社労士試験の独学|労基法|労働基準法違反の契約

まえがき

この記事では、労働基準法の「労働契約」に関する次の事項を解説しています。

  • 労働基準法違反の契約(13条)
  • 就業規則、労働協約との関係

社会保険労務士試験の独学、労務管理担当者の勉強などに役立てれば嬉しいです。

当記事は、条文等の趣旨に反するような極端な意訳には注意しておりますが、厳密な表現と異なる部分もございます。

詳しくは免責事項をご確認ください。

労働基準法違反の契約(13条)

労基法の基準

労基法1条には、「この法律で定める労働条件の基準は最低のものである…(略)」と定められています。

では、「最低の基準を下回る労働条件」を定めた労働契約はどうなりますかね。

労働基準法13条

この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となった部分は、この法律で定める基準による

労基法13条では、賃金、労働時間等の労働条件が、労基法で定める基準よりも不利な場合には、労基法の基準を自動的に適用し労働者の保護を図っています。


労働契約と雇用契約

労働契約法では「労働契約の成立」について次のように定めています。

労働契約法6条

「労働契約」は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。

一方、民法では「雇用」について次のように定めています。

民法623条

「雇用」は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。

両者の概念が「異なるのか、同一なのか」は意見が分かれるところです。

一般的には「労働契約(書)」と「雇用契約(書)」とを区別せずにあつかうこともあるので、当記事では「労働契約」に表現を統一しています。

参考|雇用の労働者

通達(平成24年8月10日基発0810第2号)では次のように示されています。

  • 民法623条の「雇用」の労働に従事する者は、労働契約法2条1項の「労働者」に該当する
  • 民法632条の「請負」、同法643条の「委任」又は非典型契約で労務を提供する者であっても、契約形式にとらわれず実態として使用従属関係が認められる場合には、(労働契約)法2条1項の「労働者」に該当する

ちなみに、「労働契約法の労働者」の判断基準は「労基法9条の労働者」と同様です(平成24年8月10日基発0810第2号)


この法律で定める基準に達しない

話を労基法13条に戻します。13条には、労基法で定める基準に「達しない」とあるため、労基法と同じ基準の労働条件は有効です。

もちろん、労働者にとって労基法より有利な労働条件も有効です。

労基法13条は、「労基法の基準を下回る労働条件」を労基法の基準まで引き上げる規定です。

「労基法の基準を上回っている労働条件」を労基法を理由に引き下げることを認める規定ではありません。

労基法1条には、「この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならない…(略)」と示されています。


その部分については無効

達しない部分のみ無効

例えば、「うちは忙しいから何年働いても有給休暇とか無いからね!労基法?知らんけど」と定めた場合は、カギかっこの内容が「その部分」に該当し無効となります。

上記以外の労働条件が適法ならば、適法な部分はそのまま有効です。

「で、無効となった部分は?」ですが、労基法の基準そのものに置き換えます。

先の有給休暇のくだりでいうと、労働者(比例付与の対象外)が、雇入れの日から起算して6カ月間継続して勤務し全労働日の8割以上出勤した場合には、10労働日の有給休暇が付与されます(労基法39条)


就業規則、労働協約との関係

就業規則と法令等との関係

最後に、労働契約と就業規則労働協約との効力関係についてもふれておきます。

時間の許す方はお付き合いください。


労働契約と就業規則の関係

就業規則とは、企業が(労働条件に関することや、職場内の規律などを)定めた職場における規則集(ルール)です。

労働契約法12条

「就業規則」で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。

つまり、「就業規則よりも不利な労働契約」は、不利な部分が就業規則で定める基準そのものに置き換えられます。

「就業規則よりも有利な労働契約」は、就業規則で定める基準に達しているので、労働契約はそのまま有効です。

例えば、労働契約の締結に当たって、使用者と労働者が個別に、就業規則で定める基準を上回る労働条件で合意する場合です。


就業規則と労働協約との関係

労働協約とは、労働組合と企業との間で結んだ決まりごと(書面)です。

労働基準法92条

就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならない。

就業規則の効力は、労働協約に劣ります。

企業のみで定めたルールより、企業と労働組合とで定めた決まりごとの方が上位に扱われるイメージです。


労働契約と労働協約の関係

労働組合法16条

労働協約に定める労働条件その他の労働者の待遇に関する基準に違反する労働契約の部分は、無効とする。この場合において無効となった部分は、基準の定めるところによる。労働契約に定がない部分についても、同様とする。

労働協約は、「達しない」ではなく「違反する」とその部分が無効となり、労働協約の基準そのものに置き換えられます。

労働協約の規定の解釈によっては、たとえ(労働協約が適用される)労働者にとって有利な労働契約でも、労働協約と異なる労働条件を定めた部分は無効となり得ます。


まとめ

ここまで労働基準法の「労働契約」に関する次の事項を解説しました。

  • 労働基準法違反の契約(13条)
  • 就業規則、労働協約との関係

社労士試験の勉強としては、労基法13条を暗記するだけでなく、労働契約と就業規則、労働協約との効力の関係も把握したいところです。

最後に条文をもう一度確認して終わりにします。

この記事で解説した条文

労基法13条(この法律違反の契約)

この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となった部分は、この法律で定める基準による


(参考資料等)

厚生労働省|厚生労働省法令等データベースサービスより|https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/kensaku/index.html

  • 労働基準法13条、92条
  • 労働契約法6条、12条
  • 労働組合法16条
  • 労働契約法の施行について(平成24年8月10日基発0810第2号)