私は、独学で2021年(第53回)の社会保険労務士試験(以下、社労士試験)に合格しています。
しかし、社労士試験の勉強方法やスケジュールをイメージするのに苦労しました。
そのため、社労士試験に独学で挑む同士へ向けて「社労士試験のロードマップ」を作成します。
合格体験記の要素を含んでいますが、社労士試験の独学を検討している人への素案となればうれしいです。
①試験日までの全体像
上図は、私が実際に独学した、社労士試験の勉強期間10か月をモデリングしたロードマップです。
はじめに、独学での約10か月間をタイムラインで紹介します。
お勧めテキストの紹介はありませんが、参考までに使用した教材も載せておきます。
いま、このブログを見ているように、ネットなどで試験についての情報を集めます。
例えば、「社労士試験の公式サイト」や「独学での合格体験記」を読み、近年の社労士試験についての傾向を探ります。
TACやLECなど、シリーズ展開されている教材です(いわゆる基本書です)。
使用した教材
- 読めばわかる!社労士テキスト(2021年対策) 合格のミカタシリーズ(大原)
- 解けばわかる!社労士問題集(2021年対策) 合格のミカタシリーズ(大原)
※残念ながら、2022年度の試験を最後に改版されていません。
過去問で頻出論点を把握します。
使用した教材
- 2021年版 出る順社労士 一問一答過去10年問題集(LEC)
- 2021年対策解いて覚える!社労士選択式トレーニング問題集(大原)
市販の模試は、いわゆる本屋などで購入できる模擬試験です。
スクールの模試は、各予備校などで開催しているものです(受験日に拘束されたくないので自宅で受験しています)。
使用した教材
- 2021年版 出る順社労士 当たる!直前予想模試(LEC)
- 全日本社労士公開模試(LEC)
論点の横断学習も兼ねます。
統計結果の概要や白書は、試験直前にまとめて読むのではなく、厚生労働省のホームページに日頃から目を通しました。
一応、5月頃には次のテキストを購入しています。
使用した教材
- 2021年度版よくわかる社労士 別冊 合格テキスト 直前対策 一般常識・統計/白書/労務管理(TAC)
ここまで使用したテキストや問題集を利用して「基礎」を中止に復習します。
受験年度から2~3年ほど遡る範囲の法改正についても、厚生労働省のホームページ等で確認します。
下表は、合格するまでにこなした勉強量の要約です。
教材 | 内容 | 回数 |
テキスト | 網羅的に読む | 3回 |
択一式の問題集 | 全問を解答 | 3回 |
一問一答の問題集 | 曖昧な分野の復習 | 最大10回 |
選択式の問題集 | 全問を解答 | 3回 |
選択式の問題集 | 曖昧な分野の復習 | 最大7回 |
統計・白書対策のテキスト | 流し読み | 3回 |
市販の模試 | 時間を計り解答 | 2回 |
スクールの模試 | 自宅受験 | 4回 |
勉強時間は10か月で約1,000時間こなしています(受験回数は1回)。
ただし、受験時で実務経験が10年以上あるため、試験勉強に対して有利に働いています。
成績はタイトルにあるとおり、選択式37点、択一式55点、救済なしで合格です(成績表等はこちら)。
もちろん、必要な時間は経験や環境にも左右されます。
しかし、長期間の勉強が有利になるとは限らない試験です。
理由は4つあります。
- 試験範囲が広いため記憶の維持に復習が必要
- 毎年度、法改正がある
- 時限的な制度は、覚えては忘れる必要もある
- 合格率が7%前後の競争試験
「広い試験範囲を〇〇時間で覚える」というよりも、受験する年に、上位7%前後に入るための知識が必要です。
試験年度(年) | 受験者数(名) | 合格者数(名) | 合格率 |
2022 | 40,633 | 2,134 | 5.3% |
2021 | 37,306 | 2,937 | 7.9% |
2020 | 34,845 | 2,237 | 6.4% |
2019 | 38,428 | 2,525 | 6.6% |
2018 | 38,427 | 2,413 | 6.3% |
参考|厚生労働省(外部サイトへのリンク)|社会保険労務士試験の合格者等の推移
勉強方法の詳細はそれなりの長文となるため、当記事とは別の記事にまとめています。
以下が当ブログで解説している、社労士試験のロードマップについてです。
当記事です。
他にも、次のような入門的な内容も記事にしています。
独学が続かない人は見て!スケジュールの立て方と管理のコツスケジュールの立て方と管理のコツを紹介しています。
社労士試験に独学で挑戦!はじめの一歩|試験科目|合格基準点|配点と傾向社労士試験に初めて挑戦する方向けに、試験科目と配点をまとめています。
STEP②のテキスト・問題集とは別に、頻出の分野を繰り返し解くために使用します。
一般常識科目から労働に関する分野を解説しています。
模擬は受けるだけでなく、これまで勉強してきた総復習としても利用します。
以降、各教材を使用した勉強方法を要約して紹介します。
②テキスト・問題集(シリーズもの)
一般的には、テキストを最初に選び、そのテキストと同じシリーズの問題集(いわゆる基本書)をセットで購入して勉強を始めます。
そこで、独学しようにも教材選びに迷ってしまう…のために、テキストや問題集を選びの手順を紹介します。
- 「索引」から知っている用語を探す
- 説明文の表現方法を確認する
- 数ページめくり、内容が「分かる」「分からない」「なんとなく分かる」の比率が同じくらいの教材を選択する。
①について|
なんとなく先頭ページからペラペラめくるよりも、「索引」を利用してテキストの使用感を確認します。
②について|
確認したい事項は下の2つです。
- 「ですます調」or「である調」
- 制度の解説は「条文を加工した表現」or「条文そのもの」
用語や制度の解説が、自分になじむ表現だと、読むことが苦になりにくいでしょう。
ちなみに、私は何かの独学を始める際は、「ですます調」「条文を加工した表現」を好んで教材を選んでいます。
③について|
次のように選択してみてください。
- 「分かる内容ばかり…」 ⇒ 易しすぎるので1ランク難しい教材
- 「分からないことだらけ…」 ⇒ 無理せず1ランク易しい教材
例えば、「入門書」を読むか否かが一つの基準になります。
- 問題文と解説が、左右見開きタイプの教材を選択する
- 数問解いてみて、「分からない…」問題の解説文を読む
- 解説文が参照するテキストのページをたどり、テキストの本文を読む
- 上記①~③の手順で「分からない…」ことが解決した教材を選択する
①~④の手順は、いわゆる基本書はシリーズで揃え、選択式や過去問の問題集を別に購入する際にも活用できます。
①について|
最近の教材は、左ページに問題文、右ページに解説文のレイアウトが多いため問題ないかと。
②~④について|
実際の試験勉強と同じ手順です。
これから使用する教材なので、実際の勉強と同じ手順で使用感を確認します。
問題集の解説文については、限られたスペースで制度や条文等の趣旨を詳細に記載することは難しいです。
ただし、「問題文」と同一の解説を繰り返す教材は、避けるようにしています。
例えば、次のような解説文です。
問題文
「労働基準法13条は、労働基準法で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とすると定めている」〇か✕か
解説文
〇である。
労働基準法13条は、「労働基準法で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする」と定めている。
「全ての解説文に!」とは言わないものの、「試験では、ここも問われたよ!」や「ここと混同しやすいよ!」も教えてほしいものです。
ただし、全ての人にとって完璧な教材は存在しません。
どうしても迷う場合は、「よくない点」よりも「よい点」を探してみてください。
テキストと問題集を使った勉強方法の要約です。
スケジュールとしては、勉強開始から3か月が経過する頃まで といったところです。
テキストと問題集(基本書)
STEP.11周目|テキストで試験の全体像を把握する
まずは試験範囲の全体像を把握します。
コツは、詳細を暗記するよりも概要の理解を優先させることです。
STEP.22周目|問題集を解く + テキストを読む
テキストを暗記してからではなく、問題集を解きつつ理解度を確認します。
コツは、「テキストを読む ⇒ 問題を解く」ではなく、「問題を解く ⇒ 解けない部分のテキストを読む」です。
STEP.3周回|問題集の反復 + 間違える論点をテキストで確認
網羅的に周回するよりも理解度の低い論点を中心に勉強します。
コツは、分かることを深堀するより、分からないことを減らすイメージです。
③一問一答・選択式の問題集
一問一答の問題集は、頻出論点を把握するために使用します。
- 頻出論点を把握できた ⇒ 頻出なので、勉強時間を優先的に費やす対象が分かる。
- 頻出論点を把握できた ⇒ 頻出以外の論点を区別できる。
社労士試験は過去問の焼き直しがあります。そのため、頻出論点の繰り返し学習は有効です。
ただし、一問一答については、次のようなデメリットとしても捉える事もできます。
- 頻出論点を繰り返し解くため時間がかかる。
- 頻出論点以外の問題も解くため効率が落ちる。
過去問 = 既出の論点です。
そして、社労士試験は相対評価の競争試験です。
他の受験生も知っているであろう論点で後れは取れないので、一問一答で過去問を徹底的に勉強します。
一方で、選択式の問題集は、条文をベースとした問題が中心です。
「問題を解くこと」が「テキストや条文を読むこと」にもつながります。
勉強の手順を簡単に説明します。
一問一答の問題集
STEP.1一問一答の問題集で難問・奇問を把握する
本番の試験では、難問・奇問は華麗にスルーします。
- 数年おきに繰り返し出題されている問題 ⇒ 頻出なので繰り返し解く
- 10年に一度の問題 ⇒ 難問・奇問と認定し、深入りしない
一問一答の問題集は、5肢を論点ごとに分解して掲載しているため、各論点の出題頻度を確認しながら問題を解きます。
STEP.2難問・奇問を除いて周回する
難問・奇問を把握できたら、それ以外の論点を徹底的に勉強します。
言い換えると、難問・奇問は後回しです。
選択式の問題集
STEP.1過去問から解く
判例問題、統計・白書問題について、本試験レベルの問題を確認します。
また、数値の問われ方など、暗記の対象を把握します。
STEP.2解けない問題を中心に周回する
勉強する順番は、択一式 ⇒ 選択式です。
択一式の勉強で理解しきれていない分野を中心に、選択式の問題集を繰り返します。
④一般常識科目、統計・白書の対策
主に、次の2つの試験科目で統計・白書を勉強します。
- 労務管理その他の労働に関する一般常識(以下、労一)
- 社会保険に関する一般常識(以下、社一)
世間の一般常識ではなく、労働と社会保険の分野についての一般常識です。
社労士試験の独学においては、労一が難所です。
白書については、暗記するには厳しい情報量です(ココが出る!と的を絞るのも難しいです)。
白書を試験科目で大別すると、次のようになります。
- 労一 ⇒ 労働経済白書
- 社一 ⇒ 厚生労働白書
両白書は、厚生労働省のホームページでも公開されています。
そのため、できれば試験直前にまとめて読むのではなく、日頃からコツコツ読み進めたいものです。言うは易く行うは難しですがね……。
「労一」「社一」に分けて、下のタブに格納しておきます。
労一の学習範囲は次の3つで構成されています。
- 労働関係法規
- 労働経済(統計・白書)
- 労務管理
このうち、労働関係法規は、労働契約法、社会保険労務士法の勉強が最優先です。
本試験でも毎年のように出題されています。
また、労働契約法は労働基準法とも関わりが深い法律なので、勉強は必須です。
労務管理は用語の暗記です。
「科学的管理法といえばテイラー」と暗記しても、「テイラーの科学的管理法を活用し業務プロセスを標準化しなさい」のようには出題されません。
労働関係法規と労務管理は、テキストと過去問題集で勉強できます。
そのため、当ブログの労一対策は「統計・白書」対策をメインに解説しています。
社一も統計・白書対策をおこないます。
ただし、労一と比較すると、社一は次の範囲から安定して出題されています。
- 国民健康保険法
- 高齢者医療確保法
- 介護保険法
- 船員保険法
- 児童手当法
- 確定給付企業年金法
- 確定拠出年金法
勉強の流れは、次の①②の順です。
①一問一答の問題集で頻出論点を把握
②未出題の論点を、選択式の問題集、テキストで確認する
勉強する範囲は広くとも、勉強すべき対象は概ね決まっているイメージです。
そのため、当ブログでは、「統計・白書」対策は「労一」のみを解説しています。
労一の統計・白書対策の進め方について、下のタブ内に簡単にまとめています。
問われる数値や傾向を把握します。
試験日までに覚えるべきことをまとめます。
試験直前期にまとめて勉強ではなく、日頃からコツコツと短い時間を積み重ねます。
新年度に対応した社労士試験のテキスト・問題集が出版される時期には、未公表の統計も存在します。
そのため、社労士試験の詳細が官報で公示(例年4月中旬)された後に、直前対策として統計・白書を勉強する流れが一般的です。
当ブログも微力ながら独学者をサポートするために、次の3つを掲載しています。
暗記は試験直前にもできるので、早めに統計・白書の勉強をイメージしておくことを勧めます。
⑤市販・スクールの模試
模試を受ける目的は人によりけりです。
- 本試験のシュミレーション
- 弱点の把握
- 受験のプロにあやかり、出題論点を予想する
まだまだありそうですが、この3つは当たらずとも遠からずのイメージでしょう。
私は、本試験当日にライバルとなる受験者が、「どの程度の精度で、社労士試験に臨んでくるのか」を推定するために模試を受験しています。
そのため、本試験レベルに近いと評判のLECの模試を受験しています。
模擬試験
STEP.1模試を受ける目的を明確にする
模試受ける目的によって、どの会社(スクール)の模試を受けるかは変わります。
私は、本試験の出題予想に重きを置きませんでした(予想が当たればラッキー程度です)。
自分の実力を計るために模試を活用しています。
STEP.2本試験のシュミレーションをする
「見直し」をするための時間を事前に確保してから試験問題を解きます。
また、試験科目について解答する順序を決めておきます。
STEP.3模試をつかって総復習
点数が良くとも必ず復習します。
⑥試験直前期のすごし方
試験直前期は、応用的な論点を深堀するよりも、テキストにある基礎的な論点を復習します。
「やること」「やらないこと」に分けて、次のようにまとめました。
試験直前期に「やること」リスト
- 模試の復習をする
- テキストの基本的な論点(例えば、重要度A・B・CのAとBなど)を問題集を解きつつ復習をする
- テキストの発展的な論点(例えば、重要度A・B・CのCなど)を音読する
- 統計・白書に短い時間を使い、繰り返し目を通す
- 年数や金額、行政官庁などの暗記作業をおこなう
- 法改正の内容を簡単に整理する
試験直前期に「やらないこと」リスト
- 模試を受けっぱなしで放置
- 模試で出題された難問・奇問の深掘り
- 統計・白書の詳細な数値の暗記
- 法改正の内容を深掘り
- 得意な科目(模試で合格基準を確保している科目)に偏って勉強する
- 本試験の傾向(予想など)を探るあまり、勉強時間を削る
- 章の見出しなど、解答に有利な情報を減らして勉強する
- 勉強する科目、範囲の偏りを緩和する
①については、例えば、1つの科目を継続するよりも、「1日 1科目 10問」を1セットにして章や科目をまたいで勉強します。
②については、例えば、次のように「テキスト読み」と「問題集を解く」順序を入れ替えます。
- 「問題集を解く」は、労働科目 ⇒ 社会保険科目
- 「テキスト読み」は、社会保険科目 ⇒ 労働科目
意思ではなく方法で、勉強する科目の偏りをコントロールします。
多くの受験者が正解できなかった難問、奇問は、救済措置(*)により合格基準点が引き下げられる可能性があります。
(*)救済措置:試験難易度の差による合格基準点の引き下げ。
一方で、多くの受験者が正解した問題は救済されません。
難問、奇問は正解したものの、「総得点が合格基準を超えず不合格…」または「他の科目で合格基準を下回り不合格…」を避けるためにも基礎を徹底して勉強します。
ちなみに、私が受験した第53回の試験は、選択式の労一の合格基準点が「1点」に引き下げられました。
各科目の得点の分布や平均点を確認できるため、合格基準点についてのリンクを掲載しておきます。
参考|厚生労働省(外部サイトへのリンク)|第53回社会保険労務士試験の合格基準点について
いわゆる直前対策として、法改正や横断学習の講義も各スクールから展開されています。
しかし、私は次の理由で見送りました。
- 試験直前は、基礎の復習を予定したため、豊富なコンテンツをこなすための時間がない
- 講座の内容を吟味するなど、考える時間を増やしたくない
- 直近の法改正については、合否に影響を与えるほど出題されていない
そのため、自分がこなした勉強方法を下のタブに格納しておきます。
テキスト・問題集を法改正に対応させるため、毎年5月くらいに各出版元のHPで正誤表が公表されます。
ここまで勉強してきたテキスト・問題集の内容に関する改正です。
すでに勉強した範囲について、新旧対応させるので効率的です。
試験科目となっている法令(労働基準法、健康保険法など)の改正は、念のため厚生労働省のホームページで1次情報を確認します。
5分、10分空いた時間などで、ステップ1~2で整理した情報に目を通します。
なお、受験年度の法改正だけでなく、2~3年前の改正からも出題される可能性があります。
「資格の大原」金沢講師のブログが参考になるので、何をすべきか分からない…となった際は検索してみてください。
できれば、試験日の直前にまとめて取り組むのではなく、日頃から、次の事項を自分の言葉で整理しながら勉強します。
試験直前は、模試を受けたり基礎の復習で忙しいことが理由です。
- 不服申立
- 被保険者の範囲
- 賃金・報酬の定義
- 未支給
- 給付制限
- 任意適用の条件
- 適用除外
整理した情報を、「労災では〇〇」だが「健保では〇△」のように差異を把握します。
ノートやメモアプリにまとめておくのも吉です。
長々とした記事にお付き合い頂きありがとうございます。
ここまでの内容は、社労士試験に独学で合格した際のスケジュールと勉強内容をモデル化したものです。
このロードマップを、ご自身に合う効率的な内容に改良し、社労士試験に合格していただければうれしいです。
試験日までは、少なくとも数か月の試験学習が続きます。
スケジュール管理と体調管理に気をつけて、納得できるようやり切ってください。
最後までお読みいただきありがとうございました。