この記事では、労働基準法の4章から、時間外、休日及び深夜の割増賃金(37条)について解説しています。
代替休暇についてはこちらの記事で解説しています。
当記事は、条文等の趣旨に反するような極端な意訳には注意しておりますが、厳密な表現と異なる部分もございます。
詳しくは免責事項をご確認ください。
割増賃金を計算する前に
- 法定労働時間(32条または40条)
- 休憩(34条)
- 休日(35条)
- 災害等による臨時の必要がある場合の時間外労働等(33条
- 時間外及び休日の労働(36条)
当記事は、上記規定について解説していません。
そのため、あいまいな方は各記事の解説をご参照ください。
社労士試験の独学|労基法|労働時間、休憩、休日、災害等による臨時の必要がある場合の時間外労働等 社労士試験の独学|労基法|時間外及び休日の労働(36協定)当記事を読む上での最低限の解説です。
時間外労働となる時間|
- 1日については8時間を超えて労働させた時間
- 1週間については40時間または44時間を超えて労働させた時間
ただし、1日について時間外労働とした時間は除く
休日労働となる時間|
- 法定休日に労働させた時間
変形労働時間制、フレックスタイム制における時間外労働、休日労働については、下記の記事内の解説をご参照ください。
なお、以降は、時間外労働または休日労働となる時間の詳細や、変形労働時間制またはフレックスタイム制を知らなくても読めるように書いています。
時間外、休日及び深夜の割増賃金の概要(37条)
労基法37条では、いわゆる時間外労働、休日労働、深夜労働に対する割増賃金を定めています。
趣旨
時間外労働および休日労働に対する割増賃金の支払いは、通常の勤務時間とは違うこれら特別の労働に対する労働者への補償を行うとともに、使用者に対し、経済的負担を課すことによってこれらの労働を抑制することを目的としています(平成6年1月4日基発1号)
罰則と付加金
労基法37条に違反して割増賃金を支払わない者は、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます(労基法119条)。
また、裁判所は、労基法37条の規定に違反した使用者に対して、労働者の請求により、使用者が支払わなければならない未払の割増賃金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる とされています(労基法114条)
割増賃金の支払義務
労基法36条の協定によらない時間外労働または休日労働をさせた場合でも、割増賃金の支払義務は免れることができません(昭和63年3月14日基発150号)
また、労基法37条は強行規定であるため、たとえ労使合意の上で割増賃金を支払わない申し合わせをしても、労基法37条に抵触し無効となります(昭和24年1月10日基収68号)
労働者派遣
派遣中の労働者に時間外労働等を行わせた場合は、派遣元の使用者が割増賃金の支払い義務を負います(昭和61年6月6日基発333号)
なお、割増賃金の支払義務は、派遣中の労働者に時間外労働等を行わせたという事実があれば法律上生じます(前掲通達)
そのため、時間外労働等が労基法に違反するものであっても、または労働者派遣契約により派遣先の使用者に時間外労働等を行わせる権限がなくとも割増賃金の支払い義務を負うことになります(同旨 前掲通達)
このとおり37条はガチガチに固められています。
条文はタブを切り替えると確認できます。
時間外、休日の割増賃金|
使用者は、次の①または②の場合には、割増賃金の支払いが必要となります(労基法37条1項)
① 労基法33条または36条1項の規定により労働時間を延長して労働(時間外労働)させた
② 法定休日に労働(休日労働)させた
割増賃金は、「通常の労働時間または労働日の賃金の計算額」を「2割5分以上5割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率」以上の率で計算します。
「通常の労働時間または労働日の賃金の計算額」については(後述)します。
「政令で定める率」は、労働者の福祉、時間外または休日の労働の動向その他の事情を考慮して定められます(労基法37条2項)
具体的には、次のとおりです(平成6年1月4日政令第5号)
時間外労働
⇒ 2割5分(以上)
休日労働
⇒ 3割5分(以上)
時間外労働をさせた時間が1カ月について60時間を超えた場合は、「60時間を超えた時間」についての割増賃金は、次の「率」を用いて計算します(労基法37条1項ただし書き)
「60時間を超えた時間」
⇒ 5割以上
例えば、1カ月について、時間外労働が70時間におよんだケースでは、60時間までは「2割5分以上」、残り10時間は「5割以上」の率で計算した割増賃金の支払いが必要です。
ただし、一定の条件のもと、「60時間を超えた時間」について労働者が休暇(代替休暇)を取得したときは、割増賃金の支払いに代えることができます。
代替休暇(労基法37条3項)については別の記事で解説しています。
深夜の割増賃金|
深夜労働となるのは、午後10時から午前5時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域または期間については午後11時から午前6時まで)の間に労働させる場合です(労基法37条4項)
深夜労働についても割増賃金の支払いが必要となり、次の「率」を用いて計算します。
深夜労働
⇒ 2割5分以上
なお、深夜労働を(時間外労働または休日労働ではなく)所定労働時間にさせた場合にも割増賃金の支払いは必要です。
労働基準法
第三十七条
使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
② 前項の政令は、労働者の福祉、時間外又は休日の労働の動向その他の事情を考慮して定めるものとする。
③ 使用者が、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、第一項ただし書の規定により割増賃金を支払うべき労働者に対して、当該割増賃金の支払に代えて、通常の労働時間の賃金が支払われる休暇(第三十九条の規定による有給休暇を除く。)を厚生労働省令で定めるところにより与えることを定めた場合において、当該労働者が当該休暇を取得したときは、当該労働者の同項ただし書に規定する時間を超えた時間の労働のうち当該取得した休暇に対応するものとして厚生労働省令で定める時間の労働については、同項ただし書の規定による割増賃金を支払うことを要しない。
④ 使用者が、午後十時から午前五時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時まで)の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
労働基準法第三十七条第一項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令(平成六年政令第五号)
労働基準法第三十七条第一項の政令で定める率は、同法第三十三条又は第三十六条第一項の規定により延長した労働時間の労働については二割五分とし、これらの規定により労働させた休日の労働については三割五分とする。
割増賃率を計算するための率(以下、割増賃金率)の整理
賃率 | |
時間外労働(60時間まで) | 2割5分以上 |
時間外労働(60時間超え) | 5割以上 |
休日労働 | 3割5分以上 |
深夜労働 | 2割5分以上 |
ちなみに、深夜労働について、厚生労働大臣により「午後11時から午前6時まで」必要であると認められている地域または期間は現在(2024年3月31日)までありません。
当記事では以降、深夜労働については単に「午後10時から午前5時まで」と表記しています。
例えば、所定労働時間が7時間の事業場において、8時間まで労働させるケースです。
上記の「1時間」は法定労働時間を超えた時間ではないため、労基法37条に基づく割増賃金の支払いは義務ではありません。
なお、所定労働時間外の「1時間」についての賃金は、次のように解されています。
(上記の1時間については)原則として通常の労働時間の賃金を支払わなければならない。ただし、労働協約、就業規則等によって、その1時間に対して別に定められた賃金額がある場合には、別に定められた賃金額で差し支えない(昭和23年11月4日基発1572号)
労基法41条(労働時間等に関する規定の適用除外)の各号に該当する労働者については、労働時間、休憩及び休日に関する規定は適用除外となるため、時間外労働または休日労働についての割増賃金の支払いは必要ありません。
ただし、上記の労働者でも深夜労働(労基法37条4項)については適用除外とならないと解されているため、深夜労働に対する割増賃金の支払いは必要です。
最高裁は、労基法41条2号の規定によって同法37条3項(現在は37条4項です)の適用が除外されることはなく、管理監督者に該当する労働者は同項に基づく深夜割増賃金を請求することができるものと解するのが相当である と示しています(最二小判 平21.12.18 ことぶき事件)
考え方としては、「労基法における労働時間に関する規定の多くは、その長さに関する規制について定めているが、労基法37条4項は、労働が1日のうちのどのような時間帯に行われるかに着目して深夜労働に関し一定の規制をする点で、労働時間に関する労基法中の他の規定とはその趣旨目的を異にする」と解されています(前掲 ことぶき事件)
深夜労働と時間外労働または休日労働が重複する場合の割増賃金率は、労基則20条で定められています。
おおまかに整理すると、午後10時から午前5時までに時間外労働または休日労働をさせると、深夜労働の割増賃金率(2割5分以上)が加算されます。
時間外労働と深夜労働の重複(労基則20条1項)
月60時間までの時間外労働 + 深夜労働
⇒ 5割以上
月60時間を超える時間外労働 + 深夜労働
⇒ 7割5分以上
休日労働と深夜労働の重複(労基則20条2項)
休日労働 + 深夜労働
⇒ 6割以上
休日労働と時間外労働の重複
休日労働が8時間を超えても深夜労働に該当しない限り、割増賃金率は3割5分(以上)で差支えないとされています(昭和22年11月21日基発366号)
そのため、「休日労働 + 時間外労働 = 6割または8割5分以上」とはなりません(義務ではありません)。
ある日の労働が継続し、その日の午後12時をまたいで翌日におよぶケースです。
ポイントは、「何月何日の労働時間となるのか」と「割増賃金率は何割で計算するのか」を分けて考えることです。
労基法32条では、1日の法定労働時間を8時間と定めています。
労基法32条の「1日」とは、午前0時から午後12時までのいわゆる暦日をいい、継続勤務が2暦日にわたる場合には、始業時刻の属する日の1日の労働として取り扱われます(昭和63年1月1日基発1号)
そこで、ある日の時間外労働が継続して翌日の所定労働時間におよんだ場合、割増賃金はどのように計算するのか という疑義が生じています。
通達では上記の疑義に対し、「翌日の所定労働時間の始期までの超過時間に対して、労基法37条の割増賃金を支払えば労基法37条の違反にはならない」と示しています(昭和63年3月14日基発150号)
休日労働となる部分の考え方
法定休日の午前0時から午後12時までの時間帯に労働した部分が「休日労働」となります(平成6年5月31日基発331号)
- 休日労働が翌日におよんだ場合
⇒ 法定休日の午後12時まで - 前日の労働が法定休日におよんだ場合
⇒ 法定休日の午前0時から
時間外労働となる部分の考え方
「休日労働」と判断された時間を除いて、それ以外の時間について法定労働時間を超える部分が時間外労働となります。この場合、1日および1週間の労働時間の算定にあたっては、労働時間が2暦日にわたる勤務については勤務開始時間が属する日の勤務として取り扱うことになります(平成6年5月31日基発331号)
例えば、法定休日における労働が、継続して翌日におよんだ場合の割増賃金率は、次のように分れます(同旨 昭和23年11月9日基収2968号)
当日の午後12時までの労働
当日の午後10時から午後12時までの労働は、「深夜労働 + 休日労働」となり6割以上で計算します。
翌日の午前0時からの労働
翌日の午前0時からは、時間外労働なのか所定労働時間として行われたのかで分れます。
時間外労働として行われた場合|
翌日の午前0時から午前5時までは「深夜労働 + 時間外労働」となり5割以上、午前5時からは「時間外労働」となり2割5分以上で計算します。
1カ月の時間外労働が60時間を超えた場合は、5割以上で読み替えてください。
所定労働時間として行われた場合|
翌日の午前0時から午前5時までは「深夜労働」となり2割5分以上で計算し、午前5時からは通常の賃金を支払えば足ります。
割増賃金の金額
時間外労働等をさせると、通常の労働時間または労働日の賃金の計算額の「2割5分以上5割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率」以上の率で計算した割増賃金を支払う必要があります(労基法37条1項)
「政令で定める率」は、ここまで解説してきた割増賃金率(2割5分、3割5分)のことです。
あとは、割増賃金を計算する前に、「通常の労働時間または労働日の賃金の計算額」が必要となります。
ひらたくいうと、労働した時間に対する賃金を割り増しする前の金額です。
正確には労基則19条で定められています。
通常の労働時間または労働日の賃金の計算額は、次の①〜⑦の金額に、時間外労働、休日労働または深夜労働(午後10時から午前5時まで)の時間数を乗じた金額をいいます(労基則19条1項)
① 時間によって定められた賃金
時間給
② 日によって定められた賃金
日給 ÷ 1日の所定労働時間数
日によって所定労働時間数が異なる場合には、1週間における1日平均の所定労働時間を用いて計算します。
③ 週によって定められた賃金
週給 ÷ 週における所定労働時間数
週によって所定労働時間数が異なる場合には、4週間における1週平均の所定労働時間を用いて計算します。
④ 月によって定められた賃金
月給 ÷ 月における所定労働時間数
月によって所定労働時間数が異なる場合には、1年間における1月平均の所定労働時間を用いて計算します。
(計算例)
例えば、月給制において月の所定労働時間数が異なり、1年間における所定労働日数が240日、1日の所定労働時間が7時間の場合は、次のように計算します。
通常の労働時間の賃金 = 月給 ÷ \(\frac{240日 × 7h}{12}\)
⑤ 月、週以外の一定の期間によって定められた賃金
上記①~④に準じて算定した金額
⑥ 出来高払制その他の請負制によって定められた賃金
出来高払制その他の請負制(以下、出来高払制等)についての賃金算定期間において、次の式で計算します。
出来高払制等によって計算された賃金の総額 ÷ 総労働時間数
賃金算定期間は、賃金の締切日がある場合は、賃金締切期間となります(締切日の間隔で計算するという意味です)。
⑦ 上記①~⑥の2つ以上の賃金を受ける場合
①~⑥各号によってそれぞれ算定した金額の合計額
上記①~⑦に含まれない賃金
休日手当(休日労働に対する割増賃金ではなく、労働の有無によらずその日に対して支給される賃金のこと)や①〜⑦に含まれない賃金は、①〜⑦の計算においては、月によって定められた賃金とみなします(労基則19条2項)
労働基準法施行規則
第十九条
法第三十七条第一項の規定による通常の労働時間又は通常の労働日の賃金の計算額は、次の各号の金額に法第三十三条若しくは法第三十六条第一項の規定によって延長した労働時間数若しくは休日の労働時間数又は午後十時から午前五時(厚生労働大臣が必要であると認める場合には、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時)までの労働時間数を乗じた金額とする。
一 時間によって定められた賃金については、その金額
二 日によって定められた賃金については、その金額を一日の所定労働時間数(日によって所定労働時間数が異る場合には、一週間における一日平均所定労働時間数)で除した金額
三 週によって定められた賃金については、その金額を週における所定労働時間数(週によって所定労働時間数が異る場合には、四週間における一週平均所定労働時間数)で除した金額
四 月によって定められた賃金については、その金額を月における所定労働時間数(月によって所定労働時間数が異る場合には、一年間における一月平均所定労働時間数)で除した金額
五 月、週以外の一定の期間によって定められた賃金については、前各号に準じて算定した金額
六 出来高払制その他の請負制によって定められた賃金については、その賃金算定期間(賃金締切日がある場合には、賃金締切期間、以下同じ)において出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額を当該賃金算定期間における、総労働時間数で除した金額
七 労働者の受ける賃金が前各号の二以上の賃金よりなる場合には、その部分について各号によってそれぞれ算定した金額の合計額
② 休日手当その他前項各号に含まれない賃金は、前項の計算においては、これを月によって定められた賃金とみなす。
通常の労働時間または労働日の賃金の計算額
= 1時間あたりの賃金 × 時間外労働等の時間数
上記のように表現すると、「1時間あたりの賃金」の部分が上記①~⑦で求めた金額です。
後は、「通常の労働時間または労働日の賃金の計算額」を「政令で定める率」以上の率で「割り増し」することになります。
通常の…とは
例えば、特殊作業に従事している時間に対して特殊作業手当などが加算される場合があります。
時間外労働となる時間に特殊作業に従事するならば、特殊作業手当も「通常の労働時間または労働日の賃金」に含まれます(昭和23年11月22日基発1681号)
割増賃金は本給の支給については言及していないため、「賃金規則に別段の定めのない限り、月給者または日給者については時間外労働に対する本給の支給は必要ないのでは」という疑義に対し、通達では次のように示しています。
労基法37条が割増賃金の支払を定めているのは、当然に通常の労働時間に対する賃金を支払うべきことを前提とするものであるから、月給または日給の場合であっても、時間外労働について、その労働時間に対する通常の賃金を支払わねばならない(昭和23年3月17日基発461号)
計算例|(原則)
例えば、\(\frac{月給}{所定労働時間数}\)を「2,000円」、時間外労働の時間数を「3時間」だとしましょう。
3時間の労働に対する対価は、次の①だけでなく②の支払いも必要です。
① 2,000円 × 3時間 × 0.25=1,500円
② 2,000円 × 3時間 × 1.00=6,000円
合計 7,500円
一般的に、1時間あたりの賃金 × 時間 × 1.25 = 割増賃金 と説明されている計算手順です。
あっ、読んでいただけるんですね。ありがとうございます。
このタブ内は、制度の解説ではないため「へぇ〜」程度で読んでください。
いきなりですが、労基法37条の割増賃金の金額は(A)(B)どちらでしょうか。
(A)割増賃金の金額 = \(\frac{月給}{所定労働時間数}\) × 時間外労働の時間数 × 0.25
(B)割増賃金の金額 = \(\frac{月給}{所定労働時間数}\) × 時間外労働の時間数 × 1.25
月給制の場合は、\(\frac{月給}{所定労働時間数}\)(労基則19条の解説④を参照)とすることで、月給を所定労働時間数で時給に換算しています。
先の計算例と同様に、\(\frac{月給}{所定労働時間数}\)を「2,000円」、時間外労働の時間数を「3時間」だとしましょう。
(A)の計算手順|
「× 0.25」では、3時間の時間外労働に対する賃金が1,500円となり、1時間あたりの労働の対価が500円となってしまいます。
つまり、賃金の総額は、月給の部分(所定労働時間の労働に対する対価) + 1,500円(時間外労働に対する対価)です。
(B)の計算手順|
一方、「× 1.25」であれば、3時間の時間外労働に対する賃金が7,500円となり、1時間あたりの労働の対価が2,500円となります。
つまり、賃金の総額は、月給の部分(所定労働時間の労働に対する対価) + 7,500円(時間外労働に対する対価)です。
割増賃金を(A)とすると、「…以上で計算した割増賃金を支払わなければならない」は「(A)を支払わなければならない」となります。
一方、先の通達(昭和23年3月17日基発461号)は、通常の賃金の支払いも必要としており、計算結果としては(B)の立場をとっています。
(A)と(B)どちらが正しい「割増賃金」かは、どちらの意味でも広く使われているため文脈等から判断してください(厚生労働省の資料でも表現は分れています)
ただし、「月給または日給の場合であっても、時間外労働について、その労働時間に対する通常の賃金を支払わねばならない」とあります(前掲通達)
そのため、(A)の金額を「割増賃金」と呼んだとしても、「時間外労働の時間数 × 1.0」の部分の賃金の支払いも必要です。
(厚生労働省の資料でも支払いが必要となる金額は、結果として × 1.25となっています)
なお、「(B)の表現が正しいでしょ!」とも言い切れません。
月給制における休日労働で考えると、× 0.35(A)よりも× 1.35(B)を「支払わなければならない」がしっくりくると思います。
一方、月給制において所定労働時間に深夜労働が行われた場合はどうでしょうか。おそらく× 1.25(B)よりも× 0.25(A)を「支払わなければならない」がしっくりくると思います。
参考|厚生労働省(外部サイトへのリンク)|定労働時間と割増賃金について教えてください。
参考|兵庫労働局ホームページ(外部サイトへのリンク)|割増賃金
計算例|(賃金が出来高払制等による場合)
例えば、固定給と出来高払制等が併給されている労働者について、時間外労働(月60時間以内の範囲で深夜労働ではない)が「3時間」におよんだとします。
時間外労働となった「3時間」について、出来高払払制に係る割増賃金の支払いは、次の③の金額で足りる とされています(昭和23年11月25日基収3052号)
① 通常の労働時間の賃金(労基則19条の解説⑥を参照)
= 出来高払制等によって計算された賃金の総額 ÷ 総労働時間数
② 通常の労働時間の賃金の計算額
= ① × 3時間
③ 出来高払制その他の請負制による割増賃金の金額
= ② × 0.25
①の過程で、時間外労働となった「3時間」についての出来高払制等による賃金と労働時間は、「出来高払制等によって計算された賃金の総額」および「総労働時間数」に含まれています。
ひらたくいうと、3時間分の労働(出来高)を含めて、出来高払制等による1時間あたりの賃金が計算されています。
そのため、3時間の時間外労働について、3時間に対する通常の賃金(× 1.0 の部分)を割増賃金として支払う必要はありません。
(3時間 × 1.0の部分は、割増賃金とは別に支払う出来高払制等の賃金(3時間分の出来高)に含まれています)
所定労働時間内に深夜労働がなされた場合に、「× 0.25」の部分のみを割増賃金とするのと同じ考え方です。
(出来高払制等は「× 0.25」の計算式が「割増賃金」の金額となります)
労基法37条で定める「割増賃金」を支払う限り、必ずしも労基法37条の計算手順に従う必要はないと解されています。
通達によると、「労働者に対して実際に支払われた割増賃金が法所定の計算による割増賃金を下回らない場合には、法37条の違反とはならない」と示しています(昭和24年1月28日基収3947号)
そのため、例えば、いわゆる固定残業代を設けても、直ちに違反するものではありません(固定残業代については後述します)
ここからは、「通常の労働時間または労働日の賃金の計算額」のうち、「通常の労働時間または労働日の賃金」から除かれる賃金について解説します。
つまり、「割り増し」の対象とならない「賃金」です。
割増賃金の計算方法はすでに解説しましたが、これから解説する「賃金」は除いて計算しても構いません。
なお、「労基法に定める基準は最低のものであるから、割増賃金の計算の基礎より除外し得るものを算入することは使用者の自由である」とされています(昭和23年2月20日基発297号)
割増賃金の基礎となる賃金には、次の手当等は算入されません(労基法37条5項)
① 家族手当
② 通勤手当
その他厚生労働省令で定める賃金も算入しないとあり、具体的には次のとおりです(労基則21条)
③ 別居手当
④ 子女教育手当
⑤ 住宅手当
⑥ 臨時に支払われた賃金
⑦ 1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金
労働基準法
第三十七条
⑤ 第一項及び前項の割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しない。
労働基準法施行規則
第二十一条
法第三十七条第五項の規定によって、家族手当及び通勤手当のほか、次に掲げる賃金は、同条第一項及び第四項の割増賃金の基礎となる賃金には算入しない。
一 別居手当
二 子女教育手当
三 住宅手当
四 臨時に支払われた賃金
五 一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金
算入しなくとも構わない手当等は上記①〜⑦に限られます(限定列挙です)
ただし、「名称にかかわらず実質によって取り扱うこと」と解されています(昭和22年9月13日発基17号)
そのため、例えば、「家族手当とは何か」という問題が生じます。
考え方としては、①〜⑦の手当等に該当しても、手当等の特殊性によらないで一律に支給されるもの(全部または一部)は、割増賃金の計算に含めなければなりません(除外できません)
家族手当
通達によると、労基法37条の割増賃金の基礎となる賃金の計算においては、扶養家族数またはこれを基礎とする家族手当額を基礎として算出した手当は、物価手当、生活手当その他名称の如何を問わず家族手当として取扱う とされてます(昭和22年11月5日基発231号)
通勤手当
実際の距離にかかわらず支給される通勤手当については、割増賃金の計算の基礎に含めなければなりません(昭和23年2月20日基発297号)
臨時に支払われた賃金
臨時的、突発的事由にもとづいて支払われたもの、および支給条件は予め確保されているが、支給事由の発生が不確定であり、かつ非常に稀に発生するものをいいます(昭和22年9月13日発基第17号)
例えば、結婚祝金や退職金などが該当します。
1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金
例えば、賞与です。
「賞与」とは、定期または臨時に、原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるものであって、その支給額があらかじめ確定されていないもの と解されています(昭和22年9月13日発基17号)
年俸制において賞与に相当する額をあらかじめ確定している場合は、上記通達のとおり「賞与」に該当しません。
そのため、賞与に相当する額があらかじめ確定しているならば、割増賃金の基礎となる賃金に含めなければなりません(平成12年3月8日基収78号)
なお、割増賃金に算入しなくともよいのは、1カ月を超える期間ごとに支払う賃金です。
そのため、1カ月ごとに支払う手当(例えば、1カ月の勤務実績で計算する精勤手当)は割増賃金の計算に含めなければなりません。
子女教育手当は、在外公館に勤務する外務公務員に支給される手当です。
一定の条件のもと、上記の外務公務員の子が、日本以外の地において学校教育その他の教育を受けるのに必要な経費に充当するために支給されます(在外公館の名称及び位置並びに在外公館に勤務する外務公務員の給与に関する法律 6条)
調べてみると「実際に見たことがないのは なるほどね」でした。
社労士試験の勉強において、子女教育手当を「割増賃金の計算に含めるか除くか」を忘れてしまった場合は、外務公務員の子に関する手当だと思い出してみてください。
ただし、「名称にかかわらず実質によって取り扱う」ことになります。
労基法24条(賃金の支払)の記事内で解説しています。
詳細はコチラをご参照ください
定額で支払われる割増賃金
最後に、割増賃金を基本給や諸手当にあらかじめ含めて支払う方法について解説します。
ひらたくいうと、いわゆる固定残業代、定額残業代などと呼ばれている制度です。
先述のとおり、「労働者に対して実際に支払われた割増賃金が法所定の計算による割増賃金を下回らない場合には、法37条の違反とはならない」と解されています(昭和24年1月28日基収3947号)
ただし、留意事項は大きく分けると3つあります
- 通常の賃金と割増賃金とを区別できる
- 労基法37条の基準を下回るときは、差額の支払いが必要となる
- 固定残業代の支払いが時間外労働に対する対価と認められる
通達では、判例(最二小判 平29.7.7 医療法人康心会事件)を踏まえ次のように解釈が示されています(平成29年7月31日基発0731第27号)
時間外労働等に対する割増賃金を基本給や諸手当にあらかじめ含める方法で支払う場合には、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要であること。
また、このとき、割増賃金に当たる部分の金額が労働基準法第37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回るときは、その差額を支払わなければならないこと。
いわゆる固定残業代の支払いが時間外労働に対する対価とみなされるかは、最高裁により次のような判断基準が示されています(最一小判 平30.7.19 日本ケミカル事件)
雇用契約においてある手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているか否かは,雇用契約に係る契約書等の記載内容のほか,具体的事案に応じ,使用者の労働者に対する当該手当や割増賃金に関する説明の内容,労働者の実際の労働時間等の勤務状況などの事情を考慮して判断すべきである。
社労士試験においては、管理監督者の深夜労働についての「ことぶき事件」、固定残業代に関する「医療法人康心会事件」「日本ケミカル事件」は、選択式、択一式ともに出題が考えられます。
試験勉強をされている方は、余裕があれば、裁判所のホームページ等で概要に目を通しておくと良いかもしれません。
最後に、この記事をまとめて終わりにします。
概要
時間外、休日、深夜の労働
- 労基法33条または36条1項の規定により労働時間を延長して労働させた
⇒ 時間外労働 - 法定休日に労働させた
⇒ 休日労働 - 午後10時から午前5時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域または期間については午後11時から午前6時まで)の間に労働させた
⇒ 深夜労働
なお、管理監督者でも、深夜労働については、適用除外とならない。
割増賃金率と留意事項
賃率 | |
時間外労働(60時間まで) | 2割5分以上 |
時間外労働(60時間超え) | 5割以上 |
休日労働 | 3割5分以上 |
深夜労働 | 2割5分以上 |
- 午後10時から午前5時までに時間外労働または休日労働をさせた場合は、深夜労働の割増賃金率(2割5分以上)を加算する
- 休日労働が8時間を超えても深夜労働に該当しない限り、割増賃金率は3割5分(以上)で差支えない
- 「休日労働」か否かは、法定休日の午後12時(翌日の午前0時)を基準にして判定する
割増賃金の計算
割増賃金の計算の基礎に含めない賃金
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金
- 1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金
上記①~⑦は限定列挙。
ただし、名称にかかわらず実質によって判断される。
通常の労働時間または労働日の賃金の計算額
= 通常の労働時間または労働日の賃金 × 時間外労働等の時間数
通常の労働時間または労働日の賃金(1時間あたりの賃金)
- 時給
- 日、週、月で定められている賃金 ÷ 所定労働時間数
- 出来高払制等によって計算された賃金の総額 ÷ 総労働時間数
時間外労働となる時間に特殊作業に従事するならば、特殊作業手当も「通常の労働時間または労働日の賃金」に含まれる。
割増賃金額
「1時間あたりの賃金 × 時間外労働等の時間数」を、割増賃金率以上の率で割り増しする。
- 時間外労働等の時間に対する通常の賃金の支払いも必要
- 出来高払制等による時間外労働に対しては、通常の労働時間の賃金 × 割増賃金率で構わない
いわゆる固定残業代
- 通常の賃金と割増賃金とを区別できる
- 労基法37条の基準を下回るときは、差額の支払いが必要となる
- 固定残業代の支払いが時間外労働に対する対価と認められる
(参考資料等)
厚生労働省|厚生労働省法令等データベースサービスより|https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/kensaku/index.html
- 労働基準法37条、114条、119条
- 労働基準法施行規則19条、20条、21条
- 昭和22年9月13日発基17号(労働基準法の施行に関する件)
- 平成6年1月4日基発1号(労働基準法の一部改正の施行について)
- 平成21年10月5日基発1005第1号(労働基準法関係解釈例規について)
- 平成29年7月31日基発0731第27号(時間外労働等に対する割増賃金の解釈について)
厚生労働省|東京労働局ホームページより|しっかりマスター 割増賃金編
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/roudoukijun_keiyaku/newpage_00379.html
厚生労働省|沖縄労働局ホームページ|年俸制導入時の割増賃金の取り扱いについて
https://jsite.mhlw.go.jp/okinawa-roudoukyoku/yokuaru_goshitsumon/jigyounushi/question_4.html
厚生労働省|労働基準関係リーフレットより|割増賃金の基礎となる賃金とは?
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000056460.html
労働基準法の一部を改正する法律の施行について(平成21年5月29日基発0529001号)
解釈例規(昭和63年3月14日基発150号)