社労士試験の独学|労基法|年次有給休暇

まえがき

この記事では、労働基準法の4章から、年次有給休暇(39条)を解説しています。

社会保険労務士試験の独学、労務管理担当者の勉強などに役立てれば嬉しいです。

なお、労基法39条1項から10項までを当記事で解説しています。長文となっているため目次を活用することを強くお勧めします。

当記事は、条文等の趣旨に反するような極端な意訳には注意しておりますが、厳密な表現と異なる部分もございます。

詳しくは免責事項をご確認ください。

年次有給休暇の概要(39条)

労基法39条では、労働義務のある日に対しての有給の休暇について定めています。

一般的に、「年次有給休暇」「有給休暇」、または略して「有給」「有休」「年給」「年休」などと説明される制度です。

令和6年就労条件総合調査によると、年次有給休暇の付与日数、労働者が取得した日数取得率は次のようになっています。

  • 1年間(令和5年中)に企業が付与した年次有給休暇の日数(労働者1人平均)
    ⇒ 16.9 日
  • 労働者が取得した日数
    ⇒ 11.0 日
  • 年次有給休暇の取得率
    ⇒ 65.3%

年次有給休暇の付与(1項、2項)

年次有給休暇の付与要件
(例)4月1日雇入れの場合

条文はタブを切り替えると確認できます。

労働基準法39条1項、2項

① 6カ月間継続勤務したときの付与|

使用者は、次のいずれもを満たした労働者に対して、継続し、または分割した10労働日の年次有給休暇を与えなければなりません。

  • 雇入れの日から起算し6カ月間継続して勤務した(6カ月継続勤務
  • 全労働日の8割以上出勤した(8割出勤

② ①から1年ごとの付与|

雇入れの日から起算して「1年6カ月以上」継続勤務した労働者に対しては、年次有給休暇の付与日数が加算されます。

  • 雇入れの日から起算して6カ月を超えて継続して勤務する日(以下、6カ月経過日から起算した継続勤務年数「1年」ごとに、継続勤務年数に応じた労働日(日数)を加算して、年次有給休暇を与えなければなりません。
  • ただし、継続して勤務した期間を6カ月経過日から「1年」ごとに区分した各期間(最後に1年未満の期間を生じたときは、当該期間)の初日の前日の属する期間において、出勤した日数が全労働日の8割未満である者に対しては、当該初日以後の1年間においては年次有給休暇を与える必要はありません。
1年ごとに区分した各期間

上図の「区分2」の初日が、「雇入れの日から起算して1年6カ月継続勤務した日です。

「全労働日の8割以上出勤した」の要件は、6カ月経過日からも1年ごとに判断します。

休暇を付与する日(権利が発生する日)は、初回は「6カ月経過日」、2回目は「初回の日(当日)から数えて1年を経過した日」、3回目は……と続きます。

下表に、年次有給休暇の日数を整理しておきます。

継続勤務期間加算日数付与日数
6カ月なし10労働日
1年6カ月1労働日11労働日
2年6カ月2労働日12労働日
3年6カ月4労働日14労働日
4年6カ月6労働日16労働日
5年6カ月8労働日18労働日
6年6カ月以上10労働日20労働日
継続勤務期間ごとの加算日数と付与日数

なお、「全労働日の8割以上出勤」の要件を満たさない場合でも、「継続勤務期間」はリセットされません(同旨 昭和22年11月26日基発389号)

例えば、1年6カ月継続して勤務した際に、直近の1年間について「全労働日の8割以上出勤」の要件を満たさなくとも、その後、2年6カ月継続して勤務した際に要件を満たした場合には「12労働日」が付与されます。

労働基準法

第三十九条 

使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。

② 使用者は、一年六箇月以上継続勤務した労働者に対しては、雇入れの日から起算して六箇月を超えて継続勤務する日(以下「六箇月経過日」という。)から起算した継続勤務年数一年ごとに、前項の日数に、次の表の上欄に掲げる六箇月経過日から起算した継続勤務年数の区分に応じ同表の下欄に掲げる労働日を加算した有給休暇を与えなければならない。ただし、継続勤務した期間を六箇月経過日から一年ごとに区分した各期間(最後に一年未満の期間を生じたときは、当該期間)の初日の前日の属する期間において出勤した日数が全労働日の八割未満である者に対しては、当該初日以後の一年間においては有給休暇を与えることを要しない。

六箇月経過日から起算した継続勤務年数労働日
一年一労働日
二年二労働日
三年四労働日
四年六労働日
五年八労働日
六年以上十労働日

継続勤務

「継続勤務」とは、労働契約の存続期間、すなわち在籍期間とされています(昭和63年3月14日基発150号)

また、「継続勤務」か否かについては、勤務の実態に即し実質的に判断されます(前掲通達)

例えば、次のような場合は、実質的に労働関係が継続している限り、勤務年数が通算されます(前掲通達)

  • 定年退職者を引き続き再雇用した
  • パート等をいわゆる正社員に切り替えた
  • 休職とされていた者が復職した
  • 企業が解散し、従業員の待遇等を含め権利義務関係が新会社に包括継承された など

全労働日の日数

全労働日の8割以上

全労働日」とは、6カ月または1年の期間について、所定労働日(労働義務のある日)を合計した日数です。

通達では、「年次有給休暇算定の基礎となる全労働日の日数は就業規則その他によって定められた所定(の)休日を除いた日をいい、各労働者の職種が異なること等により異なることもあり得る」と示しています(平成25年7月10日基発0710第3号)

したがって、所定の休日(*)に労働させた場合には、その労働させた日は、全労働日に含まれません(前掲通達)

(*)就業規則等で定めた労働義務のない日の意味です。例えば、法定休日、所定休日(法定外休日)、国民の祝日などです。

年次有給休暇の付与にあたっては、上記の「全労働日」のうち8割以上出勤したか否かを判断します。

なお、所定労働日であっても、不就労日を「出勤したとみなし」たり、事後的に「全労働日から除く」取り扱いもあります(後述)。

年次有給休暇の単位

労基法39条に規定する年次有給休暇は、「1労働日」を単位としています。そのため、使用者は、労働者に「半日」単位で付与する義務はありません(同旨 昭和63年3月14日基発150号)

なお、「半日」単位による付与については、年次有給休暇の取得促進の観点から、労働者がその取得を希望して時季を指定し、これに使用者が同意した場合であって、本来の取得方法による休暇取得の阻害とならない範囲で適切に運用される限りにおいて、問題がないものとして取扱われています(平成21年5月29日基発0529001号)

「まとまった日数の休暇を取得する」ことが、年次有給休暇制度本来の趣旨です(前掲通達)

時間」を単位とする年次有給休暇については後述します。

年次有給休暇の時効

労基法115条の規定により2年の消滅時効が認められています(昭和22年12月15日基発501号)

そのため、当年度に取得されなかった年次有給休暇については、次年度に繰り越されます(前掲通達)

年次有給休暇管理簿

使用者は、年次有給休暇を与えたときは、時季、日数、基準日(第一基準日および第二基準日を含む)を労働者ごとに明らかにした書類(年次有給休暇管理簿)を作成し、年次有給休暇を与えた期間中および期間の満了後5年間(労基則71条により当分の間は3年間)保存しなければなりません(労基則24条の7)

なお、様式は任意です。

ちなみに、年次有給休暇管理簿労働者名簿または賃金台帳をあわせて調製することは(法令でも)認められています(労基則55条の2)

基準日と時季

時季」は労働者が年次有給休暇を(実際に)取得した日付、「日数」は実際に労働者が年次有給休暇を取得した日数(平成30年12月28日基発1228第15号)、「基準日」は年次有給休暇を付与した日(権利が発生した日)です。

「基準日、第一基準日、第二基準日」については、使用者による時季指定(39条7項、8項)で詳しく解説します。

年次有給休暇の斉一的取扱い、分割付与

雇入れ日ごとに基準日が変動する

年次有給休暇を法定どおりに付与すると、年次有給休暇の基準日が雇入れ日ごとに変動します。

そこで、次の取り扱いの可否が問題になります。

  • 斉一的取扱い(原則として全労働者につき一律の基準日を定めて年次有給休暇を与える取扱い)
  • 分割付与(初年度において法定の年次有給休暇の付与日数を一括して与えるのではなく、その日数の一部を法定の基準日以前に付与すること)

通達では、斉一的取扱い、分割付与については、次の要件に該当する場合には、差し支えないと示しています(平成6年1月4日基発1号)

  •  「斉一的取扱い」や「分割付与」により法定の基準日以前に付与する場合の年次有給休暇の付与要件である8割出勤の算定は、短縮された期間全期間出勤したものとみなすこと
  • 次年度以降の年次有給休暇の付与日についても、初年度の付与日を法定の基準日から繰り上げた期間と同じ又はそれ以上の期間、法定の基準日より繰り上げること

上記②については、次のような例が示されています(前掲通達)

例えば、斉一的取扱いとして、4月1日入社した者に入社時に10日、1年後である翌年の4月1日に11日付与とする場合、また、分割付与として、4月1日入社した者に入社時に5日、法定の基準日である6カ月後の10月1日に5日付与し、次年度の基準日は本来翌年10月1日であるが、初年度に10日のうち5日分について6カ月繰り上げたことから同様に6カ月繰り上げ、4月1日に11日付与する場合などが考えられること。

休暇の買い上げ

年次有給休暇の「買い上げの予約」をし、その予約に基づいて労基法39条の規定による年次有給休暇の日数を減じたり、請求された日数を与えないことは労基法39条の違反として認められていません(昭和30年11月30日基収4718号)

ただし、労基法39条で定める日数を超えて年次有給休暇を付与している場合は、超えた日数分については、労使間の定めによります(昭和63年3月14日基発150号)

労働者が年次有給休暇を取得せずに退職した(する)場合も、「買い上げの予約」はもちろん認めれていません。しかしながら「退職の際、残日数に応じて調整的に金銭の給付をする」ことは、必ずしも労基法に違反するものではない と解されています。

なお、時効や退職に伴い、消滅する年次有給休暇について使用者が(予約ではなく調整的に)買い上げを行うことは、労基法では義務付けられていません。

そのため、退職の際に、労働者が年次有給休暇の残日数の買い上げを望んでも、使用者は応じる義務はありません。

退職した際における残日数の(予約ではない)調整的な買い上げ、時効により消滅した日数の(予約ではない)買い上げは「明確に禁止は」されていません。ただし、労基法の趣旨としては、事後的に「買い上げ」する前に「年次有給休暇を取得しやすい環境を整備してください」となっています。


出勤率の算定(10項)

出勤率は毎回算定する

先述のとおり、年次有給休暇の権利が生じるためには、継続勤務の他にも「出勤率が8割以上」が要件となります。

出勤率は次の式で算定できます。

$$出勤率 = \frac{全労働日のうち出勤した日数}{全労働日}$$

全労働日に含まれる日に出勤しない場合(例えば、労働者の事情による欠勤など)は、「出勤率」に対してはマイナス方向に作用します。

ここでは、「出勤しなかった日だが出勤したとみなす」または「出勤しなかった日だが全労働日から除く」取り扱いを解説します。

労働基準法39条10項

次の「期間」は、出勤率の算定については、出勤したとみなします。

  • 労働者が業務上負傷したりまたは疾病にかかり療養のために休業した期間
  • 育児・介護休業法に規定する育児休業をした期間
  • 育児・介護休業法に規定する介護休業をした期間
  • 産前産後の女性が労基法65条の規定によって休業(産前産後休業)した期間
  • 年次有給休暇を取得した期間(昭和22年9月13日発基17号)

上記の「期間」は、もともとは所定労働日です。

実際には出勤していませんが、出勤率を算定する際は、全労働日に含め(たままで)出勤した日数にも含めます。

生理休暇(労基法68条)については、労基法上は「出勤した」とみなされません。ただし、当事者の合意によって出勤したとみなすことも、もとより差し支えない と解されています(昭和23年7月31日基収2675号)

労働基準法

第三十九条

⑩ 労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業した期間及び育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律第二条第一号に規定する育児休業又は同条第二号に規定する介護休業をした期間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によって休業した期間は、第一項及び第二項の規定の適用については、これを出勤したものとみなす。


「労働者の責に帰すべき事由による」とはいえない不就労日

通達では、判例(最一小判 平25.6.6 八千代交通事件)により、次のように取り扱うとしています(平成25年7月10日基発0710第3号)

① 全労働日に含め、かつ、出勤した日数に参入する

「労働者の責に帰すべき事由による」とはいえない不就労日は、次の②に該当する場合を除き、出勤率の算定に当たっては、出勤日数に算入すべきものとして全労働日に含まれるものとする。

例えば、裁判所の判決により解雇が無効と確定した場合や、労働委員会による救済命令を受けて会社が解雇の取消しを行った場合の解雇日から復職日までの不就労日のように、労働者が使用者から正当な理由なく就労を拒まれたために就労することができなかった日が考えられる。

ひらたくいうと、出勤したとみなし(分母および分子に含め)ます。

② 全労働日から除き、かつ、出勤した日数に参入しない

「労働者の責に帰すべき事由による」とはいえない不就労日であっても、次に掲げる日のように、当事者間の衡平等の観点から出勤日数に算入するのが相当でないものは、全労働日に含まれないものとする。

  • 不可抗力による休業日
  • 使用者側に起因する経営、管理上の障害による休業日
  • 正当な同盟罷業その他正当な争議行為により労務の提供が全くなされなかった日

ひらたくいうと、労働者の責任による不就労日とはいえませんが、出勤したとみなす(分母および分子に含める)のは適当でないため、全労働日(分母)から差し引くことにします。

なお、「使用者側に起因する経営、管理上の障害による休業」については、休業手当(労基法26条)の対象です(休業手当については、こちらの記事で解説しています)。

「代替休暇」との関係

労働者が代替休暇(労基法37条3項)を取得して終日出勤しなかった日については、正当な手続きにより労働者が労働義務を免除された日なので、年次有給休暇の算定基礎となる全労働日から(分母から)除かれます(平成21年5月29日基発0529001号)

「代替休暇」については、こちらの記事で解説しています。


年次有給休暇の賃金(9項)

年次有給休暇を取得したときの賃金

年次有給休暇を取得した際の「賃金」は、就業規則等に定めておき、定めた方法により賃金を支払うことが必要です(昭和27年9月20日基発675号)

「年次有給休暇の賃金」の支払い方法は3つありますが、「労働者各人についてその都度使用者の恣意的選択を認めるものではない」とされています(前掲通達)

労働基準法39条9項

原則|

年次有給休暇の期間または時間については、就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより、原則として、次の①または②の賃金を支払う必要があります。

①「平均賃金
②「所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金

例外|

③ 労使協定(書面による協定)を締結した場合には、健康保険法に規定する標準報酬月額の30分の1に相当する金額(標準報酬日額)を選択できます(行政官庁への届出は不要です)

なお、標準報酬日額に5円未満の端数があるときは切り捨て、5円以上10円未満の端数があるときは10円に切り上げます。

労使協定|

協定を締結する労働者側の当事者は、労働者の過半数で組織する労働組合の有無で分れています。

ある場合 ⇒ その労働組合(以下、過半数労働組合)
ない場合 ⇒ 労働者の過半数を代表する者(以下、過半数代表者)

時間単位年休についての賃金|

あらかじめ定めた①②③いずれかの方法による金額をその日の所定労働時間数で除して、1時間あたりの賃金を求めます(労基則25条2項、3項)

上記の「その日」とは、時間単位年休を取得した日をいいます(平成21年5月29日基発0529001号)

時間単位年休については後述します。

労働基準法

第三十九条

⑨ 使用者は、第一項から第三項までの規定による有給休暇の期間又は第四項の規定による有給休暇の時間については、就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより、それぞれ、平均賃金若しくは所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金又はこれらの額を基準として厚生労働省令で定めるところにより算定した額の賃金を支払わなければならない。ただし、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、その期間又はその時間について、それぞれ、健康保険法(大正十一年法律第七十号)第四十条第一項に規定する標準報酬月額の三十分の一に相当する金額(その金額に、五円未満の端数があるときは、これを切り捨て、五円以上十円未満の端数があるときは、これを十円に切り上げるものとする。)又は当該金額を基準として厚生労働省令で定めるところにより算定した金額を支払う旨を定めたときは、これによらなければならない。

労働基準法施行規則

第二十五条 

法第三十九条第九項の規定による所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金は、次に定める方法によって算定した金額とする。

一 時間によって定められた賃金については、その金額にその日の所定労働時間数を乗じた金額

二 日によって定められた賃金については、その金額

三 週によって定められた賃金については、その金額をその週の所定労働日数で除した金額

四 月によって定められた賃金については、その金額をその月の所定労働日数で除した金額

五 月、週以外の一定の期間によって定められた賃金については、前各号に準じて算定した金額

六 出来高払制その他の請負制によって定められた賃金については、その賃金算定期間(当該期間に出来高払制その他の請負制によって計算された賃金がない場合においては、当該期間前において出来高払制その他の請負制によって計算された賃金が支払われた最後の賃金算定期間。以下同じ。)において出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額を当該賃金算定期間における総労働時間数で除した金額に、当該賃金算定期間における一日平均所定労働時間数を乗じた金額

七 労働者の受ける賃金が前各号の二以上の賃金よりなる場合には、その部分について各号によってそれぞれ算定した金額の合計額

② 法第三十九条第九項本文の厚生労働省令で定めるところにより算定した額の賃金は、平均賃金又は前項の規定により算定した金額をその日の所定労働時間数で除して得た額の賃金とする。

③ 法第三十九条第九項ただし書の厚生労働省令で定めるところにより算定した金額は、健康保険法(大正十一年法律第七十号)第四十条第一項に規定する標準報酬月額の三十分の一に相当する金額(その金額に、五円未満の端数があるときは、これを切り捨て、五円以上十円未満の端数があるときは、これを十円に切り上げるものとする。)をその日の所定労働時間数で除して得た金額とする。


平均賃金

詳しくはこちらの記事で解説しています。

通常の賃金

「通常の賃金」の計算方法は、労基則25条1項に定められています。

計算方法(割増賃金の計算と同様です)は、こちらの記事内で解説しています。

ただし、通常の賃金を支払う場合には、出来高払制その他の請負制を除き、通常の出勤をしたものとして取り扱えば足り、労基則25条に定める計算をその都度行う必要はありません(同旨 昭和27年9月20日基発675号)


不利益な取扱い(136条)、罰則

不利益な取り扱い

使用者は、年次有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱いを「しないようにしなければならない」と定められています(労基法136条)

労基法136条について、最高裁は「それ自体としては、使用者の努力義務を定めたものであって、労働者の年次有給休暇の取得を理由とする不利益取扱いの私法上の効果を否定するまでの効力を有するものとは解されない」と示しています(最二小判 平5.6.25 沼津交通事件)

ただし、労基法136条が努力義務と解されていても、「不利益な取扱い」が民法90条(公序良俗)反し無効とされる場合もあります(最一小判 平1.12.14 日本シェーリング事件)

上記2つの事案は労働協約の条項が問題となっています。沼津交通事件は無効とされず、日本シェーリング事件では無効と判断されました。

余裕があれば、裁判所のホームページなどで判決理由を読んでみてください。

罰則

労基法39条については、労基法119条、120条により、罰則が定められています。

  • 労基法39条(7項を除く)の違反
    ⇒ 6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処する(119条)
  • 労基法39条7項の違反
    ⇒ 30万円以下の罰金に処する(120条)

労基法39条7項については、後述します。

付加金

裁判所は、労基法39条9項(年次有給休暇の賃金)の規定に違反した使用者に対して、労働者の請求により、使用者が支払わなければならない未払金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる とされています(労基法114条)


比例付与(3項)

年次有給休暇の比例付与

通常の労働者(いわゆる正社員)と比べて、所定労働日数が少ない労働者についても、年次有給休暇の付与の対象です。

具体的には、労基法39条3項にて、所定労働日数に応じた年次有給休暇の付与(比例付与)が定められています。

例えば、通常の労働者より所定労働日数が少ないパート、アルバイト(学生を含む)などの働き方についても、①「雇入れの日から起算し6カ月間継続して勤務し」②「全労働日の8割以上出勤した」ならば、年次有給休暇が比例付与されます。

なお、パートなどの働き方でも、比例付与の対象とならない(例えば、所定労働日数が通常の労働者と同じ)場合には、労基法39条1項、2項の日数を付与しなければなりません。

労働基準法39条3項

比例付与の対象となる労働者|

「1週間の所定労働時間が30時間未満」であり、かつ、次の①または②のいずれかに該当する労働者が比例付与の対象です。

  • 1週間の所定労働日数が4日以下の労働者
  • 週以外の期間によって所定労働日数が定められている場合には、1年間の所定労働日数が216日以下の労働者

比例付与の日数|

  • の労働者については、週所定労働日数の区分に応じて
  • の労働者については、1年間の所定労働日数の区分に応じて

それぞれ下表の継続勤務期間の区分ごとに定める日数を付与することになります。

週所定労働日数1年間の所定労働日数継続勤務期間
6カ月1年6カ月2年6カ月3年6カ月4年6カ月5年6カ月6年6カ月以上
4日169日~216日まで7日8日9日10日12日13日15日
3日121日~168日まで5日6日6日8日9日10日11日
2日73日~120日まで3日4日4日5日6日6日7日
1日48日~72日まで1日2日2日2日3日3日3日
継続勤務年数ごとの比例付与日数

上表のとおり、週所定労働日数が「1日」の労働者に対しても年次有給休暇の比例付与が必要です。

労働基準法

第三十九条

③ 次に掲げる労働者(一週間の所定労働時間が厚生労働省令で定める時間以上の者を除く。)の有給休暇の日数については、前二項の規定にかかわらず、これらの規定による有給休暇の日数を基準とし、通常の労働者の一週間の所定労働日数として厚生労働省令で定める日数(第一号において「通常の労働者の週所定労働日数」という。)と当該労働者の一週間の所定労働日数又は一週間当たりの平均所定労働日数との比率を考慮して厚生労働省令で定める日数とする。

一 一週間の所定労働日数が通常の労働者の週所定労働日数に比し相当程度少ないものとして厚生労働省令で定める日数以下の労働者

二 週以外の期間によって所定労働日数が定められている労働者については、一年間の所定労働日数が、前号の厚生労働省令で定める日数に一日を加えた日数を一週間の所定労働日数とする労働者の一年間の所定労働日数その他の事情を考慮して厚生労働省令で定める日数以下の労働者

労働基準法施行規則

第二十四条の三
 
法第三十九条第三項の厚生労働省令で定める時間は、三十時間とする。

② 法第三十九条第三項の通常の労働者の一週間の所定労働日数として厚生労働省令で定める日数は、五・二日とする。

③ 法第三十九条第三項の通常の労働者の一週間の所定労働日数として厚生労働省令で定める日数と当該労働者の一週間の所定労働日数又は一週間当たりの平均所定労働日数との比率を考慮して厚生労働省令で定める日数は、同項第一号に掲げる労働者にあっては次の表の上欄の週所定労働日数の区分に応じ、同項第二号に掲げる労働者にあっては同表の中欄の一年間の所定労働日数の区分に応じて、それぞれ同表の下欄に雇入れの日から起算した継続勤務期間の区分ごとに定める日数とする。

週所定労働日数一年間の所定労働日数雇入れの日から起算した継続勤務期間
六箇月一年六箇月二年六箇月三年六箇月四年六箇月五年六箇月六年六箇月以上
四日百六十九日から二百十六日まで七日八日九日十日十二日十三日十五日
三日百二十一日から百六十八日まで五日六日六日八日九日十日十一日
二日七十三日から百二十日まで三日四日四日五日六日六日七日
一日四十八日から七十二日まで一日二日二日二日三日三日三日

④ 法第三十九条第三項第一号の厚生労働省令で定める日数は、四日とする。

⑤ 法第三十九条第三項第二号の厚生労働省令で定める日数は、二百十六日とする。


所定労働日数の変更

比例付与の適用を受ける労働者について、年度の途中で所定労働日数が変更されても、変更に応じて休暇の日数が増減されるものではありません(昭和63年3月14日基発150号)


時間を単位とする年次有給休暇(4項)

時間単位年休

先述のとおり、年次有給休暇の取得単位は、原則として「1労働日」となっています。

しかしながら、取得の促進が課題となっている一方、「日」単位による取得のほかに、「時間」単位による取得の希望もみられました(平成21年5月29日基発0529001号)

その後、制度が整備されたため、一定の条件のもと、「時間」を単位とする年次有給休暇(時間単位年休)が認められています。

労働基準法39条4項

要件|

時間単位年休を実施するためには、労使協定(書面による協定)により、一定の事項を定めることが必要です(行政官庁への届出は不要です)

協定を締結する労働者側の当事者は、過半数労働組合があればその組合、過半数労働組合がなければ過半数代表者です。

協定事項|

労使協定で定める事項は次のとおりです(労基法39条4項、労基則24条の4)

  • 時間単位年休の対象となる労働者の範囲
  • 年次有給休暇の付与日数のうち、時間単位年休として付与する日数(5日以内に限る)
  • 時間単位年休の1日あたりの時間数(1日の所定労働時間数を下回らない時間数)
  • 「1時間」以外の時間を単位とする場合には、その時間数(1日の所定労働時間数に満たない時間数)

①について

年次有給休暇を労働者がどのように利用するかは労働者の自由とされているため、利用目的によって時間単位年休の対象労働者の範囲を定めることはできません(平成21年5月29日基発0529001号)

また、時間単位による取得を労働者に義務付けるものではありません(前掲通達)

②について

付与された年度に取得されなかった年次有給休暇の残日数および時間数は、次年度に繰り越されますが、時間単位年休の対象とできるのは、前年度からの繰越分も含めて5日以内です(前掲通達)

そのため、時間単位年休の付与(取得)については、1年度あたり5日(分の時間)が限度となります。

③について

「1日分の年次有給休暇が何時間分の時間単位年休に相当するか」を定めます。

日によって所定労働時間数が異なる場合には、1年間における1日平均の所定労働時間数を用いて定めます(前掲通達)

1年間における総所定労働時間数が決まっていない場合には、所定労働時間数が決まっている期間における1日平均の所定労働時間数を用いて定めます(前掲通達)

なお、「1時間」に満たない時間数については、時間単位に切り上げることが必要です(前掲通達)

例えば、1日の所定労働時間が「7時間45分」であれば、③は「8時間」となります。

④について

例えば、時間単位年休を与える(取得できる)単位を「2時間」や「3時間」とする場合には定めが必要です(前掲通達)

効果|

年次有給休暇の日数のうち、②に掲げる日数(5日以内)については、時間を単位として与えることができます。

労働基準法

第三十九条

④ 使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、次に掲げる事項を定めた場合において、第一号に掲げる労働者の範囲に属する労働者が有給休暇を時間を単位として請求したときは、前三項の規定による有給休暇の日数のうち第二号に掲げる日数については、これらの規定にかかわらず、当該協定で定めるところにより時間を単位として有給休暇を与えることができる。

一 時間を単位として有給休暇を与えることができることとされる労働者の範囲

二 時間を単位として与えることができることとされる有給休暇の日数(五日以内に限る。)

三 その他厚生労働省令で定める事項

労働基準法施行規則

第二十四条の四

法第三十九条第四項第三号の厚生労働省令で定める事項は、次に掲げるものとする。

一 時間を単位として与えることができることとされる有給休暇一日の時間数(一日の所定労働時間数(日によって所定労働時間数が異なる場合には、一年間における一日平均所定労働時間数。次号において同じ。)を下回らないものとする。)

二 一時間以外の時間を単位として有給休暇を与えることとする場合には、その時間数(一日の所定労働時間数に満たないものとする。)


時間単位年休における賃金

「平均賃金」「通常の賃金」「標準報酬日額」のいずれを基準とするかは、日単位による取得の場合と同様にしなければなりません(平成21年5月29日基発0529001号)

時間単位年休に制限を設ける場合

あらかじめ労使協定において、次のように定めることは認められていません(平成21年5月29日基発0529001号)

  • 時間単位年休を「取得することができない時間帯」を定めておく
  • 所定労働時間の「中途に時間単位年休を取得すること」を制限する
  • 1日において取得することができる時間単位年休の「時間数」を制限する

労働者の時季指定権、使用者の時季変更権(5項)

時季指定権
時季指定権

一般的には、労基法39条5項本文の労働者の請求を「時季指定権」、ただし書きによる使用者の変更を「時季変更権」といわれています。

なお、使用者は「時季」を「指定」できないかというと、例外はあります。

労基法39条7項(後述)では、一定の条件のもと、使用者に年次有給休暇の時季を指定することを義務づけています。

ちなみに、「時季」の「変更」については使用者のみが行えます。

当記事では、使用者による時季指定(労基法39条7項)と区別するため、労基法39条5項に基づく請求権を「労働者の時季指定権」と表記しています。


労働基準法39条5項

労働者の時季指定権|

使用者は、年次有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければなりません。

使用者の)時季変更権|

ただし、請求された時季に年次有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季に与えることができます。

労働基準法

第三十九条

⑤ 使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。


年次有給休暇権、労働者の時季指定権

最高裁は、年次有給休暇権(年次有給休暇を取得することができるという権利)は、労基法39条1項、2項の要件(継続勤務および全労働日の8割以上の出勤)が満たされると発生する と示しています(最二小判 昭48.3.2 白石営林署事件)

そのため、年次有給休暇権は、労働者の「請求」をまって始めて生じるものではありません(前掲 白石営林署事件)

労働者が権利を取得した後に時季指定をしたときは、使用者の時季変更権の行使がない限り、年次有給休暇(実際に いついつに休暇を取ること)が成立します(前掲 白石営林署事件)

最二小判 昭48.3.2 白石営林署事件より

年次有給休暇の権利は、労基法39条1項、2項の要件が充足されることによって法律上当然に労働者に生ずる権利である。

労働者がその有する休暇日数の範囲内で、具体的な休暇の始期と終期を特定して時季指定をしたときは、客観的に同条3項(現在は5項)但書所定の事由が存在し、かつ、これを理由として使用者が時季変更権の行使をしないかぎり、右の指定によって年次有給休暇が成立し、当該労働日における就労義務が消滅するものと解するのが相当である。

すなわち、これを端的にいえば、休暇の時季指定の効果は、使用者の適法な時季変更権の行使を解除条件(有効に成立した効果を消滅させる条件)として発生するのであって、年次休暇の成立要件として、労働者による「休暇の請求」や、これに対する使用者の「承認」の観念を容れる(受け入れるのニュアンス)余地はない ものといわなければならない。


権利関係の流れ

  • 継続勤務および全労働日の8割以上の出勤の要件を満たしたとき
    ⇒ 年次有給休暇権が発生
  • 労働者が時季指定権を行使したとき
    ⇒ 年次有給休暇が成立し就労義務が消滅する
  • ②が「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するとき
    ⇒ 使用者は時季変更権を行使できる
  • 使用者が時季変更権を行使したとき
    ⇒ ②の効果が消滅する

年次有給休暇の利用目的

最高裁は、「年次休暇の利用目的は労基法の関知しないところであり、休暇をどのように利用するかは、使用者の干渉を許さない労働者の自由である、とするのが法の趣旨である」と解しています(最二小判 昭48.3.2 白石営林署事件)

ただし、同盟罷業(ストライキ)のために年次有給休暇を利用すること(一斉休暇闘争)については、次のように示しています。

最二小判 昭48.3.2 白石営林署事件より

労働者がその所属の事業場において、その業務の正常な運営の阻害を目的として、全員一斉に休暇届を提出して職場を放棄・離脱するものと解するときは、その実質は、年次有給休暇に名を藉りた同盟罷業にほかならない。

したがって、その形式いかんにかかわらず、本来の年次休暇権の行使ではない(労働者が時季指定により年次有給休暇を取得したとは認められない という趣旨)のであるから、これに対する使用者の時季変更権の行使もありえず(そもそも効果は有効でないため、解除して消滅という考え方はない という趣旨)、一斉休暇の名の下に同盟罷業に入った労働者の全部について、賃金請求権が発生しないことになる。

原則論としては、年次有給休暇の利用目的は労働者の自由です。

ただし、同盟罷業のために年次有給休暇(賃金の支払いが必要となる休暇)を取得することは、認められていません。

ちなみに、労働者が年次有給休暇を取得した日にストライキに参加したものの、ストライキが当該労働者の労働義務のない時間帯に行われた事案については、「年次有給休暇を争議行為に利用したことにはならない」と示した通達があります(昭和42年8月11日基収3932号)


使用者の時季変更権

時季変更権
時季変更権

ここまでの解説のとおり、労働者の時季指定権が前提です。

使用者が時季変更権を行使するためには、労働者が指定した時季では「事業の正常な運営を妨げる」という客観的な理由が必要です。

時季変更権の行使の時期

労働者が指定した年次有給休暇が開始したり経過した後でも、使用者は時季変更権を行使できるのか が論点です。

最一小判 昭57.3.18 此花電報電話局事件より

労働者の時季指定が休暇期間の始期にきわめて接近してされたため、使用者において時季変更権を行使するか否かを事前に判断する時間的余裕がなかったようなときには、それが事前にされなかったことのゆえに直ちに時季変更権の行使が不適法となるものではない。

客観的に時季変更権を行使しうる事由が存し、かつ、その行使が遅滞なくされたものである場合には、適法な時季変更権の行使があったものとしてその効力を認めるのが相当である。


時間単位年休との関係

時間単位年休についても、使用者の時季変更権の対象となります。

ただし、次のような変更は時季変更にあたらないとして、認められていません(平成21年5月29日基発0529001号)

  • 「時間単位」による指定を「日単位」に変更すること
  • 「日単位」による指定を「時間単位」に変更すること

労働者派遣との関係

通達によると、次のような解釈が示されています(平成21年3月31日基発0331010号)

  • 時季変更権は、派遣元の使用者が自らの事業の正常な運営を妨げる場合に行使できるものである
  • 派遣先の事業の運営に係る事情は直ちにはその行使の理由とはならない
  • 派遣元の使用者は、代替労働者を派遣する、派遣先の使用者と業務量の調整を行う等により、派遣先の事情によって派遣労働者の年次有給休暇の取得が抑制されることのないようにすること

事業の正常な運営を妨げる場合

通達では、「事業の正常な運営を妨げる場合とは、個別的具体的客観的に判断されるべき」とし、また「事由が消滅した後は、できる限り速やかに休暇を与えなければならないと」と示しています(昭和23年7月27日基収2622号)

先の白石営林署事件では、同盟罷業のために年次有給休暇を利用すること(一斉休暇闘争)は認めませんでした。

しかし、「事業の正常な運営を妨げる」かは、労働者の所属する事業場を基準として判断すると示されています。

最二小判 昭48.3.2 白石営林署事件より

しかし、以上の見地は、当該労働者の所属する事業場においていわゆる一斉休暇闘争が行なわれた場合についてのみ妥当しうることである。

他の事業場における争議行為等に休暇中の労働者が参加したか否かは、なんら年次有給休暇の成否に影響するところはない。

「事業の正常な運営を妨げる」か否かの判断は、当該労働者の所属する事業場を基準として決すべきものである。


長期かつ継続した休暇

使用者の時季変更権の行使については、一般的には、年次有給休暇の取得者が同一期間内で多数競合したため、全員を同日に休ませることができない などが考えられるでしょう。

ここでは、「長期かつ継続した年次有給休暇」に対して、使用者は、「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するとして時季変更権を行使することは認められるのか が論点です。

最三小判 平4.6.23 時事通信社事件より

労働者が、事前の調整を経ることなく、その有する年次有給休暇の日数の範囲内で始期と終期を特定して長期かつ連続の年次有給休暇の時季指定をした場合には、これに対する使用者の時季変更権の行使については、右休暇が事業運営にどのような支障をもたらすか、右休暇の時期、期間につきどの程度の修正、変更を行うかに関し、使用者にある程度の裁量的判断の余地を認めざるを得ない。

裁量的判断が、労基法39条の趣旨に反し、使用者が労働者に休暇を取得させるための状況に応じた配慮を欠くなど不合理であると認められるときは、同条3項(現在は5項)ただし書所定の時季変更権行使の要件を欠くものとして、その行使を違法と判断すべきである。

上記の事案では、労働者が時季指定した「約1カ月の継続した期間」に対し、次の①〜④を理由に使用者の時季変更権の行使を適法としています(参考まで)。

①労働者が相当の専門的知識、経験を有していたことから、支障なく代替し得る勤務者を見いだし、長期にわたってこれを確保することは相当に困難であったこと。

②労働者が職場に単独配置されていたが、異例の人員配置ではなく、年次有給休暇取得の観点のみから、単独配置を不適正なものと一概に断定することは適当ではないこと。

③労働者の時季指定は、約1カ月の長期かつ連続したものであり、休暇の時期および期間について、会社との十分な調整を経ないで行ったこと。

④会社は理由を挙げて、労働者に対し、2週間ずつ2回に分けて休暇を取ってほしいと回答した上で、後半の2週間についてのみ時季変更権を行使しており、相当の配慮をしていること。


状況に応じた配慮、代替勤務者の確保

「事業の正常な運営を妨げる場合」か否かを判断する際に、代替勤務者を確保できるかの難しさの度合は、判断の一要素と解されています。

最三小判 昭62.9.22 横手統制電話中継所事件より

労基法の趣旨は、使用者に対し、できる限り労働者が指定した時季に休暇を取ることができるように、状況に応じた配慮をすることを要請しているものとみることができる。

状況に応じた配慮をせずに時季変更権を行使することは、労基法の趣旨に反するものといわなければならない。

その配慮をしなかったとするならば、配慮しなかったことは、時季変更権行使の要件の存否の判断に当って考慮されなければならない。

使用者としての通常の配慮をすれば、代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能であるにもかかわらず、使用者がそのための配慮をしなかった結果、代替勤務者が配置されなかったときは、必要配置人員を欠くことをもって「事業の正常な運営を妨げる場合」に当たるということはできない。

年次休暇の利用目的は労基法の関知しないところであって、それをどのように利用するかは使用者の干渉を許さない労働者の自由である。

そのため、代替勤務者を確保して勤務割を変更することが可能な状況にあるにもかかわらず、休暇の利用目的のいかんによって通常の配慮をせずに時季変更権を行使するということは、利用目的を考慮して年次休暇を与えないというに等しく、許されない。

上記の事案では、使用者は、労働者が「空港開港反対の現地集会」に参加すると推定し、代替勤務者を確保することが可能な状況にもかかわらず、確保してまで労働者に年次有給休暇を取得させるのは相当でないと判断して配慮しませんでした。

そのうえで、要員が無配置になる(事業の正常な運営を妨げる)として時季変更権を行使しています。

結果として「事業の正常な運営を妨げる場合に当たらない」ため、使用者の時季変更権の行使は無効とされています。

なお、上記と別の判例では、次のような解釈が示されています。

最三小判 平1.7.4 電電公社関東電気通信局事件より

「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するか否かの判断において、代替勤務者確保の難易は、その判断の一要素であって、特に、勤務割による勤務体制がとられている事業場の場合には、重要な判断要素である。

使用者としての通常の配慮をすれば代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能な状況にあったか否かについては、当該事業場において、諸点を考慮して判断されるべきである。

使用者が通常の配慮をしたとしても代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能な状況になかったと判断しうる場合には、使用者において代替勤務者を確保するための配慮をしたとみうる何らかの具体的行為をしなかったとしても、そのことにより、使用者がした時季変更権の行使が違法となることはない(ものと解するのが相当である)。


年次有給休暇の計画的付与(6項)

計画年休の対象となる日数

労基法39条6項では、年次有給休暇を労働者の時季指定によらず、労使協定の定めにより付与する方法を定めています。

年次有給休暇の計画的付与」や「計画年休」などと説明される制度です。

当記事では、以降「計画年休」と表記しています。

令和6年就労条件総合調査によると、計画年休については、「制度がある」企業割合は40.1%、付与日数を階級別にみると「5〜6日」が最も高くなっています。


労働基準法39条6項

要件|

計画年休を実施するためには、労使協定(書面による協定)の締結が必要です(行政官庁への届出は不要です)

協定を締結する労働者側の当事者は、過半数労働組合があればその組合、過半数労働組合がなければ過半数代表者です。

協定事項|

労基法39条1項から3項までの規定による年次有給休暇について、「休暇を与える時季」に関する事項を定めます。

例えば、年次有給休暇の付与日(実際に休ませる日)を特定したり、計画表を用いて計画年休を運用する場合は、計画表の作成手順や作成する時期などを定めます。

なお、年次有給休暇の付与日をあらかじめ特定することが適当でない労働者については、計画年休の対象者から除く措置を含め、労使が十分考慮するよう望まれています(同旨 昭和63年1月1日基発1号)

効果|

年次有給休暇の日数のうち5日を超える部分については、労基法39条5項の規定(労働者の時季指定権)にかかわらず、労使協定の定めにより年次有給休暇を与えることができます。

例えば、18日の年次有給休暇に対して、計画年休の対象とできるのは13日までです。残り5日については、労働者の時季指定によることが必要です。

労働基準法

第三十九条

⑥ 使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、第一項から第三項までの規定による有給休暇を与える時季に関する定めをしたときは、これらの規定による有給休暇の日数のうち五日を超える部分については、前項の規定にかかわらず、その定めにより有給休暇を与えることができる。


前年度からの繰り越し分

計画年休の対象となる「5日を超える部分」には、前年度からの繰越分が含まれます(昭和63年3月14日基発150号)

例えば、前年度の繰越分が3日、当年度に発生した分が14日の場合には、17日のうち「12日」を計画年休の対象にできます。

時季指定権、時季変更権との関係

計画年休による年次有給休暇については、労働者の時季指定権および使用者の時季変更権ともに行使できません(昭和63年3月14日基発150号)

時間単位年休との関係

時間単位年休は、労働者が時季指定権を行使した場合に、指定した時季に時間単位により年次有給休暇を与える制度です。したがって、計画年休として時間単位年休を与えることはできません(平成21年5月29日基発0529001号)

年次有給休暇がない場合の調整

計画年休により、年次有給休暇の権利のない労働者を休業させれば(例えば、事業場を休業して一斉に計画年休を実施する場合など)、休業手当(労基法26条)を支払う必要があります(昭和63年3月14日基発150号)

なお、上記のように年次有給休暇の日数が無い(または足りない)労働者については、付与日数を増やして計画年休を実施することも可能です(同旨 昭和63年1月1日基発1号)


使用者による時季指定(7項、8項)

使用者の時季指定の対象となる日数
労基法39条7項、8項の対象となる日数

先述のとおり、原則として、労働者の時季指定により年次有給休暇は取得されます。

しかしながら、年次有給休暇の取得率が低迷しており、また、年次有給休暇をほとんど取得していない労働者については長時間労働者の比率が高い実態にあることを踏まえ、年5日以上の年次有給休暇の取得が確実に進む仕組みが導入されました(平成30年12月28日基発1228第15号)

年5日の年次有給休暇の確実な取得」や「使用者による時季指定」などと説明される制度です。

繰り返しになりますが、労基法39条7項の違反には、罰則(30万円以下の罰金)が定められています(120条)

なお、「計画年休」と異なり、労使協定の締結は要件ではありません。

そのため、使用者は、制度(労基法39条7項、8項)の対象となる労働者に「年5日」の年次有給休暇を実際に取得させる義務が生じます。


労働基準法39条7項、8項

制度の対象となる労働者|

労基法39条7項、8項(以下、使用者による時季指定)の対象となるのは、使用者が与えなければならない(当年度の)年次有給休暇の日数が「10労働日以上」の労働者です。

10労働日以上」か否かは、前年度からの繰越分の年次有給休暇を合算しないで判断します(平成30年12月28日基発1228第15号)

なお、比例付与(労基法39条3項)されている労働者も、付与日数が「10労働日以上」となる場合は制度の対象です。

使用者が時季を指定する日数、期間|

使用者による時季指定が必要な日数は、当年度に付与した「10労働日以上」の年次有給休暇のうち「5日」です。

使用者は、労働者ごとに時季を指定します。

なお、使用者による時季指定として5日を超える日数(例えば、10日付与したうちの6日など)を指定することはできません(平成30年12月28日基発1228第15号)

  • 使用者による時季指定の対象となる「5日の年次有給休暇」は、基準日から1年以内に、実際に労働者に取得させなければなりません
  • ただし、労基法39条1項から3項までの規定による年次有給休暇を基準日より前の日から与えることとしたときは、厚生労働省令で定める方法で「使用者による時季指定」を行います
年5の年次有給休暇の確実な取得
例(法定どおりに付与)|4月1日雇入れの場合

①は、労基法の定めのとおり(法定どおり)に年次有給休暇を与えた場合の取り扱いです。

②ただし書きは、年次有給休暇を労基法の定めよりも前倒しで付与する場合に適用されます(後述)。

使用者が「時季」を指定するタイミング|

「使用者による時季指定」は、必ずしも「基準日からの1年間」の期首に限られず、途中に行うことも可能とされています(前掲通達)。

例えば、年次有給休暇については、年間を通して「労働者の時季指定」による取得を原則としつつ、上期の取得実績によっては下期に「使用者による時季指定」を行うことも考えられます。

与えなければならない「5日」から除かれる日数|

労働者の時季指定(労基法39条5項)または計画年休(労基法39条6項)の規定により年次有給休暇を与えた(労働者が取得した)場合は、与えた日数分(最大5日分)については、「使用者による時季指定」の対象となる「5日」から差し引きます。

  • 半日単位で取得した日数があれば、半日を「0.5日」として「5日」から差し引きます(前掲通達)
  • 一方、時間単位で取得した「時間」があっても「5日」から差し引くことはできません(前掲通達)

「特別休暇」の取り扱い|

「労基法の定めによる年次有給休暇」とは別に独自に設けられた「特別休暇」を取得した日数分については、使用者による時季指定によって付与すべき「5日」から差し引くことはできません(前掲通達)

ただし、上記の「特別休暇」からは、「たとえば、法第115条の時効が経過した後においても、取得の事由及び時季を限定せず、法定の年次有給休暇を引き続き取得可能としている場合のように、法定の年次有給休暇日数を上乗せするものとして付与されるものを除く」とされています(前掲通達)

例えば、「夏季休暇」や「リフレッシュ休暇」などを独自に設けている場合は、これらの休暇を取得しても年次有給休暇の取得に代えることはできません。

意見聴取|

使用者は、労基法39条7項の規定により年次有給休暇を与える場合には、あらかじめ、「使用者による時季指定」により年次有給休暇を与えることを労働者に明らかにした上で、その時季について労働者の意見を聴かなければなりません(労基則24条の6 第1項)

また、使用者は、聴取した意見を「尊重するよう努めなければ」なりません(労基則24条の6 第2項)

事後の時季変更|

通達によると、「使用者による時季指定」をした後における時季変更の可否については、次のように示されています(前掲通達)

  • 使用者が意見聴取の手続を再度行い、その意見を尊重することによって変更することはできる
  • 使用者が指定した時季について、労働者が変更することはできないが、労働者に変更の希望があれば、使用者は再度意見を聴取し、その意見を尊重することが望ましい

半日単位、時間単位の付与|

通達によると、労働者の意見を聴いた際に半日単位の年次有給休暇の取得の希望があった場合は、使用者による時季指定を半日単位で行うことは差し支えない と示されています(平成30年12月28日基発1228第15号)

半日の年次有給休暇の日数は「0.5日」となります(前掲通達)

一方で、使用者による時季指定を「時間単位年休」で行うことは認められていません(前掲通達)

労働基準法

第三十九条

⑦ 使用者は、第一項から第三項までの規定による有給休暇(これらの規定により使用者が与えなければならない有給休暇の日数が十労働日以上である労働者に係るものに限る。以下この項及び次項において同じ。)の日数のうち五日については、基準日(継続勤務した期間を六箇月経過日から一年ごとに区分した各期間(最後に一年未満の期間を生じたときは、当該期間)の初日をいう。以下この項において同じ。)から一年以内の期間に、労働者ごとにその時季を定めることにより与えなければならない。ただし、第一項から第三項までの規定による有給休暇を当該有給休暇に係る基準日より前の日から与えることとしたときは、厚生労働省令で定めるところにより、労働者ごとにその時季を定めることにより与えなければならない。

⑧ 前項の規定にかかわらず、第五項又は第六項の規定により第一項から第三項までの規定による有給休暇を与えた場合においては、当該与えた有給休暇の日数(当該日数が五日を超える場合には、五日とする。)分については、時季を定めることにより与えることを要しない。

労働基準法施行規則

第二十四条の五 

使用者は、法第三十九条第七項ただし書の規定により同条第一項から第三項までの規定による十労働日以上の有給休暇を与えることとしたときは、当該有給休暇の日数のうち五日については、基準日(同条第七項の基準日をいう。以下この条において同じ。)より前の日であって、十労働日以上の有給休暇を与えることとした日(以下この条及び第二十四条の七において「第一基準日」という。)から一年以内の期間に、その時季を定めることにより与えなければならない。

② 前項の規定にかかわらず、使用者が法第三十九条第一項から第三項までの規定による十労働日以上の有給休暇を基準日又は第一基準日に与えることとし、かつ、当該基準日又は第一基準日から一年以内の特定の日(以下この条及び第二十四条の七において「第二基準日」という。)に新たに十労働日以上の有給休暇を与えることとしたときは、履行期間(基準日又は第一基準日を始期として、第二基準日から一年を経過する日を終期とする期間をいう。以下この条において同じ。)の月数を十二で除した数に五を乗じた日数について、当該履行期間中に、その時季を定めることにより与えることができる。

③ 第一項の期間又は前項の履行期間が経過した場合においては、その経過した日から一年ごとに区分した各期間(最後に一年未満の期間を生じたときは、当該期間)の初日を基準日とみなして法第三十九条第七項本文の規定を適用する。

④ 使用者が法第三十九条第一項から第三項までの規定による有給休暇のうち十労働日未満の日数について基準日以前の日(以下この項において「特定日」という。)に与えることとした場合において、特定日が複数あるときは、当該十労働日未満の日数が合わせて十労働日以上になる日までの間の特定日のうち最も遅い日を第一基準日とみなして前三項の規定を適用する。この場合において、第一基準日とみなされた日より前に、同条第五項又は第六項の規定により与えた有給休暇の日数分については、時季を定めることにより与えることを要しない。

第二十四条の六 

使用者は、法第三十九条第七項の規定により労働者に有給休暇を時季を定めることにより与えるに当たっては、あらかじめ、同項の規定により当該有給休暇を与えることを当該労働者に明らかにした上で、その時季について当該労働者の意見を聴かなければならない。

② 使用者は、前項の規定により聴取した意見を尊重するよう努めなければならない。


基準日(第一、第二基準日)

先述のとおり、年次有給休暇管理簿では、基準日(第一基準日および第二基準日を含む)を労働者ごとに明らかにしなければなりません。

基準日(労基法39条7項)

年次有給休暇の基準日

「基準日」とは、継続勤務した期間を6カ月経過日から1年ごとに区分した各期間の初日をいいます(最後に1年未満の期間を生じたときは、その期間の初日)

つまり、年次有給休暇を労基法の定めにより付与した日です(法定の基準日

第一基準日(労基則24条の5)

第一基準日

「第一基準日」とは、基準日より前の日であって、10労働日以上の年次有給休暇を与えることにした日です。

つまり、年次有給休暇を労基法の基準より前倒しで付与した日です。

例えば、雇入れ日に10日の年次有給休暇を付与した場合は、雇入れ日が第一基準日となります。

第二基準日(労基則24条の5)

第二基準日

「第二基準日」とは、基準日または第一基準日から1年以内の日であって、新たに10労働日以上の年次有給休暇を与えることにした日です。

つまり、(当年度の付与日にかかわらず)翌年度の年次有給休暇を「1年が経過した日」よりも前倒しで付与した日です。

例えば、4月1日に雇入れた労働者について、雇入から6カ月経過日となる10月1日に「10日」の年次有給休暇を付与します。翌年度以降は年次有給休暇の起算日を統一するために、翌年の4月1日に「11日」の年次有給休暇を付与する場合などが考えられます。

上記の例では、雇入れた年の10月1日が「(法定の)基準日」、翌年の4月1日が「第二基準日」です。


法定の基準日より前倒しで付与する場合(則24条の5)

先述のとおり、10労働日以上の年次有給休暇を法定どおり(基準日)に与えた場合は、「使用者による時季指定」により、基準日から1年以内に「5日」を取得させることが必要です。

法定の基準日より前倒しで付与する場合の、「使用者による時季指定」については、労基則24条の5で定められています。

 第一基準日に付与した場合

第一基準日に付与した場合の使用者の時季指定
例|雇入れ日に前倒しで付与した場合

「使用者による時季指定」により、第一基準日から1年以内の期間に、5日の年次有給休暇を取得させることが必要です(労基則24条の5 第1項)

 付与期間に重複が生じる場合の特例

年次有給休暇を基準日または第一基準日に与え、その後、基準日または第一基準日から1年以内の特定の日(第二基準日)に新たに10労働日以上を付与する場合の取り扱いです。

基準日または第一基準日からの「1年間」と、第二基準日からの「1年間」に重複が生じます(付与期間に重複が生じる場合といわれています)

使用者の時季指定による期間が重複する場合
例|初年度は基準日に付与し、翌年度以降で基準日を統一する場合

付与期間に重複が生じる場合には、次の取り扱いが認められます(労基則24条の5 第2項)

  • 「使用者による時季指定」により年次有給休暇を、履行期間の月数を12で除した数に5を乗じた日数を、履行期間中に取得させること

履行期間」とは、基準日または第一基準日を始期として、第二基準日から1年を経過する日を終期とする期間をいいます。

日数に端数が生じた場合の取り扱いは、下のタブに格納しておきます。

労基則24条の5第2項を適用するに当たっての端数については、原則として下記のとおり取り扱うこととする(平成30年12月28日基発1228第15号)

なお、下記の方法によらず、月数について1カ月未満の端数をすべて1カ月に切り上げ、かつ、使用者が時季指定すべき日数について1日未満の端数をすべて1日に切り上げることでも差し支えない。

端数処理の方法|

① 基準日から翌月の応答日の前日までを1カ月と考え、月数及び端数となる日数を算出する。ただし、基準日の翌月に応答日がない場合は、翌月の末日をもって1カ月とする。

② 当該端数となる日数を、最終月の暦日数で除し、上記①で算出した月数を加える。

③ 上記②で算出した月数を12で除した数に5を乗じた日数について時季指定する。なお、当該日数に1日未満の端数が生じている場合は、これを1日に切り上げる。

(例)第一基準日が10月22日、第二基準日が翌年4月1日の場合

① 10月22日から11月21日までを1カ月とすると、翌々年3月31日までの月数及び端数は17カ月と10日(翌々年3月22日から3月31日まで)と算出される。

② 上記①の端数10日について、最終月(翌々年3月22日から4月21日まで)の暦日数31日で除し、17カ月を加えると、17.32…カ月となる。

③ 17.32…カ月を12で除し、5を乗じると、時季指定すべき年次有給休暇の日数は7.21…日となり、労働者に意見聴取した結果、半日単位の取得を希望した場合には7.5日、希望しない場合には8日について時季指定を行う。


③| ①または②の期間が経過した場合

みなし基準日

①の期間または②の履行期間が経過した場合は、その経過した日から1年ごとに区分した各期間(最後に1年未満の期間を生じたときは、当該期間)の初日を基準日とみなして労基法39条7項本文(ただし書きを除いた部分)の規定を適用します(労基則24条の5 第3項)

④| 一部を法定の基準日より前倒しで付与する場合

一部前倒しで付与

例えば、入社日に「5日」付与し、残り「5日」は6カ月経過日(以前)に付与するなど、年次有給休暇のうち「10労働日未満の日数」を基準日以前の日(④において特定日といいます)に付与する場合です。

「特定日」が複数あるときは、年次有給休暇の付与日数の合計が10日に達した日を「第一基準日」とみなします(労基則24条の5 第4項)

(10労働日以上になる日までの間の「特定日」のうち、最も遅い日を「第一基準日」とみなします)

「第一基準日とみなされた日」より前に、「労働者の時季指定」または「計画年休」の規定により取得した日数があれば、その日数分は「使用者による時季指定」の対象となる「5日」から差し引きます。


まとめ

ここまで年次有給休暇(労基法39条)について解説しました。

制度を一つの記事で解説したため、かなりの情報量です。

労基法39条は、各規定の概念が繋がっているため、全体像を把握してから繰り返し学習してみてください。

最後に、この記事の内容を簡単に整理して終わりにします。

この記事のまとめ

年次有給休暇の付与

年次有給休暇の付与要件|

使用者は、次のいずれもの要件を満たした労働者に対して、継続し、または分割した「10労働日」の年次有給休暇を与えなければならない。

  • 雇入れの日から起算し6カ月間継続して勤務した(6カ月継続勤務
  • 全労働日の8割以上出勤した(8割出勤

なお、「全労働日の8割以上出勤した」は、6カ月経過日からも1年ごとに判断していく。

年次有給休暇の付与日数|

継続勤務期間ごとの年次有給休暇の日数は下表のとおり。

継続勤務期間加算する日数付与日数
6カ月なし10労働日
1年6カ月1労働日11労働日
2年6カ月2労働日12労働日
3年6カ月4労働日14労働日
4年6カ月6労働日16労働日
5年6カ月8労働日18労働日
6年6カ月以上10労働日20労働日
継続勤務年数ごとの加算日数と付与日数

比例付与

比例付与の対象労働者|

「1週間の所定労働時間が30時間未満」であり、かつ、次の①または②のいずれかに該当する労働者。

  • 1週間の所定労働日数が4日以下
  • 週以外の期間によって所定労働日数が定められている場合には、1年間の所定労働日数が216日以下

比例付与の日数|

  • の労働者については、週所定労働日数の区分に応じて
  • の労働者については、1年間の所定労働日数の区分に応じて

それぞれ下表の継続勤務期間の区分ごとに定める日数を付与しなければならない。

週所定労働日数1年間の所定労働日数継続勤務期間
6カ月1年6カ月2年6カ月3年6カ月4年6カ月5年6カ月6年6カ月以上
4日169日~216日まで7日8日9日10日12日13日15日
3日121日~168日まで5日6日6日8日9日10日11日
2日73日~120日まで3日4日4日5日6日6日7日
1日48日~72日まで1日2日2日2日3日3日3日
継続勤務年数ごとの比例付与日数

出勤率の算定

$$出勤率 = \frac{全労働日のうち出勤した日数}{全労働日}$$

全労働日(所定労働日の合計)には、「就業規則等で定めた所定の休日」に労働させた日(例えば、法定休日に労働させた日など)を含めない。

出勤率の算定については、出勤したとみなし全労働日に含める期間|

  • 業務上負傷し、または疾病にかかり療養のために休業した期間
  • 育児休業をした期間
  • 介護休業をした期間
  • 産前産後休業した期間
  • 年次有給休暇を取得した期間(昭和22年9月13日発基17号)
  • 「労働者の責に帰すべき事由による」とはいえない不就労日(次の②に該当する場合を除く)

出勤率の算定については、(出勤したとみなさず)全労働日から差し引く期間|

  • ②「労働者の責に帰すべき事由による」とはいえない不就労日であっても、当事者間の衡平等の観点から出勤日数に算入するのが相当でない期間
    • 不可抗力による休業日
    • 使用者側に起因する経営、管理上の障害による休業日
    • 正当な同盟罷業その他正当な争議行為により労務の提供が全くなされなかった日
  • 代替休暇を取得して終日出勤しなかった日

年次有給休暇の賃金

原則、次のいずれかによる。

  • 平均賃金
  • 「所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金

労使協定(届出不要)を締結した場合は次を選択することができる。

  • 標準報酬日額

「時間単位年休」についての賃金も「平均賃金」「通常の賃金」「標準報酬日額」のいずれを基準とするかは、日単位による取得の場合と同様にしなければならない。

半日単位

労働者が「半日」単位での取得を希望して時季を指定し、これに使用者が同意した場合であって、適切に運用される限り、問題がない。

時間単位年休

要件|

労使協定(届出不要)により、次の事項を定める。

  • 時間単位年休の対象となる労働者の範囲(利用目的による制限は不可)
  • 年次有給休暇の付与日数のうち、時間単位年休として付与する日数(5日以内に限る)
  • 時間単位年休の1日あたりの時間数(1日の所定労働時間数を下回らない時間数)
  • 「1時間」以外の時間を単位とする場合には、その時間数(1日の所定労働時間数に満たない時間数)

効果|

年次有給休暇の日数のうち、②に掲げる日数(繰越分を含めた日数のうち5日以内)については、時間単位で与えることができる。

年次有給休暇権

  • 「継続勤務および全労働日の8割以上の出勤」が満たされると年次有給休暇権が発生する
  • 消滅時効は2年

労働者の時季指定権

  • 休暇の時季指定の効果は、使用者の適法な時季変更権の行使を解除条件として発生する
  • 休暇をどのように利用するかは、使用者の干渉を許さない労働者の自由
  • ただし、一斉休暇闘争は年次有給休暇権の行使とは認められない

使用者の時季変更権

  • 請求された時季に年次有給休暇を与えることが「事業の正常な運営を妨げる場合」に行使できる
  • 「事業の正常な運営を妨げる」か否かは、労働者の所属する事業場を基準に判断される
  • 労働者が時季指定した「時間」または「日」について、指定された「単位を変更すること」はできない

計画年休

要件|

労使協定(届出不要)により、「年次有給休暇を与える時季に関する定め」をする。

効果|

年次有給休暇の日数のうち5日を超える部分(繰越分を含む)については、労使協定の定めにより年次有給休暇を与えることができる。

なお、計画年休として時間単位年休を与えることは認められていない。

年5日の年次有給休暇の確実な取得

対象労働者|

使用者が与えなければならない年次有給休暇の日数(繰越分を合算しない)が「10労働日以上」の労働者。

使用者による時季指定が必要な日数、期間|

  • 年次有給休暇を法定のとおり付与した場合
    • 「基準日」から1年以内の期間に、年5日の年次有給休暇を取得させなければならない
  • 年次有給休暇を法定よりも前倒しで付与した場合
    • 「第一基準日」から1年以内の期間に、年5日の年次有給休暇を取得させなければならない
  • 付与期間に重複が生じる場合
    • \(\frac{履行期間の月数}{12}\)に5を乗じた日数を、履行期間中に与えることができる

留意事項|

  • 「労働者の時季指定」または「計画年休」により実際に取得させた日数があれば、取得させなければならない「5日」から差し引く
  • 半日単位で付与する場合は、日数を「0.5日」とする
  • 使用者による時季指定を「時間単位年休」で行うことは認められていない

(参考資料等)

厚生労働省|厚生労働省法令等データベースサービスより|https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/kensaku/index.html

  • 労働基準法39条、115条、119条、120条、136条
  • 労働基準法施行規則24条の3、24条の4、24条の5、24条の6、24条の7、25条、55条の2、71条
  • 昭和22年9月13日発基17号(労働基準法の施行に関する件)
  • 昭和63年1月1日基発1号(改正労働基準法の施行について)
  • 平成6年1月4日基発1号(労働基準法の一部改正の施行について)
  • 平成21年3月31日基発0331010号(派遣労働者に対する安全衛生教育の実施等安全衛生の確保について)
  • 平成25年7月10日基発0710第3号(年次有給休暇算定の基礎となる全労働日の取扱いについて)
  • 平成30年12月28日基発1228第15号(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律による改正後の労働基準法関係の解釈について)

厚生労働省|東京労働局ホームページ|パンフレットより|
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/roudoukijun_keiyaku/newpage_00379.html

  • しっかりマスター 有給休暇編
  • わかりやすい解説 年5日の年次有給休暇の確実な取得

解釈例規(昭和63年3月14日基発150号)

労働基準法の一部を改正する法律の施行について(平成21年5月29日基発0529001号)