すのが一般的です。
「昇給に関する事項」とは、昇給の時期や条件などを記載します。
(賃金関係は内容が膨大となるため、就業規則に委任規定を設けて、別に賃金規程(給与規程)を作成するケースもあります)
退職に関する事項(解雇の事由を含む)
任意退職、契約期間の満了による退職、定年制、労働者が死亡した場合など、労働者がその会社の身分を失うすべての場合について、該当事由や手続きなどを記載します。
また、解雇をめぐる紛争を未然に防止する観点から、「解雇の事由」についても定めが必要です(平成15年10月22日基発1022001号)
相対的必要記載事項
通達とモデル就業規則より、相対的必要記載事項についての論点を解説します。
繰り返しになりますが、相対的必要記載事項については、定めをするならば就業規則に記載が必要です。
定めない場合(例えば、退職手当を設けないなど)は記載する必要はありません。
退職手当(いわゆる退職金)を設ける場合には、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法、退職手当の支払の時期に関する事項を就業規則に記載しなければなりません。
「退職手当の決定、計算及び支払の方法」とは、退職手当額の決定要素(勤続年数、退職事由など)、金額の算定方法(勤続年数ごとの支給率など)、支払の方法(一時金、年金または併用など)をいいます(昭和63年1月1日基発1号)
また、不支給事由または減額事由を設ける場合には、これらの事由についても記載が必要です(前掲通達)
なお、事業主(退職金共済契約を締結した事業主などを除く)は、就業規則等により労働者に退職手当を支払うことを明らかにしたときは、退職金の支払に充てるべき額について、金融機関と保証契約を締結するなどの保全措置を講ずるよう努めなければなりませ(賃金の支払の確保等に関する法律5条、同施行規則4条、5条、5条の2)
「臨時の賃金等(退職手当を除く)」とは、次のとおりです(労基法24条2項ただし書き、労基則8条)
- 臨時に支払われる賃金(結婚祝い金など)
- 賞与
- 1カ月を超える期間の出勤成績によって支給される精勤手当
- 1カ月を超える一定期間の継続勤務に対して支給される勤続手当
- 1カ月を超える期間にわたる事由によって算定される奨励加給または能率手当
臨時に支払われる賃金、賞与についての解釈は、こちらの記事で解説しています。
最低賃金法については、こちらの記事で解説しています。
労働者に食費、作業用品その他の負担に関する事項(5号)
例示されている食費、作業用品以外の「その他の負担」については、労働者に対する社宅費用や在宅ワークの際の水道光熱費の負担などが考えられます。
(記載内容が膨大となる場合は、委任規定を設けて個別の規程を作成するケースもあります)
安全及び衛生に関する事項(6号)
事業場において安全衛生を確保するために、労働者が遵守しなければならないルールなどを定めます。
モデル就業規則では、安全衛生教育、健康診断、長時間労働者に対する面接指導、ストレスチェックについての細目も記載しています。
職業訓練に関する事項(7号)
通達によると、就業規則に記載が必要な事項として、次のような例が示されています(昭和44年11月24日基発776号)
- 職業訓練の種類、内容、訓練期間、受けることのできる者の資格
- 訓練中の労働者に特別の権利義務を設定する場合にはそれに関する事項
- 訓練終了者に特別の処遇をする場合にはそれに関する事項
災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項(8号)
労基法に規定する災害補償についての細目や、使用者が自主的おこなう扶助などを記載します。
労基法における災害補償については、こちらの記事で解説しています。
表彰及び制裁の種類及び程度に関する事項(9号)
表彰や制裁を設けるならば、その種類と程度について記載しなければなりません。
「表彰」については、例えば、所属長表彰などが考えられます。「表彰」の定めをするならば、種類と程度について記載が必要となるものの、いかなる内容とするかは労基法による規制の対象外です。
「制裁」の種類としては、処分の軽い順に、戒告、譴責(けんせき)、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇などがあります。
一般的に懲戒処分といわれるものです。
繰り返しになりますが、就業規則が法的規範としての性質を有するものとして、拘束力を生ずるためには、その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要すると解されています(最二小判 平15.10.10 フジ興産事件)
また、実際に行った制裁(懲戒)の内容が、懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効となります(労契法15条)
制裁(懲戒)について情報を整理すると次のようになります。
- 制裁(懲戒)の定めをする場合は、就業規則にその種類と程度について記載しなければならない
- 実際に懲戒処分を行うにあたっては、就業規則に記載し労基署(所轄署長)に届け出るだけでなく、あらかじめその内容(就業規則)を労働者に周知させる必要がある
- ②を満たしても、懲戒処分が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効となる
「減給の制裁」の制限(労基法91条)については、別の記事で解説する予定です。
事業場の労働者のすべてに適用される定めに関する事項(10号)
通達によると、旅費に関する一般的規定をつくる場合には、労基法89条10号により就業規則に記載しなければならないとあります(昭和25年1月20日基収3751号)
また、事業場における慣習についても、労働者のすべてに適用されるものである限り、就業規則に記載しなければなりません(昭和23年10月30日基発1575号)
「事業場の労働者のすべて」が対象となる(なり得る)制度について記載が必要です。例えば、労働者ではない役員のみを対象とした制度は相対的必要記載事項に含まれません。
就業規則の変更
就業規則の変更については、労働契約法に定められています。
結論としては、就業規則の作成と同様に、労基法89条及び90条の定めによります。
就業規則の変更の手続に関しては、労働基準法第八十九条及び第九十条の定めるところによる。
絶対的必要記載事項、相対的必要記載事項、労働者側の意見聴取、届出義務、労働者への周知義務、本社一括届出、罰則についても作成時と同様です。
就業規則の変更に伴う手続きについては、「就業規則の作成」で解説したとおりです。
実際には、就業規則の変更に伴う労働条件の変更が、認められるか否かが問題となります。
具体的な解釈については、労働契約法の記事で解説する予定です。
参考|就業規則と労働条件の明示
社労士試験の勉強用に情報を整理しておきます。
下のタブに格納したので必要に応じて確認してみてください。
記載または明示の要否を〇✕で表示しています。
記載又は明示事項 | 就業規則 | 労働条件の明示 |
絶対的 | ||
労働契約の期間 | ✕ | 〇 |
有期労働契約を更新する場合の基準 (通算契約期間又は更新回数の上限を含む) | ✕ | 〇 |
就業の場所及び従事すべき業務(変更の範囲を含む) | ✕ | 〇 |
始業及び終業の時刻 | 〇 | 〇 |
所定労働時間を超える労働の有無 | ✕ | 〇 |
休憩時間、休日、休暇 | 〇 | 〇 |
就業時転換(交替制の場合) | 〇 | 〇 |
賃金の決定、計算及び支払の方法、締切り及び支払の時期 | 〇 | 〇 |
昇給 | 〇 | 〇 |
退職に関する事項(解雇の事由を含む) | 〇 | 〇 |
相対的 | ||
退職手当 | 〇 | 〇 |
臨時の賃金等及び最低賃金額 | 〇 | 〇 |
食費、作業用品その他の負担 | 〇 | 〇 |
安全及び衛生 | 〇 | 〇 |
職業訓練 | 〇 | 〇 |
災害補償及び業務外の傷病扶助 | 〇 | 〇 |
表彰及び制裁 | 〇 | 〇 |
その他当該事業場の労働者のすべてに適用される定め | 〇 | ✕ |
休職 | ✕ | 〇 |
法律上の義務の有無は別として、休職制度があるならば、就業規則に休職規定を設け明確にしておくのが一般的です。
更新後の契約期間中に無期転換の申込が可能となる有期労働契約の場合は、労働条件の明示事項として、上表に加え次のいずれもが必要です。
- 無期転換申込みに関する事項
- 無期転換後の労働条件
労働条件の明示については、こちらの記事で解説しています。
ここまで、就業規則の作成と変更について解説しました。
就業規則については、社労士試験において出題頻度の高い論点です。
絶対的必要記載事項または相対的必要記載事項を直接問われるというよりも、それぞれの記載事項の周辺知識も出題されています。
通達からの出題も少なくないため、過去問題集などを解いて具体的な解釈も学習してみてください。
最後に、この記事を簡単にまとめて終わりにします。
作成及び届出の義務
- 常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則の作成及び届出を義務付けられている
- 別個の就業規則を定めた場合には、当該2以上の就業規則を合したものが労基法89条の就業規則となる
- 本社と支社(本社以外の事業場)において、同一の就業規則を適用する場合には、本社の使用者が取りまとめて届け出ることが認められている。
絶対的必要記載事項(必ず記載)
- 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに交替制の場合には就業時転換に関する事項
- 賃金(臨時の賃金等を除く)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
相対的必要記載事項(定めるならば記載)
- 退職手当の適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算、支払の方法、支払の時期に関する事項
- 臨時の賃金等(退職手当を除く)及び最低賃金額に関する事項
- 食費、作業用品その他の負担に関する事項
- 安全及び衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
- 表彰及び制裁の種類及び程度に関する事項
- その他、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めに関する事項
必要記載事項の一部を欠く就業規則も、他の要件を具備する限り有効である。ただし、そのような「就業規則」を作成して届け出ても、使用者の労基法89条違反の責任は免れない。
労働者側の意見聴取
義務|
使用者は、就業規則の作成または変更について、過半数労働組合、過半数労働組合がない場合には過半数代表者から意見を聴かなければならない。
労働者側の意見が「反対する」といったものでも、反対の理由を問わず就業規則の効力には影響しない。
努力義務|
短時間労働者、有期雇用労働者、派遣労働者に係る事項について就業規則を作成し、または変更する場合には、労基法90条1項の意見聴取に加え、これらの労働者の過半数を代表するものの意見を聴くように努めるもの となっている。
労働者側の意見書の添付
使用者は、労基法89条の規定による届出に、労働者側の意見(労基法90条1項)を記した書面を添付しなければならない。
就業規則の周知義務
使用者は、就業規則を次のいずれかの方法により、労働者に周知させなければならない。
- 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること
- 書面を労働者に交付すること
- 磁気ディスク等に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できるパソコンなどを設置すること
就業規則の変更
就業規則の変更の手続に関しては、労基法89条及び第90条の定めるところによる(作成と同様)
(参考資料等)
厚生労働省|厚生労働省法令等データベースサービスより|https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/kensaku/index.html
- 労働基準法89条、90条、120条
- 労働基準法施行規則49条
- 労働契約法11条、15条
- 労働者派遣法30条の6
- 短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム・有期雇用労働法)7条
- 平成3年12月20日基発712号(育児休業制度の労働基準法上の取扱いについて)
- 平成21年3月31日基発0331010号(派遣労働者に係る労働条件及び安全衛生の確保について)
- 平成24年8月10日基発0810第2号(労働契約法の施行について)
厚生労働省ホームページ|主要様式ダウンロードコーナーより|
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/roudoukijunkankei.html
- 就業規則(変更)届
厚生労働省ホームページ|モデル就業規則についてより|
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/model/index.html
- モデル就業規則(令和5年7月)
厚生労働省ホームページ|テレワーク普及促進関連事業より|
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/shigoto/telework.html
- テレワークモデル就業規則
厚生労働省ホームページ|育児・介護休業法についてより|
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000130583.html
- 就業規則における育児・介護休業等の取扱い
- 【通達】育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律の施行について(令和5年5月8日)
東京労働局ホームページ|就業規則一括届出制度より|
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/roudoukijun_keiyaku/syugyoukisoku.html
- リーフレット
解釈例規(昭和63年3月14日基発150号)