この記事では、労働基準法の8章(災害補償)を解説しています。
社会保険労務士試験の独学、労務管理担当者の勉強などに役立てれば嬉しいです。
当記事は、条文等の趣旨に反するような極端な意訳には注意しております。ただし、厳密な表現と異なる部分もございます。
詳しくは免責事項をご確認ください。
労基法と労災保険法との関係(84条)
労基法と労災保険法との関係
結論としては、労働者の業務災害(*1)についての補償は、一部を除いて、実質的に労働者災害補償保険法により行われています。
(*1)業務を原因とする負傷、疾病、障害または死亡をいいます。通勤災害(または複数業務要因災害)は含まれません。
通達によると、労基法の災害補償と労災保険制度の考え方は、次のように示されています。
労災保険制度は、労働基準法による災害補償制度から直接に派生したものではなく、両者は、業務災害に対する事業主の補償責任の法理を共通の基盤として並行しているものと理解されるべきであり、現実の機能においては、むしろ後者は未加入事業について前者を補充する関係に立つこととなった(昭和41年1月31日基発73号)
とはいえ、補償の内容(要件など)や業務災害か否かの解釈については、大部分を労災保険法で学習します。
なお、業務災害か否かを一律に定義することは困難です(労災保険で個々の事案についての解釈を学びます)
労災保険を未学習の方は、あまり難しく考えないで読んでみてください。
① この法律に規定する災害補償の事由について、労働者災害補償保険法又は厚生労働省令で指定する法令に基づいてこの法律の災害補償に相当する給付が行なわれるべきものである場合においては、使用者は、補償の責を免れる。
② 使用者は、この法律による補償を行った場合においては、同一の事由については、その価額の限度において民法による損害賠償の責を免れる。
災害補償に関する細目は、厚生労働省令(労基則)で定められています(労基法88条)
「そもそも、労災保険法を勉強すればよくない?」と思われる方も、休業補償(労基法76条)と打切補償(労基法81条)は把握しておいてください。
労災保険による休業補償給付の待機期間(継続、断続を問わず通算して3日間)については、労基法の休業補償が必要です(昭和41年1月31日基発73号)
また、打切補償は解雇制限の除外(労基法19条1項)と関係します。
なお、通勤災害(*2)、複数業務要因災害(*3)に関する補償は、労基法ではなく、労災保険法で定められています。
(*2)通勤に通常伴う危険が具体化したことによる災害
(*3)異なる事業主とそれぞれ労働契約関係にある労働者(他の就業について特別加入している者、複数の就業について特別加入している者を含む)について、2つ以上の事業の業務を要因とする災害
参考|災害補償に相当する給付
労働基準法の災害補償に相当する給付に関する法令を指定する省令(昭和42年労働省令第30号)にて、3つの法令が指定されています。
- 国家公務員災害補償法
- 公立学校の学校医、学校歯科医及び学校薬剤師の公務災害補償に関する法律
- 地方公務員災害補償法第六十九条第一項の規定に基づく条例
業務上の負傷または疾病についての補償
業務と因果関係が認められる負傷(ケガ)または疾病(病気)について、使用者に補償を義務付けています(実質的には労災保険により補償されます)
労基法では、業務上の負傷または疾病について、次の災害補償を定めています。
- 療養補償(業務上の負傷または疾病について、療養を必要とする場合の補償)
- 休業補償(業務上の負傷または疾病を理由に、療養のため休業する場合の補償)
- 障害補償(業務上の負傷または疾病を理由とする障害が残った場合の補償)
例えば、労働者が就業中に(業務を理由として)負傷したため、病院で治療を受けたり、入院する場合があります。
使用者は、治療等にかかった実際の費用を自ら病院に支払うか、または治療等に必要な費用を労働者に支払わなければなりません。
労基法の災害補償は、使用者が(直接)補償義務を負います。
ただし、使用者による補償の実効性を確保するために、政府が保険給付を行う(使用者が保険料を支払う)という労災保険が制度化されています。
① 労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかった場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない。
② 前項に規定する業務上の疾病及び療養の範囲は、厚生労働省令で定める。
罰則
労基法75条に違反した者は、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます(労基法119条)
業務上の疾病及び療養の範囲
「業務上の疾病」の範囲は、労基則別表第一の二に定めています(労基則35条)
(情報量が多いため、必要なときにe-Govなどで調べてみてください)
「療養」の範囲は、労基則36条で次の6つが定められています(療養上相当と認められるものに限られます)
- 診察
- 薬剤又は治療材料の支給
- 処置、手術その他の治療
- 居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護
- 病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護
- 移送
労災保険の場合
労災保険における「業務上の疾病」についても、労基則別表第一の二を根拠としています(通勤による疾病の範囲は、労災則18条の4に定められています)
また、労災保険における療養の給付の範囲(労災法13条)は、労基則で掲げられた6つと同様です(政府が必要と認めるものに限られます)
労災保険の適用を受ける場合は、政府により、保険給付として療養補償給付が行われます。
労働者が業務上の負傷または疾病のため療養する場合には、休業を必要とするケースも生じます(例えば、入院など)
使用者は、労働者が上記の休業をする期間について賃金を支払わない場合は、平均賃金の60%を支払わなければなりません。
条文はタブを切り替えると確認できます。
労働基準法76条1項|
労働者が労基法75条の規定による療養のため、労働することができないために賃金を受けない場合においては、使用者は、労働者の療養中平均賃金の100分の60の休業補償を行わなければならない。
労働基準法施行規則38条|
労働者が業務上負傷し又は疾病にかかったため、所定労働時間の一部分のみ労働した場合においては、使用者は、平均賃金と当該労働に対して支払われる賃金との差額の100分の60の額を休業補償として支払わなければならない。
労働基準法
労働者が前条の規定による療養のため、労働することができないために賃金を受けない場合においては、使用者は、労働者の療養中平均賃金の百分の六十の休業補償を行わなければならない。
② 使用者は、前項の規定により休業補償を行っている労働者と同一の事業場における同種の労働者に対して所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金の、一月から三月まで、四月から六月まで、七月から九月まで及び十月から十二月までの各区分による期間(以下四半期という。)ごとの一箇月一人当り平均額(常時百人未満の労働者を使用する事業場については、厚生労働省において作成する毎月勤労統計における当該事業場の属する産業に係る毎月きまって支給する給与の四半期の労働者一人当りの一箇月平均額。以下平均給与額という。)が、当該労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかった日の属する四半期における平均給与額の百分の百二十をこえ、又は百分の八十を下るに至った場合においては、使用者は、その上昇し又は低下した比率に応じて、その上昇し又は低下するに至った四半期の次の次の四半期において、前項の規定により当該労働者に対して行っている休業補償の額を改訂し、その改訂をした四半期に属する最初の月から改訂された額により休業補償を行わなければならない。改訂後の休業補償の額の改訂についてもこれに準ずる。
③ 前項の規定により難い場合における改訂の方法その他同項の規定による改訂について必要な事項は、厚生労働省令で定める。
労基法76条における「休業補償」は、長期化する場合もあります。
業務災害にあったときと比較して著しく賃金が変動した場合には、上昇または低下した比率に応じて、休業補償の額を改定する制度(スライド制)が採用されています(労基法76条2項)
ちなみに、休業補償(労基法76条)は、「使用者の責に帰すべき事由による休業」の場合に支払う休業手当(労基法26条)とは別の制度です。
休業手当は平均賃金の「60%以上」です。一方、休業補償は平均賃金の「60%」となります。
罰則
労基法76条に違反した者は、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます(労基法119条)
労災保険の場合
労災保険の適用を受ける場合は、政府により、保険給付として休業補償給付が行われます。
ただし、労災保険による休業補償給付は、「労働者が業務上の負傷又は疾病による療養のため労働することができないために賃金を受けない日の第4日目」から支給されます(労災法14条)
そのため、休業補償給付が支給されない3日間については、使用者による休業補償(労基法76条)が必要です。
また、労災保険には、傷病補償年金(*4)という保険給付もあります。
(*4)業務上負傷し、又は疾病にかかった労働者が、療養開始後1年6カ月を経過した日において、負傷または疾病が治っていない、かつ、負傷または疾病による障害の程度が傷病等級に該当する場合に支給される保険給付です。
社労士試験の勉強を始めたばかりの方は焦る必要はありません。
休業手当、休業補償、休業補償給付(または傷病補償年金)、休業給付、複数事業労働者休業給付それぞれは、勉強を進めるうちに区別できるでしょう。
労働者が業務上の負傷または疾病のため療養し、その後、治った(*5)場合に障害が残るケースも生じます。
(*5)症状が安定し、医療効果が期待できない状態(症状固定)を含みます。
使用者は、労働者の障害の程度に応じて、補償しなければなりません。
労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり、治った場合において、その身体に障害が存するときは、使用者は、その障害の程度に応じて、平均賃金に別表第二に定める日数を乗じて得た金額の障害補償を行わなければならない。
労基法別表第二では、14の等級(最高1級 1,340日分〜 最低14級 50日分)が定められています。
「治った」ことを、「治ゆ(ちゆ)」といいます。
完全に回復した状態のみならず、症状固定を含むのがポイントです。
初めて知った方は、この機会に覚えてしまえばOKです。
なお、治ゆ後は、たとえ休業したとしても(再発の場合は除いて)休業補償の対象外です。
(「労基法75条の規定による療養のために」休業するとはいえないため)
罰則
労基法77条に違反した者は、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます(労基法119条)
労災保険の保険給付
労災保険の適用を受ける場合は、政府により、保険給付として障害補償給付(障害補償年金または障害補償一時金)が行われます。
ちなみに、労災保険には、介護を受ける被災労働者に対する保険給付(介護補償給付)もあります。
業務上の負傷または疾病が、労働者の重大な過失によって引き起こされた場合の規定です。
労働者が重大な過失によって業務上負傷し、又は疾病にかかり、且つ使用者がその過失について行政官庁の認定を受けた場合においては、休業補償又は障害補償を行わなくてもよい。
認定を受ける相手は、所轄労働基準監督署長です(労基則41条)
使用者は、重大な過失があった事実を証明する書面を添えて、所定の様式(様式第15号)により申請します。
参考|労災保険における支給制限
労災保険の保険給付についての支給制限は、次のように定められています(労災法12条の2の2)
- 労働者が、故意に負傷、疾病、障害若しくは死亡又はその直接の原因となった事故を生じさせたときは、政府は、保険給付を行わない。
- 労働者が故意の犯罪行為若しくは重大な過失により、又は正当な理由がなくて療養に関する指示に従わないことにより、負傷、疾病、障害若しくは死亡若しくはこれらの原因となった事故を生じさせ、又は負傷、疾病若しくは障害の程度を増進させ、若しくはその回復を妨げたときは、政府は、保険給付の全部又は一部を行わないことができる。
業務上の死亡についての補償
業務と因果関係が認められる死亡について、使用者に補償を義務付けています(実質的には労災保険により補償されます)。
労基法では、業務上の死亡について、次の災害補償を定めています。
- 遺族補償(労働者が業務上死亡した場合に、遺族に対して行う補償)
- 葬祭料(業務上死亡した労働者を葬祭する者に支払う金額)
療養や休業、障害ではなく、労働者が死亡した場合に、遺族に対して行う災害補償です。
労働者が業務上死亡した場合においては、使用者は、遺族に対して、平均賃金の1,000日分の遺族補償を行わなければならない。
「業務上死亡」には、業務上の事故による死亡の他、業務上の負傷または疾病が原因となる死亡があります。
罰則
労基法79条に違反した者は、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます(労基法119条)
労災保険の保険給付
労災保険の適用を受ける場合は、政府により、保険給付として遺族補償給付(遺族補償年金または遺族補償一時金)が行われます。
労働者が業務上死亡した場合に、葬祭を行う者に支払う災害補償です。
労働者が業務上死亡した場合においては、使用者は、葬祭を行う者に対して、平均賃金の60日分の葬祭料を支払わなければならない。
「葬祭を行う者」は、一般的には遺族が考えられますが、遺族に限る規定ではありません(例えば、友人が行う場合など)
罰則
労基法80条に違反した者は、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます(労基法119条)
労災保険の保険給付
労災保険の適用を受ける場合は、政府により、保険給付として葬祭料(内容に違いはあるものの災害補償と同じ名称です)が支給されます。
ちなみに、労災保険における葬祭料の金額は、次のうち、いずれか高い方となります(労災法17条)
- 315,000円 + 給付基礎日額(*6)の30日分
- 給付基礎日額の60日分
(*6)労基法12条の平均賃金に相当する額をいいます(労災法8条)
その他の規定
労基法8章における他の規定を簡単に解説します。
簡単にいうと、使用者はお金を支払うことにより、災害補償を打ち切ることができます。
第75条の規定によって補償を受ける労働者が、療養開始後3年を経過しても負傷又は疾病がなおらない場合においては、使用者は、平均賃金の1,200日分の打切補償を行い、その後はこの法律の規定による補償を行わなくてもよい。
第75条の補償は、「療養補償」です。
繰り返しになりますが、打切補償を支払うと、解雇制限は除外(解除)されます(労基法19条1項)
なお、最高裁によると、労災保険法の療養補償給付を受ける労働者が、療養開始後3年を経過しても疾病等が治らない場合についても、打切補償を行い、解雇制限を除外できると解されています(最二小判 平27.6.8 学校法人専修大学事件)
打切補償の請求の可否
最高裁は、「使用者が打切補償を行なう旨の意思を表示しないかぎり、被災労働者から当然にこの種の補償を請求しうるものでない」と示しています(最一小判 昭41.12.1 伸栄製機事件)
傷病補償年金(労災)と打切補償
労災保険法には、解雇制限の除外(労基法19条1項)について、「打切補償を支払った」とみなす規定があります。
業務上負傷し、または疾病にかかった労働者が、次のいずれかに該当する場合に「打切補償を支払った」とみなします(労災法19条)
- 療養の開始後3年を経過した日に傷病補償年金を受けている場合
- 同日後に傷病補償年金を受けることとなった場合
「打切補償を支払った」とみなす日は、それぞれ、3年を経過した日、傷病補償年金を受けることとなった日です。
簡単にいうと、障害補償または遺族補償を分割して支払う制度です。
使用者は、支払能力のあることを証明し、補償を受けるべき者の同意を得た場合においては、第77条(障害補償)又は第79条(遺族補償)の規定による補償に替え、平均賃金に別表第三に定める日数を乗じて得た金額を、6年にわたり毎年補償することができる。
第2回以後の分割補償は、毎年、第1回の分割補償を行った月と同じ月に行うことが必要です(労基則47条3項)
労基法別表第三に定める日数は、利息が考慮されています(具体的な日数は省略します)。
被災労働者が退職(理由は問われません)しても、補償を受ける権利は消滅しません。
① 補償を受ける権利は、労働者の退職によって変更されることはない。
② 補償を受ける権利は、これを譲渡し、又は差し押えてはならない。
ただし、労基法の規定による災害補償その他の請求権(賃金の請求権を除く)は、行使することができる時から2年間行わないと、時効によって消滅します(労基法115条)
なお、解雇された後に傷病が再発した場合は、従前の使用者が補償責任を負います(昭和24年4月8日基収206号)
災害補償について争い(業務上外の認定など)が生じた場合の規定です。
労働基準監督署長の審査または事件の仲裁(85条)|
① 災害補償について異議がある者は、労働基準監督署長に対して審査または事件の仲裁を申し立てることができる。
② 労働基準監督署長は、必要があると認める場合には、職権で審査または事件の仲裁をすることができる。
①の申立て及び②の審査または仲裁の開始は、時効の完成猶予及び更新に関しては、裁判上の請求(民法147条)とみなす。
労働者災害補償保険審査官の審査または仲裁(86条)|
労基法85条の審査および仲裁の結果に不服がある場合は、労働者災害補償保険審査官の審査または仲裁を申し立てることができる。
労働基準法
第八十五条
業務上の負傷、疾病又は死亡の認定、療養の方法、補償金額の決定その他補償の実施に関して異議のある者は、行政官庁に対して、審査又は事件の仲裁を申し立てることができる。
② 行政官庁は、必要があると認める場合においては、職権で審査又は事件の仲裁をすることができる。
③ 第一項の規定により審査若しくは仲裁の申立てがあった事件又は前項の規定により行政官庁が審査若しくは仲裁を開始した事件について民事訴訟が提起されたときは、行政官庁は、当該事件については、審査又は仲裁をしない。
④ 行政官庁は、審査又は仲裁のために必要であると認める場合においては、医師に診断又は検案をさせることができる。
⑤ 第一項の規定による審査又は仲裁の申立て及び第二項の規定による審査又は仲裁の開始は、時効の完成猶予及び更新に関しては、これを裁判上の請求とみなす。
第八十六条
前条の規定による審査及び仲裁の結果に不服のある者は、労働者災害補償保険審査官の審査又は仲裁を申し立てることができる。
② 前条第三項の規定は、前項の規定により審査又は仲裁の申立てがあった場合に、これを準用する。
第九十九条
③ 労働基準監督署長は、都道府県労働局長の指揮監督を受けて、この法律に基く臨検、尋問、許可、認定、審査、仲裁その他この法律の実施に関する事項をつかさどり、所属の職員を指揮監督する。
民法
第百四十七条
次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。
一 裁判上の請求
二 支払督促
三 民事訴訟法第二百七十五条第一項の和解又は民事調停法(昭和二十六年法律第二百二十二号)若しくは家事事件手続法(平成二十三年法律第五十二号)による調停
四 破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加
2 前項の場合において、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。
ちなみに、労基法85条、86条の審査または仲裁を経なくとも民事訴訟の提起は可能です(労基法85条3項、86条2項)
(85条または86条の申立て中に、民事訴訟が提起されたときは、審査または仲裁はされません)
参考|労災保険の場合(保険給付についての不服申立て)
労災保険についての不服申し立て及び訴訟は、次の取扱いとなっています。
- 保険給付に関する決定に不服のある者は、労働者災害補償保険審査官に対して審査請求をし、その決定(*7)に不服のある者は、労働保険審査会に対して再審査請求をすることができます(労災法38条1項)
- 上記の審査請求及び再審査請求は、時効の完成猶予及び更新に関しては、裁判上の請求とみなします(労災法38条3項)
(*7)審査請求をした日から3カ月を経過しても審査請求についての決定がないときは、労働者災害補償保険審査官が審査請求を棄却したものとみなすことができます(労災法38条2項)
なお、保険給付に関する決定についての処分の取消しの訴えは、当該処分についての審査請求に対する労働者災害補償保険審査官の決定を経た後でなければ、提起することができません(労災法40条)
土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊、解体又はその準備の事業(労基法別表第一 第三号の事業)についての例外です(労基則48条の2)
災害補償については、元請負人を使用者とみなします。
① 厚生労働省令で定める事業が数次の請負によって行われる場合においては、災害補償については、その元請負人を使用者とみなす。
② 前項の場合、元請負人が書面による契約で下請負人に補償を引き受けさせた場合においては、その下請負人もまた使用者とする。但し、二以上の下請負人に、同一の事業について重複して補償を引き受けさせてはならない。
③ 前項の場合、元請負人が補償の請求を受けた場合においては、補償を引き受けた下請負人に対して、まづ催告すべきことを請求することができる。ただし、その下請負人が破産手続開始の決定を受け、又は行方が知れない場合においては、この限りでない。
ここまで、労基法8章を解説しました。
災害補償の大部分は、実質的に労災保険により行われます。
社労士試験においても、業務災害の認定などを含め労災保険で勉強します。
労基法の勉強においては、休業補償(労基法)と休業補償給付(労災法)、打切補償(労基法81条)と解雇制限(労基法19条)の関係は覚えておいてください。
最後に、この記事を簡単にまとめて終わりにします。
災害補償(労基法)と業務災害における保険給付(労災法)
対象 | 労基法 | 労災法 |
業務災害による傷病により療養する者 | 療養補償 | 療養補償給付 |
業務災害による傷病を理由に、療養のため休業する者 (労働することができず、賃金を受けられないとき) | 休業補償 | 休業補償給付 |
業務災害による傷病が療養開始後1年6カ月を経過しても治らず、傷病等級に該当する者 | なし | 傷病補償年金 |
業務災害による傷病が治った場合に、障害等級に該当する者 | 障害補償 | 障害補償給付 |
障害補償年金または傷病補償年金の受給権者であって、介護を受けている者 (一定の条件あり) | なし | 介護補償給付 |
労働者が業務災害により死亡した場合の遺族 | 遺族補償 | 遺族補償給付 |
業務災害により死亡した労働者について、葬祭を行う者 | 葬祭料 | 葬祭料 |
休業補償と休業補償給付
休業補償給付が支給されない3日間については、使用者による休業補償(労基法76条)が必要となる。
打切補償
療養補償を受ける労働者が、療養開始後3年を経過しても傷病がなおらない場合に、使用者が取れる選択肢。
使用者は、平均賃金の1,200日分の打切補償を行い、その後は労基法の規定による補償を行わなくてもよい。
打切補償を支払うと、労基法19条1項ただし書きに該当し、労働基準監督署長の認定を受けることなく解雇制限は除外(解除)される。
また、解雇制限の適用については、療養開始後3年を経過した日に(または経過した日後に)傷病補償年金を受けている(または受けることとなった)場合は、打切保障を支払ったとみなす(労災法19条)
なお、最高裁によると、労災保険法の療養補償給付を受ける労働者についても、打切補償を支払うことにより解雇制限の除外を適用できると解されている(最二小判 平27.6.8 学校法人専修大学事件)
(参考資料等)
厚生労働省|厚生労働省法令等データベースサービスより|https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/kensaku/index.html
- 労働基準法75条から88条まで、99条、119条
- 労働基準法施行規則35条から48条の2まで
- 労働者災害補償保険法8条、12条の2の2、12条の8から20条まで、38条、40条
- 労働者災害補償保険法の一部を改正する法律第三条の規定の施行について(昭和41年1月31日基発73号)
- 労災保険給付を受けて休業する労働者に対する解雇制限にかかる判決について(平成27年6月9日基発0609第4号)
厚生労働省ホームページより|
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/05/s0512-2e.html
- 労災保険と労基法上の災害補償の比較
東京労働局ホームページより|
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/rousai_hoken/ro-gyoum.html
- 業務災害について