この記事では、労働基準法の4章から、1年単位の変形労働時間(32条の4)を解説しています。
社会保険労務士試験の独学、労務管理担当者の勉強などに役立てれば嬉しいです。
当記事は、法定労働時間(特例を含む)、休日(休日振替、代休を含む)について学習を終えているという認識で解説しています。
あいまいな方は、こちらの記事を先にご覧ください。
当記事は、条文等の趣旨に反するような極端な意訳には注意しておりますが、厳密な表現と異なる部分もございます。
詳しくは免責事項をご確認ください。
1年単位の変形労働時間制の概要(32条の4)
1年単位の変形労働時間制の趣旨と現状|
変形労働時間制の目的は、労働者の生活設計を損なわない範囲内において労働時間を弾力化し、業務の繁閑に応じた労働時間の配分等を行うことによって労働時間を短縮することです(昭和63年1月1日基発1号)
1年単位の変形労働時間制を採用すると、年間単位で労働時間の管理を行うことができますが、あらかじめ業務の繁閑を見込んで、それに合わせて労働時間を配分します。
そのため、突発的なものを除き、恒常的な時間外労働はないことを前提とした制度です(平成6年1月4日基発1号)
令和6年の就労条件総合調査によると、変形労働時間制を採用している企業割合は 60.9%となっており、そのうち、1年単位の変形労働時間制を採用している割合は 32.3%となっています。
条文はタブを切り替えると確認できます。
要件|
1年単位の変形労働制を採用するためには、労使協定(書面による協定)により一定の事項(後述)を定めます。
労使協定|
協定を締結する労働者側の当事者は、労働者の過半数で組織する労働組合の有無で分れています。
ある場合 ⇒ その労働組合
ない場合 ⇒ 労働者の過半数を代表する者
労使協定は行政官庁(所轄労働基準監督署長)への届出が必要です。
「届出」は労使協定の効力を発生させるための要件ではありませんが、労使協定の届出義務に違反した者は、30万円以下の罰金に処せられます(労基法120条)
効果|
1年単位の変形労働時間制を採用すると、特定された週または日において、法定労働時間を超えて労働させることができます。
ただし、対象期間(1カ月を超え1年以内の期間)を平均したときに、1週間あたりの労働時間が40時間に収まらなければなりません。
なお、1年単位の変形労働時間制には法定労働時間の特例(週44時間)は適用されません(労基則25条の2第4項)
労働日数および労働時間の限度|
1年単位の変形労働時間制では、一定の条件(後述)のもと、労働日数、労働時間に限度が定められています。
- 労働日数の限度 ⇒ 対象期間が3カ月を超える場合に限り(原則)1年あたり280日
- 労働時間の限度 ⇒ (原則)1日は10時間、1週間は52時間
- 連続して労働させることができる日数 ⇒ 6日
ただし、特定期間は1週間に1日の休日が確保できる日数(12日)
労働基準法
第三十二条の四
使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、次に掲げる事項を定めたときは、第三十二条の規定にかかわらず、その協定で第二号の対象期間として定められた期間を平均し一週間当たりの労働時間が四十時間を超えない範囲内において、当該協定(次項の規定による定めをした場合においては、その定めを含む。)で定めるところにより、特定された週において同条第一項の労働時間又は特定された日において同条第二項の労働時間を超えて、労働させることができる。
一 この条の規定による労働時間により労働させることができることとされる労働者の範囲
二 対象期間(その期間を平均し一週間当たりの労働時間が四十時間を超えない範囲内において労働させる期間をいい、一箇月を超え一年以内の期間に限るものとする。以下この条及び次条において同じ。)
三 特定期間(対象期間中の特に業務が繁忙な期間をいう。第三項において同じ。)
四 対象期間における労働日及び当該労働日ごとの労働時間(対象期間を一箇月以上の期間ごとに区分することとした場合においては、当該区分による各期間のうち当該対象期間の初日の属する期間(以下この条において「最初の期間」という。)における労働日及び当該労働日ごとの労働時間並びに当該最初の期間を除く各期間における労働日数及び総労働時間)
五 その他厚生労働省令で定める事項
② 使用者は、前項の協定で同項第四号の区分をし当該区分による各期間のうち最初の期間を除く各期間における労働日数及び総労働時間を定めたときは、当該各期間の初日の少なくとも三十日前に、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の同意を得て、厚生労働省令で定めるところにより、当該労働日数を超えない範囲内において当該各期間における労働日及び当該総労働時間を超えない範囲内において当該各期間における労働日ごとの労働時間を定めなければならない。
③ 厚生労働大臣は、労働政策審議会の意見を聴いて、厚生労働省令で、対象期間における労働日数の限度並びに一日及び一週間の労働時間の限度並びに対象期間(第一項の協定で特定期間として定められた期間を除く。)及び同項の協定で特定期間として定められた期間における連続して労働させる日数の限度を定めることができる。
④ 第三十二条の二第二項の規定は、第一項の協定について準用する。
労働基準法施行規則
第十二条の四
法第三十二条の四第一項の協定(労働協約による場合を除き、労使委員会の決議及び労働時間等設定改善委員会の決議を含む。)において定める同項第五号の厚生労働省令で定める事項は、有効期間の定めとする。
② 使用者は、法第三十二条の四第二項の規定による定めは、書面により行わなければならない。
③ 法第三十二条の四第三項の厚生労働省令で定める労働日数の限度は、同条第一項第二号の対象期間(以下この条において「対象期間」という。)が三箇月を超える場合は対象期間について一年当たり二百八十日とする。ただし、対象期間が三箇月を超える場合において、当該対象期間の初日の前一年以内の日を含む三箇月を超える期間を対象期間として定める法第三十二条の四第一項の協定(労使委員会の決議及び労働時間等設定改善委員会の決議を含む。)(複数ある場合においては直近の協定(労使委員会の決議及び労働時間等設定改善委員会の決議を含む。)。以下この項において「旧協定」という。)があった場合において、一日の労働時間のうち最も長いものが旧協定の定める一日の労働時間のうち最も長いもの若しくは九時間のいずれか長い時間を超え、又は一週間の労働時間のうち最も長いものが旧協定の定める一週間の労働時間のうち最も長いもの若しくは四十八時間のいずれか長い時間を超えるときは、旧協定の定める対象期間について一年当たりの労働日数から一日を減じた日数又は二百八十日のいずれか少ない日数とする。
④ 法第三十二条の四第三項の厚生労働省令で定める一日の労働時間の限度は十時間とし、一週間の労働時間の限度は五十二時間とする。この場合において、対象期間が三箇月を超えるときは、次の各号のいずれにも適合しなければならない。
一 対象期間において、その労働時間が四十八時間を超える週が連続する場合の週数が三以下であること。
二 対象期間をその初日から三箇月ごとに区分した各期間(三箇月未満の期間を生じたときは、当該期間)において、その労働時間が四十八時間を超える週の初日の数が三以下であること。
⑤ 法第三十二条の四第三項の厚生労働省令で定める対象期間における連続して労働させる日数の限度は六日とし、同条第一項の協定(労使委員会の決議及び労働時間等設定改善委員会の決議を含む。)で特定期間として定められた期間における連続して労働させる日数の限度は一週間に一日の休日が確保できる日数とする。
⑥ 法第三十二条の四第四項において準用する法第三十二条の二第二項の規定による届出は、様式第四号により、所轄労働基準監督署長にしなければならない。
対象期間とは、1年単位の変形労働時間制の適用単位となる「1カ月を超え1年以内」の期間です(例えば、1.5カ月や6カ月でも構いません)
特定期間とは、対象期間中の特に業務が繁忙な期間です。
実際に労働する(した)時間は、対象期間を平均すると週40時間に収まる必要があります。
そのため、対象期間における法定労働時間の総枠(所定労働時間の上限)は、次のように計算されます(平成6年1月4日基発1号)
$$40時間 × \frac{対象期間の暦日数}{7}$$
この総枠の範囲内で、対象期間における労働日および労働日ごとの労働時間を特定していきます。
ただし、労働させることのできる日数(労働日数)、1年単位の変形労働時間制のもとで労働できる時間数(労働時間)には、限度が定められています(条件については後述)。
よって、「対象期間における法定労働時間の総枠」だけでなく、「労働日数および労働時間の限度」も満たす範囲で、1年単位の変形労働時間制における所定労働時間を特定することが必要です。
なお、対象期間を平均すると法定労働時間の総枠に収まる場合でも、使用者が業務の都合によって任意に労働時間を変更するような制度は認められていません(平成6年1月4日基発1号)
したがって、次のような業務については、1年単位の変形労働時間制を適用する余地はないと解されています(平成6年1月4日基発1号)
- 例えば貸切観光バス等のように、業務の性質上1日8時間、週40時間を超えて労働させる日または週の労働時間をあらかじめ定めておくことが困難な業務
- 労使協定で定めた時間が業務の都合によって変更されることが通常行われるような業務
労使協定に規定する事項は次のとおりです(労基法32条の4、労基則12条の2、労基則12条の4)
- 1年単位の変形労働時間制の対象となる労働者の範囲
- 対象期間(1カ月を超え1年以内の期間に限る)
- 対象期間の起算日(労基則12条の2)
- 特定期間
- 対象期間における労働日および当該労働日ごとの労働時間
- 労使協定の有効期間(労働協約による場合を除く)
なお、届出についての様式(第4号)は指定されています(労基則12条の4第6項)
対象期間中の特に業務が繁忙な期間があれば、特定期間として定めます。
なお、特定期間を対象期間の途中で変更することはできないと解されています(平成11年1月29日基発45号)
対象期間における「労働日」および「労働日ごとの労働時間」を特定する方法は、大きく分けると次の2つです。
- あらかじめ、対象期間中の全ての労働日および労働日ごとの労働時間を特定しておく
- 対象期間を1カ月以上の期間ごとに区分して定める(労基法32条の4第4項)
なお、特定された労働日および労働日ごとの労働時間を対象期間の途中で変更することはできないと解されています(平成6年3月31日基発181号)
対象期間を1カ月以上の期間ごとに区分して定める方法(労使協定)
対象期間を1カ月以上の期間ごとに区分した場合は、労使協定で次の①および②を定めます(労基法32条の4第2項、労基則12条の4第2項)
(最初の期間について)
① 対象期間の初日の属する期間(最初の期間)における「労働日」および「労働日ごとの労働時間」
(最初の期間以外について)
② 最初の期間を除く各期間における「労働日数」および「総労働時間」
最初の期間以外の各期間における「労働日」および「各期間における労働日ごとの労働時間」については、その期間の始まる少なくとも30日前に、次のいずれかの同意を得て、書面により、②の範囲内で定めなければなりません。
(同意を得る相手)
同意を得る相手は、労働者の過半数で組織する労働組合の有無で分れています。
- ある場合 ⇒ その労働組合
- ない場合 ⇒ 労働者の過半数を代表する者
労使協定を締結することにより、「協定の定めるところによって労働させても労基法に違反しない」という効力が生じます(免罰的効力)
労働者の「労働する」という義務(民事上の義務)は、労使協定から直接生じるものではありません。
そのため、実際に1年単位の変形労働時間制のもとで労働させるには、労使協定の締結だけでなく、労働協約、就業規則等の根拠が必要です。
労基法89条1項は、就業規則で始業および終業の時刻を定めることと規定しているので、1年単位の変形労働時間制を採用する場合にも、就業規則において、対象期間における各日の始業および終業の時刻を定めることが必要です(平成11年1月29日基発45号)
ただし、対象期間を1カ月以上の期間ごとに区分した場合は、労働日および労働日ごとの労働時間の特定は、次の①②の順でも足りるとされています(平成11年1月29日基発45号)
対象期間を1カ月以上の期間ごとに区分して定める方法(就業規則)
① 就業規則に次の事項を定める
- 最初の期間以外の期間における勤務の種類ごとの始業・終業時刻および当該勤務の組合せについての考え方
- 勤務割表の作成手続および周知方法
② ①にしたがって、各日ごとの勤務割を次の期日までに具体的に定める
- 最初の期間について ⇒ その期間の開始前まで
- 最初の期間以外の各期間について ⇒ その各期間の初日の30日前まで
年少者、妊産婦、育児を行う者等については、1カ月単位の変形労働時間制と同様に、制限または配慮が必要とされています(詳しくはコチラの記事内で解説しています)。
また、一般職の地方公務員についても、1年単位の変形労働時間制は適用除外となっています(地方公務員法58条3項)
派遣労働者について、派遣先において1年単位の変形労働時間制で労働させるケースです。
労使協定を締結し、所要の事項を定めるのは、派遣元の使用者です(労働者派遣法44条2項後段)
なお、1年単位の変形労働時間制のもとで行われる実際の就業(労働時間、休憩、休日等)については、派遣先のみが使用者とみなされます(労働者派遣法44条2項前段)
労働日数および労働時間の限度
1年単位の変形労働時間制では、労基則12条の4で労働日数、労働時間に限度が設けられています。
そのため、労使協定においても、その限度内で労働日数、労働時間を定めることが必要です。
対象期間が3カ月を超える場合に限り、労働日数に限度が定められています(対象期間が3カ月以内であれば限度はありません)
(原則)
対象期間が3カ月を超える場合には、対象期間について「1年あたり280日」が労働日数の限度となります。
具体的には、次のように計算されます(平成11年1月29日基発45号)
$$1年あたりの労働日数の限度× \frac{対象期間の暦日数}{365日}$$
上記の式により計算して得た数が整数とならない場合は、「限度」である以上、小数点以下の端数は切り捨てます。
なお、うるう年のときも、対象期間における労働日数の限度および上記の式に変更はありません(平成11年1月29日基発45号)
旧協定がなければ、常に次の式で計算します。
\[280日× \frac{対象期間の暦日数}{365日}\]
(旧協定がある場合)
ひらたくいうと、これから締結する協定を「新協定」としたときに、前回の協定が「旧協定」です。
より正確にいうと、旧協定とは、(新協定の)対象期間の初日の前1年以内の日を含む3カ月を超える期間を対象期間として定めていた協定をいいます(1年以内に協定が複数ある場合は、直近の協定が旧協定です)
- 新協定の対象期間が3カ月を超える
- 旧協定がある
上記の場合に、次の①または②に該当するならば、「旧協定の1年あたりの労働日数から1日を差し引いた日数」と「280日」を比較して、いずれか少ない日数が労働日数の限度となります。
① 新協定で定める1日の労働時間のうち最も長いものが「旧協定の定める1日の労働時間のうち最も長いもの」もしくは「9時間」のいずれか長い時間を超えるとき
② 新協定で定める1週間の労働時間のうち最も長いものが「旧協定の定める1週間の労働時間のうち最も長いもの」もしくは「48時間」のいずれか長い時間を超えるとき
対象期間が3カ月以内の場合でも、労働時間については限度が設定されます。
(原則)
1日の労働時間の限度は10時間
1週間の労働時間の限度は52時間
(対象期間が3カ月を超える)
対象期間が3カ月を超える場合は、1日10時間、1週52時間に加え、次の①②のいずれにも該当しなければなりません。
① 対象期間において、その労働時間が48時間を超える「週」が連続する場合の週数が3以下であること
② 対象期間をその初日から3カ月ごとに区分した各期間(3カ月未満の期間を生じたときは、その期間)において、その労働時間が48時間を超える「週」の「初日」の数が3以下であること
なお、上記①②の「週」とは、暦週ではなく、対象期間の初日の曜日を起算日とする7日間をいいます(平成11年3月31日基発169号)
また、上記②の「その労働時間が48時間を超える週の初日の数」については、区分した各期間における最後の週の末日が当該各期間に属する日でなくとも、当該週の初日が②でいう「初日」として取り扱われます(平成11年1月29日基発45号)
(暫定措置)
1年単位の変形労働時間における労働時間の限度については、次のような暫定措置が設けられています。
積雪地域の建設業の屋外労働者等については、当分の間、対象期間が3カ月を超える場合でも(週48時間を超える週の制限は適用されず)、労働時間の限度は1日10時間、1週52時間とされています(労基則65条)
一定の業務に従事する隔日勤務のタクシー運転者については、当分の間、1日の労働時間の限度は16時間とされています(労基則66条)
対象期間が3カ月以内の場合でも、連続して労働させる日数には限度が設定されます。
対象期間について
⇒ 6日
特定期間について
⇒ 1週間に1日の休日が確保できる日数(12日)
1年単位の変形労働時間制における時間外労働
1年単位の変形労働時間制を採用しても、各日または各週において労働できる時間の限度は、基本的には労使協定によって定めた時間までです。
ただし、労基法33条または労基法36条に基づき、時間外労働(いわゆる法定外残業)として労働させることはできます。
なお、「変形労働時間制を採用する = 時間外労働が可能となる」ではありません。
そのため、労基法36条に基づく時間外労働には、1年単位の変形労働時間制についての労使協定とは別に、時間外労働に係る労使協定(36協定)が必要です。
以降の「時間外労働」は、「労基法36条に基づく時間外労働」を意味しています。
① 1日についての時間外労働
1日については、労使協定により8時間を超える労働時間を定めた日はその時間、それ以外の日は8時間を超えて労働させた時間です(平成6年1月4日基発1号)
例えば、労使協定により、ある日の労働時間を原則としての限度時間である「10時間」と定めたケースでは、10時間を超えた時間が時間外労働となります。
また、8時間以内の時間(例えば、7時間45分など)を定めたケースでは、8時間を超えた時間が時間外労働です。
② 1週間についての時間外労働
1週間については、労使協定により40時間を超える労働時間を定めた週はその時間、それ以外の週は40時間を超えて労働させた時間です。ただし、①で時間外労働として計上した時間は除きます(平成6年1月4日基発1号)
例えば、労使協定により、ある週の労働時間を原則としての限度時間である「52時間」と定めたケースでは、52時間を超えた時間が時間外労働となります。
また、40時間以内の時間(例えば、38時間45分など)を定めたケースでは、40時間を超えた時間が時間外労働です。
ただし、1週間について時間外労働となる時間のうち、①で時間外労働として計上した時間があれば②の時間から差し引きます。
③ 対象期間についての時間外労働
$$40時間 × \frac{対象期間の暦日数}{7}$$
対象期間の全期間については、対象期間における法定労働時間の総枠を超えて労働させた時間です。ただし、①または②で時間外労働として計上した時間は除きます(平成6年1月4日基発1号)
なお、③についての割増賃金は、一般的には(対象期間の終了を待たずに法定労働時間の総枠を超えた場合を除けば)対象期間の終了時点で初めて確定するため、対象期間が終了した直後の賃金支払期日に支払えば足りるとされています(平成9年3月25日基発195号)
対象となるのは、1年単位の変形労働時間制により労働させた期間が対象期間よりも短い労働者です。
例えば、対象期間の途中で退職が生じた場合です。対象期間は終了していませんが、「実際に労働した期間」について法定労働時間の総枠を考慮するイメージです。
1年単位の変形労働時間制により労働させた期間を平均したときに、1週間あたりの労働時間が40時間を超えるならば、超えた時間(すでに時間外労働または休日労働として計算した時間を除く)については、労基法37条の規定の例により割増賃金の支払いが必要となります(労基法32条の4の2)
「労基法37条の規定の例により」とは、割増賃金の算定基礎賃金の範囲、割増率、計算方法等がすべて労基法37条の場合と同じという意味です(平成11年1月29日基発45号)
なお、この割増賃金を支払わない場合は、(労基法37条の違反とはならなくとも)労基法24条(全額払の原則)に違反することになります(平成11年1月29日基発45号)
第三十二条の四の二
使用者が、対象期間中の前条の規定により労働させた期間が当該対象期間より短い労働者について、当該労働させた期間を平均し一週間当たり四十時間を超えて労働させた場合においては、その超えた時間(第三十三条又は第三十六条第一項の規定により延長し、又は休日に労働させた時間を除く。)の労働については、第三十七条の規定の例により割増賃金を支払わなければならない。
1年単位の変形労働時間制は、使用者が業務の都合によって任意に労働時間を変更することがないことを前提とした制度です。
そのため、通常の業務の繁閑等を理由として休日の振替が通常行われるような場合は、1年単位の変形労働時間制を採用できません(平成11年3月31日基発168号)
ただし、労働日の特定時には予期しない事情が生じ、やむを得ず休日の振替を行う場合までも認めない趣旨ではないとされています(平成11年3月31日基発168号)
やむを得ず休日の振替を行う場合は、次のいずれもを満たさなければなりません(平成11年3月31日基発168号)
- 就業規則で休日の振替がある旨の規定を設け、あらかじめ休日を振り替えるべき日を特定して振り替える
- 対象期間(特定期間を除く)において、連続する労働日数が6日以内となる
- 特定期間においては、1週間に1日の休日が確保できる範囲内にある
また、やむを得ず休日の振替を行った場合にも、時間外労働となる時間を考慮しなければなりません。
例えば、休日の振替を行った結果、労使協定により8時間を超える労働時間(例えば、1日の限度である10時間)を定めた日が休日となり、当初は休日とされていた日が労働日になったとします。
当初の休日は、あらかじめ8時間を超える労働時間が定められた日ではないため、(10時間ではなく)1日8時間を超えて労働させた場合には、その超える時間は時間外労働となります。
ここまでの解説のとおり、制度の運用は単純ではありません(当記事では解説していない、時間外労働の上限規制等も考慮が必要です)。
社労士試験においては、1年単位の変形労働時間制にのみ時間を費やすわけにはいかないので、過去問を中心に頻出論点から勉強するとよいでしょう。
合格してからも勉強はできます!(筆者も合格した後に繰り返し勉強しています)
最後に、この記事をまとめて終わりにします。
1年単位の変形労働時間制を採用するためには、「労使協定」により、次の事項を明らかにする。
- 1年単位の変形労働時間制の対象となる労働者の範囲
- 対象期間(1カ月を超え1年以内の期間に限る)
- 対象期間の起算日(労基則12条の2)
- 特定期間
- 対象期間における労働日および当該労働日ごとの労働時間
- 労使協定の有効期間(労働協約による場合を除く)
1年単位の変形労働時間制を採用すると、特定された週または日において、法定労働時間を超えて労働させることができる。
ただし、対象期間(1カ月を超え1年以内の期間)を平均したときに、1週間あたりの労働時間が40時間に収まらなければならない。
なお、1年単位の変形労働時間制には、法定労働時間の特例(週44時間)は適用されない(労基則25条の2第4項)。
対象期間における法定労働時間の総枠
= 40時間 × (\(\frac{対象期間の暦日数}{7}\))
労働日数の限度( 対象期間が3カ月を超える場合)
⇒(原則)1年あたり280日
1日および1週間の労働時間の限度
⇒(原則)1日10時間、1週52時間
連続して労働させることができる日数
⇒ 6日
⇒ 特定期間は1週間に1日の休日が確保できる日数(12日)
1年単位の変形労働時間制において、時間外労働となるのは次の①~③のとおり。
- 1日については、8時間を超える時間を定めた日はその時間、それ以外の日は8時間を超えて労働した時間
- 1週間については、40時間を超える時間を定めた週はその時間、それ以外の週は40時間を超えて労働した時間。ただし、①で時間外労働とした時間は除く
- 対象期間については、対象期間における法定労働時間の総枠を超えて労働した時間。ただし、①または②で時間外労働とした時間は除く
(参考資料等)
厚生労働省|厚生労働省法令等データベースサービスより|https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/kensaku/index.html
- 労働基準法32条の4、32条の4の2、120条
- 労働基準法施行規則12条の2、12条の4
- 昭和63年1月1日基発1号(改正労働基準法の施行について)
- 平成6年1月4日基発1号(労働基準法の一部改正の施行について)
- 平成11年1月29日基発45号(労働基準法の一部を改正する法律の施行について)
厚生労働省|リーフレット|1年単位の変形労働時間制
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000056460.html
厚生労働省|東京労働局ホームページ|1年単位の変形労働時間制導入の手引き
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/roudoukijun_keiyaku/newpage_00379.html
解釈例規(昭和63年3月14日基発150号)