社労士試験の独学|労基法|退職時等の証明、金品の返還

まえがき

この記事では、労働基準法の「労働契約」から次の事項を解説しています。

  • 退職時等の証明(22条)
  • 金品の返還(23条)

社会保険労務士試験の独学、労務管理担当者の勉強などに役立てれば嬉しいです。

当記事は、条文等の趣旨に反するような極端な意訳には注意しておりますが、厳密な表現と異なる部分もございます。

詳しくは免責事項をご確認ください。

退職時等の証明(22条)

請求と交付

労基法22条は、いわゆる退職証明書についての規定です。

労働者が請求した場合に証明書の交付を義務付けるとともに、労働者の再就職を妨害するために第三者と謀ること(いわゆるブラックリスト)を禁止しています。

加工前の条文はタブを切り替えると確認できます。

労働基準法22条

① 退職証明書の交付|

労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。

② 解雇理由証明書の交付|

労働者が、解雇の予告(労基法20条1項)がされた日から退職の日までの間において、当該解雇の理由について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。

ただし、解雇の予告がされた日以後に労働者が当該解雇以外の事由により退職した場合においては、使用者は、当該退職の日以後、これ(②の証明書)を交付することを要しない。

③ 証明書に記入してはならない事項|

①および②の証明書には、労働者の請求しない事項を記入してはならない。

④ ブラックリストによる就業妨害の禁止|

使用者は、あらかじめ第三者と謀り、労働者の就業を妨げることを目的として、労働者の国籍、信条、社会的身分若しくは労働組合運動に関する通信をし、又は①および②の証明書に秘密の記号を記入してはならない。

労働基準法

第二十二条

労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。

② 労働者が、第二十条第一項の解雇の予告がされた日から退職の日までの間において、当該解雇の理由について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。ただし、解雇の予告がされた日以後に労働者が当該解雇以外の事由により退職した場合においては、使用者は、当該退職の日以後、これを交付することを要しない。

③ 前二項の証明書には、労働者の請求しない事項を記入してはならない。

④ 使用者は、あらかじめ第三者と謀り、労働者の就業を妨げることを目的として、労働者の国籍、信条、社会的身分若しくは労働組合運動に関する通信をし、又は第一項及び第二項の証明書に秘密の記号を記入してはならない。


一般的には、①の証明書を「退職証明書」、②の証明書を「解雇理由証明書」といいます。

①②どちらとも、労働者が請求した場合には、使用者は遅滞なく交付しなければなりません。

証明書の様式

結論としては、様式は任意です。

参考様式は厚生労働省より提供されています。

参考|厚生労働省(外部サイトへのリンク)|退職事由に係るモデル退職証明書

なお、上記は「退職事由に係るモデル退職証明書」です。労働者からの請求に応じて、労基法22条で定める事項も記載が必要となります。

罰則

次のように分かれます。

  • 法22条1項から第3項(①〜③)までの規定に違反した者は、30万円以下の罰金に処せられます(労基120条)
  • 法22条4項(④ブラックリストによる就業妨害の禁止)に違反した者は、6カ月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられます(労基法119条)

労働者が請求しない事項(3項)

請求しない事項は記載しない

証明書に記載しなければならない事項(法定記載事項)を解説する前に、第3項を説明します。

証明書には、労働者が請求した事項のみを記載すべきとされています。

そのため、労働者の請求しない事項(例えば、証明書に記載しないでほしいと労働者が希望する事項)については、法定記載事項であっても記入は禁止されます。

例えば、解雇された労働者が「解雇の事実」のみに限定して、使用者に証明書を請求した場合です。

上記の場合において、使用者は、「解雇の理由」を証明書に記載してはならず、「解雇の事実」のみを証明書に記載する義務があります(平成11年1月29日基発45号)


退職時の証明(1項)

退職時の証明(いわゆる退職証明書)には、第3項に該当しない限り、次の5つの事項(法定記載事項)を記載しなければなりません。

  • 使用期間
  • 業務の種類
  • その事業における地位
  • 賃金
  • 退職の事由(解雇の理由を含む)

退職時の証明についての請求権の時効は、労基法115条により「2年」と解されています(平成11年3月31日基発169号)

ちなみに、退職時の証明を労働者が請求できる回数については制限されていません(前掲通達)。

退職の事由、解雇の理由

通達によると、次のように示されています(平成11年1月29日基発45号)

退職の事由」とは、自己都合退職、勧奨退職、解雇、定年退職など、労働者が身分を失った事由をいう。また、解雇の場合には、当該「解雇の理由」も「退職の事由」に含まれる。

解雇の理由」については、具体的に示す必要があり、就業規則の規定に該当することを理由として解雇した場合には、「就業規則の当該条項の内容」および「当該条項に該当するに至った事実関係」を証明書に記入しなければならない。

雇用保険の離職票

雇用保険の離職票を交付することで、「使用者は法22条1項の義務を果たした」といえるのかの解釈です(平成11年3月31日基発169号)。

退職時の証明書は、労働者が次の就職に役立たせる等その用途は労働者にゆだねられているが、離職票は公共職業安定所に提出する書類であるため、退職時の証明書に代えることはできない。

労使間における見解の相違
  • 使用者が労働者に口頭で告げた解雇事由と退職時の証明書に記載された解雇事由とが異なっていた場合
  • 労使問で「労働者の退職の事由」について見解の相違がある場合

上記の場合に、使用者が自らの見解を記載した証明書を交付することで、「使用者は法22条1項の義務を果たした」といえるのかの解釈です(平成11年3月31日基発169号)

労働者と使用者との問で退職の事由について見解の相違がある場合、使用者が自らの見解を証明書に記載し労働者の請求に対し遅滞なく交付すれば、基本的には法22条1項違反とはならない。

ただし、記載した事項が虚偽であった場合(使用者がいったん労働者に示した事由と異なる場合等)には、法22条1項の義務を果たしたことにはならない。

実際問題としては、トラブルを防ぐ意味でも、解雇については書面で通告するケースが一般的です。しかしながら、たとえ口頭による通告だとしても証明書に虚偽の記載をしてはなりません。


解雇予告から退職日までの証明(2項)

解雇理由証明書の請求の時期

第2項に基づく証明書は、一般的には「解雇理由証明書」といわれています。

記載しなければならない事項(法定記載事項)は「解雇の理由」です。

また、退職時の証明と同様に、証明書の様式は指定されていません。

「解雇の理由」については、労基法22条1項(退職時の証明)に基づく請求における場合と同様に、具体的に示す必要があります(平成15年10月22日基発1022001号)

なお、「労働者が請求しない事項」については第3項の解説のとおりです。

「解雇理由証明書」については、先ほどの「退職事由に係るモデル退職証明書」と重複する内容も多いため、参考までにリンクを掲載しておきます。

参考|東京労働局ホームページ(外部サイトへのリンク)|解雇理由証明書


証明書についての請求と予告期間の満了

労働者が「解雇の理由についての証明書の請求」を解雇予告の期間中に行ったが、使用者が請求書を交付する前に予告期間が満了(解雇)となるケースです。

通達では次のように整理しています(平成15年10月22日基発1022001号)

労働者が解雇予告の期間中に、「解雇の理由について証明書」を請求した場合は、当該解雇予告の期間が経過しても、使用者は法22条2項に基づく証明書(解雇理由証明書)の交付義務を負う。

上記の場合、労働者は、当該解雇予告の期間が経過したからといって、改めて、法22条1項に基づく解雇の理由についての証明書(解雇の理由が記載された退職証明書)を請求する必要はない。

なお、解雇予告の期間中でも、証明書を請求した日以後に、労働者が解雇以外の事由で退職(例えば、解雇を待たずに任意退職)した場合は、解雇理由証明書の交付は必要ありません(労基法22条2項ただし書き、平成15年10月22日基発1022001号)

即時解雇の場合

即時解雇の通知後に、労働者が「解雇の理由についての証明書」を請求するケースです。

通達では次のように解しています(平成15年10月22日基発1022001号)

法22条2項の規定は、解雇予告の義務がない「即時解雇」の場合には、適用されない。

(上記のケースでは)使用者は、法22条1項に基づいて、解雇の理由についての証明書(解雇の理由を記載した退職証明書)の交付義務を負うものと解す。

「証明書の名称」ではなく、請求の実態に即して交付すべき……といったところでしょうか。

ちなみに、労基法22第2項は、解雇をめぐる紛争を未然に防止し、その迅速な解決を図ることを目的とした規定です(平成15年10月22日基発1022001号)


ひととおり「証明書」を整理すると、次のようになります。

解雇予告~予告期間の満了まで

  • 解雇(しようとする)理由についての証明書
    ⇒解雇理由証明書

解雇予告の期間を満了した後

  • 解雇(した)理由を記載した証明書
    ⇒解雇の理由を記載した退職証明書

解雇予告の期間中に労働者から労働契約を終了させる場合

  • 退職した証明書
    ⇒退職証明書

ブラックリストによる就業妨害の禁止(4項)

国籍、信条、社会的身分、労働組合運動
労基法22条4項の趣旨

第4項は、いわゆるブラックリストの回覧のように、あらかじめ計画的に就業を妨げることを禁止する趣旨である(昭和22年9月13日発基17号)

以降は、労基法22条1項の証明書を「退職証明書」、2項の証明書を「解雇理由証明書」と表現を統一して解説します。

使用者は、①あらかじめ第三者と謀り労働者の就業を妨げることを目的として、次の4つに関する通信(インターネットに限らず情報を伝えること)をしたり、退職証明書や解雇理由証明書に秘密の記号を記入してはなりません。

  • 国籍
  • 信条
  • 社会的身分
  • 労働組合運動

禁止される事項は例示ではなく、上記の4つに限定されます(昭和22年12月15日基発502号)

そのため、国籍、信条、社会的身分、労働組合運動に関する事項を記載していないブラックリストについて、本条に抵触しないとした解釈例があります(昭和24年9月12日基収2716号)

また、事前の申し合せに基づかないで、個々の具体的な照会に対して回答することは(本条においては)差し支えないと解されています(昭和22年9月13日発基17号)

実務上の疑義が生じた場合は、専門家等に相談して下さい。

ただし、個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)等に基づき適法におこなわれる必要はあります。なお、厚生労働省の「公正な採用選考の基本」によると、いわゆる身元調査などは、採用選考時に配慮すべき事項にあげられています。

参考|厚生労働省(外部サイトへのリンク)|公正な採用選考の基本

「事前の申し合せに基づかない個々の具体的な照会」については(回答することも含めて)、社労士試験の試験勉強と実際問題を区別したほうが無難かもしれません。


金品の返還(23条)

請求から7日以内に返還

退職を申し出た労働者に対する足止めの防止、退職等にともなう賃金の支払いや金品の返還を早期に清算することが目的です。

労働基準法23条

使用者は、労働者の死亡又は退職の場合において、権利者の請求があった場合においては、7日以内に賃金を支払い、積立金、保証金、貯蓄金その他名称の如何を問わず、労働者の権利に属する金品を返還しなければならない。

② 前項の賃金又は金品に関して争がある場合においては、使用者は、異議のない部分を、同項の期間中に支払い、又は返還しなければならない。

労基法23条1項の「権利者」には一般債権者は含まれません(昭和22年9月13日発基17号)

  • 労働者が退職した場合は、労働者本人です
  • 労働者が死亡した場合は、原則として相続人です(昭和25年7月7日基収1786号)

金品の返還

簡単にいうと、「金品」に「物」は含まれるか否かです。

住み込みで働いていた労働者が退職を申し出たことにより、使用者は、退職までの食事代等を要求し、支払いが完了するまでは「労働者が所有するふとん、衣類等を返還しない」とした事例があります(昭和41年2月2日 39基収8818号)

上記の事例では、「本件のふとん、衣類等は、労働者の権利に属する金品に該当する」と示しています(前掲通達)

外国人労働者の退職について

簡単にいうと、外国人労働者が退職して帰国する場合です。

労基法の定めではないものの、指針(*)に次のように示されています。

返還の請求から7日以内に外国人労働者が出国する場合には、出国前に返還すること(平成19年8月3日厚生労働省告示276号)

(*)外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針

罰則

労基法23条の規定に違反した者は、30万円以下の罰金に処せられます(労基120条)


退職手当の支払時期

退職手当(いわゆる退職金)は、労働協約、就業規則、労働契約等であらかじめ支給条件が明確なものは、労基法11条の賃金です(昭和22年9月13日発基17号)

そこで、「賃金」に該当する退職手当についても、権利者から請求があれば7日以内に支払うことが必要なのかが問題となります。

通達によると、「退職手当は、通常の賃金と異なり、あらかじめ就業規則等で定められた支払時期に支払えば足りるものである」と解されています(昭和63年3月14日基発150号)

あくまで、労働者の死亡または退職の場合における「退職手当」についての解釈です。

通常の賃金(いわゆる給料)については、権利者からの請求があれば7日以内に支払う必要があります。

労働者の死亡における退職金

相続人が数人いる場合に、次の①②の疑義が生じています。

  • 会社が就業規則等で、民法の定めと異なる相続順位(事例では遺族補償を受けるべき者の順位)を定めている場合は違法となるのか
  • 会社は、数人いる相続人の各人に分割して支払う義務があるのか

通達では次のように整理しています(昭和25年7月7日基収1786号)

労働者が死亡したときの退職金の支払いついて別段の定めがない場合には、民法の一般原則による相続人に支払う趣旨と解される。

①労働協約、就業規則等において民法の相続の順位によらず、労働基準法施行規則の遺族補償を受けるべき順位による旨定めても違法ではない。

②同順位の相続人が数人いる場合についても、別段の定めがあれば定めにより、ない時は共同分割による趣旨と解される。

使用者は、相続人がはっきりしない場合など、民法494条の定めに該当するならば、請求のあった日から7日以内に供託するという選択も考えられます。


まとめ

ここまで労働基準法の「労働契約」に関する次の事項を解説しました。

  • 退職時等の証明(22条)
  • 金品の返還(23条)

労働契約の終了にともなう手続きは、解雇の予告(20条)や労働契約法と合わせて整理しておきたい分野です。

社労士試験の勉強においては、過去問題集で既出の論点を把握し、問題を解きつつ知識をインプットしてみてください。

最後に、この記事で解説した条文を確認して終わりにします。

この記事で解説した条文

労基法22条(退職時等の証明

(いわゆる退職証明書の交付)

① 労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。

(いわゆる解雇理由証明書の交付)

② 労働者が、解雇の予告(労基法20条1項)がされた日から退職の日までの間において、当該解雇の理由について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。

ただし、解雇の予告がされた日以後に労働者が当該解雇以外の事由により退職した場合においては、使用者は、当該退職の日以後、これ(②の証明書)を交付することを要しない。

③ ①および②の証明書には、労働者の請求しない事項を記入してはならない。

(いわゆるブラックリストによる就業妨害の禁止)

④ 使用者は、あらかじめ第三者と謀り、労働者の就業を妨げることを目的として、労働者の国籍、信条、社会的身分若しくは労働組合運動に関する通信をし、又は①および②の証明書に秘密の記号を記入してはならない。

労基法23条(金品の返還)

使用者は、労働者の死亡又は退職の場合において、権利者の請求があった場合においては、7日以内に賃金を支払い、積立金、保証金、貯蓄金その他名称の如何を問わず、労働者の権利に属する金品を返還しなければならない。

② 前項の賃金又は金品に関して争がある場合においては、使用者は、異議のない部分を、同項の期間中に支払い、又は返還しなければならない。


(参考資料等)

厚生労働省|厚生労働省法令等データベースサービスより|https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/kensaku/index.html

  • 労働基準法22条、23条、119条、120条
  • 昭和22年9月13日発基17号(労働基準法の施行に関する件)
  • 平成11年1月29日基発45号(労働基準法の一部を改正する法律の施行について)
  • 平成15年10月22日基発1022001号(労働基準法の一部を改正する法律の施行について)
  • 平成19年8月3日厚生労働省告示276号

厚生労働省|労働契約の終了に関するルール 6より|https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudouseisaku/chushoukigyou/keiyakushuryo_rule.html

  • 適切な労務管理のポイント

解釈例規(昭和63年3月14日基発150号)

通達(平成11年3月31日基発169号)