この記事では、労働基準法の6章の2(妊産婦等)から、次の規定を解説しています。
- 生理日の就業が著しく困難な女性に対する措置(68条)
社会保険労務士試験の独学、労務管理担当者の勉強などに役立てれば嬉しいです。
当記事は、条文等の趣旨に反するような極端な意訳には注意しております。ただし、厳密な表現と異なる部分もございます。
詳しくは免責事項をご確認ください。
生理日の就業が著しく困難な女性に対する措置(68条)
生理日の就業が著しく困難な女性は、年次有給休暇とは別に、休暇(ただし、有給か無給かは就業規則等による)を請求することが認められています。
労基法68条に規定する休暇は、厳密には「生理日の就業が著しく困難な女性に対する措置」といいます。
企業によって名称は異なるかもしれませんが、一般的に「生理休暇」と呼ばれている制度です。
(雇用均等基本調査でも「生理休暇」の表現を用いています)
当記事でも、「生理休暇」の表現を用いています。
定義としては、労基法68条に規定する休暇の意味で使用しています。
使用者は、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、その者を生理日に就業させてはならない。
規定はシンプルなものの、論点は多岐にわたります。
制度の趣旨
生理であることのみを理由として、休暇の請求を認めた規定ではありません(昭和61年3月20日基発151号)
業務の種類は問われませんが、生理日の就業が著しく困難な場合に、休暇を請求することが認められます。
(そのため、厳密には「生理休暇」という表現が改められました)
生理休暇中の賃金
結論としては、生理休暇を有給とするか無給とするかは労使に委ねられています(同旨 昭和63年3月14日基発150号)
そのため、労働契約、労働協約または就業規則の定めによります(前掲通達)
最高裁によると、次のように示されています。
その趣旨は、当該労働者が生理休暇の請求をすることによりその間の就労義務を免れ、その労務の不提供につき労働契約上債務不履行の責めを負うことのないことを定めたにとどまり、生理休暇が有給であることまでをも保障したものではないと解するのが相当である。
したがって、生理休暇を取得した労働者は、その間就労していないのであるから、労使間に特段の合意がない限り、その不就労期間に対応する賃金請求権を有しないものというべきである。
生理休暇の請求単位
暦日単位での請求を強制するものではなく、半日または時間を単位とした請求も認められています(昭和61年3月20日基発151号)
使用者は、請求された範囲で就業させなければ足りる と解されています(前掲通達)
派遣中の労働者
労基法68条については、派遣先のみが使用者となります(労働者派遣法44条2項)
そのため、生理休暇の請求は、派遣先の使用者に対して行います。
罰則
労基法68条の違反には、30万円以下の罰金が定められています(労基法120条)
結論としては、就業規則等で、生理休暇の取得可能な日数を限定することは認められていません(昭和63年3月14日基発150号)
通達によると、「社会通念上妥当と思われる日数に制限することは、差し支えないと思うが…」という問に対し、「生理期間、その間の苦痛の程度あるいは就労の難易は各人によって異なるものであり、客観的な一般基準は定められていない」 と示されています(前掲通達)
ただし、生理休暇を有給としている場合に、「有給の生理休暇」の日数を定めておくことは、それ以上の休暇(無給の生理休暇)を与えることが明らかにされていれば差し支えありません(前掲通達)
生理休暇の請求については、「生理日の就業が著しく困難」な女性が対象です。
法律で休暇の請求を認められても、実際の請求手続きを複雑にすると制度の趣旨が無視されてしまいます。
そこで、生理休暇の請求には、原則として、特別の証明は不要と解されています(昭和63年3月14日基発150号)
特に証明を求める必要が認められる場合であっても、医師の診断書のような厳格な証明を求めることなく、一応事実を推断することができるならば十分(*1) とされています(前掲通達)
(*1)例えば同僚の証言程度の簡単な証明
生理休暇と「出勤率の算定」
先述のとおり、生理休暇を有給とするか無給とするかは、労使に委ねられています。
そこで、「出勤率」をもとに算定する賃金について、生理休暇を取得した日を欠勤扱いにすることは許されるのかが問題となります。
通達では、労基法68条は賃金の支払いを義務づけてはいないことから、これらの取り扱いについては労使間において決定されるべきものであるが、当該女性に著しい不利益を課すことは法の趣旨に照らし好ましくない と示しています(昭和63年3月14日基発150号)
社労士試験で出題実績のある論点を中心に解説します。
使用者が、労働協約又は労働者との合意により、労働者が生理休暇を取得しそれが欠勤扱いとされることによって何らかの形で経済的利益を得られない結果となるような措置ないし制度を設けたときには、その内容いかんによっては生理休暇の取得が事実上抑制される場合も起こりうる。
労働基準法68条の趣旨に照らすと、このような措置ないし制度は、その趣旨、目的、労働者が失う経済的利益の程度、生理休暇の取得に対する事実上の抑止力の強弱等諸般の事情を総合して、生理休暇の取得を著しく困難とし同法が女性労働者の保護を目的として生理休暇について特に規定を設けた趣旨を失わせるものと認められるのでない限り、これを同条に違反するものとすることはできないというべきである。
上記の事例は、精皆勤手当の支払において、生理休暇の取得日を欠勤とする取り扱いが争われ、有効と判断されました。
なお、精皆勤手当の算定であれば、生理休暇の取得日を欠勤とすることを認める趣旨ではありません。
労働者が失う経済的利益の程度を勘案しても、かかる措置は、生理休暇の取得を著しく困難とし労働基準法が女性労働者の保護を目的として生理休暇について特に規定を設けた趣旨を失わせるものとは認められないから、同法68条に違反するものとはいえない とされています。
(一部の従業員が取得した生理休暇には、法所定の要件を欠くものがかなりあったことも考慮されています。余裕があれば裁判所のホームページなどで判決理由を読んでみてください)
本件八〇パーセント条項(争われた労働協約の条項です)は、労基法又は労組法上の権利に基づくもの以外の不就労を基礎として稼働率を算定する限りにおいては、その効力を否定すべきいわれはない。
反面、同条項において、労基法又は労組法上の権利に基づく不就労を稼働率算定の基礎としている点は、労基法又は労組法上の権利を行使したことにより経済的利益を得られないこととすることによって権利の行使を抑制し、ひいては、右各法が労働者に各権利を保障した趣旨を実質的に失わせるものというべきであるから、公序に反し無効であるといわなければならない。
上記の事例は、賃金引き上げの要件となる出勤率の算定にあたり、すべての原因(労働災害による休業や通院、年次有給休暇、生理休暇、産前産後の休業、育児時間など)による不就労を欠勤扱いにした労働協約の条項について争われました。
権利の行使を抑制し、その結果、労働者に各権利を保障した趣旨を実質的に失わせるものといえるため、公序に反し無効とされています。
年次有給休暇(労基法39条)の「出勤率8割以上」の算定にあたり、生理休暇を取得した期間は、労基法上は「出勤した」とみなされません(労基法39条10項)
ただし、労使の合意によって出勤したとみなすことも、もとより差し支えない と解されています(昭和23年7月31日基収2675号)
統計データ|雇用均等基本調査
雇用均等基本調査より一部抜粋しています。
雇用均等基本調査(事業所調査)では、育児休業取得者の割合(*2)などを調査しています。
(*2)「厚生労働白書」において、男女の育児休業取得率についての調査結果が利用されています。
調査事項は他にもありますが、毎年度同じではなくローテーションで実施されるものもあります。
参考|生理休暇について
令和2年度雇用均等基本調査(事業所調査)によると、生理休暇の請求(平成31年4月1日から令和2年3月31日までの間)について、次の調査結果が示されています(第16表)
- 女性労働者がいる事業所のうち、生理休暇の請求者がいた事業所の割合は3.3%
- 女性労働者のうち、生理休暇を請求した者の割合は0.9%
(生理休暇については、当記事の作成時点における直近のデータです)
育児休業取得者の割合
労基法68条から話は反れますが、令和5年度の雇用均等基本調査(事業所調査)によると、男女別の育児休業取得者の割合(*3)は次のとおりです。
- 女性 ⇒ 84.1% (令和4年度 80.2%)
- 男性 ⇒ 30.1% (令和3年度 17.13%)
(*3)令和3年10月1日から令和4年9月30日までの1年間に在職中に出産した女性(男性の場合は配偶者が出産した男性)のうち、令和5年10月1日までに育児休業(産後パパ育休を含む)を開始した者(育児休業の申出をしている者を含む)の割合。
また、同期間内に出産した(男性の場合は配偶者が出産した)有期契約労働者の育児休業取得率は次のとおりです。
- 女性 ⇒ 75.7% (令和4年度 65.5%)
- 男性 ⇒ 26.9% (令和4年度 8.57%)
社労士試験においては、一般常識科目での出題が考えられます(特に男性の育児休業取得者の割合)
余裕があれば、直近の調査結果を一読してみてください。
参考|厚生労働省ホームページ(外部サイトへのリンク)|雇用均等基本調査:結果の概要
ここまで、生理日の就業が著しく困難な女性に対する措置(68条)を解説しました。
社労士試験の選択式(労基法)では、例年、判例から出題されています。
過去に出題された判例は繰り返し出題されることもあるので、過去問題集などで繰り返し学習してみてください。
最後に、この記事を簡単にまとめて終わりにします。
生理日の就業が著しく困難な女性に対する措置(生理休暇)|
使用者は、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、その者を生理日に就業させてはならない。
- 生理休暇を、有給とするか無給とするかは労働協約、就業規則等による
- (無給の)生理休暇の取得可能な日数を限定することは認められていない
- 有給の生理休暇の日数を定めることは、無給の生理休暇を制限しないことが明らかであれば差し支えない
- 半日または時間を単位とした請求も認められている
- 生理休暇の請求には、原則として、特別の証明は不要
- 証明を求める必要がある場合でも、同僚の証言程度の簡単な証明で十分
- 派遣中の労働者ついては、派遣先のみが責任を負う
生理休暇を欠勤扱いにすることにより、経済的利益を得られないような措置(制度)について|
- 権利の行使を抑制し、労働者に各権利を保障した趣旨を実質的に失わせる措置(制度)は、公序に反し無効と解されている
(参考資料等)
厚生労働省|厚生労働省法令等データベースサービスより|https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/kensaku/index.html
- 労働基準法68条、120条
解釈例規(昭和63年3月14日基発150号)