この記事では、労働基準法の総則から次の用語の定義を解説しています。
- 労働者(9条)
社会保険労務士試験の独学、労務管理担当者の勉強などに役立てれば嬉しいです。
当記事は、条文等の趣旨に反するような極端な意訳には注意しておりますが、厳密な表現と異なる部分もございます。
詳しくは免責事項をご確認ください。
労働基準法における労働者(9条)
労基法は、労働条件の最低基準を定めています(労基法1条2項)
労基法9条は、労基法の保護の対象となる「労働者」の定義を明らかにしたものです。
この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
労基法は形式(契約の名称)よりも実態で判断します。
例えば、友達に頼まれて引越しの手伝いをするシーンを思い浮かべてください。
友達が引越しについての「事業」を営んでおり、その事業に使用されて引越しの手伝いをして賃金を受けるのであれば労基法9条の労働者に該当します。
一方で、友達が何ら事業を営んでいない場合には、「事業に使用される」とはいえないため、労働者に該当しません。
なお、職業の種類を問わずとあるため労働の性質(例えば、体を動かすのか頭を働かせるのか)は問いません。
労基法における「事業」
事業とは、工場、事務所、店舗などのように一定の場所において相関連する組織の下に業として行われる作業の一体をいいます(昭和22年9月13日発基17号ほか)
したがって、1つの「事業」であるか否かは、主として場所的観念によって決定すべきとされています。
- 同一の場所にあるものは、原則として分割しないで1つの「事業」とする
- 場所的に分散しているものは、原則として別々の「事業」とする
例えば、ある企業において、「本社」「支店」「工場」がそれぞれ別の場所に存在するとしましょう。
労基法の「事業」とは、本社+支店+工場という企業全体ではありません。
- 本社で1つの「事業」
- 支店で1つの「事業」
- 工場で1つの「事業」
原則は、上記のようにそれぞれの場所で「事業」となります。
「事業」は場所ごとに決定されますが、例外もあります。
同一の場所にあっても、著しく労働のありさまが異なる部門が存在し、主たる部門と労務管理等が明確に区分され、かつ、主たる部門と切り離すことによって法がより適切に運用できる場合には、それぞれが独立の「事業」となります(昭和22年9月13日発基17号ほか)
例えば、工場内の診療所、食堂などです。
工場で1つの事業、診療所で1つの事業、食堂で1つの事業となります。
場所的に分散していても、著しく小規模なため、事務能力等を勘案すると独立性のないものについては、直近上位の1つの事業と一括すると解されています(昭和22年9月13日発基17号ほか)。
例えば、労務管理が一体として行われていない建設現場や出張所が該当します。
適用除外
労基法116条では、労基法の一部または全部が適用されない範囲を定めています。
労基法の規定の全部が適用されない場合は、労基法9条も適用されません。
つまり、「労基法9条における労働者」ではないため、労基法による保護の対象外となります。
条文はタブを切り替えると確認できます。
船員法1条1項に規定する船員については、次の規定を除いて、労基法は適用されません。
- 1条(労働条件の原則)
- 2条(労働条件の決定)
- 3条(均等待遇)
- 4条(男女同一賃金の原則)
- 5条(強制労働の禁止)
- 6条(中間搾取の排除)
- 7条(公民権行使の保障)
- 8条(削除)
- 9条(労働者)
- 10条(使用者)
- 11条(賃金)
- 1116条2項(労基法の適用除外)
- 117条から119条(1条から11条に対応する罰則)
- 121条(両罰規定)
労働基準法
第百十六条
第一条から第十一条まで、次項、第百十七条から第百十九条まで及び第百二十一条の規定を除き、この法律は、船員法(昭和二十二年法律第百号)第一条第一項に規定する船員については、適用しない。
言い換えると、労基法116条1項で掲げる規定については、船員にも適用されます。
船員と異なり、労基法そのものが適用除外です。
この法律は、同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については、適用しない。
同居の親族のみを使用する事業
言い換えると、たとえ「同居の親族」を使用していても、「同居の親族以外(例えば、同居していない親族など)の労働者を使用する事業」は、労基法が適用されます。
また、「同居の親族」であっても、常時「同居の親族以外」の労働者を使用する事業において、次の条件をすべて満たすものについては、労基法上の労働者として取り扱うとされています(昭和54年4月2日基発153号)
- 一般事務または現場作業等に従事している
- 職務を行うにつき、事業主の指揮命令に従っていることが明確である
- 就労の実態が当該事業場における他の労働者と同様であり、賃金もこれに応じて支払われている
家事使用人
一般的にいう家政婦(夫)さんです。
家事使用人とは家事一般に使用される労働者をいい、従事する作業の種類、性質の如何等を勘案して具体的に当該労働者の実態により判断すべきとされています(昭和63年3月14日基発150号)
行政解釈によると、だれの指揮命令下にあるかによって、家事使用人か否か判断されています。
法人に雇われ、その役職員の家庭において、その家族の指揮命令の下で家事一般に従事している者は家事使用人である(昭和63年3月14日基発150号)
家事使用人に該当する、つまり労基法は適用されません。
個人家庭における家事を事業として請け負う者に雇われて、その指揮命令の下に当該家事を行う者は家事使用人に該当しない(昭和63年3月14日基発150号)。
家事使用人に該当しない、つまり労基法は適用されます。
労基法112条では、「この法律及びこの法律に基いて発する命令は、国、都道府県、市町村その他これに準ずべきものについても適用あるものとする」と定められています。
実際には、一般職の国家公務員や地方公務員などについては、それぞれの特別法によって、労基法の全部または一部の適用が除外されています。
労働者性の判断基準
ここまで、労基法における「事業」と「労基法の適用除外」についてみてきました。
次に、事業に「使用される者」「賃金を支払われる者」の判断基準について解説します。
「労働者」に該当するか否かを判断することを、「労働者性」の判断をする(または単に労働者性)といいます。
労働者性の有無は、次の①および②によって判断されます(労働基準法研究会報告 昭和60年12月19日)
①「使用される=指揮監督下の労働」という労務提供の形態
②「賃金支払」という報酬の労務に対する対償性、すなわち報酬が提供された労務に対するものであるかどうか
①②の基準を総称して「使用従属性」といいます。
「使用従属性」の判断が困難な場合には、「労働者性」の判断を補強する要素をも勘案して、総合的に判断します。
1「使用従属性」に関する判断基準
①「指揮監督下の労働」に関する判断基準
・仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
・業務遂行上の指揮監督の有無
・拘束性の有無
・代替性の有無 (指揮監督関係の判断を補強する要素)
②「報酬の労務対償性」に関する判断基準
2 「労働者性」の判断を補強する要素
(1)事業者性の有無
・機械、器具の負担関係
・報酬の額
・その他
(2)専属性の程度
(3)その他
労働者性の有無(事例)
最後に、社労士試験で出題された論点を中心に「労働者性」の有無を紹介します。
「労働者性」は、形式ではなく実態で判断されます。
- 工場が事業経営上必要な建物を大工に修理させる場合、請負契約として認められるならば、大工は法9条の労働者とならない(昭和63年3月14日基発150号)
- 形式上は請負契約であっても、事業主(工場)と大工との間に使用従属関係が認められるならば、法9条の労働者に該当し、労働基準法の適用を受ける(昭和63年3月14日基発150号)
請負とは、当事者の一方が仕事を完成することを約束し、相手方が仕事の結果に対して報酬を支払うことです(民法632条)
「具体的には?」については、下のタブに格納しておきます。
①工場が「建物を修理して!」と大工に頼みます。
②大工が「〇〇万円で修理してあげるよ!」と約束します。
③大工が工場へ修理した建物を引渡します。
④工場が大工へ〇〇円支払います。
この①から④の流れが「請負」です。
大工は「建物を修理する」という仕事の完成を約束したので、完成までの仕事の管理は基本的には大工が行います。
言い換えると「請負」である以上は、工場は大工の仕事の管理について具体的な指示ができません。
ここまでの話で終わるのならば、大工は労基法9条の「労働者」となりません(工場は大工にとっての使用者になりません)。
一方で、工場が大工の仕事の管理にあれやこれやと指示をするなど、大工と工場の間に「使用従属関係」が認められるならば、「請負」とはいうものの大工と工場との関係は「労働関係」となります。
ここまでの話となると、大工は労基法9条の「労働者」に該当します。
上記のように、「請負」か否かは、契約の名称ではなく実態で判断されます。
共同経営の事業における出資者であっても、当該組合又は法人との間に使用従属関係があり、賃金を受けて働いている場合は、労基法9条の労働者である(昭和23年3月24日基発498号)
法人の重役で業務執行権又は代表権を持たない者が、工場長、部長の職にあって賃金を受ける場合は、その限りにおいて労基法9条の労働者である(昭和63年3月14日基発150号)
法人、団体、組合等の代表者又は執行機関のような、事業主体との関係において使用従属の関係にない者は労働者ではない(昭和23年1月9日基発14号)
インターンシップにおける学生の労働者性については、次のように解されています(平成9年9月18日基発636号)
- 見学や体験的なものであり、使用者から業務に係る指揮命令を受けているとは解されないなど「使用従属関係」が認められない場合は、労基法9条の労働者に該当しない。
- 直接生産活動に従事し、それによる利益・効果が当該事業所に帰属し、かつ、事業場と学生の間に「使用従属関係」が認められる場合は、労基法9条の労働者に該当する。
「インターンだから労働者ではない」とは限りません。
ちなみに、「学生」が「労基法9条の労働者」に該当するならば、契約の形態がアルバイトであっても労基法の規定は適用されます(年次有給休暇や割増賃金などの規定も適用されます)。
「使用従属性」は、「請負だから」「出資者だから」「インターンだから」のように、名称で判断されるものではありません。
①「使用される=指揮監督下の労働」という労務提供の形態
②「賃金支払」という報酬の労務に対する対償性、すなわち報酬が提供された労務に対するものであるかどうか
ここまで労働基準法の総則から、労基法上の「労働者」について解説しました。
社労士試験の独学においては、過去問題を解きつつ徐々に知識を広げてみてください。
最後に条文をもう一度確認して終わりにします。
労基法9条(労働者)
この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
(参考資料等)
厚生労働省|厚生労働省法令等データベースサービスより|https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/kensaku/index.html
- 労働基準法9条、112条、116条
厚生労働省|労働基準法研究会報告(昭和60年12月19日)|(労働基準法の「労働者」の判断基準について)|https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000xgbw-att/2r9852000000xgi8.pdf
厚生労働省|長野労働局ホームページより|インターンシップ受入れにあたって|
https://jsite.mhlw.go.jp/nagano-roudoukyoku/library/nagano-roudoukyoku/_new-hp/2hourei_seido/roudoukijun/internship291006.pdf
労働基準法解釈例規について(昭和63年3月14日基発150号)